2017年に読んだ研究書・伝記・ルポなど
10点満点。
引用文における〔〕は筆者注。
- 10.0 富永健一『近代化の理論 近代化における西洋と東洋』講談社学術文庫
- 10.0 ノースロップ・フライ『批評の解剖』海老根宏、中村健二、出淵博、山内久明訳、叢書・ウニベルシタス
- 9.5 吉岡栄一『文芸時評ー現状と本当は恐いその歴史』彩流社
- 9.5 小谷野敦『日本売春史ー遊行女婦からソープランドまで』新潮選書
- 9.5 小谷野敦『日本恋愛思想史 記紀万葉から現代まで』中公新書
- 9.5 古田博司『東アジア・イデオロギーを超えて』新書館
- 9.5 新井潤美『階級にとりつかれた人々 英国ミドル・クラスの生活と意見』中公新書
- 9.0 小野一光『震災風俗嬢』太田出版
- 9.0 羽入辰郎『マックス・ヴェーバーの犯罪ー『倫理』論文における資料操作の詐術と「知的誠実性」の崩壊』ミネルヴァ書房
- 9.0 マックス・ガロ『イタリアか、死か―英雄ガリバルディの生涯』米川良夫・樋口裕一訳、中央公論社
- 9.0 窪田精『文学運動のなかでー戦後民主主義文学私記』光和堂
- 9.0 小谷野敦『なぜ悪人を殺してはいけないのかー反時代的考察』新曜社
- 9.0 校條剛『ザ・流行作家』講談社
- 8.5 高山文彦『孤児たちの城 ジョセフィン・ベーカーと囚われた13人』新潮社
- 8.5 ノースロップ・フライ『よい批評家ー文芸批評の平均律法』渡辺美智子訳、八潮出版社
- 8.5 大塚ひかり『「ブス論」で読む源氏物語』講談社+α文庫
- 8.5 大塚ひかり『源氏物語 愛の渇き』KKベストセラーズ
- 8.5 小谷野敦・斎藤貴男・栗原裕一郎『禁煙ファシズムと戦う』ベスト新書
- 8.5 小谷野敦『禁煙ファシズムと断固戦う!』ベスト新書
- 8.5 キティ・ケリー『ヒズ・ウェイ』柴田京子訳、文藝春秋
- 8.5 玉井次郎『ソープランドでボーイをしていました』彩図社
- 8.5 新井潤美『不機嫌なメアリー・ポピンズ』平凡社新書
- 8.0 新井潤美『パブリック・スクール―イギリス的紳士・淑女のつくられかた』岩波新書
- 8.0 新井潤美『へそ曲がりの大英帝国』平凡社新書
- 8.0 秋山虔『源氏物語』岩波新書
- 8.0 ジョン・バーンズ『エビータ』牛島信明訳、新潮文庫
- 8.0 石井光太『津波の墓標』徳間書店
- 8.0 小谷野敦『面白いほど詰め込める勉強法 究極の文系脳を作る』幻冬舎新書
- 8.0 小谷野敦『私小説のすすめ』平凡社新書
- 7.5 清水好子『紫式部』岩波新書評伝選
- 7.5 リチャード・ドーキンス『利己的な遺伝子<増補新装版>』紀伊國屋書店
- 7.5 小谷野敦『本当に偉いのか あまのじゃく偉人伝』新潮新書
- 7.0 安達正勝『物語フランス革命』中公新書
- 7.0 北野圭介『ハリウッド100年史講義・夢の工場から夢の王国へ』平凡社新書
- 7.0 ジャン・カナヴァジオ『セルバンテス』円子千代訳、叢書・ウニベルシタス
- 7.0 親鸞『歎異抄』岩波文庫
- 7.0 梅原猛全訳注『歎異抄』講談社文芸文庫
- 7.0 リチャード・ドーキンス『神は妄想である 宗教との決別』垂水雄二訳、早川書房
- 7.0 小谷野敦『退屈論』河出文庫
- 6.5 山本淳子『源氏物語の時代 一条天皇と后たちのものがたり』朝日出版社
- 6.0 ボブ・トマス『ウォルト・ディズニー 創造と冒険の生涯 完全復刻版』玉置悦子・能登路雅子訳、講談社、2010年
- 6.0 蓮實重彦『ハリウッド映画史講義 翳りの歴史のために』筑摩書房
- 6.0 阿満利麿『親鸞からの手紙』ちくま学芸文庫
- 6.0 アラン・ジェイ・ラーナー『ミュージカル物語 オッフェンバックから「キャッツ」まで』千葉文夫・星優子・梅本淳子訳、筑摩書房
- 6.0 チャールズ・ハイアム『オードリー・ヘップバーン 映画に燃えた華麗な人生』柴田京子訳、近代映画社
- 5.0 中島隆信『お寺の経済学』東洋経済
- 5.0 日向一雅『源氏物語の世界』岩波新書
- 5.0 河添房江『源氏物語と東アジア世界』NHKブックス
- 5.0 木谷佳楠『アメリカ映画とキリスト教 120年の関係史』キリスト新聞社
- 5.0 新井恵美子『美空ひばりふたたび』北辰堂出版社
- 5.0 ボブ・トマス『アステア ザ・ダンサー』武市好古訳、新潮社
- 5.0 山本淳子『平安人の心で「源氏物語」を読む』朝日新聞出版社
- 5.0 加藤幹郎『映画館と観客の文化史』中公新書
- 4.0 フィリス・ローズ『ジャズ・クレオパトラ パリのジョセフィン・ベーカー』野中邦子訳、平凡社
- 4.0 猪俣良樹『黒いヴィーナス ジョセフィン・ベイカー 狂乱の1920年代、パリ』青土社
- 4.0 ポール・D・ジンマーマン『マルクス兄弟のおかしな世界』中原弓彦・永井淳訳、晶文社
- 4.0 石井光太『遺体 震災、津波の果てに』新潮社
- 3.5 山平重樹『実録神戸芸能社 山口組・田岡一雄三代目と戦後芸能界』双葉社
- 3.0 村松友視『裕さんの女房 もうひとりの石原裕次郎』青志社
- 3.0 多木浩二『絵で見るフランス革命ーイメージの政治学』岩波新書
- 3.0 ジンジャー・ロジャース『ジンジャー・ロジャース自伝』渡瀬ひとみ訳、キネマ旬報社
- 2.5 瀬川裕司『「サウンド・オブ・ミュージック」の秘密』平凡社新書
- 2.0 藤えりか『なぜメリル・ストリープはトランプに噛みつき、オリバー・ストーンは期待するのか ハリウッドからアメリカが見える』幻冬舎新書
- 2.0 ジェームズ・キャグニー『ジェームズ・キャグニー自伝』山田宏一訳、早川書房
- 2.0 フレッド・アステア『フレッド・アステア自伝』篠儀直子訳、青土社
- 2.0 シャーリー・マクレーン『マイ・ラッキー・スターズ』岩瀬孝雄訳
- 2.0 河添房江『性と文化の源氏物語 書く女の誕生』筑摩書房
- 2.0 石田瑞麿『教行信証入門』講談社学術文庫
- 1.5 森孝一『宗教からよむ「アメリカ」』講談社選書メチエ
- 1.5 荒このみ『歌姫あるいは闘士 ジョセフィン・ベイカー』講談社
- 1.0 岩本憲児『光と影の世紀 映画史の風景』森話社
- 1.0 ピート・ハミル『ザ・ヴォイス フランク・シナトラの人生』馬場啓一訳、日之出出版
- 1.0 ショーエンK『「坊主まるもうけ」のカラクリ』ダイヤモンド社
- 0.5 映画秘宝編集部『新世紀ミュージカル映画進化論』洋泉社
- 0.5 飯島正『映画のあゆみ 世界映画史入門』泰流社
10.0 富永健一『近代化の理論 近代化における西洋と東洋』講談社学術文庫
- 作者: 富永健一
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 1996/01/10
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社会学の泰斗、富永健一の名著で、近代化の歴史や仕組みがまとまっている。「近代化」と聞くと、日本が西洋化してしまった悲劇だと嘆く人や右翼もいるかもしれないが、近代化と西洋化とは別物である。東洋は東洋で、古代→中世→近世と文明が発展し前進していったのは明白で、著者はそういう前進を近代化と言っているのである。だから、江戸時代の日本が明治政府に移行できたのも、いきなり西洋風に近代化したのではなく、日本社会が既に独自に近代化をしていたからに他ならない。近代化を嘆く右翼は筋違いなのだ。
また、29章のポストモダン批判は必見である。私も現代思想にかぶれていたときはポストモダンという言葉を使ってしまっていたが、ポストモダンなどまだ世界には訪れていないことがわかる。ポストモダンとはモダン(近代)が終わったことを意味するが、世界の経済状況(資本主義)・家族形態・恋愛や結婚に至るまで、近代のやり方や価値観がそのまま今も続いているのは明らかである。また、民主主義や自由などの近代的価値観は相変わらず重要であり、近代をいたずらに批判するのは無益どころか有害である。そういうのが日本浪漫派(保田與重郎)などの思想(アンチ西洋)と結び付くと、ただの右翼になる。
10.0 ノースロップ・フライ『批評の解剖』海老根宏、中村健二、出淵博、山内久明訳、叢書・ウニベルシタス
- 作者: ノースロップフライ,Northrop Frye,海老根宏,中村健二,出淵博,山内久明
- 出版社/メーカー: 法政大学出版局
- 発売日: 2013/11/08
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文芸批評をしたい人には必読とされるノースロップ・フライ(1912-1991)の主著。フライは言う、「文芸批評家がまず第一になすべきことは、文学を読み、その領域を帰納的に概観し、ただその領域についての知識からのみ批評原理を形作るようにすることである。批評原理は、神学や哲学や自然科学や、あるいはこれらを組み合わせたものから出来合いの形で安直に取り入れることはできない」(p11)。つまり、いくら科学や社会学や哲学に詳しかろうが、文学を語るにはまず文学をたくさん読むしかないのである。また、フライは文学における価値判断も厳しく批判する。例えば、シェイクスピアはジョン・ウェブスター(英国の劇作家)より偉大かどうか、などと考えるのは文芸批評と何の関係もない。もちろん、純文学よりケータイ小説のほうが偉いかどうかという優劣も批評とは関係なく、ケータイ小説でも面白ければ批評に値するのである。フライの姿勢は学問をする上でもっともだと思った。その後も文学作品は喜劇・ロマンス・悲劇・アイロニーに分類され分析されるが、ここは現在のジャンル論に直接影響を与えているので重要であるし面白い。
ただ、英語詩の分析ではウィリアム・ブレイクやT.S.エリオットの詩を英語で読めないとよく分からないだろうし、私もよく分かっていない。よく分からない箇所があるのに10点を付けても良いのかと思うが、一応つける。
9.5 吉岡栄一『文芸時評ー現状と本当は恐いその歴史』彩流社
- 作者: 吉岡栄一
- 出版社/メーカー: 彩流社
- 発売日: 2007/10
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文芸時評の歴史をふり返ることで、「ホンネ批評」がルールだったはずの文壇が、いつのまにか「ホメ批評」や「ヨイショ批評」が中心になったさまを暴き出している。詳しく言うと、1969年に石川淳が朝日新聞の時評を担当するようになってからホメ批評が中心になったという。昔は良かったというわけではないが、ムラ社会のなかでもいいものはいいと褒め、駄作は駄作としてきっちりと欠点を指摘していた明治の文壇は、ホメ批評中心の現代より健康的である。「交友関係や情実などにとらわれるようなことがあってはならず、つまり周囲の事情の如何に不拘、自分の善しと信じ、悪しと信じるところのものを遠慮なく真直ぐ言う」と宣言した佐藤春夫には非常に共感した。ホンネで批評しなくなったら終わりだろう。
9.5 小谷野敦『日本売春史ー遊行女婦からソープランドまで』新潮選書
- 作者: 小谷野敦
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2007/09/01
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比較文学者、小谷野敦(1962-)の主著。売春をめぐる世の言説は極端で、売春をとにかく廃止しろという人もいれば、自由な性愛は素晴らしいとして江戸の遊女を「聖なるもの」として賛美する人もいる。しかし、売春を廃止するとレイプや性犯罪が増える危険があるし、女にモテない男は一生セックスできないまま死ぬことになる(モテる男は女とすぐセックスできるので売春がなくなっても痛くも痒くもない)。一方で、江戸や吉原で働かされていた風俗嬢はかわいそうなほど過酷であり、性病で早死にする例も多く、遊女を神格化したり美化するのは酷いことなのである。小谷野は学問では価値判断は避けるべきだとしながらも、「売春は合法化し、しかるべき規制によって性病の広まりを抑えるのが現実的な方向性だと思う」とあとがきで述べている。詳細な筆致なので読みづらさを感じるかもしれないが、今でも吉原のソープランドで非合法の売春が公然と行われている現代に訴えかけるものがある。
9.5 小谷野敦『日本恋愛思想史 記紀万葉から現代まで』中公新書
- 作者: 小谷野敦
- 出版社/メーカー: 中央公論新社
- 発売日: 2012/11/22
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私が本や映画の恋愛描写を語る上で参考にしている本である。日本文化における恋愛の歴史で最も重要なのは、「公家的な、男が恋することを美ととらえる感性から、むしろ古代ギリシア的な、女性蔑視的で、女に一方的に恋する事を醜いととらえる感性への転換である」(p51)という。例えば平安時代の源氏物語では、光源氏など男の主人公達がひたすら女に恋をする話であるのに、近松門左衛門など近世の武家文化に書かれた作品は、色男が女に惚れられるばかりで、男は自分から恋するのは恥だと思っているのである。ここに日本の歴史の断絶がある。だから一見すると、川端康成も三島由紀夫も同じ日本的な・伝統主義的な作家だと思ってしまうが、実際は、川端は公家文化・三島は武家文化の影響を受けており全然違うのである。
また、戦後の純愛教育で、まるで人間は誰でも恋愛が出来るように教えこまれ、90年代になっても例えば宮台真司のように誰でも努力すればモテるかのように言った論客はいるが、実際そんなことはありえないという主張は切実で面白い。どんなに個人が努力してもダメなものはダメである。それと合わせて売春論も展開されるが、売春防止法が制定された当時は誰でも25歳くらいまでには結婚するということが前提だったのであり、今の時代に即していない(p210)とするのはもっともな話だと思った。
ただ、一部の知識人の認識である「恋愛輸入品説」や「恋愛は西欧二十世紀の発明説」を小谷野が批判していく様は専門的で、一般読者には読みづらいかもしれない。
9.5 古田博司『東アジア・イデオロギーを超えて』新書館
- 作者: 古田博司
- 出版社/メーカー: 新書館
- 発売日: 2003/08/01
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東アジア諸国が一つにまとまれないのは、中国で生まれた「中華思想」という概念(自分たちが世界の中心であるという考え)をそれぞれの国が分有しているためだと論じられる。国同士が仲良く出来ない理由は、間違っても日本だけのせいではないのだ。また、ベトナムは地理的に中国に近く文明が入ってきたので、文明が遅れているカンボジア・ラオスを蔑視している(p47)というのも興味深い。著者は自分の立場を左派だとしているが、しかし反日を持ち出す中国や韓国の姿勢は支持していないし、自国のナショナリズムを批判するのに他国(中・韓)のナショナリズムを批判しない日本の左派を批判するのでまともである。
ところで北朝鮮に関する章では、金正日政権がカルト宗教のように国民を洗脳するさまが詳しく分析されるが、北朝鮮がおかしいのは当たり前なのだからそこまで詳しくしなくてもと思い退屈だった。
9.5 新井潤美『階級にとりつかれた人々 英国ミドル・クラスの生活と意見』中公新書
階級にとりつかれた人びと―英国ミドル・クラスの生活と意見 (中公新書)
- 作者: 新井潤美
- 出版社/メーカー: 中央公論新社
- 発売日: 2001/05
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比較文学者である新井潤美の初の著作である。米国と違い英国は階級社会で、英国の階級にまつわる物語やギャグ・コメディは米国人にもそのままでは理解できないというのは驚いた。また、階級がアッパー・クラス(上流階級)、ミドル・クラス(中産階級)、ワーキング・クラス(労働者階級)に分かれるというのは知っていたが、とくに英国ではミドル・クラスの中でも上下に分かれており(アッパー・ミドル・クラスとロウアー・ミドル・クラス)、その階級の違いを意識することが英国作品を理解する上での助けになるということも勉強になった。いつの世でもそうだと思うが、上流階級は成り上がりが嫌いなもので、アッパー・クラスは道徳的なミドル・クラスを馬鹿にするが、ワーキング・クラスの無骨な振る舞いは賛美する。これはきっと、ワーキング・クラスほど下の階級なら自分を脅かさない、という心理が働くからだろう。アッパー・クラスの若者の間ではワーキング・クラスの言葉が流行る、ということも無関係ではない(p182)。
読者の中には、何でわざわざ階級を勉強しなくてはいけないのかと思う人もいるかもしれない。確かに日本でも見かけの階級はなくなった。しかしその代わりに、スクールカーストなどといった階層は今の日本にも存在しており、そういう息苦しいものはどうにかした方が良いのだから、階級を勉強する意味は失われていないと言える。
9.0 小野一光『震災風俗嬢』太田出版
- 作者: 小野一光
- 出版社/メーカー: 太田出版
- 発売日: 2016/03/10
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東北地方の沿岸部では大震災の津波により壊滅的な被害を受けたが、わずか二週間くらいで復旧した風俗店もあるというから驚きで、いかに人々に性産業が必要とされているかが分かる。デリヘル嬢が半壊した家に呼ばれて、半壊した家の二階で性行為をした話などがたくさんあり衝撃的である。またユキコという子持ちの主婦は、素人時代の彼氏の命令でアナルファックをするためにアナルを拡張しており、それが風俗店の面接で武器になったと言うし、自分が風俗に勤めているのを娘が知っているとも言う。震災の現実と風俗嬢の生活の記録、双方がありのままに描き出され混じり合い、傑作である。
9.0 羽入辰郎『マックス・ヴェーバーの犯罪ー『倫理』論文における資料操作の詐術と「知的誠実性」の崩壊』ミネルヴァ書房
マックス・ヴェーバーの犯罪―『倫理』論文における資料操作の詐術と「知的誠実性」の崩壊 (MINERVA人文・社会科学叢書)
- 作者: 羽入辰郎
- 出版社/メーカー: ミネルヴァ書房
- 発売日: 2002/09/01
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著名なドイツの社会学者マックス・ヴェーバー(1864-1920)の論文『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』におけるたくさんの矛盾や間違いを指摘し、かつヴェーバーを崇拝する学者がその間違いを認めないという姿勢も問題視する。事態は結構シリアスで、崇拝者の多い学者(この場合ヴェーバー)を若手学者が批判すると、干されたり虐められたりするという現実があるのだから酷いものである。個人崇拝をすることの愚かさや、学者とはどうあるべきか、学問にはどう望むべきかという誠実さを考えさせられる好著である。
もっとも、著者はマックス・ヴェーバーの業績を全否定しているわけではない。
9.0 マックス・ガロ『イタリアか、死か―英雄ガリバルディの生涯』米川良夫・樋口裕一訳、中央公論社
- 作者: マックスガロ,Max Gallo,米川良夫,樋口裕一
- 出版社/メーカー: 中央公論新社
- 発売日: 2001/05
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イタリアを統一した共和思想の英雄ジュゼッペ・ガリバルディ(1807-1882)の伝記であり、小説仕立てなので物語としても面白い。もっとも、ガリバルディは過激な思想を持っていた訳ではなく、ときには市民の暴動を鎮圧したこともあったが、大元の共和思想を守るためにはある程度仕方が無かったともいえる。またガリバルディは信仰を捨てた後は無信仰を貫き通していて、死ぬ間際になっても自分を火葬するようにと主張したことには感銘を受けた(キリスト教では火葬は禁忌である)。歴史にはガリバルディのように評価すべき英雄がいる、という骨太な視点は必要だろう。
9.0 窪田精『文学運動のなかでー戦後民主主義文学私記』光和堂
- 作者: 窪田精
- 出版社/メーカー: 光和堂
- 発売日: 1978/06
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戦後すぐ、プロレタリア系の作家を中心にしてで来た「新日本文学会」が、時代とともに変化していく様を内側から記録したものである。窪田は日本共産党員だがイデオロギーの偏りは感じられず、民主主義とは何かというテーマを素直に扱っており非常に面白い。のちに会の実権を握った大西巨人や花田清輝が横暴になり、採算の目処が立たないのに機関誌を増刷するなど内部での不和が容赦なく描かれる。また、野間宏は家に人を通すとき庶民的な部屋と豪勢な書斎とを使い分けたというが、人々の見栄やイヤらしさも垣間見えて興味深い。
9.0 小谷野敦『なぜ悪人を殺してはいけないのかー反時代的考察』新曜社
- 作者: 小谷野敦
- 出版社/メーカー: 新曜社
- 発売日: 2006/03/24
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序盤では死刑の存在意義が論じられる。「世に、まったく改悛の情を見せない凶悪犯罪者がいる以上、死刑制度は残すべきである」(p42)という著者の主張はシンプルだが、死刑廃止論者の主張を一つ一つ論破していくスタンスに裏打ちされているので説得力がある。死刑廃止論者は死刑は残酷だと言うが、終身刑を始めとして他の刑罰もみな残酷であるのだから、死刑だけやめる理由にはならないとジョン・スチュアート・ミルの言葉を引用する(p22)。欧州では死刑は廃止されているから日本も廃止すべきだ、という主張に対しては、「死刑を廃止したヨーロッパ諸国は、キリスト教国である。キリスト教ならば、「ローマ人への手紙」にある「復讐するは我にあり」つまり人が人に復讐すべきではなく、神の手に委ねるべきだという思想があり、死後、人々は神の国へ行き、最後の審判によって悪人は裁かれる、という「信仰」がある」(20p)と、そもそも文化の違いを見落としていることを指摘する。もちろんここでは、欧米がやったから日本も真似するべきだという姿勢も批判されねばならない。何でも欧米の真似をした方がいいと考える人は、では欧米が海外に植民地をもったから日本も植民地をもった方がいいと考えるのだろうか?また、死刑廃止論者は治安のいい高級住宅街に住むのではなく、「率先して、出所してきた凶悪犯罪者の近所に住んだらどうか」(p29-30)と提案するのも偽善を突いていて面白い。
その他、共和思想や天皇制について分かりやすく語られており参考になった。
9.0 校條剛『ザ・流行作家』講談社
- 作者: 校條剛
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流行作家だった笹沢佐保(1930-2002)と川上宗薫(1924-1984)の生涯を、担当編集者だった校條剛の目からまとめた伝記で、二人とも生き様が破天荒で面白く、作家の執念を感じる。流行作家とは著者によれば「雑誌あるいは新聞に描いて原稿料で稼ぐ(自転車操業的)な作家」を指すが、現代では作家は書籍で稼ぐのが一般的なのでもう滅びている。笹沢佐保は時代小説や推理小説を主に書いたが、ホテルに缶詰になると10日も15日も1~2時間寝るだけでひたすら執筆するので、顔色はどす黒く目は真っ赤になり、鬼の形相になるという。また川上宗薫は官能作家で、官能小説を書くためにどんなに器量の悪い女とでも寝たというが、晩年に重い病気で入院した時、死ぬかも知れないのに女子大生を病室に呼んでセックスをしたというエピソードは衝撃的である(ただイかなかったようだ)。
ところで、「ダメ出しをしたあとに、編集者の想像を上回る直しが出来る新人は、急速に大物になっていく」(p102)というのは核心を突いており胸が痛くなる。
8.5 高山文彦『孤児たちの城 ジョセフィン・ベーカーと囚われた13人』新潮社
- 作者: 高山文彦
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2008/09
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どうも知識人の中には、13人の孤児を引き取ったジョセフィン・ベーカー(ダンサー、女優)のことを人道主義者・聖人のように持ち上げたい人がいるようだが、それぞれ人種の違う13人の子供を一度に城で生活させるというユートピア的な実験はこれを読めば失敗していたことが分かる。ジョセフィンは来日した時2人の子供を引き取ったが、二人とも日本人であるより片方が韓国人である方が人種の融和という理想に近づくと思ったので片方を韓国人として二十歳まで育てていたというのは恐ろしく(p43)、人権を無視している。また、ジョセフィンは同性愛的傾向のある養子のアキオにベッドで性の喜びを教えた疑惑があったり(p205)、城の子供部屋に嵌めきりの窓をとりつけて観光客に観光料をとったり(p248)、ゴリラをペットにしたが人間に危害を加えそうになったので彼女の指示で射殺したり(p186-187)と衝撃的な話題に事欠かない。ユートピアの失敗を記録した貴重な文献で壮絶だ。
8.5 ノースロップ・フライ『よい批評家ー文芸批評の平均律法』渡辺美智子訳、八潮出版社
- 作者: ノースロップ・フライ,渡辺美智子
- 出版社/メーカー: 八潮出版社
- 発売日: 1980/12
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1961年にフライが行った講義をもとにした本。第一章では、人に考えを伝えるのには正しい言葉遣いが大事であることが強調され、「語は考えの容器である。語が見つかるまで考えは完全には存在しない」(p26-27)と言い切る。第三章では、批評について大事なのは、知識の集積とその続行、つまり読書や勉強をし続けることだと説かれ、シンプルだがもっともである。またフライが良いのは、批評には共感が大事だと言うことを忘れないところである。「文学を読む大衆の代表として、作家に共感し、学識のある人を、批評家という名称で呼びたい」(p96)というところもそうだし、以下も長くなるが引用する。
「批評の基本的姿勢は、文学作品に対して私的な感情を持ち込まない反応をすることである」(p122)。しかし、「同時にこのようなつきはなした反応は、本来批評の目的ではない。どうしても巻き込まれ、引っ張り込まれるし、意見も出てくる、理想も言いたくなる。そして習慣的想像的態度、こうだときめてかかる自分の意見というものがでてくる。そして当然のことながら、自分の意見とか理想などが巧みに表現されている文学を、われわれは好きなのである。(略)もし客観的で審美眼的反応だけをもつようにしたら、文学鑑賞を正しくしていないことになる」(p122-123)。
8.5 大塚ひかり『「ブス論」で読む源氏物語』講談社+α文庫
- 作者: 大塚ひかり
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2000/01
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古典エッセイストの大塚ひかりが、源氏物語の登場人物を顔や体格で分類して人間を語り尽くす異例の書だが、大塚が分類をしていって思うのは、そもそも登場人物達にさまざまな容姿を設定した紫式部がすごいということである。容姿により人間にカーストが出来るのはいつの世も同じなのであるが、そのテーマすら紫式部はきちんと抑えていたのだ。また、源氏物語にはブスな女が沢山出てくるが、源氏物語以降その傾向は見られず女は美人が多い。これは、釈迦とは長身で美しい顔をしているものだとする仏教思想が広まったことと符合するという指摘は面白かった。
8.5 大塚ひかり『源氏物語 愛の渇き』KKベストセラーズ
- 作者: 大塚ひかり
- 出版社/メーカー: ベストセラーズ
- 発売日: 1994/01
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源氏物語が書かれた時代は母系社会から父系社会に変わる過渡期であり、武士の台頭により女の立場が弱くなっていくことが、物語の女達の悲劇的な末路と符合する、というのはなるほどと思った。そして、その父系社会的な道徳観が裏目に出た男・薫は権威主義で偽善者で一番嫌いだ(p234)という主張にも繋がるが、大塚の人間を見抜く洞察力には驚かされる。
ただ一方で、登場人物の切り口は『「ブス論」で読む源氏物語』の方が容赦なくて面白いと思った。
8.5 小谷野敦・斎藤貴男・栗原裕一郎『禁煙ファシズムと戦う』ベスト新書
- 作者: 小谷野敦,斎藤貴男,栗原裕一郎
- 出版社/メーカー: ベストセラーズ
- 発売日: 2005/09
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昨今の禁煙運動は禁煙者差別であり、特定の集団を差別したいという心理が暴走しているとして、三人の著者がそれぞれ禁煙運動の矛盾を突いていく。小谷野の言い分は明快で、この世には体に悪いものなどいくらでもあり(自動車、過重労働、酒、ファーストフードなど)、車など排気ガスをまき散らして人もはねる。「車になるべく乗るのはやめましょう」というキャンペーンなど行われないのに(車会社が日本経済の中心でメディアのスポンサーになっているからだろう)、喫煙者が狙い撃ちにされているという実態を指摘する。また「ヒステリックな嫌煙家というのは、どうも元は喫煙者だったものが多い」(p91)というが、確かに小池百合子も元喫煙者である。一方で斎藤貴男は煙草を吸わないジャーナリストである。健康のために何かを予防していくとなると、ケガの原因となるスポーツ・目を悪くする読書、人間のありとあらゆる営みを制限することができ、何のために生きているのか分からなくなると主張する。また、禁煙運動は高所得者が低所得者や肉体労働者を制限する構図になっていることや、受動喫煙の害の証明が疑わしいことなどが冷静に書いてある。
もっとも、三人の著者で共通しているのは、ファシズム的なやり方でなければ煙草がなくなることを否定している訳ではない、ということである。あくまでその禁煙運動のやり方が恐ろしいと言っているのである。ただそれにはこのストレス社会をどうにかした方がいいし、煙草に代わるストレス発散方を教えてくれと喫煙者は言うだろう。
8.5 小谷野敦『禁煙ファシズムと断固戦う!』ベスト新書
- 作者: 小谷野敦
- 出版社/メーカー: ベストセラーズ
- 発売日: 2009/10/09
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『禁煙ファシズムと戦う』の続編で、禁煙運動への鋭い反論も引き続き行われるが、小谷野が大学のキャンパスや町中で喫煙していたときのエピソードや法廷闘争の記録などが書かれており、その場に居合わせた嫌煙家や注意してくるが法的に逮捕できない警官との会話など面白いエッセイとして読める。
ところで、著者は「煙草は文化だから守れ」という主張はダメで、「合法であるから喫煙は権利として擁護される」(p193)べきだとしている。文化だから守れということになると、遊郭も纏足も家父長制も一夫多妻制も守ることになるからだ。伝統だから守れ、というような保守主義者とは一線を画すからこそ私は小谷野が信用できるのである。
8.5 キティ・ケリー『ヒズ・ウェイ』柴田京子訳、文藝春秋
- 作者: キティケリー,柴田京子
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 1989/01
- メディア: 単行本
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酔って発砲し市民を怪我させる、窓ガラスに女を突き飛ばし流血させる、ファンの老人を子分に殴らせる、当時妻だった女優のミア・ファローが映画(『ローズマリーの赤ちゃん』)に出演できないように全身を殴ってあざを作る、そのくせマフィアには媚びる…。世界中にファンがいる一人のスター、フランク・シナトラが行い、ひた隠しにしてきた悪事を膨大な資料とインタビューによって容赦なく描ききった労作で、崇拝されている人物の本性を暴くことは必要であると実感させられた。もっとも、この労力をもっと尊敬できる人物に費やせば良かったのに、とも思ってしまうが。
8.5 玉井次郎『ソープランドでボーイをしていました』彩図社
- 作者: 玉井次郎
- 出版社/メーカー: 彩図社
- 発売日: 2014/12/18
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東日本大震災で家計に窮し、妻子に隠して吉原で働くことにした著者のルポルタージュ。ソープランドでは厳しい縦社会に耐えねばならず、休みもほとんどなく、先輩の虐めに遭うのも印象的である。だが一番印象的なのは、要介護者のお客さんを車椅子ごとプレイ部屋まで運ぶと、彼は三発抜いて喜んでいたというエピソードで、感動的ですらある。モテる男は風俗など無くても女性とセックスができるが、モテない男(障害者など特にそうだろう)にとって性欲を発散する貴重な場所なのだ。また吉原のソープランドは全て違法だが、自治体も目をつむっており、茶番のような保健所の立ち入りの様が描かれて滑稽である。
ところで、ボーイと風俗嬢は原則交流が禁止されているので、女性の登場人物の存在感が薄いのは物足りなく思った。
8.5 新井潤美『不機嫌なメアリー・ポピンズ』平凡社新書
不機嫌なメアリー・ポピンズ―イギリス小説と映画から読む「階級」 (平凡社新書)
- 作者: 新井潤美
- 出版社/メーカー: 平凡社
- 発売日: 2005/05/01
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階級を通して英国の小説や映画を読み解いていく新井の評論集で、彼女の『階級にとりつかれた人々』を読んでから取り組むと理解が深まっていいだろう。ところで英国は、政治の政策に賛成か反対かといった世論調査をするとき、男女・世代別の他に階級別(正確には職種・収入別)で出すというのは驚いた。
8.0 新井潤美『パブリック・スクール―イギリス的紳士・淑女のつくられかた』岩波新書
パブリック・スクール――イギリス的紳士・淑女のつくられかた (岩波新書)
- 作者: 新井潤美
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 2016/11/19
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英国民の中でパブリック・スクール(英国の私立エリート校)に在学したことのある人間の割合は非常に少ないにもかかわらず、パブリック・スクールが英国民に大きな影響を与えたことを検証する。パブリック・スクールではスポーツを重視する一方、時代遅れのラテン語の授業が長く存続するなど、実はパブリック・スクールでは学問を軽視していた。なぜかというと、元々英国のアッパー・クラス(上流階級)は女性はおろか男性にも教育の必要性を認めておらず、「シェイクスピアの『ロミオとジュリエット』の筋書きさえ知らない」ような、「教育の欠如」を誇っていたからである(p130)。私は体育会系は嫌いだが、体育会系は上流階級とも結び付いていることを知り腑に落ちた。他にも、学校内での虐めや体罰が語られるが、パブリック・スクールのしつけとして行われる鞭打ちは、キリスト教の苦行が元になっているなど興味深かった(p5-6)。
8.0 新井潤美『へそ曲がりの大英帝国』平凡社新書
- 作者: 新井潤美
- 出版社/メーカー: 平凡社
- 発売日: 2008/07/15
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アッパー・クラスにとって田舎は階級社会の理想像である。典型的な村にはまず大地主(村の権力者)がいて、その周りに村の牧師・医師・学校の教師といった「知的職業者」がおり、その下に小規模の農場主や小売業者などの人々がいて、さらに労働者がいる。「村では、あらゆる階級の人々が、美しい調和の中で暮らして」おり、「それぞれの階級が自分の居場所を持っていて、それに満足しており、自分に与えられた役割をこなしている。しかし、同時に、村の住民であるという認識によって一体となり、村の運営には互いに協力しあう」(p153)。これが階級社会の理想像であるというが、自分に出過ぎたことをしてはいけない階級社会の息苦しさが伝わってくる。アッパー・クラスが郊外や都市を馬鹿にするのはこのためだが、私には都市の生活のほうが絶対に良い。ちなみに、「使用人を一人でも置くことがミドル・クラス(ロウアー・ミドルを含む)の必須条件」(p131)とあるので、使用人がいない家庭はすべて中産階級ではない。私を含めて日本人のほとんどは中産階級以下なのだ。
8.0 秋山虔『源氏物語』岩波新書
- 作者: 秋山虔
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 1968/01/20
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源氏物語研究の第一人者である秋山虔が1968年に発表したものだが、女の階級に着目した視点が良いし、充実していて古びていない。しかし考えてみれば当たり前で、今から1000年も前の小説に対する研究が、この50年で飛躍的に進化することは考えにくい。源氏物語のことは50年前でもよく分からないのだから、今でもよく分からないのは自然なことである。源氏物語への理解を深めたい人が読む基本書。
8.0 ジョン・バーンズ『エビータ』牛島信明訳、新潮文庫
- 作者: ジョンバーンズ,John Barnes,牛島信明
- 出版社/メーカー: 新潮社
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アルゼンチン共和国の大統領フアン・ペロンの妻エバ・ペロン(通称エビータ)の伝記で、米国人の著者の筆致は時折手厳しく彼女のことが嫌いなのではないかと思わせるが、やはりエビータが下手くそな芝居女優から大統領夫人にまで上り詰めるまでの話は面白い。また、政治で権力をふるい独裁的だったとよく批判されるが、しかしエビータは女性の地位向上のために闘い(p185)、貧民のために医療機関などを建設する(p191)など社会貢献はしている。ファシズムや共産主義だったわけでもない。共和国の政治家だから擁護すると言うわけではないが、ペロン夫妻の政治の評価が待たれるところだろう。
8.0 石井光太『津波の墓標』徳間書店
- 作者: 石井光太
- 出版社/メーカー: 徳間書店
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乳児を背負う女が火事場泥棒をしていたり、高校生が金庫をこじ開けようとしたり、被災者同士が交通事故で喧嘩したり、避難生活の鬱憤を晴らすように子供たちの虐めが酷くなったりと、人間を美化せず記録している。個人的に、仮設トイレに血便をしたのが恥ずかしくペーパーで血便を包み林に捨てに行った女性の話が印象に残った。同じ著者の『遺体 震災、津波の果てに』より断然面白い。
8.0 小谷野敦『面白いほど詰め込める勉強法 究極の文系脳を作る』幻冬舎新書
面白いほど詰め込める勉強法 究極の文系脳をつくる (幻冬舎新書)
- 作者: 小谷野敦
- 出版社/メーカー: 幻冬舎
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まるで受験の勉強法を教えてくれるようなタイトルだが違う(タイトルは小谷野ではなく出版社が考えたという)。この本では、小谷野の読書体験や作家の著作年譜のまとめ方・買った本を忘れないようにメモする「読書ノート」の書き方の伝授など本好きには有用で、「読書ノート」は少し形式は違うが私は真似している。巻末附録の「知の年表」(戦後の主要な人文科学系の研究書の一覧)も参考になる。小谷野の話題は次々に飛び移るが、ブックガイド系の新書とはそういうものだと思えばいいだろう。著者のエッセンスである言葉をいくつか抜粋しておく。
「本を読む、とくに文学作品を読むということは、ときに権威との戦いとなる」が、「単に権威への畏れを知らず、「なーんだ難しくってわからないや」と放り出す、あまり頭のよくない読者とは別である。ある外国の作家が、一読して面白くなくても、信頼している人がいいと言ったらもう一度読んでみると言っていたが、これは至言であろう」(p42)
「呉智英が言っているように、吉本〔隆明〕は難解で分かりにくい書き方をしたため、「ありがたみ」が生まれて崇拝者が叢生したということになるのだが、だいたい、崇拝者を生む人というのは、難解な書き方、しかも、不必要に難解な書き方をする人が少なくない。」また、自伝というものは「都合のいいことしか書いてない」ので、「客観的で冷静な、あるいは時には冷酷な「伝記」を編纂すべきだろう。」(p144)
「ところで近頃は「育メン」とかで育児する父親が増えているようだが、果して育児をしつつ知的に生活することは出来るだろうか。育児をして作家として大成した曾根綾子のような人はいるが、学問の世界では今のところ、微妙なラインだと言える。育児をした女性学者の業績で、「大成」と言えるかどうか疑わしい例はあるが、大きな仕事をした女性学者は、おおむね子供はない。」(p227)
8.0 小谷野敦『私小説のすすめ』平凡社新書
- 作者: 小谷野敦
- 出版社/メーカー: 平凡社
- 発売日: 2009/07/01
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批評家の大塚英志は、虚構の物語は訓練すれば誰でも書けると言うが、小谷野にするとそれは間違いである。虚構の物語を考えるにはやはりどうしても才能がいるであり、本当に誰にでも書けるのは私小説なのだという。また、虚構のファンタジーやSFは人に見せないと意味がないが、私小説は世間に発表しなくても書くことだけでカタルシスを得られるから良い(p181)というのはなるほどと思った。ところで私小説批判者には、人をモデルにするとその人を傷つけるからよくないという人がいるが、そんなことを言い出すと『源氏物語』も『若きウェルテルの悩み』もヘンリー・ミラーも同時代人のモデルがいる。二十歳で夭折したラディケの『肉体の悪魔』は長く虚構小説だと思われていたが、実は私小説だったことがあとになって分かったと言う。モデルにプライヴァシーで訴えられたら…という心配も、よほど小説が売れない限り自らわざわざモデルが名乗り上げてくるわけは無い。その他、日本の批評家が私小説を批判していた歴史がまとめてある。
7.5 清水好子『紫式部』岩波新書評伝選
- 作者: 清水好子
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 1973/04/28
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紫式部の残した歌や日記をもとに彼女の人間像を描き出そうとした、紫式部研究の古典である。紫式部は漢学者の娘なのだが、女でありながら漢学に詳しいというので仕事場で虐められた時期があり、夫を早くに亡くしたのは「漢学に通じていて罰が当たった」と思われていたなど泣ける。また、紫式部が女房務めをしていた頃、后の彰子が皇子を出産した際、男達が皇子の性別ばかりを気にする中、まず彰子の安産を書いているなど女を想うところは胸を打つ(p174)。源氏物語に興味がある人は必読。
7.5 リチャード・ドーキンス『利己的な遺伝子<増補新装版>』紀伊國屋書店
- 作者: リチャード・ドーキンス,日高敏隆,岸由二,羽田節子,垂水雄二
- 出版社/メーカー: 紀伊國屋書店
- 発売日: 2006/05/01
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遺伝子というのは利己的で、自分のことしか考えていないという有名な主張がなされた生物学者リチャード・ドーキンス(1941-)の本。例えば二頭の動物が喧嘩をするときに相手を殺さないのは、相手のことを思いやっているからではなく、相手を殺す自分の体力が惜しいのはもちろん、自分が殺されたくないからである。ただ一方で、動物への考察がどこまで人間に当てはまるかという問題はある。もちろん、人間にとっても遺伝は重要で、例えば統合失調症などの精神病に人がかかるかどうかは遺伝が大きく関わっているが、科学の業績が文学や漫画に直接関わりがあるなどと過剰に思う必要はないだろう。その他、進化論の業績を簡潔にまとめてあり参考になった。
7.5 小谷野敦『本当に偉いのか あまのじゃく偉人伝』新潮新書
- 作者: 小谷野敦
- 出版社/メーカー: 新潮社
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私はこの本は『『こころ』は本当に名作か――正直者の名作案内』 (新潮社、2009年)に連なる小谷野のブックガイドとして捉えている。私はこういう教養に裏打ちされた挑発行為が好きなのである。各人物の評の後に伝記が示されているのもいい。ただ説明不十分で誉めているのか貶しているのかよく分からない項もあるから、その場合は小谷野の別の著書を読むのを薦めたい。
7.0 安達正勝『物語フランス革命』中公新書
物語 フランス革命―バスチーユ陥落からナポレオン戴冠まで (中公新書)
- 作者: 安達正勝
- 出版社/メーカー: 中央公論新社
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平易な語り口なのでフランス革命の入門書として良いが、それほど重要だとは思えない登場人物も色々出てくるので読みづらい気もする。どうせ入門書を書くのならもっと主人公を絞って紙片を減らしてもよかったかもしれない。
7.0 北野圭介『ハリウッド100年史講義・夢の工場から夢の王国へ』平凡社新書
ハリウッド100年史講義―夢の工場から夢の王国へ (平凡社新書)
- 作者: 北野圭介
- 出版社/メーカー: 平凡社
- 発売日: 2001/10/01
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映画史の本は細かすぎたりマイナーすぎたりして読みづらいものが多いが、これは良い。エジソンの相棒ディクソンがキネトスコープを作った時代から、現代までを簡潔にまとめており、ハリウッドの歴史の概要を掴みたい人には最適だろう。後ろには参考文献リストも示されており説得力がある。
7.0 ジャン・カナヴァジオ『セルバンテス』円子千代訳、叢書・ウニベルシタス
- 作者: ジャンカナヴァジオ,Jean Canavaggio,円子千代
- 出版社/メーカー: 法政大学出版局
- 発売日: 2000/10
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『ドン・キホーテ』の作者ミゲル・デ・セルバンテスの伝記で、小谷野敦は本書を「現在日本語で読める中では最も精細なセルバンテスの伝記である」としている。戦争で捕虜になったり投獄されたりと波瀾万丈であるが、細部が詳しすぎるし文体も読みづらく思った。ただまあ読書が好きな人がセルバンテスの伝記を読んで損をすることはない。
7.0 親鸞『歎異抄』岩波文庫
- 作者: 金子大栄
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 1981/07
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親鸞の仏教書。彼は今世の利益を一切求めないので、親鸞はほとんど無宗教なのではないかと思えてしまう。ただ、それなら宗教など信じなければいいのだから、無宗教の私は本書を読んで感動することはなかった。一読には値するが。
7.0 梅原猛全訳注『歎異抄』講談社文芸文庫
- 作者: 梅原猛
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2000/09/08
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岩波文庫と同じ『歎異抄』だが、詳細な注釈と80ページ近い解説があるのでこちらから読むのもいい。親鸞というと結婚あり肉食ありだが、やりたい放題横暴にしていたのではなく、妻帯してからもずっと真面目だったようである。
7.0 リチャード・ドーキンス『神は妄想である 宗教との決別』垂水雄二訳、早川書房
- 作者: リチャード・ドーキンス,垂水雄二
- 出版社/メーカー: 早川書房
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科学者として、一人の人間として、著者が宗教を徹底的に批判する本である。無神論者と不可知論者の違いなどは勉強になったが(不可知論者は神の存在自体を否定しないぶん、宗教の肩を持っている)、本書は一神教を信じている人が読むと有効な本であり、そもそも無宗教の私が読んでも感動するほどではなかった。また、批判されている宗教はあくまで一神教であり、仏教やギリシア神話など多神教には言及されておらず物足りない。一神教ほどではなくても多神教も有害なのだ。ところで、日本の神風特攻隊は宗教とは関係ない熱狂だという風に書いているが(p448-449)、そこには「天皇崇拝」という明らかな神道の狂信的な面があるので間違っていると思う。
7.0 小谷野敦『退屈論』河出文庫
- 作者: 小谷野敦
- 出版社/メーカー: 河出書房新社
- 発売日: 2007/10/01
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「『遊びが大切だ』とか『快楽を肯定せよ』とか言われると、もうごく単純な疑問が湧いてくる、ということなのである。それはつまり、『飽きないか』」(p12)という冒頭には掴まれる。また、小谷野は何の本で読んだか忘れたというが、恐らく昭和初期の農村で、一日農作業を終えた老婆が日暮れ時、田の畦に座り込み、「ああ、えらかった」と言いながら陰部に手を差し入れてオナニーに耽っていた、という話は面白い。
ただ、どういう結論になるのか不明瞭なまま話題が次々に飛び移るので、とくに読者を選びそうな本である。また小谷野は、本当に恐ろしい退屈は大人になってから訪れるというが、私はまだ本当に恐ろしい退屈に直面していないので共感しかねた。
6.5 山本淳子『源氏物語の時代 一条天皇と后たちのものがたり』朝日出版社
源氏物語の時代―一条天皇と后たちのものがたり (朝日選書 820)
- 作者: 山本淳子
- 出版社/メーカー: 朝日新聞社
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小説『源氏物語』が執筆された一条天皇の時代が語られるが、紫式部は同時代人を小説の登場人物のモデルにしたと推測できて楽しい。また『源氏物語』ではよく登場人物が出家をするが、それは仏教に惹かれたというよりも、人生に絶望した心の自殺である(p94)というのはなるほどと思った。平易なのでこの時代の貴族の雰囲気を知るには良い。
しかし個人的には時代の盛衰(公家文化の衰退と武家文化の勃興)を意識している大塚ひかりの著作のほうが好きなので物足りなさも感じる。
6.0 ボブ・トマス『ウォルト・ディズニー 創造と冒険の生涯 完全復刻版』玉置悦子・能登路雅子訳、講談社、2010年
- 作者: ボブ・トマス,玉置悦子,能登路雅子
- 出版社/メーカー: 講談社
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ウォルト・ディズニー(1901-1966)の伝記。1924年、ウォルトは23歳でディズニー・ブラザーズ・スタジオを設立したときから作画をアブ・アイワークスなどに任せており、ウォルト本人はほとんど絵を描かなくなったというのには驚いた(p100)。また、ウォルトは何本も英国で劇映画を撮影しているなど英国びいきで(p327)、ディズニーで君主制(王制)がやたらと出てくるのはこのためかもしれないと思った。共和国である米国人が君主国に憧れるのはよくあることだが、ウォルトは自分のことを「なさけ深い君主の最後の生き残り」だとも言ったことがあるらしく(p245)、さすがにここには狂気を感じる。ところで、ウォルトはいつも色々考えすぎていて毎晩寝付きが悪かったらしく、寝付きの悪い私はそこは共感した。
6.0 蓮實重彦『ハリウッド映画史講義 翳りの歴史のために』筑摩書房
ハリウッド映画史講義: 翳りの歴史のために (ちくま学芸文庫)
- 作者: 蓮實重彦
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この本は、オーソドックスな映画史に反発するために書かれており、わざとマイナーな人物や蓮實が好きな人物を取り上げたりしているから、蓮實に惑わされずに普通のハリウッドの歴史を学ぶのが大事である(北野圭介『ハリウッド100年史講義・夢の工場から夢の王国へ』が分かりやすい)。それにしても、歴史的事実を記述する本なのに、語尾が「だろう」と推測の形を多用しまくっている意味が分からない。わざと読みづらい文章にしていて腹が立ってしまう。
6.0 阿満利麿『親鸞からの手紙』ちくま学芸文庫
- 作者: 阿満利麿
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現存する親鸞の手紙四二通を現代語訳と解説でまとめたもので、息子と絶縁したときの親鸞の動揺などは面白いが、基本的には親鸞に興味がある人向けである。
6.0 アラン・ジェイ・ラーナー『ミュージカル物語 オッフェンバックから「キャッツ」まで』千葉文夫・星優子・梅本淳子訳、筑摩書房
- 作者: アラン・ジェイラーナー,千葉文夫,梅本淳子,星優子
- 出版社/メーカー: 筑摩書房
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「マイ・フェア・レディ」などのミュージカルの台本で知られるアラン・ジェイ・ラーナーが、著名な作曲家・作詞家の生い立ちを書いたり、ミュージカルの成り立ちをオペラから簡潔に説明した本で、私がブログでミュージカル映画の感想を言う上で参考になった。ただ、著者は「ゲルマン民族の本性には、ほとんど反キリスト的な遺伝子がそなわっていたかのようにも思われる」(25p)と全編通してドイツを批判しているのがくどく、また「英国社会こそもっとも文明的だと私は言いたい」(26p)とも言っているが、王制が存続し階級社会もはっきりしていて生まれによって差別される英国が「もっとも文明的」だとは思えない。
6.0 チャールズ・ハイアム『オードリー・ヘップバーン 映画に燃えた華麗な人生』柴田京子訳、近代映画社
- 作者: チャールズハイアム,柴田京子
- 出版社/メーカー: 近代映画社
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ハリウッド女優オードリー・ヘプバーン(1929-1993)の伝記。母はオランダ貴族、父はヒトラーに傾倒したイギリスのブルジョワで銀行の常務取締役でもあった(p7)。幼少の頃はぽっちゃりしていて同級生から虐められたらしいので(p11)、後年ずっと痩せていたことと関係があるのかも知れない。また、自分を美人に撮れないと思った撮影監督を解雇させたり(p206)、『マイ・フェア・レディ』の撮影中スタッフやキャスト全員が自分の視野に入らないよう命令を下すなど(p223)、横暴な面も描かれている。まあしかし、幼少の頃の戦争体験を除くと波瀾万丈の人生と言うほどのインパクトは無いので6点に留めた。
5.0 中島隆信『お寺の経済学』東洋経済
- 作者: 中島隆信
- 出版社/メーカー: 東洋経済新報社
- 発売日: 2014/03/20
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僧侶が儲けるシステムを色々と暴露しているのでまあ面白いし、ショーエンK『「坊主まるもうけ」のカラクリ』(ダイヤモンド社)よりも数段詳しいが、著者は仏教に好意的なので無宗教の私には共感できない主張も多い。「学校や幼稚園を兼業すれば、まだ俗世間の色に染まっていない子供たちに仏教の教えの素晴らしさを伝えることが出来る。将来の信者を増やすという意味でも効果的であるし、宗教に裏打ちされた倫理教育を子供に施すことで学校教育の価値をより高めることもできる」(p144)と布教する意欲満々である。もっとも、著者の息子は脳性麻痺で車椅子生活をしているらしいので、彼が宗教にすがる気持も分からなくはないが。
5.0 日向一雅『源氏物語の世界』岩波新書
- 作者: 日向一雅
- 出版社/メーカー: 岩波書店
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一応まとまっているが、独自の視点はないし、先行する研究書を踏まえるとあまり新しい発見はないように思った。秋山虔『源氏物語』(岩波新書)を読めば良いのではないか。
5.0 河添房江『源氏物語と東アジア世界』NHKブックス
- 作者: 河添房江
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894年の遣唐使の廃止から日本は唐の影響から脱していき国風文化が成立したが、依然として日本には唐物が渡来しており文化に影響を与えていた、というのはなるほどと思った。ただ、唐物一つ一つを分析していくのは詳しすぎてついて行けなかったし、また文化的ジェンダーがどうこう、とジェンダー論を展開していくが抽象的すぎて何を論じているのかよく分からなかった。
5.0 木谷佳楠『アメリカ映画とキリスト教 120年の関係史』キリスト新聞社
- 作者: 木谷佳楠
- 出版社/メーカー: キリスト新聞社
- 発売日: 2016/12/19
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米国映画とキリスト教の関係を映画黎明期から追っている。エリア・カザンが赤狩りの対象となった背景には、ギリシャ系移民という彼の出自が関係しており(p72)、カザンばかりを悪者にするのはおかしい、というのはなるほどと思った。しかし、著者は実際にキリスト教の伝道師で、宗教を読者に押しつける筆致になることがある。「絶えず変化しつづける現代の映画というメディアに代表される大衆文化と、それを受容する我々の間において、時を超越して生きて働かれる神がどこに立ち、我々に語りかけているのか、ということを模索する」必要があるとか言っている(そんな必要はない)。神学部に入学した理由は「神の不思議な御手による導きがあったとしか思えない」とカルト的で恐い(そんな導きなど存在しない)。また木谷は後書きで佐藤優に感謝したり、佐藤優が本書を推薦したりとそれも嫌である。
5.0 新井恵美子『美空ひばりふたたび』北辰堂出版社
- 作者: 新井恵美子
- 出版社/メーカー: 北辰堂出版
- 発売日: 2008/08/01
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横浜の魚屋に生まれた美空ひばり(1937-1989)は、幼少の頃から抜群の歌唱力を発揮し、1947年にNHKののど自慢素人音楽会に出演したが、審査員の丸山鉄雄に「ゲテモノ趣味である」「奇形児である」「大人の真似をさせる如きは児童虐待である」(p64)と批判され、またサトウハチローに『東京タイムズ』(昭和25年11月23日)で「吐きたくなった。(略)可愛らしさとか、あどけなさがまるでないんだから怪物、バケモノのたぐいだ。あれをやらしてトクトクとしている親のことを思うと寒気がする。あれをかけて興行している奴のことを思うと張り倒したくなる」(p89-90)とバッシングされたりと、当時の音楽業界では美空ひばりが全く受け入れられていないことに驚いた。あとは小林旭との結婚が破綻した様子や、山口組組長の田岡一雄との関わりなどが描かれ、まあつまらなくはないけど美空ひばりの人生には波瀾万丈な愛憎劇があるわけではなく拍子抜けした。伝記は愛憎劇があるほうが面白い。
ちなみに著者はひばりの父について「最後まで身元に愛人を置いておくほど男気のある人だった」(p156)と書いているが、なぜそれが男気になるのか不明である。
5.0 ボブ・トマス『アステア ザ・ダンサー』武市好古訳、新潮社
- 作者: ボブトーマス,武市好古
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 1989/01
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ミュージカル映画に革命を起こしたダンサー、フレッド・アステア(1899-87)の伝記で、『フレッド・アステア自伝』よりは面白い。が、ダンスに革命を起こしたわりに彼の人生には大事件などというものは起らず、退屈な印象を持った。スターだとはいえ面白い人生を歩んでいるとは限らないのだろう。
ところで、映画『ブロードウェイのバークレー夫妻』を降板したはずのジュディ・ガーランドが突如スタジオに現われた話は面白い。代役のジンジャー・ロジャースはすぐさま楽屋に隠れたが、その後もガーランドは自分が演じるはずだった場面を勝手に演じ続け、監督チームにつまみ出される際に「くたばれ」とジンジャー・ロジャースを罵倒した、というから強烈である。
5.0 山本淳子『平安人の心で「源氏物語」を読む』朝日新聞出版社
- 作者: 山本淳子
- 出版社/メーカー: 朝日新聞出版
- 発売日: 2014/06/10
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『源氏物語』に出てくるシーンや描写を通して、平安時代の考え方や暮らしを一つ一つ取り上げており、「人妻の不倫が激しく罰せられるのは武家社会に入って以後のこと(父の財産を子が相続する制度では、妻が婚外子を生むと家系が乱れ、実に不利益となったから)」など勉強になるものもあるが、話題が雑多であり些末すぎる見出しもある。
ところで巻末の方で、修道女の渡辺和子の「置かれたところで咲きなさい」、「置かれたところこそが、今のあなたの居場所なのです」という言葉を引用し(p247)、「人とは何か。それは、時代や運命や世間という「世(現実)」に縛られた「身」である」(p248)と著者は語っているが、これは「人間は出過ぎた真似をしてはならない」というように、人間の自主性や自由を批判しているように読めるから嫌である。別に、置かれてないところで咲いていいのである。
5.0 加藤幹郎『映画館と観客の文化史』中公新書
- 作者: 加藤幹郎
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- 発売日: 2006/07/01
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映画館の上映形態の歴史を、国内外含めて調べており、またパークシアターやDVD・インターネット視聴・飛行機内の視聴まで分析しているが、詳しすぎてマニア向けになっている。また、「今日、インターネットによるポルノ動画配信時代にポルノ映画館が残存している最大の理由は、そこがもはやポルノ映画を見るための場所ではなくなっているという逆説においてであ」り、そこは「もっぱら男性同性愛者たちが遭遇し交流するための場所として積極的に機能している」(p280)というが、もう今ではポルノ映画館はほとんど残存していない(新橋文化劇場も2014年に閉館した)から論理が破綻しているし、なんだか無理に同性愛を絡めて映画館の意義を語っているように思える。ゲイに興味の無い私には、映画館の存亡など関係ないことなのかもしれない。
4.0 フィリス・ローズ『ジャズ・クレオパトラ パリのジョセフィン・ベーカー』野中邦子訳、平凡社
ジャズ・クレオパトラ―パリのジョゼフィン・ベーカー (20世紀メモリアル)
- 作者: フィリスローズ,野中邦子
- 出版社/メーカー: 平凡社
- 発売日: 1991/01
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フランスに渡った米国の黒人ダンサー・女優のジョセフィン・ベーカーの伝記で、記述は詳しいが、出典や引用元がちゃんと書かれていないのは気になる。1920年代当時のフランスでは黒人はまだ珍しくジョセフィンはモテたのだが、白人とデートするときは「白人にたいする復讐の一例」で「(白人の)男の祖先がジョセフィンの祖先にしたことのお返しだ」としてデート相手の男の金をひったくったと言うが、逆差別ではないか。また、第二次世界大戦中にファシズムと戦った黒人女性ということでフランスから勲章を貰うが、黒人だったから貰えたんじゃないかと思う。
ところでジョセフィンが戦後来日した際に養子にしたアキオの母は韓国人だとあるが、これは日本人の間違いである。ジョセフィンは色々な人種の養子を育てている人道主義者として自分をアピールするため、養子の出自に対して嘘をついたことで知られる。このことは高山文彦『孤児たちの城 ジョセフィン・ベーカーと囚われた13人』で詳述されるが、ジョセフィンが13人の養子をひきとり夢の国を作ろうと思ったものの上手くいかなかった様子は壮絶であり、ジョセフィン・ベーカーはこちらの事件で記憶されるべきではないか。
4.0 猪俣良樹『黒いヴィーナス ジョセフィン・ベイカー 狂乱の1920年代、パリ』青土社
黒いヴィーナス ジョセフィン・ベイカー―狂瀾の1920年代、パリ
- 作者: 猪俣良樹
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- 発売日: 2006/08/20
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ジョセフィン・ベーカーを書きたいのか1920年代のパリを書きたいのか判然としない。彼女が 後年13人の孤児を引き取ったこともあまり触れられていない。
まあただ、バナナの原産国は東南アジアでそこからインド、マダガスカルを経てアラビア商人に渡り、アフリカの象牙と交換するために世界初のプランテーションを作ったという歴史は勉強になった(p65-66)。また、ヨーロッパ人が本国及び植民地として支配する地域は1914年には地球全表面の84.4%に達しており、その当時はフランスが英国に次いで世界第2位の植民地帝国だったという(p76)。伝記にはなっていないが知識はつく。
4.0 ポール・D・ジンマーマン『マルクス兄弟のおかしな世界』中原弓彦・永井淳訳、晶文社
- 作者: ポール・ジンマーマン,中原弓彦,永井淳
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喜劇役者マルクス兄弟の生い立ちと、彼らが出演した映画作品のデータなどが載っている。映画の中で一言も喋らない次男のハーポは、子供の頃ガキ大将に目を付けられ授業中に校舎の二階からたびたび突き落とされていて、ついに学校に行かなくなり、deadをdedと書くなど読み書きに問題のあるままだった(p84-85)というのは衝撃的だった。ただ、基本的にはマルクス兄弟が好きな人向けの本にとどまる。
4.0 石井光太『遺体 震災、津波の果てに』新潮社
- 作者: 石井光太
- 出版社/メーカー: 新潮社
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東日本大震災のルポで、私が漫画(『学芸員の女』)を描く上では一応参考になったが、著者の宗教的な筆致が濃く共感できなかった。死体を土葬するのは可哀想だから火葬してあげたいなどと言うが、人間は死んだら終わりなのだから可哀想も何もない。また、著者は遺体の横で笑い話をするのは遺体に敬意を払っていないとも言うが、笑い話をして何がいけないのか。死体にはなにか特別な意味がある、と考えてしまうのは前近代的で、私にはオカルトにしか思えない。石井光太の震災ルポはこちらではなく『津波の墓標』(徳間書店)の方が断然面白い。
3.5 山平重樹『実録神戸芸能社 山口組・田岡一雄三代目と戦後芸能界』双葉社
実録 神戸芸能社 山口組・田岡一雄三代目と戦後芸能界 (双葉文庫)
- 作者: 山平重樹
- 出版社/メーカー: 双葉社
- 発売日: 2012/11/15
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山口組三代目組長の田岡一雄が立ち上げた芸能事務所「神戸芸能社」を記録した本。どうして山口組が芸能人と仲が良かったかというと、「ギャラの払いもよければ、トラブルもな」く興行をするなど(p93)、他のヤクザとは違い芸能人を大事に扱ったからだという。また、スターのボディガードとしてヤクザが芸能人の周りに突くことも多かったというのでなるほどと思った。その他写真が多くあり、美空ひばりや高倉健・江利チエミ夫妻が田岡と一緒に写真に写っている。
しかし基本的に著者はヤクザを批判するスタンスではなく、途中途中ヤクザの抗争や笑い話のエピソードが挟まるが、ヤクザ嫌いの私としては面白がることは出来なかった。時代は変わったのであり、ヤクザは廃れていいのだ。
3.0 村松友視『裕さんの女房 もうひとりの石原裕次郎』青志社
- 作者: 村松友視
- 出版社/メーカー: 青志社
- 発売日: 2012/05/10
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元女優の北原三枝が夫の石原裕次郎を愛する気持ちは興味深いが、著者が北原三枝との対談で裕次郎の浮気を擁護するのは腑に落ちない。裕次郎が朝帰りしたとき、「こういう話になると、ついご主人の味方をしてしまう……これは私なりの保身のクセですけど(笑)」(p228)と言うが、こういう気持はモテる男にしか分からないのだろう。また北原三枝は、裕次郎が亡くなった年、あの世でも夫婦の契りを結び合うために総持寺で安名血盟式をし戒名を貰ったというが、私にはオカルトにしか思えない。
3.0 多木浩二『絵で見るフランス革命ーイメージの政治学』岩波新書
- 作者: 多木浩二
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 1989/06/20
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フランス革命期に残された絵画やカリカチュアを収拾した本で、そういうのが見たい人にはまあいいが、「当時の社会や思想状況について新しい視点を提供してくれる」と銘打つわりに何が新しいのかよくわからない。絵の中にある「顕在化してはいない意味伝達の回路」(227p)を読み解くことを「イメージの政治学」と呼ぶことにするというが、絵の中に顕在化されていない意味があるのは当り前だし、わざわざ格好つけた名前を作らなくてもいいと思う。もちろん、当時描かれた絵やイメージが革命に寄与した面もあると思うが、美術評論家である著者は美術の貢献を過大評価しすぎている気がする。革命を支えたのはまず共和思想だろう。
3.0 ジンジャー・ロジャース『ジンジャー・ロジャース自伝』渡瀬ひとみ訳、キネマ旬報社
- 作者: ジンジャーロジャース,Ginger Rogers,渡瀬ひとみ
- 出版社/メーカー: キネマ旬報社
- 発売日: 1994/08
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1930年代のミュージカル映画でフレッド・アステアの相手役として知られる女優ジンジャー・ロジャース(1911-1995)の自伝。ただ、筆致がオカルト的で、母親の影響でクリスチャン・サイエンスという新興宗教を信奉することになり、体のイボがお祈りを捧げることで治った、というエピソードなどが色々出てくるが、全て偶然にしか過ぎない。終盤では神への感謝と、友達自慢や共和党の政治家(ニクソンなど)との交流自慢になってきてこれも面白くない。
ただ、真珠湾攻撃の前日にイサム・ノグチに自分の胸像を彫って貰ったのだが、そのイサム・ノグチも強制収容所に収容されることを知り驚いたというエピソードは良かった(233p)。
2.5 瀬川裕司『「サウンド・オブ・ミュージック」の秘密』平凡社新書
- 作者: 瀬川裕司
- 出版社/メーカー: 平凡社
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映画評論家の瀬川が、すべての映画の中で一番好きだという『サウンド・オブ・ミュージック』を分析するが、民話から読み解いたり、椅子や小道具の効果についてまで書くなど詳しすぎてついていけない。ところで、「職業柄、映画を観るときには登場人物に感情移入をせず、客観的な分析をおこなう習慣を身につけている」(p75)というが、映画評論家とはそういうものなのだろうか。感情移入をせずに映画を観るという姿勢に全く共感できない。ノースロップ・フライは『よい批評家』で「文学を読む大衆の代表として、作家に共感し、学識のある人を、批評家という名称で呼びたい」(p96)と言っている。
2.0 藤えりか『なぜメリル・ストリープはトランプに噛みつき、オリバー・ストーンは期待するのか ハリウッドからアメリカが見える』幻冬舎新書
なぜメリル・ストリープはトランプに噛みつきオリバー・ストーンは期待するのか ハリウッドからアメリカが見える (幻冬舎新書)
- 作者: 藤えりか
- 出版社/メーカー: 幻冬舎
- 発売日: 2017/03/29
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平凡なリベラルの視点から、反トランプ・反ヒトラー・反黒人差別などいかにも優等生的な意見が引きだされるだけで、たいしたことは言っていない。ディズニーは「1991年の『美女と野獣』でディズニー長編アニメ初の女性脚本家を起用した」(p111)というのは知れてよかった。
2.0 ジェームズ・キャグニー『ジェームズ・キャグニー自伝』山田宏一訳、早川書房
- 作者: ジェームズキャグニー,山田宏一
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 1990/10
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ハリウッドスター、ジェームズ・キャグニー(1899-86)の自伝で、1931年の映画『民衆の敵』の撮影では当時まだ空砲が開発されて折らず実弾を用いて撮影していた、など衝撃的な事実は載っている。しかし、あとはキャグニーの若い頃の喧嘩自慢だったり、キリスト教徒として自然破壊を嘆いたりと共感できない。しかも驚くべきことに、キャグニーはハイウェイ建設に反対しながら、「車で旅をして、車でとおりすぎるそれぞれの州が独自の美しさをもっていることに気がついた」とドライブを肯定しており完全に論理が破綻している(p260-261)。自然保護を叫ぶなら車から降りることだ。
2.0 フレッド・アステア『フレッド・アステア自伝』篠儀直子訳、青土社
- 作者: フレッドアステア,Fred Astaire,篠儀直子
- 出版社/メーカー: 青土社
- 発売日: 2006/10/01
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ミュージカルスターであるフレッド・アステアの自伝だが、ボブ・トーマス『アステア ザ・ダンサー』があるので別に真新しいことも書いていない。文章が紳士的すぎて、当り障りがない印象しかない。また、英国の皇太子は「その時代で最も輝いていた人だった」(153p)と王族への尊敬の意を示すが、私は身分制(君主制)に反対なので共感できない。
2.0 シャーリー・マクレーン『マイ・ラッキー・スターズ』岩瀬孝雄訳
- 作者: シャーリーマクレーン,Shirley MacLaine,岩瀬孝雄
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 1997/08
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女優シャーリー・マクレーンのハリウッドでの回想記だが、東洋的なスピリチュアルを賛美する記述が目立ちオカルトじみている。実際、彼女は何冊もオカルト本を執筆している。政治的にも左派を応援している立場だが、現代の目で見ると間違っていると思った。
2.0 河添房江『性と文化の源氏物語 書く女の誕生』筑摩書房
- 作者: 河添房江
- 出版社/メーカー: 筑摩書房
- 発売日: 1998/11
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現代思想だのジェンダーだのシニフィエ・シニフィアンだのをふまえようとした結果、些末なモチーフこだわりすぎており、また無意味な議論になっていて退屈だった。「〔従来の〕文学史観の有効性は疑うべくもないが、その一方で、今日つけ加えるべき視点があるとすれば、それは連続もしくは順接の史観に対する、不連続・逆接ともいうべき史観の発想ではないだろうか」(p13)というが、史観という発想自体が間違っている。歴史に目的など無いからである(史観という概念がそもそも間違っているということについてはカール・ポパー『歴史主義の貧困』を参照)。また、光源氏が少年と同性愛に不快陥らないことを著者は「残念」とも言っているが(p92)、なぜ残念なのかよく分からない。同性愛が描かれていれば作品として優れている、などということは無いのである。
2.0 石田瑞麿『教行信証入門』講談社学術文庫
- 作者: 石田瑞麿
- 出版社/メーカー: 講談社
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『教行信証』とは親鸞が書いた浄土真宗の教義を述べた書で、私は自分の漫画を描くために一応読んだが、入門とはいえ読みづらく、よく分からなかった。ただ、理解できたところで面白いとは私には思えそうにないが。
1.5 森孝一『宗教からよむ「アメリカ」』講談社選書メチエ
- 作者: 森孝一
- 出版社/メーカー: 講談社
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冒頭の宗教史はまあ普通だが、人民寺院やブランチ・ビリディアンなどの明らかなカルト集団をカルトと呼ばないように配慮し、また同情的な面すら見せているのでおかしい。人民寺院の集団自殺について、「私には、死の直前に彼らの心に浮かんだのは、かつての人民寺院での生活、自由で安らかな、人種差別のない共同体での日々の思い出だったのではないかと思われてならない」(p163)というが、彼らが「自由で安らかな、人種差別のない共同体」だったとは到底思えずうさんくさい。価値判断が多く書かれており、学問としての客観性もない。
1.5 荒このみ『歌姫あるいは闘士 ジョセフィン・ベイカー』講談社
- 作者: 荒このみ
- 出版社/メーカー: 講談社
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著者はジョセフィンを「人道主義者であり理想主義者」とひいきするが、ジョセフィン・ベイカーの問題行動や孤児を引き取ったことの失敗はあまり語られないので伝記としての完成度は低い。ジョセフィン・ベーカーの本は既に何冊か出ているのだからわざわざ書く必要があったのか疑問である。
1.0 岩本憲児『光と影の世紀 映画史の風景』森話社
- 作者: 岩本憲児
- 出版社/メーカー: 森話社
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話題が些末で散漫で、大げさに哲学用語を引用している。ポストモダンへの言及があるが(p36)、ポストモダンは相変わらず世界には訪れておらず学問的にインチキであることは富永健一『近代化の理論』(講談社学術文庫)にも書いてある。また、著者の恩師だという映画評論家の飯島正を受けてか、飯島と同じように左翼的な価値判断が多く、学問としての公平感がない。「第二次世界大戦後の日本人にとって、日本の現代史教育が不十分なままに来てしまったツケがいま問題化しているからである。とりわけ台湾や朝鮮半島への過去の弾圧的政策、日中戦争から大東亜戦争(太平洋戦争)へと至る戦争拡大の中で犯したアジア諸国への過ち、これらについて若い人々へ歴史教育が成されてこなかったことは、アジア諸国と日本との歴史認識の違いの大きな溝を作り上げてしまった」(p110)と言うが、東アジアがまとまらないのは日本の反省不足ではなくそれぞれの国が中華思想を分有しているためであるということが古田博司『東アジア・イデオロギーを超えて』(新書館)を読めば分かる。
1.0 ピート・ハミル『ザ・ヴォイス フランク・シナトラの人生』馬場啓一訳、日之出出版
- 作者: ピートハミル,Pete Hamill,馬場啓一
- 出版社/メーカー: 日之出出版
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シナトラを格好良く描いて美化しており、彼に都合の悪い事件や暴力沙汰を隠している。伝記としての水準に達しておらず、シナトラを知りたいならキティ・ケリー『ヒズ・ウェイ』で充分である。
1.0 ショーエンK『「坊主まるもうけ」のカラクリ』ダイヤモンド社
- 作者: ショーエンK
- 出版社/メーカー: ダイヤモンド社
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私が漫画(『学芸員の女』)を描くに当たり参考になればと読んだが、ページの余白が多くスカスカで、中島隆信『お寺の経済学』(東洋経済)より後に出たとは思えぬほどたいしたことは書いていない。本名も名乗る度胸もないのに、こんな本で儲けようとしていると思うと更に腹立たしい。
0.5 映画秘宝編集部『新世紀ミュージカル映画進化論』洋泉社
知の後退基本的に『ラ・ラ・ランド』を誉めるだけの本で、反対意見は原田和典がデミアン・チャゼルのジャズの認識を批判しているくらいであり(それもジャズを愛していない私にはどうでもいい)、『ラ・ラ・ランド』がつまらない私には面白がるところがない。また、町山智浩を始めとして、どの執筆者も参考文献や出典を掲載しておらず、自説を展開するだけで学問的価値はない。この本を読んでミュージカル映画が進化しているとは思わないだろう。あと町山智浩の「~だよ」「~だよね」と読者に呼びかけてくる文体は気味が悪く思った。吉岡栄一『文芸時評ー現状と本当は恐いその歴史』が名著だと思う私としては、誉めるに値しない作品を寄ってたかって誉めている構図は知の後退であるとしか思えない。
ミュージカル映画(398本)の点数順
1927~2017年までのミュージカル映画(398本)を点数順に並べました。
詳しい感想は以下のリンクからお願いします。
1927年-1944年のミュージカル映画(99本) - 大類浩平の感想
1945年-1959年のミュージカル映画(100本) - 大類浩平の感想
1960年-1989年のミュージカル映画(102本) - 大類浩平の感想
1990年-2017年のミュージカル映画(97本) - 大類浩平の感想
点数(10点満点)『映画タイトル』(制作年/制作国)監督名
10.0『ドリトル先生 不思議な旅』(1967/米)リチャード・フライシャー
10.0『リリー』(1953/米)チャールズ・ウォルターズ
9.5『カラミティ・ジェーン』(1953/米)デヴィッド・バトラー
9.5『マイ・フェア・レディ』(1964/米)ジョージ・キューカー
9.5『マイ・シスター・アイリーン』(1955/米)リチャード・クワイン
9.5『アラジン』(1992/米)ジョン・マスカー、ロン・クレメンツ
9.0『雨に濡れた欲情』(1953/米)カーティス・バーンハート
9.0『メリー・ポピンズ』(1964/米)ロバート・スティーヴンスン
9.0『ムトゥ 踊るマハラジャ』(1995/印)K.S. ラヴィクマール
9.0『サウンド・オブ・ミュージック』(1965/米)ロバート・ワイズ
9.0『ノートルダムの鐘』(1996/米)トルースデール、ワイズ
9.0『オーケストラの少女』(1937/米)ヘンリー・コスター
8.5『若草の頃』(1944/米)ヴィンセント・ミネリ
8.5『輝く瞳』(1934/米)デイヴィッド・バトラー
8.5『ミモラ 心のままに』(1999/印)サンジャイ・リーラー・バンサーリー
8.5『フィニアスとファーブ/ザ・ムービー』(2011/米)ダン・ポベンマイヤー
8.5『ハッピー・フィート』(2006/豪・米)ジョージ・ミラー
8.5『美女と野獣』(1991/米)ゲーリー・トゥルースデイル、カーク・ワイズ
8.5『歌え!ロレッタ 愛のために』(1980/米)マイケル・アプテッド
8.5『リトルショップ・オブ・ホラーズ』(1986/米)フランク・オズ
8.0『アヴェ・マリア』(1938/米)ノーマン・タウログ
8.0『踊る海賊』(1948/米)ヴィンセント・ミネリ
8.0『踊るニュウ・ヨーク』(1940/米)ノーマン・タウログ
8.0『水着の女王』(1949/米)エドワード・バゼル
8.0『ティム・バートンのコープス・ブライド』(2005/米)、ティム・バートン
8.0『スイング・ホテル』(1942/米)マーク・サンドリッチ
8.0『日本人のへそ』(1977/日)須川栄三
8.0『皇帝円舞曲』(1948/米)ビリー・ワイルダー
8.0『屋根の上のバイオリン弾き』(1971/米)ノーマン・ジュイソン
8.0『マイアミの月』(1941/米)ウォルター・ラング
8.0『會議は踊る』(1931/独)エリック・シャレル
8.0『フラッシュダンス』(1983/米)エイドリアン・ライン
8.0『ディセンダント』(2015/米)ケニー・オルテガ
8.0『ゴッド・ヘルプ・ザ・ガール』(2014/英)スチュアート・マードック
8.0『アルナーチャラム 踊るスーパースター』(1997/印)スンダル・シー
8.0『塔の上のラプンツェル』(2010/米)グレノ、ハワード
8.0『プリンセスと魔法のキス』(2009/米)ジョン・マスカー、ロン・クレメンツ
7.5『野ばら』(1957/独)マックス・ノイフェルト
7.5『今晩は愛して頂戴ナ』(1932/米)ルーベン・マムーリアン
7.5『我輩はカモである』(1933/米)レオ・マケアリー
7.5『ペンチャー・ワゴン』(1969/米)ジョシュア・ローガン
7.5『チャーリーとチョコレート工場』(2005/米)ティム・バートン
7.5『サタデー・ナイト・フィーバー』(1977/米)ジョン・バダム
7.5『SING シング』(2016/米)ガース・ジェニングス
7.5『恋する水兵』(1938/米)エリオット・ニュージェント
7.0『恋愛準決勝戦』(1951/米)スタンリー・ドーネン
7.0『恋をしましょう』(1960/米)ジョージ・キューカー
7.0『恋の手ほどき』(1958/米)ヴィンセント・ミネリ
7.0『百万弗の人魚』(1952/米)マーヴィン・ルロイ
7.0『地上に降りた女神』(1947/米)アレクサンダー・ホール
7.0『晴れた日に永遠が見える』(1970/米)ヴィンセント・ミネリ
7.0『桑港』(1936/米)W.S.ヴァン・ダイク
7.0『空中レヴュー時代』(1933/米)ソーントン・フリーランド
7.0『ポパイ』(1980/米)ロバート・アルトマン
7.0『ブルー・スカイ』(1946/米)スチュアート・ヘイスラー
7.0『ひばり・チエミの弥次喜多道中』(1962/日)沢島忠
7.0『ダンシング・レディ』(1933/米)ロバート・Z・レナード
7.0『ダニー・ケイの新兵さん』(1943/米)エリオット・ニュージェント
7.0『コンチネンタル』(1934/米)マーク・サンドリッチ
7.0『ゴールド・ディガーズ』(1933/米)マーヴィン・ルロイ
7.0『ANNIE』(2014/米)ウィル・グラック
7.0『ハッピー・フィート2 踊るペンギンレスキュー隊』(2011/豪・米)ジョージ・ミラー
↓7点未満(同点は順不同)↓
続きを読む1990年-2017年のミュージカル映画(97本)
点数(10点満点)『映画タイトル』(制作年/制作国)監督名
(ほぼ全てネタバレをしているのでご了承ください。)
- 2.0『ディックトレイシー』(1990/米)ウォーレン・ベイティ
- 8.5『美女と野獣』(1991/米)ゲーリー・トゥルースデイル、カーク・ワイズ
- 9.5『アラジン』(1992/米)ジョン・マスカー、ロン・クレメンツ
- 1.5『ニュージーズ』(1992/米)ケニー・オルテガ
- 1.0『天使にラブ・ソングを…』(1992/米)エミール・アルドリーノ
- 0.5『サラフィナ!』(1992/南アフリカ)ダレル・ジェームズ・ルート
- 4.0『ナイトメアー・ビフォア・クリスマス』(1993/米)ヘンリー・セリック
- 3.0『ヤジャマン 踊るマハラジャ2』(1993/印)R.V.ウダヤクマール
- 2.0『ザッツ・エンターテイメント3』(1994/米)バド・フリージェン、マイケル・J・シェリダン
- 1.5『ライオン・キング』(1994/米)ロジャー・アラーズ、ロブ・ミンコフ
- 4.0『バーシャ!踊る夕陽のビッグ・ボス』(1994/印)スレーシュ・クリシュナ
- 1.5『ボンベイ』(1995/印)マニ・ラトナム
- 9.0『ムトゥ 踊るマハラジャ』(1995/印)K.S. ラヴィクマール
- 1.0『世界中がアイ・ラヴ・ユー』(1996/米)ウディ・アレン
- 1.0『エビータ』(1996/米)アラン・パーカー
- 9.0『ノートルダムの鐘』(1996/米)トルースデール、ワイズ
- 5.0『ジャイアント・ピーチ』(1996/米)ヘンリー・セリック
- 2.0『アナスタシア』(1996/米)ブルース 、ゴールドマン
- 0.5『レズパラ』(1996/米)ジェフ・B・ハーモン
- 8.0『アルナーチャラム 踊るスーパースター』(1997/印)スンダル・シー
- 1.0『ブルース・ブラザース2000』(1998/米)ジョン・ランディス
- 0.5『ジャンヌと素敵な男の子』(1998/仏)オリビエ・デュカステル 、ジャック・マルティノー
- 8.5『ミモラ 心のままに』(1999/印)サンジャイ・リーラー・バンサーリー
- 2.0『恋の骨折り損』(1999/英・米)ケネス・ブラナー
- 1.0『王様と私』(1999/米)リチャード・リッチ
- 1.0『パダヤッパ いつでも俺はマジだぜ!』(1999/印)K.S.ラヴィクマール
- 0.5『ダンサー・イン・ザ・ダーク』(2000/デンマーク・独)ラス・フォン・トリアー
- 4.0『ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ』(2001/米)ジョン・キャメロン・ミッチェル
- 1.0『プラハ!』(2001/チェコ)フィリプ・レンチ
- 0.5『ムーラン・ルージュ』(2001/米)バズ・ラーマン
- 0.5『サウスパーク 無修正映画版』(2001/米)トレイ・パーカー
- 4.0『8人の女たち』(2002/仏)フランソワ・オゾン
- 4.0『STOMPの愛しの掃除機』(2002/米)リューク・クレスウェル 、スティーブ・マクニコラス
- 1.5『クリビアにお任せ!』(2002/蘭)ピーター・クラマー
- 3.0『恋に唄えば♪』(2002/日)金子修介
- 6.0『キャンプ!』(2003/米)トッド・グラフ
- 0.5『歌う大捜査線』(2003/米)キース・ゴードン
- 5.0『巴里の恋愛協奏曲』(2003/仏)アラン・レネ
- 6.0『オペラ座の怪人』(2004/米)ジョエル・シューマカー
- 4.0『Ray/レイ』(2004/米)テイラー・ハックフォード
- 1.0『五線譜のラブレター』(2004/米・英)アーウィン・ウィンクラー
- 1.0『ビヨンド the シー 夢見るように歌えば』(2004/米)ケビン・スペイシー
- 0.5『ニール・ヤング/グリーンデイル』(2004/米)ニール・ヤング
- 5.0『ヘンダーソン夫人の贈り物』(2005/英)スティーヴン・フリアーズ
- 1.5『オペレッタ狸御殿』(2005/日)鈴木清順
- 0.5『RENT』(2005/米)クリス・コロンバス
- 7.5『チャーリーとチョコレート工場』(2005/米)ティム・バートン
- 1.0『プロデューサーズ』(2005/米)スーザン・ストローマン
- 8.0『ティム・バートンのコープス・ブライド』(2005/米)、ティム・バートン
- 1.0『キンキー・ブーツ』(2005/米・英)ジュリアン・ジャロルド
- 5.0『ドリーム・ガールズ』(2006/米)ビル・コンドン
- 1.0『嫌われ松子の一生』(2006/日)中島哲也
- 8.5『ハッピー・フィート』(2006/豪・米)ジョージ・ミラー
- 1.0『ハイスクール・ミュージカル』(2006/米)ケニー・オルテガ
- 1.0『魔笛』(2007/英・仏)ケネス・ブラナー
- 6.0『スウィーニー・トッド フリート街の悪魔の理髪師』(2007/米)ティム・バートン
- 1.0『アクロス・ザ・ユニバース』(2007/米)ジュリー・テイモア
- 1.5『ヘアスプレー』(2007/米)アダム・シャンクマン
- 6.5『魔法にかけられて』(2007/米)ケヴィン・リマ
- 0.5『ハイスクール・ミュージカル2』(2007/米)ケニー・オルテガ
- 0.5『ハイスクール・ミュージカル/ザ・ムービー』(2008/米)ケニー・オルテガ
- 1.5『マンマ・ミーア!』(2008/米)フィリダ・ロイド
- 0.5『ブロードウェイ♪ブロードウェイ コーラスラインにかける夢』(2008/米)ジェームズ・D・スターン、アダム・デル・デオ
- 8.0『プリンセスと魔法のキス』(2009/米)ジョン・マスカー、ロン・クレメンツ
- 0.5『NINE』(2009/米・伊)ロブ・マーシャル
- 1.0『シャーペイのファビュラスアドベンチャー』(2010/米)マイケル・レンベック
- 8.0『塔の上のラプンツェル』(2010/米)グレノ、ハワード
- 2.0『バーレスク』(2010/米)スティーヴン・アンティン
- 8.5『フィニアスとファーブ/ザ・ムービー』(2011/米)ダン・ポベンマイヤー
- 7.0『ハッピー・フィート2 踊るペンギンレスキュー隊』(2011/豪・米)ジョージ・ミラー
- 3.0『ザ・マペッツ』(2011/米)ジェームズ・ボビン
- 1.0『フットルース 夢に向かって』(2011/米)クレイグ・ブリュワー
- 1.0『アンコール!!』(2012/英)ポール・アンドリュー・ウィリアムズ
- 0.5『カルテット!人生のオペラハウス』(2012/英)ダスティ・ホフマン
- 0.5『愛と誠』(2012/日)三池崇史
- 1.0『ロック・オブ・エイジズ』(2012/米)アダム・シャンクマン
- 2.0『レ・ミゼラブル』(2012/英)トム・フーパー
- 1.5『ピッチ・パーフェクト』(2012/米)ジェイソン・ムーア
- 1.0『ティーン・ビーチ・ムービー』(2013/米)ジェフリー・ホーナデイ
- 2.0『サンシャイン/歌声が響く街』(2013/英)デクスター・フレッチャー
- 6.0『はじまりのうた』(2013/米)ジョン・カーニー
- 6.0『アナと雪の女王』(2013/米)、アニメクリス・バック、ジェニファー・リー
- 2.0『ジャージー・ボーイズ』(2014/米)クリント・イーストウッド
- 4.0『セッション』(2014/米)デミアン・チャゼル
- 8.0『ゴッド・ヘルプ・ザ・ガール』(2014/英)スチュアート・マードック
- 1.5『踊るアイラブユー♪』(2014/英)マックス・ギワ、ダニア・パスクィーニ
- 2.0『ラスト5イヤーズ』(2014/米)リチャード・ラグラベネーズ
- 1.0『イントゥ・ザ・ウッズ』(2014/米)ロブ・マーシャル
- 1.5『ジェームス・ブラウン ~最高の魂を持つ男~』(2014/米)テイト・テイラー
- 7.0『ANNIE』(2014/米)ウィル・グラック
- 8.0『ディセンダント』(2015/米)ケニー・オルテガ
- 2.0『味園ユニバース』(2015/日)山下敦弘
- 0.5『ラ・ラ・ランド』(2016/米)デミアン・チャゼル
- 0.5『マダム・フローレンス!夢見るふたり』(2016/英)スティーヴン・フリアーズ
- 5.0『モアナと伝説の海』(2016/米)ロン・クレメンツ、ジョン・マスカー
- 7.5『SING シング』(2016/米)ガース・ジェニングス
- 2.0『美女と野獣』(2017/米)ビル・コンドン
- 参考文献
2.0『ディックトレイシー』(1990/米)ウォーレン・ベイティ
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原作は同名のコミック。1930年代の米国の暗黒街が舞台だが、ギャングがそもそも魅力的だと私は思わないので彼らの犯罪行為を見ていても楽しくない。
ギャングの女である歌姫(マドンナ)が、刑事ディックトレイシー(ウォーレン・ベイティ)に片思いをするのは『黒蜥蜴』を彷彿とさせるが、女が死んでしまうのは可哀想に思った。
8.5『美女と野獣』(1991/米)ゲーリー・トゥルースデイル、カーク・ワイズ
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野獣と対面しても言葉で張り合えるベルの強さは格好いいし、野獣の片思いも面白い。終盤で巻き起こる、城に攻めてきた人間たちと家財道具との闘いは、ディズニーアニメの戦闘シーンの中でも特に面白いと思った。男に羽をむしられる女の箒もエロい。この映画は原作小説(ガブリエル=シュザンヌ・ド・ヴィルヌーヴ著)を楽しく脚色しているといえるし、1945年のフランス映画『美女と野獣』(ジャン・コクトー監督)や2017年の実写版より面白い。
ところで、『美女と野獣』はディズニー長編アニメとして初めて女性脚本家を起用したことで知られる(藤えりか『なぜメリル・ストリープはトランプに噛みつき、オリバー・ストーンは期待するのか』幻冬舎新書、p111)。
9.5『アラジン』(1992/米)ジョン・マスカー、ロン・クレメンツ
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下層の生れと王族の生れが上手く対比されており、身分制への問題提起がなされているなど結構深い。悪役ジェファーがアラジンのことを「素性卑しいペテン師」「ドブネズミ」と言うのは印象的である。また、ジャスミンは黒髪で頭が良いので、ディズニーのヒロインとしては私は一番好きである。終盤でも、アラジンを助けるためにジェファーに惚れたふりをするなど機転が利くし健気である。ディズニーアニメ最高峰の傑作だと思う。
ただランプの精ジーニーのギャグは、ショウガールだのキャビンアテンダントだの時代背景を無視していて、笑えないし冷めてしまった。そこだけ減点。
1.5『ニュージーズ』(1992/米)ケニー・オルテガ
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19世紀末のニューヨークで、新聞販売少年たちが戯れるホモソーシャルな映像が続き、開始20分まで主要な女性キャラが出てこない。私には少年愛の傾向が皆無なので入り込めない。主人公ジャックは不良少年で、かつ販売員仲間デイヴィッドの妹とすぐ相思相愛になるなど呆れてしまう。
物語のラストでは、少年たちはストライキを成功させハッピーエンドになるが、むしろそれからの少年たちの生活が心配になる。多少賃金がアップしたくらいでは、彼らが貧しい階級から抜け出すことは難しいからである。
1.0『天使にラブ・ソングを…』(1992/米)エミール・アルドリーノ
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人殺しのヤクザに追われるウーピー・ゴールドバーグが修道院に身を隠したことをきっかけに、シスター達のあいだで保守的な宗教観とリベラルな宗教観が対立する話だが、そもそも宗教に興味が無い私にとっては無意味な対立である。終盤、シスターに感化されたウーピーがヤクザに「あなたを許します」というが、ヤクザに殺された人のことを考えたら許しちゃだめだろう。宗教における寛容の欺瞞である。
0.5『サラフィナ!』(1992/南アフリカ)ダレル・ジェームズ・ルート
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同名の反アパルトヘイト・ミュージカルの映画化だが、黒人たちが神を賛美する歌を歌うばかりで無宗教の私には興味を惹かれない。「神が地上で初めて作った人間の肌の色は?何色か聖書には書いてないのよ」と歌うが、宗教を用いて差別を乗り越えようとするのには限界がある。
また、警察が学校で生徒たちに発砲し多数の死者を出すなど、白人の悪さを強調するシーンがあるが、白人への無意味な憎悪をいたずらに煽っても新たな戦争が勃発するだけなので意味がないだろう。
4.0『ナイトメアー・ビフォア・クリスマス』(1993/米)ヘンリー・セリック
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女の子サリーもかわいいし世界観も面白いが、それを生かすプロットではない。主人公ジャックとサリーのドラマや恋愛が出てくると期待したが、そういう描写はほとんど無く、登場人物達は怪物流のクリスマスを行うための準備ばかりしている。終盤で人間世界にやってくるのはジャックだけなのも物足りない。サリーも一緒に行けば二人の仲も深まるのに、そういうこともなく、それでいて最後はお互い結ばれるので制作側はちゃんと考えろと思った。
3.0『ヤジャマン 踊るマハラジャ2』(1993/印)R.V.ウダヤクマール
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みんなに慕われる旦那様(=ヤジャマン)のラジニーカントと、悪党が対決する話で、ラジニーカントの妻が毒を盛られ殺されるなど陰惨な展開もあるが、人間に迫るような胸を打つシーンは少ない。生れの良いラジニーカントは「人格者だ」「人道主義者だ」と庶民に尊ばれているが、だったら生れで徹底的に差別されるカースト社会をどうにかしてほしい。自分の生れが良いことに起因する余裕が人道的に見えるだけだろう。
ちなみに「踊るマハラジャ2」という副題だが、『ムトゥ 踊るマハラジャ』とは関係ない。しかも『ムトゥ』は『ヤジャマン』の2年後の映画(1995年製作)なので謎である。
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『ザッツ・エンターテイメント2』(1976年)の続編で、マニア向け。
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私は身分制に反対なので、冒頭で動物たちが王のライオンに恭しく頭を下げているのがまず気味が悪いと思った。中盤で子ライオンのシンバは砂漠に追放されるが、ミアーキャットらに救出された後いつの間にか大人に成長しており、それまで砂漠をどう生き抜いたかというエピソードが省かれているのはおかしいし物語の魅力が半減している。
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元「密輸王」ラジニーカントがヤクザをやっつける話だが、昔はラジニーカントも悪かったのであり、現在どれだけラジニーカントが心を入れ替えているのか不明瞭である。事実、ラジニーカントは自らの過去を盾に、妹を大学に入学させるなど不正行為をする。
ただ、警察官になった弟と対立していく展開はドラマがあり面白かった。
1.5『ボンベイ』(1995/印)マニ・ラトナム
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宗教対立のむなしさを描いており、劇中の「宗教という名の狂気は捨てて」という歌詞だけ見れば賛同できる。しかし、描かれるのはヒンドゥーとイスラームの対立・融和の問題であり、無神論者はどうなんだ、仲良くしなくていいのかという問題からは逃げている。
あと、主人公の男が周囲の反対を押し切って女性との愛を誓うとき、彼女の腕を強引につかんで刃物で切り、自分の傷口と合わせる場面は気持が悪くてひいた。同意もなく女の腕を傷つけるという前近代的な蛮行は全く美しくなく、反省させた方が良い。
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使用人には謝らないという大旦那が出てくるなど、身分制をめぐる真面目なテーマから逃げずに物語が作られていて、かつ曲やギャグ・カット割りに至るまで、観客を飽きさせない工夫が凝らされているので傑作である。また、掃き掃除をしていて両手がふさがっている男の足の甲を女が裸足でなでるなど、エロティックな場面でも興奮できる。
ただ、実は使用人のムトゥは高貴な生まれだったというのは、『オリバー・トゥイスト』と同様可も不可も無いオチでガッカリした。
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登場人物が多すぎてそれぞれの人物像が描けていないので、失敗作である。恋愛もすぐ相思相愛になってキスをしてセックスをしてお前ら何なんだ。何となくレトロな雰囲気であるのも寒い。
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アルゼンチンの大統領フアン・ペロンの妻エバ・ペロン(通称エビータ、役;マドンナ)を批判的に描いた伝記映画で、2時間ぶっ通しで「チェ」という狂言回しがエビータをディスるので観るのが辛い。もちろんエビータを個人崇拝する必要は無いが、映画では必要以上に彼女のことを悪く描いていると思う。私は彼女の伝記『エビータ』(ジョン・バーンズ著、新潮文庫)も読んだが、エビータは女性の地位向上のために闘い(同上、p185)、貧民のために医療機関などを建設する(同上、p191)など一応社会貢献はしているのである。伝記映画を作るのならイデオロギーに偏ることなく、客観的事実をふまえて誠意をもって製作してほしい。
また、劇中で使われている曲はポップ・ミュージックにしてはキャッチーでもないし良さが分からなかった。
9.0『ノートルダムの鐘』(1996/米)トルースデール、ワイズ
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原作小説(ユゴー著『ノートル=ダム・ド・パリ』)では詩人が主人公だが、映画では醜いカジモドが主人公になっていて見やすく、エンターテインメント性が増しており成功している。容姿による地位の違いやモテるモテないなど社会的な現実的がちゃんと落とし込まれていて、自己評価の低いカジモドがジプシー女エスメラルダに片思いをして夜な夜な想うシーンでは感動した。
もっとも、宗教や教会の良心が描かれるのみで宗教の偽善には触れられず、政治権力者が一方的に悪者になっているのは幼稚ではあるが。
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実写とアニメパートに別れる。少年と巨大化した虫たちとの友情が描かれるが、蜘蛛の女は捕食者であるためか他の虫たちからは嫌われているのは面白い。リアルな虫の関係性が生かされた設定になっている。原作小説(ロアルド・ダール『おばけ桃が行く』)より映画の方が面白い。
しかし一方で、サメがやたらメカニックな造形をしているなど世界観が掴めない。虫の造形もなんだか奇抜なのに、最終的に彼らが人間生活に馴染んで社会的に成功するというオチも、ファンタジーとはいえ違和感がある。
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ディズニー長編アニメ。ロシア革命勃発時、アナスタシアは王族と離ればなれになり幼い頃の記憶を無くすが、少しずつ自分を取り戻していく話である。が、初めから観客はアナスタシアが王女であるというオチが分かっているのだから、もっとうまく面白く物語を引っ張らなければならない。王制への憧れや反動だけでなんとなく映画を作っただけに思える。私としては、リメイク元の『追想』(アナトール・リトヴァグ監督、1956年)の方が面白い。こちらでは、アナスタシア王女(役;イングリッド・バーグマン)が自らの貴族という身分を最終的に捨てるように読めるからである。
ちなみに、皇帝ニコライ二世の一家七名は銃殺され、遺体は焼却されたので(土肥恒之『ロシア・ロマノフ王朝の大地』講談社学術文庫、p318)、アナスタシアのような少女が生き残っていると考えるのは空想である。
0.5『レズパラ』(1996/米)ジェフ・B・ハーモン
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レズとかゲイを扱うブラックな映画だが、宗教色や米国の田舎色が強くてギャグの元ネタが何なのかピンとこない。人間を描こうとせず、わざと趣味悪く下品に作られていて不快なだけである。こういうのはカウンターとは言わない。
8.0『アルナーチャラム 踊るスーパースター』(1997/印)スンダル・シー
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序盤で、ラジニーカントと女が相思相愛になる展開は馬鹿馬鹿しいが、身分の違いや都市と田舎の対比などがしっかりと描かれていて引き込まれる。悪人に財産を横取りされる前に莫大な財産を使い切る、という展開もエンターテインメントとして面白い。終盤でラジニーカントが悪人と対決する前に吐く「言えば分かる奴もいれば 分からん奴もいる お前たちは後の方らしい」という台詞も格好良かった。
1.0『ブルース・ブラザース2000』(1998/米)ジョン・ランディス
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前作の『ブルース・ブラザース』(1980年)同様、主人公がバンドを結成するためにかつてのメンバーを集めるという展開で捻りがない。牧師のジェームス・ブラウンの説教によって「神の声を理解した」と悟った警官が空を飛べるようになったり、「エル・ウッドのおかげで神に近づいた」と劇中で歌われるなどオカルト要素も引き続き多く共感できなかった。
ただ個人的にエリカ・バドゥの歌は好きなので最低点は避けておく。
0.5『ジャンヌと素敵な男の子』(1998/仏)オリビエ・デュカステル 、ジャック・マルティノー
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人々が誰彼構わずセックスしてエイズになる。主人公のジャンヌも「これは私の宿命」と勝手に悲しみに浸るが、ちゃんとコンドームをつければいいのであり、全く同情できない。ミュージカルに仕立てた意味も分からない。
8.5『ミモラ 心のままに』(1999/印)サンジャイ・リーラー・バンサーリー
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イタリア人とのハーフの男サミルとナンディニの許されぬ恋は、恋愛ものとして楽しめるし、家柄の問題など社会問題もしっかり絡んでいる。結局ナンディニは好きでもない男と結婚するが、サミルのことが忘れられず、彼を探しに夫とともにイタリアに旅立つ。その時の夫の複雑な感情や嫉妬心が巧みに表現されていて、息をのんだ。
しかし、オチでは「献身こそが真の愛」という反動的なものに成り下がり、社会問題がすべて宙ぶらりんになったのでガッカリしたし、全体的にイタリア人(白人)を誇張して悪く描きすぎているのでそこもフェアでは無いと思った。オチが良ければ大傑作だったのだが。
2.0『恋の骨折り損』(1999/英・米)ケネス・ブラナー
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王や王に仕える貴族が、学問に専念するために女を絶つが、結局男達は女のことしか考えられないという様は、女性を人生において意味のあるものとして捉えていて女性嫌悪ではないから良い。ただ、物語はほとんど無いし登場人物が多く散漫なので、シェイクスピアの原作戯曲同様、何が言いたいのか分からない。
1.0『王様と私』(1999/米)リチャード・リッチ
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ワーナーブラザーズの長篇アニメ。タイの王様が、悪い王様ではなく良い王様になるように英国の家庭教師が諭していくが、王制そのものは批判されない。1956年版の『王様と私』とは違い、王は死なず家庭教師と結婚した風に読めるオチだが、ふたりの間にはそんなに恋愛描写も無いのでドラマも感じない。なぜリメイクしたのか謎である。
1.0『パダヤッパ いつでも俺はマジだぜ!』(1999/印)K.S.ラヴィクマール
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村の掟に従わなければ罰が当たる、死人が風を起こして書類の契約を邪魔する、私生児の男が悪者役であるなど、前近代的な価値観の肯定が強い。主人公のラジニーカントは一度に二人の美女に惚れられるのがムカつくし、エロい格好をした女にはズバズバ注意をするなどうるさい。曲の歌詞も、女性に対する教訓的なメッセージが多く退屈だった。
0.5『ダンサー・イン・ザ・ダーク』(2000/デンマーク・独)ラス・フォン・トリアー
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主人公のビョークは目が不自由だが、他人の「目が見えないのか」という問いかけに「見るべきものがある?」と答えるなど、生きる気力を序盤から無くしており感情移入できない。その後も、ビョークが重傷の人間にとどめを刺したりするのも意味不明だし、法廷で全く反論しないのもおかしい。結局ビョークは無実のまま死刑になるので、この映画には「死刑は酷い」という死刑反対の主張が込められているのだろうが、こんなケースを持ち出して死刑廃止を訴えるのは極論で、宅間守のように無実の人間を殺し一切反省しないような人間は死刑になってもやむを得ないのだ。見所が一切ない映画である。
4.0『ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ』(2001/米)ジョン・キャメロン・ミッチェル
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監督自身がゲイのミュージシャンを演じている。あまり美人には見えないが、本人もゲイなのでキャラクターの感情が生々しく引き込まれるところはある。
ただ、主人公が東ドイツ出身という設定が必要だとは思えない。自分の片割れを探すという比喩のために「ベルリンの壁」という言葉を使っているが、なんとなく社会問題を取り入れただけなように思える。同性愛への差別に反抗する歌が歌われるが、その割に宗教用語を歌詞で肯定的に使っているのも腑に落ちない。同性愛はすべての宗教で迫害されているので、宗教への批判的視点がないとたいした問題提起にならないだろう。
1.0『プラハ!』(2001/チェコ)フィリプ・レンチ
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1968年のプラハの春の時代が舞台で、わざとらしくレトロな雰囲気にしているが寒くなっている。登場人物達の恋愛も一目惚れによる相思相愛なだけで捻りがなく、簡単にセックスをしていて腹が立った。
0.5『ムーラン・ルージュ』(2001/米)バズ・ラーマン
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1900年ごろのパリが舞台なのに、画家のロートレックを始めとした登場人物が「サウンド・オブ・ミュージック」や現代のロック・ポップスを歌いまくるので馬鹿にされている気分になった。だったら舞台設定を現代にすればいいのに。映像がめまぐるしく展開するが物語を読ませる工夫はなく、ミュージックビデオを延々と見せられているだけであった。
0.5『サウスパーク 無修正映画版』(2001/米)トレイ・パーカー
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捻りもなく無駄に下品な言葉を使っているだけで、こういうのが表現の自由だと思ったら大間違いだろう。また宗教ネタが多く私にはどうでもいい。
4.0『8人の女たち』(2002/仏)フランソワ・オゾン
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「八人の女」(ロベール・トマ著)という、ある殺人事件をめぐる戯曲をわりと忠実に映画化しているが、まずはとにかく、ミュージカルにする必要が全くなかったと言わねばならない。サスペンスの緊張感が登場人物の歌によっていちいち中断され空気をぶちこわしている。普通のサスペンス映画として作った方がよっぽど良かっただろう。
もっとも、疑心暗鬼になった意地悪な女達の小競り合いがそんなに面白いか疑問だが。
4.0『STOMPの愛しの掃除機』(2002/米)リューク・クレスウェル 、スティーブ・マクニコラス
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ライバル会社の掃除機の情報を知るためにスパイとして送り込まれた従業員が主人公で、わりと物語はちゃんとしているが、ライバル会社の美女と一目で惹かれるなど恋愛の展開は適当である。また、ライバル会社にしょうもないイタズラや嫌がらせを行ったり、酒の一気飲み大会になったりとレベルの低いやりとりが多かった。
1.5『クリビアにお任せ!』(2002/蘭)ピーター・クラマー
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まず看護士クリビア役の女性がかなりおばさんで、ここで好き嫌いが分かれるのではないか。私はタイプではない顔だった。コメディ映画だがギャグも笑えなかった。
ところで、ラストで「ようこそベアトリクス妃」と王族を歓迎するシーンが流れるのが不可解である。何らかの政治的な立場を表明していたのだろうか。
3.0『恋に唄えば♪』(2002/日)金子修介
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間抜けな妖精の竹中直人が優香に片思いするのは面白いが、ダサいCGに相まってギャグがことごとく寒い。優香の彼氏である玉山鉄二が真相を隠して別れ話を切り出したりと、ストーリー展開にも違和感がある。
6.0『キャンプ!』(2003/米)トッド・グラフ
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ブロードウェイを目指す若者たちのサマーキャンプが舞台で、登場人物の感情を丁寧に描写しているし、ミュージカル業界の裏側のどうしようもなさを美化せず描いている。
ただ、主人公の男は本当は恋人がいるのに、すぐにブスな女とキスをしてその気にさせるなど酷い。さらにこの男は黒人の少女ともキスをするのだからムカつく。憎めない登場人物であれば、もっと面白いドラマになっていただけに残念。
0.5『歌う大捜査線』(2003/米)キース・ゴードン
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皮膚病によりグロテスクな見た目になった男が主人公で、『オール・ザット・ジャズ』のような陰鬱な雰囲気で楽しくない。奥さんが浮気して病気の夫を裏切るなど、「愛を裏切るのは女のほう」という女性蔑視の構図そのままで不愉快である。
5.0『巴里の恋愛協奏曲』(2003/仏)アラン・レネ
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夫は妻が処女の時に結婚したと信じているので、妻は夫を傷つけないように最初の夫の存在を隠している、というコメディ調の映画。だが、別に結婚してても処女じゃなくても良いではないか。私は処女だろうが処女じゃなかろうがどうでもいいので、この映画のテーマにそもそも共感できない。この夫は「女は最初に抱いた男の者だ」「その女には男の刻印が押されている」などと発言するが、気味が悪い。
ただまあ、妻役のサビーヌ・アゼマは色気があるし、彼女が男達の求愛をかわしていく様は面白い。
6.0『オペラ座の怪人』(2004/米)ジョエル・シューマカー
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つまらなくはないし、原作小説(ガストン・ルルー著)を読むよりは楽しめると思うが、ホラーっぽい演出が多く間延びしていて、人間模様がなかなか描かれないのが惜しい。あと、クリスティーヌ目線のシーンもあっていいのではないかと思った。
4.0『Ray/レイ』(2004/米)テイラー・ハックフォード
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回想シーンなどを効果的に使い主人公の人間性を浮かび上がらせている。が、ドラッグに溺れ、女にモテモテで浮気をするレイ・チャールズの人生がそもそも面白いとは思えなかった。また、レイが人生の道を誤る度に母親の思い出がフラッシュバックされて彼は正気になるなど、マザコンの傾向が強い。もちろん、マザコンが即悪いと言うことでは無いが、大の大人になったレイ・チャールズが母親に「カモン・ベイビー」と呼ばれて腕に抱かれる空想のシーンは少々気味が悪かった。
1.0『五線譜のラブレター』(2004/米・英)アーウィン・ウィンクラー
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作曲家コール・ポーターの人生を、コール・ポーターの目の前で劇中劇のように見せるというメタフィクション的な映画で、演出家がキャラクターに指示を出すという構図は『ラ・マンチャの男』にも似ているが、回想シーンと現在とが何度も往復して気が散るので失敗作である。同じくポーターの伝記映画である『夜も昼も』(1946年)では彼がバイセクシャルであることが隠されていたが、こちらではちゃんと描かれている。しかし、だからといって私には興味が出ない人物だとしか言えない。二度も映画化するほどの人物だろうか。
1.0『ビヨンド the シー 夢見るように歌えば』(2004/米)ケビン・スペイシー
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50年代から60年代に活躍したエンターテイナー、ボビー・ダーリンの伝記映画だが、見ず知らずの少年がなぜか本人の過去を知っているというファンタジー要素がある。また、ボビーは「思い出は月光のようなもの 好きにしていい」と、まるで伝記作品では何をやってもいいように受け取れる発言をするが、思い出だとしても嘘をつかず誠実に向き合ったほうがいい。まあ、嘘だろうが本当だろうがこの映画に見どころはなかったが。
0.5『ニール・ヤング/グリーンデイル』(2004/米)ニール・ヤング
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登場人物がニール・ヤングのアルバム『グリーンデイル』の曲を歌うが、それだけである。物語では、車にコカインとマリファナを大量に積んでいたジェドという男が衝動的に警官を射殺するが、観客はなぜかこのヤク中に同情するように仕向けられるので全く共感できない。ザ・フーのアルバムを映画化したケン・ラッセルの『トミー』の方がまだ面白い。
5.0『ヘンダーソン夫人の贈り物』(2005/英)スティーヴン・フリアーズ
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70になるヘンダーソン夫人は、かつて自分の息子が戦争で死んだ。その際、息子は生身の女を知らぬままエロ写真を持って死んだので、これからの兵隊のためにとヌードレヴューを経営しようと思い立つという動機は面白い。ただ、結局のところヘンダーソン夫人は息子思いの母親であり、一人の人間としてのオリジナルの魅力は伝わってこなかった。また、ショウガールと兵隊の恋もすぐ相思相愛になり物足りず、戦争によって引き裂かれたところで「へえ」と思うだけで、ドラマを感じさせる演出が足りなかった。
1.5『オペレッタ狸御殿』(2005/日)鈴木清順
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由紀さおりが歌う「びるぜんばばあ」という曲は笑ったが、基本的に昔の狸御殿シリーズを踏襲しているだけで退屈である。
0.5『RENT』(2005/米)クリス・コロンバス
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出てくる登場人物がみんなセックスによるエイズにかかっていて馬鹿馬鹿しく、ゴムをつけろと思った。ラストでエイズにより死線をさまよっているミミが、「柔らかな光の中を歩いていたらエンジェルに会った」と発言するなどオカルト的な世界観も強い。
7.5『チャーリーとチョコレート工場』(2005/米)ティム・バートン
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ジョニー・デップ演ずる工場主ワンカのバックグラウンドがしっかり描かれていたりと、原作小説(ロアルド・ダール著)や1971年版の映画(『夢のチョコレート工場』)よりもクオリティが高く面白いので、チョコレート工場はこれを見ればいい。
1.0『プロデューサーズ』(2005/米)スーザン・ストローマン
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1968年版(メル・ブルックス監督)同様つまらない。とりあえずナチスを出せばブラックユーモアになるという短絡的な思考が寒い。この映画には外見がオッサンのゲイがたくさん出てくる一方で、女性が軽視され女優にほとんど出番がない。法廷でプロデューサーと会計士が見せる友情も同性愛の表現にしか見えない。女性にしか興味がない私は、しばしば観ていてキツくなった。ちなみに監督のスーザン・ストローマンは女性。
8.0『ティム・バートンのコープス・ブライド』(2005/米)、ティム・バートン
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死んでいる女エミリーを始めキャラクター造形がかわいいし、『ナイトメアー・ビフォア・クリスマス』(1993年)に比べると登場人物を中心として物語が紡がれていくので引き込まれる。ただ主人公ビクターの花嫁ビクトリアが監禁されたりして出番が少ないのでそこは物足りない。
1.0『キンキー・ブーツ』(2005/米・英)ジュリアン・ジャロルド
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靴製造工場の若き社長チャーリーが、経営を立て直すためにドラァグクイーンのためのブーツを製造することにする話で、実話を元にしているという。が、私は異性愛者なのでこの時点で映画への興味がなくなっている。しかも、ドラァグクイーン役の黒人がとくに美人ではないので見るのがキツかった。また、チャーリーの妻が夫の仕事に理解を示さないなど、女性を悪役として描いていて嫌だった。
5.0『ドリーム・ガールズ』(2006/米)ビル・コンドン
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女性3人組の歌手の成長物語で、つまらなくはないが、中途半端に伝記的な作品である。実在の人物をしっかり掘り下げるか架空の人物を綿密に作り上げるかどちらかに振り切ってほしい。また、女性メンバーの喧嘩の原因が、「私をメインにして」とか「私の男と寝たんじゃないの」とか幼稚すぎるので、もっと深いところで対立してほしかった。
1.0『嫌われ松子の一生』(2006/日)中島哲也
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原作小説(山田宗樹著)も酷いが、映画のほうが僅かにマシであるように思う。しかし、地味で真面目な少女だった松子(役;中谷美紀)がソープ嬢に落ちたり人を殺したりするのは全くリアリティを欠いていて冷める。ヤクザの伊勢谷友介が聖書を読んで改心するなどオカルト色も強くて気味が悪い。また、物語の冒頭で松子の死体が発見された時、一体誰が殺したのかというサスペンス調の筋だったはずなのに、かなりがっかりするオチである。こういう、特に理由もなく女性をひどい目に遭わせる作品を作って楽しいのだろうか。
8.5『ハッピー・フィート』(2006/豪・米)ジョージ・ミラー
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歌が下手なペンギンとして生まれてきたマンブルは周囲に白い目で見られ、成長しても全くモテないなど、やるせないペンギンの感情が丁寧に描写されていて泣ける。そんなマンブルの武器はダンスで、歌えない代わりにダンスで雌にアピールしたりして何とか生きていこうとする姿は感動的である。しかし、後半ではペンギンと人間の接触がメインとなり、恋愛の問題が二次的になるのは残念だった。映画のテーマが二つになって散らかってしまい、途中まで傑作だっただけに残念だった。
ところで人間たちはペンギンのために海の一部を「禁漁区とする」と取り決めるが、リアリティのない環境保護的なメッセージに違和感を覚えた。監督の出身国がオーストラリアであることと関係があるのかもしれない。
1.0『ハイスクール・ミュージカル』(2006/米)ケニー・オルテガ
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イケメンの主人公が「歌なんて歌えない」と言いながらめちゃめちゃ巧いという寒気のするシーンからはじまる。このイケメンは女にモテるし、バスケのキャプテンとして大会で優勝するし、歌のコンテストでも優勝するしで、この人間どこに魅力があるんだと思った。ディズニーが企画したテレビ映画だがディズニーがこんなのを企画しちゃダメだろ。
1.0『魔笛』(2007/英・仏)ケネス・ブラナー
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第一次世界大戦を舞台にしているのにメルヘンチックなギャグばかりで全然胸に響いてこない。ファンタジーのような荒唐無稽な展開がいちいちスベっている。また、女の天使は嘘つきなので少年の天使を信用しないといけなかったり、悪役が女王だったりと、女性嫌悪なところも嫌である。
6.0『スウィーニー・トッド フリート街の悪魔の理髪師』(2007/米)ティム・バートン
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つまらなくはないが、いつしか無差別に人を殺していく主人公にはまったく感情移入できないし、映像としてのグロテスクさを優先させて人間を描くことを怠っているので評価しようと思えない。主人公が気にかけていた娘についても、双方がちゃんと再会し対話するでもなく中途半端のまま終わりガッカリした。
1.0『アクロス・ザ・ユニバース』(2007/米)ジュリー・テイモア
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ビートルズの曲で構成されたミュージカル映画だが、だからどうしたという感じで、60年代を経験した大人が過去をふり返ってるようにしか思えない。あと、男友達同士で遊ぶシーンがよく出てくるが、女性監督の趣味が出ているのだろう。私には共感できない。
1.5『ヘアスプレー』(2007/米)アダム・シャンクマン
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なぜかジョン・トラボルタが特殊メイクで巨体の母親を演じているが、気味が悪い。主人公の女の子は米国映画には珍しく太っていて背が低いが、私はデブ専ではないので性的に興味が出ない。太った女性が好きな人向けか。ところで、女性番組プロデューサーが人種差別をしたり自分の娘を目立たせたりと悪者役だが、悪い男がほとんど出てこないので嫌だった。
6.5『魔法にかけられて』(2007/米)ケヴィン・リマ
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お姫様と王子が現代にタイムスリップしてくる話だが、タイムスリップ前の設定がやけくそである。そもそもいつの時代の姫なのかよく分からないので、現代にやってきたところでギャップの面白さが感じられない。もっとも、姫が王子ではなく一般人と結婚するという展開はディズニーにしては意外で面白い。
0.5『ハイスクール・ミュージカル2』(2007/米)ケニー・オルテガ
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女子たちがモテ男を中心に動いていくという構図は前作(『ハイスクール・ミュージカル』2006年)と変わらない。キャラクターの人間性や性格を丁寧に描写することが出来ておらず、とにかくカップルの仲をシャーペイという女子生徒が裂こうとするだけで大人が見るに堪えない。
0.5『ハイスクール・ミュージカル/ザ・ムービー』(2008/米)ケニー・オルテガ
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『ハイスクール・ミュージカル』の劇場版。主人公のイケメンが更衣室で新入生の着替えを持ち逃げするが、体育会系による苛めである。苛めっ子が感情移入して楽しむ映画なのだろう。
1.5『マンマ・ミーア!』(2008/米)フィリダ・ロイド
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若いときの母親(メリル・ストリープ)の性が乱れていて、「自分の父親候補が三人居て誰がお父さんか分からない!」と女の子が困る映画だが、ごちゃごちゃ言わずDNA鑑定しろと思った。あとメリル・ストリープはただのおばさんにしか見えず魅力が無い。クリスティーン・バランスキーという当時50過ぎの女優はエロいが、かといって別にキャラクターが浮き彫りにされているわけではなくただのスケベなおばさんになっているので残念。
0.5『ブロードウェイ♪ブロードウェイ コーラスラインにかける夢』(2008/米)ジェームズ・D・スターン、アダム・デル・デオ
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ミュージカル「コーラスライン」のオーディションのドキュメンタリー。マニア向けで、主人公がおらず散漫で、一般の人が観ても面白くない。
8.0『プリンセスと魔法のキス』(2009/米)ジョン・マスカー、ロン・クレメンツ
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蛙に変身した女の子が王様と結婚するおとぎ話で、身分制への批判意識はないが、カエル同士の心境の変化というか、男の片思いの雰囲気や、恋愛が発展していく模様は丁寧に描けている。ホタルのレイの片思いや死も切なくて良かった。
0.5『NINE』(2009/米・伊)ロブ・マーシャル
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フェデリコ・フェリーニ監督の『8 1/2』のミュージカル化で、私は『8 1/2』を2回観ているが、そもそも主人公の映画監督が悩みを吐露しながら女と戯れるだけのこの映画の何が面白いのかよく分からない。自意識過剰な新人作家のような陳腐な内容で、今時ミュージカル化して何の意味があるのか。
1.0『シャーペイのファビュラスアドベンチャー』(2010/米)マイケル・レンベック
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『ハイスクール・ミュージカル』の派生作品。金持ちの白人娘が、父親に「家賃や飛行機代を出すから自立できるか証明しろ」と言われるが、それは自立と言わないんじゃないかと思う。金持ちが下の階層の暮らしをしてみて社会勉強、という金持ちの余裕はまあムカつく。彼女が飼っている犬が別の犬と恋に落ちるが、とくに捻りもなく犬が一目ぼれしあって相思相愛になってなんなんだと思った。
8.0『塔の上のラプンツェル』(2010/米)グレノ、ハワード
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それぞれのキャラクターの性格がちゃんと描写されているし、細かいギャグも楽しめる。モテる盗賊が、ラプンツェルのだけはなかなか落とせないのも面白い。ただ、王国が平和ボケしているというか、「王国から犯罪が消えた」とラストで出るが人間がいる限り悪事はおこるからそんな訳はない。また、王様や王女の人柄が良くて人々に支持されていることも強調されるが、王国(君主国)である限り人を生まれで差別する社会であることにかわりはない、とついつい付け加えたくなる。
2.0『バーレスク』(2010/米)スティーヴン・アンティン
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歌手になる夢を追いかけているクリスティーナ・アギレラがクラブで働き始め成功するが、今時こういうルートでスターになる人が居るのか疑問である。物語やキャラクター造形に工夫があるわけではないので、アギレラが好きな人向けの映画にとどまっている。
8.5『フィニアスとファーブ/ザ・ムービー』(2011/米)ダン・ポベンマイヤー
- 出版社/メーカー: ウォルト・ディズニー・ジャパン株式会社
- 発売日: 2012/07/18
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「ジョージアオキーフ」や「実存主義哲学者」などインテリ受けを狙ったギャグは鼻につくが、結構笑えるし、女の子やカモノハシの造形は可愛い。ひょんなことから主人公たちは異次元の抗争に巻き込まれるが、平行世界に居る姉が知的で勇敢で、時に大人として非情な決断をくだすのは良かった。ただ、バトルシーンが長く食傷気味になった。
7.0『ハッピー・フィート2 踊るペンギンレスキュー隊』(2011/豪・米)ジョージ・ミラー
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『ハッピー・フィート』の続編。まあまあ面白いのだが、流氷によって餌場のない場所に閉じ込められたペンギンたちを救うために、ほかの動物が種を超えて力を合わせる、というのはユートピア的でリアリティがなく入り込めなかった。餌場がなければペンギンたちは雛を食べたり共食いしそうなものだが。まあエンターテインメントだからいいのか。
3.0『ザ・マペッツ』(2011/米)ジェームズ・ボビン
- 出版社/メーカー: ウォルト・ディズニー・ジャパン株式会社
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マペッツに憧れている人形の男児が主人公という、ディズニーのセルフオマージュで、私はマペッツをよく知らないのであまり楽しめなかった。「よくこの映画予算あったな」とメタ的な視点のギャグが多くそれも笑えなかった。ところで、主人公の彼女メアリーが、児童を相手に車を直す授業をしているがよく分からない。車会社がスポンサーなのだろうか。
1.0『フットルース 夢に向かって』(2011/米)クレイグ・ブリュワー
- 出版社/メーカー: パラマウント ホーム エンタテインメント ジャパン
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『フットルース』(1984年)のリメイクで、1984年版よりは僅かにマシだが、若者が度胸試しでトレーラーで無茶なレースをするなどやはり不愉快である。なぜリメイクしたのか。
1.0『アンコール!!』(2012/英)ポール・アンドリュー・ウィリアムズ
- 発売日: 2014/01/09
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老人ホームに入居する老人たちが合唱コンクールに出ようと頑張る話だが、介護士たちは老人に若い世代の曲やセックスについての歌・ヘビメタ・ロックを歌わせるので、悪趣味だしスベっている。また、主人公の老人は頑固な男なのだが、何かあるたびに介護士や家族に自らの考えが古いことを批判され、喫煙を注意され、「生きづらそうね」と言われるさまは、苛められているようにしか見えない。いくら頑固な老人とはいえ、一方的に彼を批判するのはフェアプレーではないし観ていて嫌な気分になる。
0.5『カルテット!人生のオペラハウス』(2012/英)ダスティ・ホフマン
- 出版社/メーカー: ポニーキャニオン
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引退した音楽家たちが暮らす老人ホームが舞台で、『アンコール!!』(2012年)と同じような話だが、あちらよりも人々の階級が上なので鼻につく。老人たちはわざとらしく性的で下品なワードを口に出すが、どれもスベっていて見てられない。
また、80歳前後の老人たちが煙草を吸っているシーンで、介護士が「煙草は寿命を縮める」と喫煙を注意すると、別の老人が「今更縮まっても…」と反論する。すると介護士は反論してきた老人に「あなたは公害だわ」と言い放つのだが全く意味が分からない。反論にもなっておらず、ただの侮辱である。そうやって老人を苛めることで老人はストレスで死んでしまうのではないか。その一方、中盤で老人が車を運転したり、ひいては飲酒運転をするように読めるシーンがあるが、鉄の塊を老人が運転する方が明らかに危険で悪いのにこれはお咎めなしだから狂っている。
0.5『愛と誠』(2012/日)三池崇史
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- 発売日: 2012/11/02
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原作の漫画は未読。1972年の高度成長期の日本が舞台で、不良の男(妻夫木聡)がモテる一方で、真面目な生徒(斎藤工)は「ガリ勉メガネ」と馬鹿にされ続け全くいい思いができず、不愉快極まりない。歌のシーンもダサく、高度経済成長期や昭和の時代が好きな人達が作ったオナニー映画でしかない。最初と最後がアニメーションであるのも意味が分からない。愚劣。
1.0『ロック・オブ・エイジズ』(2012/米)アダム・シャンクマン
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政治家や中年の女性を悪者にすればいいだろ、という程度のロック・プロパガンダ映画。これを見てロックが好きになる人はいるのだろうか?
2.0『レ・ミゼラブル』(2012/英)トム・フーパー
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長編小説を無理に一本のミュージカルにしているので、多くの重要なシーンが省略されており、原作を知らない人は楽しめないというか理解ができないのではないか。原作小説(ユーゴー著)は長いが、その分登場人物たちの心の動きを丁寧に描写しているからこそ面白いのである。原作を知っていないと視聴しても意味が無さそうである。
1.5『ピッチ・パーフェクト』(2012/米)ジェイソン・ムーア
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女子大学生がアカペラの全国大会を目指す映画だが、ポルノのような直接的なエロ描写が多く、またゲロが映るなど気持ち悪い。キャラクターが多くて分かりづらいし、アジア人の扱いも悪いし、このアカペラチームを応援しようという気にならない。
1.0『ティーン・ビーチ・ムービー』(2013/米)ジェフリー・ホーナデイ
- 出版社/メーカー: ウォルト・ディズニー・ジャパン株式会社
- 発売日: 2014/09/03
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ラブラブの10代のカップルでビーチで体を触ったりしてるシーンから始まるのでまず怒りを覚える。海の向こうから荒波がやって来たとき、波に「乗らなきゃ」とワクワクしていて良識を疑う。二人は波に飲み込まれて(ざまあみろ)1960年代の世界にやってくると、サーファーとライダー(暴走族)の対立に巻き込まれるが、私はどちらにも関心がないのでそんな抗争はどうでもいい。男が不良のライダーの姿を「かっこいい」とか言っているが馬鹿である。
2.0『サンシャイン/歌声が響く街』(2013/英)デクスター・フレッチャー
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スコットランドのバンド、プロクレイマーズが1988年に発表したアルバムの曲を元に作られているが(公式HPより)、曲に沿った物語展開なだけで退屈である。老夫婦・その娘・その弟の3組のカップルとも女が男を誤解し、観客は「男が可哀想だ」と誘導されるので女性蔑視のきらいがある。また、隠し子の女と父親との間で全く葛藤がなく仲よさげなのはおかしい。彼女は隠し子という身の上で辛いこともあったであろうに、父親に恨みを抱かない方が不自然である。美談のようになっていて気味が悪かった。
6.0『はじまりのうた』(2013/米)ジョン・カーニー
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シンガーソングライターのカップルのバックボーンをしっかり描いているのでシンプルに恋愛ものとして楽しめる。「他の男を思って作った曲?」と、男が女の愛を疑ったりするのも面白く、全体的に女性蔑視はない。
ただ、もう一人のメインキャストである、酒に溺れる落ち目の音楽プロデューサーには私はあまり魅力を感じなかった。彼の娘も登場シーンが多い割りに、何となくバンドに参加したら上手くいって…という都合の良いもので、成長の物語になっていない。
6.0『アナと雪の女王』(2013/米)、アニメクリス・バック、ジェニファー・リー
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アナはかわいいしエルサの陰のある所も美しいが、エルサはアナの元を早々に去るので、二人の間に交わされるやりとりが少なくドラマとして物足りない。また、アナがかなりの高さの崖から転落するシーンで、下が新雪だからフカフカで助かるなど冬山を舐めている演出がある。
ところで、アレンデール王国はウェーゼルトン国と「今後一切取引しない」というオチだが、北朝鮮のような危険な国家に経済制裁を加える場合ならともかく、ブロック経済は戦争の危険を産むのでそれを肯定するかのようなラストは教育上好ましくないのではないか。
2.0『ジャージー・ボーイズ』(2014/米)クリント・イーストウッド
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米国のバンド、フォー・シーズンズの経歴をもとにしたトニー賞受賞ミュージカルをイーストウッドが映画化したものであるが、いかにもミュージシャンが味わう成功と挫折だ、というだけでとくに印象深いシーンはなかった。フォー・シーズンズやこの時代のミュージシャンが好きな人向けの映画、というだけではないか。
4.0『セッション』(2014/米)デミアン・チャゼル
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冴えない主人公ニーマンがジャズドラマーを目指して音大に通う物語で、デミアン・チャゼル監督はジャズに恨みがあるんじゃないかと思うほどフレッチャー教授に厳しい授業を展開させていく(このように、ジャズを恐ろしく描いていてジャズ愛が見えないためにジャズ・ミュージシャンの仲にはこの映画を酷評する人が居るのではないかと思うが、私自身にはジャズ愛はないのでどうでもいい)。もちろん、フレッチャーの苛めをいとわないやり方は度が過ぎていて見ていて不愉快である。ただ、アメフトをやってるスポーツマンと、価値観の上で喧嘩になるところは、体育会系が嫌いな私としては賛同できる。また、結局のところニューマンの恋愛は上手くいかないが、まあ「モテない人間がなにくそと頑張っている」と捉えれば、恋愛そのものを否定してなくて良いんじゃないかと思った。後述するが『ラ・ラ・ランド』よりマシである。
8.0『ゴッド・ヘルプ・ザ・ガール』(2014/英)スチュアート・マードック
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冴えない眼鏡のバンドマンが、精神病棟を抜け出してきた少女に惹かれていくのが面白く、感情移入しやすい。人間のモテる・モテないというカーストが描かれているし、また社会への不満を歌にする主人公に少女が「あなたは今後10年社会にうんざりし続けるつもり?」と全うなツッコミをいれるなど、よく観ると深い映画である。
ただ、一見まともな少女がどうして精神病棟に入院していたのか分からないし、無神論者だったはずの彼女がクリスチャンヒーリングを受けたのをきっかけに「祈り」を始めた、というラストはオカルト的で嫌だった。
1.5『踊るアイラブユー♪』(2014/英)マックス・ギワ、ダニア・パスクィーニ
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米国の80年代のヒット曲が次々と歌われるなど、雰囲気は『マンマミーア!』(2008年)に似ているが、登場人物が多くそれぞれの人間性を浮き彫りに出来ていない。表面的な相思相愛の美男美女に私は感情移入などできない。
2.0『ラスト5イヤーズ』(2014/米)リチャード・ラグラベネーズ
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男に捨てられた女優志望の女が主人公で、彼氏の思い出をふり返るが、この彼氏は努力しているように見えないのにたまたま書いた小説がベストセラーになるなど馬鹿馬鹿しい。話に工夫がなく、ドラマチックでもなく、陰鬱で思わせぶりな時間ばかりが流れていて疲れた。
1.0『イントゥ・ザ・ウッズ』(2014/米)ロブ・マーシャル
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シンデレラや赤ずきんなどの童話の主人公たちを集めて、主人公を決めないまま筋が展開されるがゴチャゴチャしてうるさい。元々の昔話がたいした話ではないのだから、それぞれの物語が絡んだからといって面白くない。
1.5『ジェームス・ブラウン ~最高の魂を持つ男~』(2014/米)テイト・テイラー
ジェームス・ブラウン~最高の魂(ソウル)を持つ男~ [DVD]
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ホモの男は出てくるが女の主要キャラがなかなか出てこず、ジェームズ・ブラウンが女に恋するシーンも少ない。開始50分くらいしてジェームズ・ブラウンが女店員をクドくシーンが出ると思ったらすぐ結婚して、もう次には子供が居る。ジェームズ・ブラウンかこの監督が同性愛者なのかは知らないが、女が好きな私は見ていて楽しくない。また、冒頭からジェームズ・ブラウンはライフルを持って記者達を脅しに来たり、ドラッグをやって勝手に墜ちたりとどうでもよく、何が最高の魂なのか分からない。「男の運命はとめられない」とか「神の意志だ」とか宗教的なことを彼はよく言うが、無宗教の私にはピンとこない(そもそも「ソウル」(魂)というのが宗教用語で、魂は存在しないのだが)。
7.0『ANNIE』(2014/米)ウィル・グラック
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富豪の実業家ジェイミー・フォックスの人間性をちゃんと描写しており、アニーと対比できていて面白い。ジェイミー・フォックスがアニーを引き取る理由もちゃんとアニーである必然性があり(車に轢かれそうになった彼女を救ったのでそのまま選挙利用をする)、リメイク前の『アニー』(1982年)より物語がちゃんと考えられている。最後の逃走劇でも、アニーはまた自分が選挙の宣伝に利用されているのではないかと疑うところは感情を揺さぶられた。
ただ、アニーがませていて生意気すぎるのが鼻につき、魅力的に欠ける。また音楽も現代風に格好つけようとしすぎて耳障りになっている。
8.0『ディセンダント』(2015/米)ケニー・オルテガ
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今までのディスニー作品のキャラクターにもし子供が居たら、というディズニーのセルフカバーのような映画である。悪役の親と子供は性質が違うというメッセージは分かるし、フェアリー・ゴッドマザー(白雪姫を助けた魔法使い)の娘も、実は心に問題を抱えているなど面白い。イヴィという黒髪の女の子は頭が良くてかわいい。監督は『ハイスクール・ミュージカル』のケニー・オルテガだが、『ハイスクール・ミュージカル』より断然面白い。
ただ、モテ王子ベンが良いやつ過ぎるのは嘘っぽくムカつくし、メインのカップル以外の恋の結末がどうなったのか最終的に分からないのでモヤモヤした。
2.0『味園ユニバース』(2015/日)山下敦弘
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ヤクザとつるんでいた主人公渋谷すばるは、強盗傷害で逮捕されていたが出所する。すばるは二階堂ふみがマネージメントを務めるバンドに参加することになるが、私には彼らがあまり魅力的な登場人物達だと思えない。すばるが出訴後ヤクザにボコボコにされそうになった時、なぜか二階堂ふみがその場に居合わせているが意味不明で、しかも渋谷を救い出してライブハウスに連れてきたシークエンスも省かれており訳が分からない。長いわりに物語から逃げた印象。
0.5『ラ・ラ・ランド』(2016/米)デミアン・チャゼル
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女優の卵ミアとミュージシャンのセブはお互い第一印象が悪かったのに、ミアは彼がピアノを弾く姿に惚れて感銘をうけるのはおかしい。ミアの中には嫌な男を好きになりたくないという葛藤が起こるはずであるが、心情の描写が丁寧でない。しかも彼女は先に「ジャズが嫌い」と発言していたので尚更である。ミアの心境がどう変化して男やジャズを好きになったのか、描写するのを一切怠っている。その後二人は付き合うことになり、表面上は楽しそうだが、ミアから別れ話を切り出す。しかし、二人の間にはたいした事件が起っていないので、なぜ別れないといけないのか観客には分からない。監督らの「女の方から愛を裏切る」という女性蔑視を表現したかっただけではないか。それだったら監督は男を主人公にして話を作れば良いのに、中途半端に女を主人公にするから女性への価値観が歪んだ作品になっている。
その他、昔のミュージカル作品のいいとこ取りをしてオマージュしようとして、急にダンスになったり空を飛ぶファンタジーになったりと統一性がなく、杜撰で寒い。概してキャラクターに元気がなく、感情を揺さぶられないので、見終わったあと何も残らない。
それにしても、ジャズクラブで誰も煙草を吸ってないのは怖い。
0.5『マダム・フローレンス!夢見るふたり』(2016/英)スティーヴン・フリアーズ
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実在した音痴の金持ち老女、フローレンス・フォスター・ジェンキンスが主人公だが、下手な歌を聴かされるだけで映画にするに値する人間ではない。裸の王様のように「婆さん、お前はヘタだ」と周りが言ってあげないとダメなのだが、誰も本音を言わないのは婆さんが金持ちだからである。人々が金や権力に擦り寄ることを肯定するくだらない映画。
5.0『モアナと伝説の海』(2016/米)ロン・クレメンツ、ジョン・マスカー
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お姫様ではなく村長の娘であるモアナは、楽園とうたわれる自分の島にウンザリしている。この映画は概して冒険を肯定する内容で、『オズの魔法使』や『青い鳥』と違って女性を家庭に閉じ込める意図がないから良い。しかし、その冒険をともにする英雄マウイの性格が意地悪で、不細工なくせにモテ男のように女に自信満々に振る舞うのには違和感がある。不細工ならもっと女に優しかったり惚れやすい性格にすればいいのに、全然感情移入できなかった。また、冒険自体も別に捻りのあるものではなくて、メッセージ性は政治的には間違っていないが、内容は退屈で期待外れだった。
7.5『SING シング』(2016/米)ガース・ジェニングス
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コアラのバスターは劇場を建て直すために賞金1000ドルで歌のオーデシションを開催するが、手違いで賞金10万ドルと印刷されたポスターを配布してしまう、というドタバタ喜劇。内気なゾウの女の子(声はMISIA)、男に浮気されるハリネズミ、自分より体の大きい動物にきつく当たるネズミなどキャラクターがどれも面白いので単純に楽しい。
ただ、バスターは結局賞金を用意できず舞台は流れ劇場まで潰すのだが、そんな彼にオーディション参加者が同情して劇場の再建に奮闘していく様には違和感を覚える。そこまでバスターに同情するほど参加者との間で友情や信頼関係が芽生えるシーンが無かったからである。参加者はお人好しすぎるというか、「騙された!」と訴訟を起こす動物が居てもいいくらいである。また、バスターは元々洗車屋の息子だという設定もそうなのだが、動物が誰も彼も車を乗り回していて、危険運転もしちゃったりして、車社会を大々的に宣伝しているように見えて気味が悪かった。そんなに排気ガスをまき散らしながら煙草は吸わないのだ。
2.0『美女と野獣』(2017/米)ビル・コンドン
美女と野獣 MovieNEX(実写版) [ブルーレイ+DVD+デジタルコピー(クラウド対応)+MovieNEXワールド] [Blu-ray]
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アニメが十分面白いのだからわざわざ実写化する必要があったのか疑問である。アニメより40分ほど長いが、野獣が最初からそれほど怖くないためにギャップが演出できておらず、またガストンの手下ル・フウが洗練されているなど下品な描写も無くなっている。あと人種に配慮しているのか黒人俳優が当然のように居るが、だったらアジア人の俳優も出してほしい。
1960年-1989年のミュージカル映画(102本)
点数(10点満点)『映画タイトル』(制作年/制作国)監督名
(同年の映画は点数順に並んでいます。
また、ほぼ全てネタバレをしているのでご了承ください。)
- 7.0『恋をしましょう』(1960/米)ジョージ・キューカー
- 6.0『G.I.ブルース』(1960/米)ノーマン・タウログ
- 3.0『ベルズ・アー・リンギング』(1960/米)ヴィンセント・ミネリ
- 1.5『カンカン』(1960/米)ウォルター・ラング
- 2.0『花くらべ狸道中』(1961/日)田中徳三
- 0.5『ウエスト・サイド物語』(1961/米)ロバート・ワイズ
- 6.5『黒蜥蜴』(1962/日)井上梅次
- 7.0『ひばり・チエミの弥次喜多道中』(1962/日)沢島忠
- 5.0『ヤング・ヤング・パレード』(1963/米)ノーマン・タウログ
- 2.0『ひばり・チエミのおしどり千両傘』(1963/日)沢島忠
- 1.0『バイ・バイ・バーディー』(1963/米)ジョージ・シドニー
- 9.5『マイ・フェア・レディ』(1964/米)ジョージ・キューカー
- 9.0『メリー・ポピンズ』(1964/米)ロバート・スティーヴンスン
- 1.5『シェルブールの雨傘』(1964/仏)ジャック・ドゥミ
- 3.0『ビートルズがやって来るヤァ!ヤァ!ヤァ!』(1964/英)リチャード・レスター
- 0.5『ああ爆弾』(1964/日)岡本喜八
- 0.5『七人の愚連隊』(1964/米)ゴードン・ダグラス
- 9.0『サウンド・オブ・ミュージック』(1965/米)ロバート・ワイズ
- 1.0『ヘルプ!4人はアイドル』(1965/英)リチャード・レスター
- 1.0『歌え!ドミニク』(1966/米)ヘンリー・コスター
- 0.5『努力しないで出世する方法』(1966/米)デヴィッド・スウィフト
- 0.5『ローマで起こった奇妙な出来事』(1966/米)リチャード・レスター
- 10.0『ドリトル先生 不思議な旅』(1967/米)リチャード・フライシャー
- 1.5『モダン・ミリー』(1967/米)ジョージ・ロイ・ヒル
- 1.5『キャメロット』(1967/米)ジョシュア・ローガン
- 1.0『ロシュフォールの恋人たち』(1967/仏)ジャック・ドゥミ
- 4.0『スター!』(1968/米)ロバート・ワイズ
- 3.0『オリバー!』(1968/英)キャロル・リード
- 1.5『アンデルセン物語』(1968/日)矢吹公郎
- 1.0『チキ・チキ・バン・バン』(1968/英)ケン・ヒューズ
- 1.0『フィニアンの虹』(1968/米)フランシス・フォード・コッポラ
- 0.5『イエロー・サブマリン』(1968/英)アニメジョージ・ダニング
- 0.5『プロデューサーズ』(1968/米)メル・ブルックス
- 0.5『ジョアンナ』(1968/英)マイケル・サーン
- 7.5『ペンチャー・ワゴン』(1969/米)ジョシュア・ローガン
- 3.0『ファニー・ガール』(1969/米)ウィリアム・ワイラー
- 4.0『ハロー・ドーリー!』(1969/米)ジーン・ケリー
- 2.0『スイート・チャリティ』(1969/米)ボブ・フォッシー
- 2.0『チップス先生さようなら』(1969/米)ハーバート・ロス
- 1.0『素晴らしき戦争』(1969/英)リチャード・アッテンボロー
- 7.0『晴れた日に永遠が見える』(1970/米)ヴィンセント・ミネリ
- 2.0『クリスマス・キャロル』(1970/米)年ロナルド・ニーム
- 1.5『恋の大冒険』(1970/日)羽仁進
- 1.0『ロバと王女』(1970/仏)ジャック・ドゥミ
- 8.0『屋根の上のバイオリン弾き』(1971/米)ノーマン・ジュイソン
- 4.0『ボーイフレンド』(1971/英)ケン・ラッセル
- 2.5『夢のチョコレート工場』(1971/米)メル・スチュアート
- 2.0『おしゃれキャット』(1971/米)ウォルフガング・ライザーマン
- 2.0『ブラザー・サン シスター・ムーン』(1972/伊)フランコ・ゼフィレッリ
- 2.0『ラ・マンチャの男』(1972/米)アーサー・ヒラー
- 1.0『キャバレー』(1972/米)ボブ・フォッシー
- 1.0『ジーザス・クライスト・スーパースター』(1973/米)ノーマン・ジュイソン
- 1.0『ロビンフッド』(1973/米)ウォルフガング・ライザーマン
- 3.0『ファントム・オブ・パラダイス』(1974/米)ブライアン・デ・パルマ
- 2.0『ザッツ・エンターテインメント』(1974/米)ジャック・ヘイリー・jr.
- 1.5『メイム』(1974/米)ジーン・サックス
- 0.5『星の王子さま』(1974/米・英)スタンリー・ドーネン
- 5.0『トミー』(1975/英)ケン・ラッセル
- 2.5『ナッシュビル』(1975/米)ロバート・アルトマン
- 2.5『ファニー・レディ』(1975/米)ハーバート・ロス
- 0.5『ロッキー・ホラー・ショー』(1975/英)ジム・シャーマン
- 2.0『ザッツ・エンターテイメント2』(1976/米)ジャック・ヘイリー・jr.、ジーン・ケリー
- 1.0『青い鳥』(1976/米)ジョージ・キューカー
- 0.5『スター誕生』(1976/米)フランク・ピアソン
- 0.5『ダウンタウン物語』(1976/英)アラン・パーカー
- 7.5『サタデー・ナイト・フィーバー』(1977/米)ジョン・バダム
- 8.0『日本人のへそ』(1977/日)須川栄三
- 4.0『ニューヨーク・ニューヨーク』(1977/米)マーティン・スコセッシ
- 2.0『愛と喝采の日々』(1977/米)ハーバート・ロス
- 1.0『グリース』(1977/米)ランダル・クレイザー
- 1.5『ウィズ』(1978/米)シドニー・ルメット
- 0.5『ローズ』(1979/米)マーク・ライデル
- 0.5『オール・ザット・ジャズ』(1979/米)ボブ・フォッシー
- 0.5『ヘアー』(1979/米)ミロス・フォアマン
- 8.5『歌え!ロレッタ 愛のために』(1980/米)マイケル・アプテッド
- 7.0『ポパイ』(1980/米)ロバート・アルトマン
- 2.0『フェーム』(1980/米)アラン・パーカー
- 1.0『ブルース・ブラザース』(1980/米)ジョン・ランディス
- 1.0『ザナドゥ』(1980/米)ロバート・グリーンウォルド
- 1.0『愛と哀しみのボレロ』(1981/仏)クロード・ルルーシュ
- 0.5『ショック・トリートメント』(1981/米)ジム・シャーマン
- 2.0『アニー』(1982/米)ジョン・ヒューストン
- 1.5『ワン・フロム・ザ・ハート』(1982/米)フランシス・フォード・コッポラ
- 1.5『ビクター/ビクトリア』(1982/米)ブレイク・エドワーズ
- 0.5『パイレーツ・ムービー』(1982/濠)ケン・アナキン
- 8.0『フラッシュダンス』(1983/米)エイドリアン・ライン
- 1.0『ル・バル』(1983/仏・伊・アルジェリア)エットーレ・スコラ
- 1.5『上海バンスキング』(1984/日)深作欣二
- 1.0『コットンクラブ』(1984/米)フランシス・フォード・コッポラ
- 0.5『フット・ルース』(1984/米)ハーバート・ロス
- 1.0『妖精フローレンス』(1985/日)波多正美
- 1.0『星くず兄弟の伝説』(1985/日)手塚眞
- 0.5『コーラスライン』(1985/米)リチャード・アッテンボロー
- 8.5『リトルショップ・オブ・ホラーズ』(1986/米)フランク・オズ
- 1.0『ビギナーズ』(1986/英)ジュリアン・テンプル
- 3.0『ラ・バンバ』(1987/米)ルイス・ヴァルデス
- 1.0『ダーティ・ダンシング』(1987/米)エミール・アルドリーノ
- 4.5『スクール・デイズ』(1988/米)スパイク・リー
- 1.5『想い出のマルセイユ』(1988/仏)ジャック・ドゥミ
- 1.0『ムーン・ウォーカー』(1988/米)コリン・チルバース、ジェリー・クレイマー
- 3.0『リトル・マーメイド』(1989/米)ジョン・マスカー、ロン・クレメンツ
- 0.5『三文オペラ』(1989/米)メナハム・ゴーラン
- 参考文献
7.0『恋をしましょう』(1960/米)ジョージ・キューカー
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- 発売日: 2012/08/03
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大富豪のイヴ・モンタンはマリリン・モンローの気を惹くために生まれて初めてショウやコメディに挑戦するが、うまくいかずプライドが壊れていくなど、似た設定の『銀の靴』(1951年)より面白い。ただ結局は金持ちの美男が得をするという構図になっていて、イヴ・モンタンの登場によって役を失う男や翻弄される演出家たちを思うと可哀想ではある。
6.0『G.I.ブルース』(1960/米)ノーマン・タウログ
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兵士たちの間で、身持ちの固い彼女を陥落させた男に300ドルが与えられるという賭けが始まる。いかにもマッチョ思想の男が考えることで私は苦手だが、エルヴィス・プレスリーが女を落とすために彼女に近づくうち本当に好きになる、という展開は恋愛ものとしてはまあまあ楽しめる。
3.0『ベルズ・アー・リンギング』(1960/米)ヴィンセント・ミネリ
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電話応対代行会社に務めるジュディ・ホリディは、劇作家のディーン・マーティンの「ママ」役を務めていて、彼にモーニング・コールをかけるのが日課になっている。マーティンはなかなか脚本を書かずに酒を飲んでは出版社に執筆を催促されるのだが、すぐクビにならないのは売れっ子作家であるからだし、加えて彼は「女友達は大勢いる」と発言するなど身近な人物だとは思えず私は共感できなかった。また、電話交換手が違法行為をしていないかと大した理由もなくジュディ・ホリディが警察にマークされる展開になるがこれは不自然であり、彼女がマーティンになかなか連絡できないという物語構造を保つための言い訳に過ぎず面白くない。
1.5『カンカン』(1960/米)ウォルター・ラング
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1896年のパリが舞台で、カンカンという踊りは卑猥だから取り締まろうとする判事とそれに抵抗する人々が描かれるが、そもそもカンカンのどこに魅力があるのか分からないので正直取り締まられようがられまいが興味が出なかった。また、早い段階でシャーリー・マクレーンと判事がキスをするので恋愛ものとしての情緒もないし、インチキ弁護士のフランク・シナトラの「不貞の原因は結婚にある。結婚がなければ不貞はない」というモテ独身男宣言があるのも嫌である。モテない人間はそもそも結婚が出来ないのである。加えて弁護士は誠実であるべきなのだからインチキ弁護士が良い人のように描かれるのも問題があると思う。
2.0『花くらべ狸道中』(1961/日)田中徳三
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60年代に入って狸の設定はもうキツいんじゃないか。狸が「お月様、時間を元に戻してください」と念じることで時間が戻るなど何でもありのファンタジーで面白くない。ただ、中田康子や若尾文子の色気があったり、勝新太郎が出てきたりと、他の狸映画よりは見ていられるかもしれない。
0.5『ウエスト・サイド物語』(1961/米)ロバート・ワイズ
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原作の『ロミオとジュリエット』は両家の対立の背景は詳しくは説明されず、二人の恋愛描写も無いのにロミオとジュリエットが愛し合っているという構図で私にはイマイチだが、『ウエスト・サイド物語』は両者の対立がガキの喧嘩に置き換わっていて余計私には共感できない。悪ガキを取りしまる警官を悪く描いていてるのもおかしいし、恋愛も『ロミオとジュリエット』と同じく一目ぼれの相思相愛で捻りがないし、不良グループの歌う歌もダサい。悲劇的な結末なので不良を正当化していないだけマシかもしれないが、そこだけである。
例えばこの作品をほめる批評家の萩尾瞳は「『ウエスト・サイド物語』はミュージカル映画に画期的な変革をもたらした。それは特定のスターを起用することをさけ、グループの魅力で見せようとしたことであり、モダン・バレーの要素を取り入れた新しいダンスを展開したことである」(『プロが選んだ初めてのミュージカル映画』92p)と言っているが、私にとって映画で重要なのは内容である。「グループの魅力を見せる」ことで、逆にキャラクターそれぞれの個性が薄れて人間ドラマを描けていないのは明白である。『ウエスト・サイド物語』はしばしばミュージカル映画の傑作であると紹介されが、まったく納得できない。
6.5『黒蜥蜴』(1962/日)井上梅次
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江戸川乱歩の小説『黒蜥蜴』を三島由紀夫が戯曲化し、さらにそれを映画化した作品で、私は両方の原作も読んだが、基本的に映画は原作に忠実である。しかし映画のオチでは哲学的なテーマを加えているが、これはただスノッブなだけでいらないと思った。
替え玉を使ったり変装をしたりと強引な展開は多いが、京マチ子と明智小五郎(大木実)の関係がまるで恋愛のように発展してく様が面白く、布越しに明智を撫でようとする京マチ子の仕草もエロティックで良い。
7.0『ひばり・チエミの弥次喜多道中』(1962/日)沢島忠
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ひばりとチエミは麻薬組織の仲間だと思われ誤認逮捕されてしまう。すぐに釈放されるが、「牢屋に入った」という偏見から務めていた芝居小屋をクビになり、二人は男装して旅に出る。しかし、どうして男装しなくてはいけなのかは分からない。美空ひばりが目が悪いという設定も面倒臭く、物語には蛇足に思える。
ただ、江利チエミの喋りにモテない女の悲哀や滑稽さが出ていてそこは面白かった。
5.0『ヤング・ヤング・パレード』(1963/米)ノーマン・タウログ
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便利屋のプレスリーには何人も女がいて、冒頭からいきなり女といちゃつくのでムカつく。プレスリーの相棒もギャンブル狂で、大負けした後金を払わずに逃げるなどダメなやつである。また、相棒は嘘をついたり密輸に手を出そうとするのに、プレスリーとは全然喧嘩にならならず、何となく両者が和解するのはおかしいし人間ドラマを演出するチャンスを潰している。ただ、プレスリーが最後に惚れた看護婦はなかなか落ちず、そこから片思いの物語になっていく様は恋愛映画として楽しめた。
2.0『ひばり・チエミのおしどり千両傘』(1963/日)沢島忠
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お姫様である美空ひばりが脱走してしまったため、代わりに乳姉妹の江利チエミが姫のフリをして当座をしのぐという話で、江利チエミの歌や台詞回しは面白いが、ひばりとチエミが同じシーンに出ないので掛け合いがなくつまらない。また、姫という身分が入れ替わったからといって身分制への意識や批判的視点があるわけでもなく私には物足りない。
1.0『バイ・バイ・バーディー』(1963/米)ジョージ・シドニー
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バーディーというスター歌手はただのプレスリーの二番煎じで全くカリスマ性を感じないし、人間性も描かれないので何の魅力もない。ディック・ヴァン・ダイクは作曲家であるが科学者でもあり薬を開発できるなど荒唐無稽でギャグとしても笑えない。唯一面白かったのは、バーディーを見て興奮して絶頂に達し、イキっぱなしみたいになってしまった熟女がエロかったところ。
9.5『マイ・フェア・レディ』(1964/米)ジョージ・キューカー
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言語学の教授レックス・ハリスンは、「(人は)話し方で人を差別し 話し方で人をさげすむ その壁は崩せぬものか」と、言葉によって階級の壁を打破することを考えていて、その実験のために下層の花売り娘オードリー・ヘプバーンにレッスンを受けさせることにした。オードリーに対するハリスンの言語教育は厳しさを極め、ほとんど人格を無視して女を見下しているように見える。そのため原作戯曲『ピグマリオン』(バーナード・ショー著)では二人は結ばれないことで作者は女性の味方をしようとしているのだと思うが、映画ではオードリーを通してハリスンの内面が徐々に変化していって恋心が芽生え、女性嫌悪を反省させることによってオードリーの味方をしている。恋愛感情というものをとても肯定的に捉えていて感動できる。ラジカルフェミニストはこの男の元から去らないオードリーを批判しそうだが、もし二人がこのまま結婚しなければオードリーは一人で生きて行かざるをえず、花屋を始めるとしても最初の資本金も必要だし、しかも店を経営したところで上手くいく保証もないのだから、彼女にとって結婚が幸せならそれでいいのである(男のもとを去った方が良い、と考える人は、その女性の今後の人生が失敗したとき責任を持てるのか?無責任ではないか?)。その他、音楽も演出もいいしハリスンが上流階級にずけずけ物を言ったりするのも面白い。もっとも、本来原作『ピグマリオン』は英国の「アッパー・ミドルクラス」や「ロウアー・ミドルクラス」という中産階級のさらに細かい区分における対立も問題にしているが、米国で映画にするにあたりアッパー・クラスとワーキングクラスという分かりやすい対立に偏向されている(新井潤美『階級にとりつかれた人びと』p136)。
ただ映画が170分あり、オードリーにレッスンを受けさせるかどうか揉めるシーンや父親が歌うシーンなどは中だるみしていると思った。
9.0『メリー・ポピンズ』(1964/米)ロバート・スティーヴンスン
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既に舞台女優として名声を得ていたジュリー・アンドリュースの映画デビュー作で、原作小説(『メアリー・ポピンズ』シリーズ、P.L.トラヴァース著)も面白いが映画はそれをうまくミュージカル化していると思う。メリー・ポピンズ(役ジュリー・アンドリュース)は乳母だが母性は強すぎず、誇り高くツンとしているので子供と大人という対比にもなっており色気があって魅力的である。メリー・ポピンズがただただ子供に甘かったり優しかったりするだけではこの作品の魅力はほとんど削がれてしまうように思える。もっとも、比較文学者の新井潤美によれば、英国のナニー(乳母)はアッパー・クラスの子供をしつけるためにかなり行儀が良く、映画のジュリー・アンドリュースはこれでもニコニコしすぎだという(『不機嫌なメアリー・ポピンズ』p92-93)。ほかには、両親の人間性がしっかりと提示できているので、ファンタジーでありながらも子供と夫婦のズレや夫婦間のズレがリアルで楽しめる。父親(役デヴィッド・トムリンソン)が大道芸人(役ディック・ヴァン・ダイク)と相対して感染し、銀行の頭取を前にして生き生きと歌うシーンでは感動した。
ただ、ポピンズらが絵の中の世界に入って遊ぶシーンは20分もあり長いので、途中で飽きてしまった。
1.5『シェルブールの雨傘』(1964/仏)ジャック・ドゥミ
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全部の台詞がメロディに乗っているが、そういうアイデアと映画が面白いかどうかは別の話である。カトリーヌ・ドヌーヴと恋人ギイは、いきなり相思相愛のカップルとして登場し、結婚を前に戦争で引き裂れ、それぞれ別々の恋人と結婚するが、なぜそうなったかという描写が足りずついていけない。しかも、ドヌーヴの方が男の愛を裏切ったように描いているので女性蔑視の傾向がある。なんでわざわざ後味の悪い映画を作るのかよく分からない。
3.0『ビートルズがやって来るヤァ!ヤァ!ヤァ!』(1964/英)リチャード・レスター
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ビートルズ初の主演映画で、全編を通してビートルズの曲が使われるが、女の子にキャーキャー言われながら追いかけ回されるだけで映画としては退屈である。
ただ、リンゴ・スターだけは冴えなくてモテず、女の子をナンパしようとしても「何よチビ」と言われるなど哀愁があり面白かった。
0.5『ああ爆弾』(1964/日)岡本喜八
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爆弾テロを企てるヤクザの主人公を面白く描こうとしているのがまずおかしいし、しかもギャグが面白くない。歌も寒いし筋もつまらずいい所なしである。
ところで、「南無妙法蓮華経」と祈りを挙げるヤクザの妻は創価学会員なのだろうか?主人公のヤクザの下の名前も「大作」であり深読みしてしまう。
0.5『七人の愚連隊』(1964/米)ゴードン・ダグラス
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フランク・シナトラがいいギャングで、ピーター・フォークが悪いギャングだが、そもそもヤクザ自体が「悪」なのだから私には全く興味のない対立である。しかもシナトラはいいヤクザということになっているが、「盗むなら車ごと盗め」と教えてくれたボスを崇拝しているなど普通に犯罪者である。ラストでもシナトラは大きく罰せられることはなく楽しそうにサンタの格好をして踊って終わるので不快だった。
9.0『サウンド・オブ・ミュージック』(1965/米)ロバート・ワイズ
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同名のマリア・フォン・トラップの自叙伝をもとにして作られたミュージカル映画で、1930年代のオーストリアを舞台にしている。「マリア(ジュリー・アンドリュース)は修道女には向きません」と先輩の修道女が言うように、ジュリーが宗教に熱心すぎないから無神論者の私も彼女に共感しやすい。ナチス批判などの政治的なメッセージは脚色されているものの、長女リーズルの恋人で郵便配達員のロルフがナチスに傾倒していくところなどは、政治状況をうまく活用してドラマにしているから映画として面白くなっている。終盤でナチス党員となったロルフが逃走するトラップ一家を発見し、上官に報告しようかどうしようか、と葛藤する場面は劇的である。もっとも、この逃走劇はフィクションである(瀬川裕司『「サウンド・オブ・ミュージック」の秘密』p203)。傑作であり、映画初心者も玄人も楽しめる作品だろう。ちなみに私は劇中の曲「マイ・フェイヴァリット・シングス」をサックス奏者ジョン・コルトレーンのカバーで先に知っていたが、原曲の方がいいと思った。
ただ、父親(役;ロバート・プラマー)のキャラがモテ男で格好付けているのが少々鼻に付くし、そのプラマーのことが好きな金持ちの女(役;エリノア・パーカー)がジュリー・アンドリュースを追い出す女として強調されているのは嫌であった。
1.0『ヘルプ!4人はアイドル』(1965/英)リチャード・レスター
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指輪をめぐるファンタジックな追いかけっこが展開されるだけで、ビートルズを見たい人だけが見ればいい映画であった。
1.0『歌え!ドミニク』(1966/米)ヘンリー・コスター
(イメージ無し)
単なる宗教プロパガンダ
実在する尼がモデルの映画だが、主人公ドミニクは説教臭くて『サウンド・オブ・ミュージック』に比べて魅力が全然感じられない。ある日、望まない妊娠をした女性が中絶するつもりだとドミニクに言うと、「出産はすてきなことよ 子供をわざと殺すなんて」と怒り出し、他の尼僧も出産が正しいことだと疑わない。しかし、憎い男や嫌いな男の子供を産めというのは酷だし、お金のない女性にとって養育費は死活問題なのに子供を産めというのは無責任である。なのに妊娠した女性の話を聞かずに「中絶は悪」と決めつけるのは完全に思考停止のカルトである。中絶廃止論者はレイプされて妊娠された女性に向かって子供を産めと言えるのか。ラストでは、刑務所に入るなど問題のあった父親が、息子が交通事故にあっただけでまともになり、神に祈りを捧げるまでに変貌するが、現実はそんなに簡単なはずがなく、もはや単なる宗教プロパガンダ映画である。
0.5『努力しないで出世する方法』(1966/米)デヴィッド・スウィフト
(イメージ無し)
ほとんどカルト宗教
学歴もない男が、出世する方法が書かれた本を頼りに嘘とインチキを塗り重ねてどんどん出世していくが、ギャグとしても全く笑えない。出世することの引き替えに何か失ったりリスクが増えるのならまだ分かるが、そうではなく中途半端なギャグが続くだけで得るものがない。狂信者が聖書に従うが如く本を盲信し、会長にまで出世し美人の秘書と結婚する内容なのだが、要するにこれは聖書を盲信することで人生が上手くいくというカルト宗教映画という風に読める。
0.5『ローマで起こった奇妙な出来事』(1966/米)リチャード・レスター
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ローマ時代の奴隷が主人公で、女性の人身売買をギャグにしているが笑えないし、身分差別の実態や残酷さ、生きるか死ぬかというようなリアリズムがなく面白くない。奴隷として購入したフィリスが処女だというのに「私の体はあなたのもの」と性行為のニュアンスを嬉しがっているなど、映画に登場するすべての女が男を誘惑する女として人間性を剥奪されていて気分が悪くなる。「メイドを持とう 忠実でネズミより静かな女」という歌も歌われいる。人間を差別することを楽しんでいるような趣味の悪い映画である。
10.0『ドリトル先生 不思議な旅』(1967/米)リチャード・フライシャー
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全13冊からなる原作小説のエピソードをうまく繋ぎ、ずっと楽しい脚本にしている。人間も動物もそれぞれ個性がしっかり出ていて登場するキャラクター全てが魅力的である。とくに、ドリトル(役;レックス・ハリスン)のことをおかしいと思っている検事の娘(役;サマンサ・エッガー)が、ドリトルの直向きな姿に感銘を受けていき、また女嫌いのドリトルも女性に心を開いていく様は面白く、恋愛ものとしても胸を打つ。さらに私が感動したのは、法廷で精神異常者ではないかと疑われたドリトルが、「人間とはこんなものか」と歌で判事に反論するシーンで、彼の主張は偽善ではなくしっかりと的を射ており、動物愛護団体の人間でなくとも感動できる。私は今まで400本ほどミュージカルを見たが、その中で一番感銘を受けた歌のシーンだと言っていい。以下に歌詞の一部を紹介する。
「『まるで犬扱い』『牛馬のように働く』『豚のように食う』改めるべきだ
卑劣な相手をイタチにたとえ 嫌な女は雌ギツネか猫
なぜ言わぬ 『蛙のように気高い』『雌鶏のように裕福』
いつ訪れる 豚をきれいと言う日は」
「赤んぼヤギやラムの毛皮も 女にはただの毛皮
毛皮をまとい羽を飾り 思ってもみない
殺した動物のことを それは誰かの兄 子をもつ母親かも知れぬ」
『ドリトル先生 不思議な旅』は原作をこえているしギャグも笑えるし本当に言うことのない映画である。
1.5『モダン・ミリー』(1967/米)ジョージ・ロイ・ヒル
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ジュリー・アンドリュースは「ついに男女平等の時代になったのよ」と言うが、そのくせ上司の男に惚れて「男らしい」とウットリするのは矛盾している。またジュリーは結局は「男女平等はもういいの 一人の女性でいたいわ」と反動的なことを言うのでガッカリする。ギャグも笑えなくて、サイレント映画のような字幕の挿入の仕方もスベっている。物語の舞台設定である1920年代当時の映画のようなドタバタ喜劇風に演出しようとしているが全体的に寒い。また、ダンスシーンも独創的には思えず冗長に感じた。
1.5『キャメロット』(1967/米)ジョシュア・ローガン
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聖杯とアリマタヤのヨセフの伝説に基づく映画だが、何か大きな物語が進行するわけではないのに3時間もあり退屈である。王女が王の愛を裏切るという女性蔑視もあり嫌だし、身分制への批判意識もないし、全編倍速で見ても差し支えない。
1.0『ロシュフォールの恋人たち』(1967/仏)ジャック・ドゥミ
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登場人物が多く一人一人の人間性を浮かび上がらせていない。それを補うような音楽やダンス、笑いもない。また、お互いの元に運命の人が現れるという相思相愛の展開が多く、恋愛の丁寧な描写もない。オチも、カトリーヌ・ドヌーヴの恋がどうなったかを描かず省いているのが手抜きに見える。
4.0『スター!』(1968/米)ロバート・ワイズ
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気丈な振る舞いがジュリー・アンドリュースにあっているが、3時間近くあるのは長い。ジュリーが傍に居てあげられず別居状態だった娘とギクシャクするが、最終的に関係がどうなったのかはちゃんと描かれず終わるので物足りない。また、この当時ジュリー・アンドリュースは「もっともギャラの高い女優」となったにもかかわらず『スター!』が興行的に大失敗したことにより、「ミュージカル映画の退潮を人々に強く印象づけることになった」(瀬川裕司『「サウンド・オブ・ミュージック」の秘密』p155-156)映画となった。
3.0『オリバー!』(1968/英)キャロル・リード
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歌は多く楽しめるが、脇役の背景を描いていないので脇役が歌うとき感情移入しにくい。また主人公オリバーは孤児として生まれたが、じつはいいとこの生まれだったというオチで、これも「なんだ、結局生まれがいい人間は幸せになるだけか」とガッカリするだけである。まあそもそも原作の『オリバー・ツイスト』(ディケンズ著)自体がイマイチだから仕方は無いが、原作を読むよりは映画を見た方がマシ、という感じ。
1.5『アンデルセン物語』(1968/日)矢吹公郎
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ネズミと会話できる少年が「空から人間が降りてくるなんてあり得ない」と言っているが、だったらネズミと喋るのもあり得ないし、どこまでがリアリズムの範囲なのかブレていて世界観が掴めなかった。その後もキャラクターの性格が浮かび上がらないままで、最後に強引にハッピーエンドにしているがつまらない。絵柄もあまりかわいくない。
1.0『チキ・チキ・バン・バン』(1968/英)ケン・ヒューズ
チキ・チキ・バン・バン コレクターズ・エディション [DVD]
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「チキチキバンバンそれは美しい車愛する車」という歌詞があるようにチキ・チキ・バン・バンとは車の名前で、車による死亡事故や排気ガスなどの負の側面には触れられないので、私にはこの映画は車社会のプロパガンダに感じた。また、後半の悪党ボンバースト男爵との戦いはありがちなファンタジーの展開で、特筆することは無い。『メリー・ポピンズ』のヒットにあやかり同じスタッフが多く結集したらしいが、そうだとは思えないほどつまらない。
1.0『フィニアンの虹』(1968/米)フランシス・フォード・コッポラ
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冒頭から、ロケ撮影やカメラワークなどを駆使したリアリズムの強い作品なのかと思ったが、内容は「三つの願いが叶う壺」をフレッド・アステアとその娘がアイルランドから米国に持ち出し、それを妖精が取り戻しにくる」、という単なるファンタジーである。しかし、アステアと妖精の関係性が分からないし、なぜ妖精から壺を借りてきたのかも分からないので釈然としない。
フィニアンの村では白人と黒人が仲の良く暮らしているという設定が、偽善っぽくて気味が悪いし、それにじゃあアジア人はどうなんだと言いたくなる。また、この村の土地を奪おうとする人種差別主義者の白人議員が出てくるが、アステアの娘は怒って「あんなたんか黒んぼになればいい」と言い放ち魔法で議員を黒人にする。しかしこれは完全に論理破綻していて、アステアの娘は「黒人は苛められていい」と内心思っているのであり、本当に人種差別をしない人は「あんたなんか黒んぼになれ」だなんて言わないのである。その他、男が強引にキスをすると女もそれを受け入れ、一気に相思相愛の良い関係になるというマッチョ思想も出てきたりして満遍なくつまらなかった。
ちなみにこの映画はアステアが最後に出演したミュージカル映画である。
0.5『イエロー・サブマリン』(1968/英)アニメジョージ・ダニング
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ペパーランドという楽園をビートルズが敵の手から助けるというものだが、ディズニーの劣化版のようなドタバタ劇は観ていて辛くしつこい。普通にビートルズのレコードを聴けば良い。
0.5『プロデューサーズ』(1968/米)メル・ブルックス
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ミュージカル映画『プロデューサーズ』(2005年)の原作映画。エロい婆さんエステル・ウィンウッドの演技は少し面白かったが、全体的にギャグが笑えない。また2005年版に比べ女性ウーラの出番がほとんど無く、よりホモソーシャルな内容になっている。主人公らが逮捕された後も刑務所で男たちだけで仲良くショウをやっていて、男同士の戯れに全く興味がない私としては良さがわからなかった。
0.5『ジョアンナ』(1968/英)マイケル・サーン
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終始アートぶった雰囲気で、ヌーヴェルヴァーグの焼き回しにしか見えない。登場人物が退廃的だったり性に放縦だったりするだけで面白くない。ジョアンナは殺人を犯した黒人の子を身籠もるが、彼女には感情移入できないので同情できず、感情を揺さぶられなかった。
7.5『ペンチャー・ワゴン』(1969/米)ジョシュア・ローガン
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『桑港』(1936年)と同じく、放埒な街が天罰で崩壊するというキリスト教の教訓が強すぎるものの、それを抜きにするとなかなか変わった映画で面白い。クリント・イーストウッド主演の西部劇にもかわらずドンパチ戦うシーンや暴力的なシーンがほとんど無いのがまず驚いたが、その後もジーン・セバーグ、イーストウッド、リー・マーヴィンの一妻二夫制で生活するという奇妙な展開になる。一歩間違えると馬鹿馬鹿しいギャグ映画になりそうだが、人間ドラマが丁寧に描かれているのでリアリティを失っていないのでそんなに飽きなかった。
3.0『ファニー・ガール』(1969/米)ウィリアム・ワイラー
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歌手バーブラ・ストライサンドの映画デビュー作で、喜劇女優ファニー・ブライス(ファニーは本名)の伝記映画。バーブラ・ストライサンドの歌がうまいのは分かるが、好きになった男がギャンブル狂でそいつに振り回されるなど内容はどうでもいいレベルで印象に残らない。結局男女は結ばれないが、女性に悪く責任があるようには描かれていないから『シェルブールの雨傘』(1964年)などよりはマシかもしれないが。
4.0『ハロー・ドーリー!』(1969/米)ジーン・ケリー
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結婚ブローカーだというドーリー(バーブラ・ストライサンド)を中心に、他の登場人物たちが恋を巡らせるが、登場人物が多くそれぞれの人間性が伝わってこない。ドーリーがホレスというケチで偏屈な飼料の製造主が好きな理由も分からない。一方、「女性に触ったのは初めてだ」と女になれていない童貞の描き方は面白いが、その童貞も女とすぐ相思相愛になるのでムカついた、もっと丁寧に過程を描いてほしい。
ちなみにソーントン・ワイルダーの原作戯曲『結婚仲介人』は登場人物が生き生き喋っていて面白いが、ドーリーがホレスという男のどこに惚れているのかも分からないなど映画同様描写が足りないのは否めない。
2.0『スイート・チャリティ』(1969/米)ボブ・フォッシー
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原作映画『カビリアの夜』(1957年、フェデリコ・フェリーニ監督)でもそうだが、なぜ主人公の女性をここまで可哀想に描く必要があるのか分からない。女性に恨みがある人間が作っているんじゃないかと思わざるを得ない。趣味が悪いし後味が悪い。ヒッピーのような格好をしたサミーデイヴィスjr率いる新興宗教が出てきたり、フラワーチャイルド(ヒッピー)が主人公を励ましたりするが、この当時のオカルトと左翼が結び付いた雰囲気は、無神論者で左翼ではない私には理解できない。
2.0『チップス先生さようなら』(1969/米)ハーバート・ロス
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教師のチップスは美人に惚れられたくせに、女の顔をおぼえていないなど恋に全然気付かず鈍感でムカついてしまう。全体的にチップスがなにか行動を起こすわけではなく受動的なので退屈である。
ちなみに原作小説『チップス先生、さようなら』(ヒルトン著)ではより一層チップスが女に冷たく、妻と子供が戦争に巻き込まれて死んだらしいがどうやって死んだのかも含めて全然詳細が語られず、死んだ後も思い出話が出てこないので、映画以上に何が言いたいのかよく分からなかった。
1.0『素晴らしき戦争』(1969/英)リチャード・アッテンボロー
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序盤から実験的な会話劇があるが退屈である。また、「この国の最良な男達を私たちは殺しています」「戦争に勝者なし」という演説が出てくるようにこの映画の基本的なスタンスは平和主義なのだろうが、戦争をしないところで攻めてきた敵国が勝者になる訳だからこのスローガンは単純に間違っている。さらに、そもそも本当に平和主義者なら、暴力を描くこと自体に抵抗があるはずだから戦争を題材にした映画など撮らないと思う。戦争経験者のオードリー・ヘプバーンは映画『戦争と平和』の撮影中、戦争体験が甦ってくるので毎晩悪夢に悩まされたという(ハイアム『オードリー・ヘップバーン 映画に燃えた華麗な人生』p126)。風刺が効いているとも思えず、何がしたいのかよく分からない。
7.0『晴れた日に永遠が見える』(1970/米)ヴィンセント・ミネリ
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精神医学博士のイヴ・モンタンが大学で大真面目に催眠術の講義をしているシーンから始まったので、オカルト色が強く面食らった。その講義に出席しているバーブラ・ストライサンドは霊感が強く、イヴ・モンタンに前世の記憶を話していく。バーブラには前世が何人もいるなどややこしいのだが、彼女の前世の話を聞くうちにモンタンが彼女の前世にどんどん惹かれて恋に近くなるように話が展開していき面白くなった。また、バーブラは自分を実験台にしていると感じモンタンを避けるようになったが、彼は何とか自分の元に戻ってもらおうと彼女の霊感に訴えるなど、設定をちゃんと生かしている。
ところで最後バーブラの前世が、2038年に自分の来世とモンタンの来世が結ばれると予言するのだが、モンタンが本当にそれを信じたのかはわからないものの、来世に期待せよというメッセージだとも読めるから宗教色が強すぎて私には腑に落ちないところがあった。ファンタジーとしては楽しめるが、絶賛するのはためらわれる映画である。
2.0『クリスマス・キャロル』(1970/米)年ロナルド・ニーム
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金貸しの男スクルージはクリスマスも働きずくめで、「クリスマスに仕事なんて神のみ心にそむく」と悪どく描かれている。しかし現代ではクリスマスでも働くことはあるし、日本人の私にはピンとこない。またこのスクルージが寄付をしないことも批判されるが、金持ちが寄付をしたところで再度お金を吸い上げるのだから寄付とは基本的に金持ちの偽善行為である。世界で一番寄付をしているのはビル・ゲイツであるが、それは彼が世界で一番金儲けをしていて貧乏人から金を奪っているからであり(スラヴォイ・ジジェク『暴力 6つの斜めからの省察』)、本当に貧乏人のことを考えているのならマイクロソフトなど廃業した方がいいのである。またスクルージの元に幽霊が出てきて、一緒に過去にさかのぼって人生を見つめ直す作業をするが、スクルージが特に説明もなく簡単に子供のように童心に返ってしまうのが納得できない。現実において一度大人になったら童心に返ることは不可能であるし、しかもスクルージは特に現実主義者で金貸し業者であり、そんな男が無邪気になるには説得力のある理由やちゃんとした描写が必要である。映画『メリー・ポピンズ』(1964年)では銀行に勤める生真面目な父親が、金儲けしか考えていない上司たちに反抗するシーンがあるが、こちらの方が面白いし感情を揺さぶられる。
ちなみに原作『クリスマス・カロル』(ディケンズ著)も映画とほぼ同じ内容でイマイチである。
1.5『恋の大冒険』(1970/日)羽仁進
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今陽子が「勇ましい」男に惚れるだけで、「恋の大冒険」という題名なのに恋愛描写ができていない。「催眠術」など使い古された手を使う悪者が出てくるなどコメディとしても笑えない。音楽にのせてカラオケみたいなミュージックビデオを流して面白い訳がない。
1.0『ロバと王女』(1970/仏)ジャック・ドゥミ
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王は妃を亡くしたが、妃の面影が恋しすぎて自分の娘と結婚しようとする近親相姦の話で、童話を映画化しただけの平凡な作品に思える。王女と王子の恋愛も一目惚れなので捻りがない。興行的に成功したようだが、まあフランスという共和主義国にも当然、王制や身分制に対する反動やノスタルジーが沸いてくるというだけのことだろう。
8.0『屋根の上のバイオリン弾き』(1971/米)ノーマン・ジュイソン
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ロシアに住む伝統的なユダヤ教徒一家の父親が主人公で、彼の価値観は伝統と社会変革の間で揺れ動く。私は無神論者だからユダヤ教徒の伝統や選民意識に共感できないものの、娘達の恋愛結婚に動揺する父親の姿は普遍的なもので面白かった。また、娘達の恋愛結婚に影響されて父親自身も妻に「愛しているのか?」と訊くのは面白い。後半、ユダヤ人達はロシア政府によって土地を奪われるのだが、ロシア兵の描き方も悪者一辺倒ではないので冷静な演出で見やすかった。
ちなみに原作小説『屋根の上のバイオリン弾き』(ショラム・アレイヘム著)は、映画よりユダヤ教的な思想が強く、娘の結婚に対する心理描写やドラマも少なかったので、映画の方が面白く無宗教の人にもわかりやすいと思った。
4.0『ボーイフレンド』(1971/英)ケン・ラッセル
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主演女優が怪我をしたので急遽本番に出ることになった舞台助手のツイッギーは、やはり台詞も覚えていなくうまく踊れなくて…というドタバタ喜劇。冒頭で、冴えないツイッギーが片思いしている団員トニーの気を惹こうとする様は可愛いが、すぐに相思相愛のようになるので恋愛の描写はなくなり、笑えないギャグがメインになるのは残念だった。また、途中からトニーが他の女に近づいてイチャつくのでムカつく。ラストでは、ツイッギーはハリウッドでの成功より、故郷英国で恋人と「新居探し」をすること選ぶが、ポジティブに考えれば男を裏切らない女と読める。過激なフェミニストなどはツイッギーのことを家庭におさまることに満足した女として批判しそうだが、別に家庭におさまること自体は悪くない。ツイッギーがハリウッドに行ったところで、もし失敗して身を崩したらあなたは責任が取れるのか?新居探しを選択した彼女は別に間違ってはいないのである。
2.5『夢のチョコレート工場』(1971/米)メル・スチュアート
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全体の3分の1は工場に行く前の話だが、工場に招待されるまでの人々のドキドキ感はしっかり描けている。ただ招待された人間同士に人間関係が生まれるわけでもなく、助け合いや喧嘩をするでもなく淡々と話が進むだけで拍子抜けする。また原作小説(ロアルド・ダールの『チョコレート工場の秘密』)でもそうだが、工場主ウィリー・ウォンカの人物像が描けておらず彼の魅力が全然わからない。一方これのリメイク作品『チャーリーとチョコレート工場』(2005年)はウォンカのバックボーンをしっかり描いていてしっかり面白いのでそちらを見るべきである。
2.0『おしゃれキャット』(1971/米)ウォルフガング・ライザーマン
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身寄りのない金持ちのマダムが、自分が死んだら全財産を猫に残す事に決めたため、マダムに忠実に仕えていた召使いが遺産に目がくらんで猫を始末しようとする、という物語だが、話自体がグロテスクで不愉快である。そもそもマダムが召使いにも多少遺産を別け与えれば済む話だろう。キャラクターはそれぞれ面白いのだが、暴力的なギャグばかりで笑う気になれなかった。ちなみに召使いは結局クビになったようだが、マダムはまだ死んでいないわけで、その間誰がマダムの世話をするんだと思った。また新しく召使いを雇うとしても、その召使いにもマダムは遺産を与えないのだろうか。
2.0『ブラザー・サン シスター・ムーン』(1972/伊)フランコ・ゼフィレッリ
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中世イタリアの修道士アッシジのフランチェスコの伝記映画。戦争から帰ってきたフランチェスコはキリスト教に目覚めるが、周囲はキチガイになったと思って理解しない。もちろん無神論者の私には共感できず、キリストの像を見て涙を流すフランチェスコの気持ちは理解できない。また、フランチェスコたちは司教と宗教の在り方をめぐって対立するが、宗教自体に無関心な私にとって宗教対立という問題自体がどうでもいい。もちろん、中世は科学が発達していなかったので宗教を心から信じた人の存在は頭では理解できるが、現代でアッシジのフランチェスコと全くと同じことをしてもオカルトにしかならないだろう。また、フランチェスコと彼らの仲間の男たちの信頼関係が美しく描かれて同性愛的に見えるが、女性にしか興味のない私には男同士の群れが美しいとは思わなかった。
同じくフランチェスコを描いた映画でも、『神の道化師、フランチェスコ』(1950年、ロベルト・ロッセリーニ監督)の方が大袈裟でなくて私は楽しめた。
2.0『ラ・マンチャの男』(1972/米)アーサー・ヒラー
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牢屋に入れられたセルバンテスと付き人が、自ら騎士ドン・キホーテとサンチョを演じるというメタ的なミュージカルだが、ゴチャゴチャしていて面白くない。セルバンテスの生涯を映画化するのか『ドン・キホーテ』を映画化するのかはっきりするべきである。もっとも、元になったミュージカル『ラ・マンチャの男』も二重構造になっている(芝邦夫『ブロードウェイ・ミュージカル事典』p275)ので、原作から失敗しているのだが。ドン・キホーテはインテリに見えないからいいのに、セルバンテスが物語の要旨や教訓を説明していくので興ざめする。セルバンテス=ドン・キホーテ、という定式にとらわれすぎているのだろう。さらに、この劇中劇の役を演じている牢獄にいる人間たちのバックボーンも分からないので登場人物が多いだけになっている。加えて、ドン・キホーテの冒険が大幅に省かれているので、苦労を重ねる冒険譚としての良さがほとんどない。死の床に伏すドン・キホーテと売春婦とが再会するシーンも、それまでの過程が省略されているので感動できない。
伝記『セルバンテス』(カナヴァジオ著)や小説『ドン・キホーテ』を読んだ方が良いだろう。
1.0『キャバレー』(1972/米)ボブ・フォッシー
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ナチスが台頭し始めたドイツが舞台で、英国人学生マイケル・ヨークが部屋を探しに尋ねてくるやいなや、ライザ・ミネリに惚れられるのでまずムカつく。かと思えばライザ・ミネリが浮気して男を裏切るので、女を嫌なように描いていてそこもムカつく。「処女は押し倒すに限る」という劇中の台詞があり、押し倒されて本当に燃え上がる処女が出てきてこれも腹立たしい。ラストでは『スイート・チャリティ』のようにライザ・ミネリの恋はうまくいかないが、わざわざ悲しい終わり方にする意味も分からない。撮影中、フォッシーとライザ・ミネリがコカインを吸引しているのを撮影スタッフは目撃しているが(ウェンディ・リー『ライザ・ミネリ 傷だらけのハリウッド・プリンセス』167p)、ドラッグをやってるからわざと暗い退廃的なオチにしたのだろうか。また、ヌーヴェルヴァーグのような唐突なジャンプカットを用いるなど映像表現に実験的な姿勢を見せているが、だからなんだという話で内容が良くなければダメである。『キャバレー』は批評家に傑作扱いされることがあるが私には良さが分からず、ミュージカルでありながらナチスを批判してる程度のことで過大評価されているんじゃないかと思った。
1.0『ジーザス・クライスト・スーパースター』(1973/米)ノーマン・ジュイソン
ジーザス・クライスト=スーパースター(1973) [DVD]
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キリストの最後の一週間をミュージカル化したものである。当時のヒッピーやカウンター・カルチャーの担い手は自分たちの原点がイエスだと理解していたように(小谷佳楠『アメリカ映画とキリスト教 120年の関係史』p118)、ヒッピーとは基本的に宗教に興味のある人々なので無宗教かつ日本人の私には関心が持てない。劇中でキリストが商店街に突入し「ここは祈りの場所なのに盗人の場所にした」と商品をぶちこわしていくシーンがあるが、ふつうに酷いと思った。ところで、キリストを裏切るユダ役をなぜか黒人がやっているのも奇妙である。
1.0『ロビンフッド』(1973/米)ウォルフガング・ライザーマン
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金持ちから金を盗み貧乏人に与える義賊の狐(ロビンフッド)と熊(リトル・ジョン)が主人公だが、王族からは金を盗まないと言っていているので、彼らは王族を崇拝しているようである。確かに彼らの台詞を追うと、「リチャード王万歳」と言っていて、身分制に反対するどころか王を称えているロイヤリスト(英国王党派)であることが分かる。また、ロビンフッドの恋人である狐の姫マリアンは可愛いが、既にお互いに相思相愛となので丁寧な恋愛の描写はなく楽しめない。また不可解なことに、キツネの姫マリアンはライオンの姪であるなど、モデルとなった人間を機械的に動物の造形にしただけで動物である必然性が全然ない。さらに、バトルシーンが多くて長いが、変装で敵を出し抜くというパターンが多くて飽きる。
3.0『ファントム・オブ・パラダイス』(1974/米)ブライアン・デ・パルマ
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主人公の作曲家の男は冴えない風貌なのに、ジェシカ・ハーパーと一目惚れしあい相思相愛になるのがムカつく。この映画は『オペラ座の怪人』をモチーフにした悲劇であり、男の片思いという設定でも充分話は進行するのだから、わざわざ相思相愛にする脚本は無駄である。また、作曲家が作った曲はロック版『ファウスト』ということなのだが、『ファウスト』というキリスト教的なテーマをよく理解していない私にとって世界観を楽しめなかった。
また、ジェシカ・ハーパーは美人で歌声も良いが、使われているロック音楽は全体的にダサいと思った。
2.0『ザッツ・エンターテインメント』(1974/米)ジャック・ヘイリー・jr.
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MGM社がこれまで制作したミュージカルの名場面をつなぎ合わせたもので、マニア向け。
1.5『メイム』(1974/米)ジーン・サックス
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父親が死に身寄りがメイム叔母さんしかいなくなった少年パトリックが、メイムと生活するようになるが、まずメイムやその友人の女優が年を取り過ぎていて美人ではないのが気になる。原作小説ではメイムは35~40歳の設定なのに(パトリック・デニス『メイムおばさん』p104)、メイム役のルシル・ボールは63歳である(70過ぎても美人な女優はもちろん居るがルシル・ボールはそうは思えない)。のちにお金に困ったメイムが女優として仕事をするエピソードが出てくるが、綺麗どころとして舞台に出ているのでおかしい。また、メイムと金持ちの男ボーレガードが一目惚れして相思相愛になりすぐ結婚するが、とくに情緒もなく面白くない。一方でパトリックはメイムと暮らし始めたかと思うとすぐ管財人に引き取られて彼女と離ればなれになり中盤は全く出てこないので、メイムとパトリックが心を通わすシーンがなく脚本に問題がある。二人の間に思い出がそもそも無いから、終盤で成長したパトリックとメイムが再開しても全然劇的にならない。
もっとも原作ではメイムとパトリックはずっと一緒に暮らしているものの、面白いエピソードは全くないので原作もダメである。
0.5『星の王子さま』(1974/米・英)スタンリー・ドーネン
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大人を批判して子供心を賛美する現実逃避な内容だが、大人は大人で正しいのである。例えば劇中では変な軍人がバカにされているが、戯画化された軍人では「軍隊=悪」という一般論は引き出せない。北朝鮮やISの例を出すまでもなく、現実問題として軍隊は嫌でも必要である。また、女の精が宿っている花は、王子に色々要求するなど我が儘な存在としてだけ描かれていてつまらないし、そもそも主要キャラに女性が出てこないこと自体に女性嫌悪を感じる。
原作はサン=テグジュペリの小説『星の王子さま』で、こちらも私にとっては同様の理由でつまらない。
5.0『トミー』(1975/英)ケン・ラッセル
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ロックバンド、ザ・フーの発表したアルバム「トミー」の映画化で、主人公の障害者トミーが成長していく物語として展開するので、『ロッキー・ホラー・ショー』(1975年)のようなエキセントリックなだけの映画よりも楽しめる。ただ、最終的にはイエス・キリストを無条件で肯定する内容になり支持できない。トミーは「あなたに従うだけで興奮する」と歌うが、そんなものはただの盲信であり、人間なら自分で考えて行動して興奮したほうがいい。
2.5『ナッシュビル』(1975/米)ロバート・アルトマン
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登場人物が序盤から出まくるので人間ドラマが薄れコメディみたいになっているが、別に笑えないので失敗作である。私が大学生の頃『ナッシュビル』を見たときは、主人公がいなくて登場人物が多いこの映画が何となく凄いと思ったが、しかしよく見ると各プロットや人間模様がそれぞれがうまく絡んでいるとは全く思えない。同じく登場人物の多い『フェーム』(1980年)よりは若干マシだが、ロバート・アルトマン監督でさえも、主人公が多い映画を撮るとこのくらいにしかならないと考えた方が無難だろう。またラストで、コンサートで歌う歌手たちに若い男が発砲し、バーバラという女性歌手が大怪我を負い搬送されるのが可哀想であるが、にもかかわらず別の歌手が歌を再開し、「私は気にしないわ 何も気にしない」「心安らかに暮らせないなら人生は無意味よ」と今の事件を無かったこととして客に受け取るように迫っており、被害者女性(バーバラ)からしたらとんでもないことを言っているのだからこのメッセージは理解できない。
ちなみに発砲した若い男も序盤から出てくるキャラクターで、当初は普通の優しそうな青年だったのに、いつこんなテロを決意するに至ったのかというプロセスや心理描写もまったくない。「優しそうな人が社会によって犯罪者に作り変えられる」「犯罪は犯罪者ではなく社会に責任がある」という言い分は左翼が言いがちだが、実際に凶悪犯罪を起こすのは宅間守のように幼少からヤバい傾向があると私は思う。
ところで、2人の聴覚障害児を持つ女(リリー・トムリン)がベッドで若い男の脇毛を撫でているのはエロかった。
2.5『ファニー・レディ』(1975/米)ハーバート・ロス
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『ファニー・ガール』(1969年)の続編。前半のバーブラ・ストライサンドとジェームズ・カーンのちぐはぐなやりとりは面白いが、序盤で相手のことを「好きだ」と歌いあい相思相愛であることが明示されるので二人の恋の行方をドキドキして見たかった私はガッカリした。また、カーンがバーブラに無理矢理キスして良い感じになるのも、バーブラの気丈なキャラにも合わない。結局、バーブラの恋愛はうまくいかなり、前作の繰り返しみたいになるだけで残念だった。
0.5『ロッキー・ホラー・ショー』(1975/英)ジム・シャーマン
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主人公のカップルは既に相思相愛として登場しており、恋愛ものとして楽しめない。またゲイの人が魅力的ではないし、かと思えばゲイでありながら処女と無理矢理セックスするなど酷い。同性愛を扱っているからと言って作品を過大評価することは絶対やめるべきである。もし同性愛を過大評価するとしたら、異性愛者差別である。他にも、ロック音楽もかっこよくないし、ギャグとしても面白くないし、語り部のじいさんがナレーションをいれるアイデアも効果的ではなく邪魔である。一部の映画評論家みたいな人は「このシーンは別の映画のオマージュだ」などと誉めるのだろうが、それがオマージュだったところで酷い物は酷いということに向き合った方がいい。また、「酷いところが逆に良い」というような感想を言う人がたまに居るが、そんな屁理屈を捏ね出すと全てが無意味になるのでやめたほうがいい。
2.0『ザッツ・エンターテイメント2』(1976/米)ジャック・ヘイリー・jr.、ジーン・ケリー
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『ザッツ・エンターテイメント』(1974年)の続編で、マニア向け。
1.0『青い鳥』(1976/米)ジョージ・キューカー
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予算が無いのか知らないが、76年のわりに映像表現がダサい。原作同様、「青い鳥を探す冒険に出たら実は青い鳥は家の中にいた」という家庭を賛美する話で、おうちが一番という『オズの魔法使』のメッセージと一緒なのだが、幸せな家庭ならともかく、世の中には貧困にあえぐ家庭やDVや虐待のある家庭があって、そんな家に対しても「おうちが一番」と言えるのかと疑問である。良さが分からなかった。
0.5『スター誕生』(1976/米)フランク・ピアソン
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『スタア誕生』(1954年)のリメイクで、ジャズ歌手がロック歌手に変わっただけだが、ロックスターのクリス・クリストファーソンはコカインに溺れているなど酒以上に感情移入できない。また、客前でバイクを暴走させたりヘリコプターに発砲するなどスターなら何でもやっていいという考え方に全く私は惹かれない。クリストファーソンは勝手に死んで相手役のバーブラ・ストライサンドは悲しむが、自業自得にしか思えないし、人々が悲しみに暮れる理由も分からなかった。1954年版も私は好きではないがそれを下回っている。
0.5『ダウンタウン物語』(1976/英)アラン・パーカー
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まず、マフィアの抗争の話を、全キャスト子役に演じさせるという発想が気持ち悪い。よくアイデアは先にやった者勝ちというが間違いだと思う。作品で重要なのは内容である。まったく、悪ぶって格好付けていて女にモテモテのガキを、ナレーターが「いい男だ」と評するなどどうかしている。反ギャング的なメッセージもないので、観客に対してギャングをかわいらしく身近に感じさせようとする意図があるとしか思えない。この映画がヒットして得をするのは反社会勢力である。ちなみに子役らは銃弾の代わりにパイを投げあうのだが、男児を白いもの(=精液)まみれにしたいという男色映画に見えるので、男に一切興味がない私にはそこも気持ち悪く苦痛であった。
7.5『サタデー・ナイト・フィーバー』(1977/米)ジョン・バダム
サタデー・ナイト・フィーバー 製作30周年記念 デジタル・リマスター版 スペシャル・コレクターズ・エディション [DVD]
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ジョン・トラボルタ主演の有名な映画だが、ダンスに狂う主人公と家族との軋轢がちゃんと描かれていて面白かった。また、トラボルタは自分も女も避妊具を持ってなかったのでセックスを中断するなど、そこまで不良ではないようだから良かった。ただ、ディスコに通う人々に私はそんなに感情移入できないのでディスコの雰囲気はイマイチ楽しめなかった。
8.0『日本人のへそ』(1977/日)須川栄三
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原作(「日本人のへそ」井上ひさし著)を忠実に映画化していて、かつ歌も歌詞も面白かったので日本のミュージカルとしてはクオリティが高い。同性愛の男や天皇崇拝家の男が「女は嫌いですよ」と言うなど、同性愛者の持つ女性嫌悪が明快に描かれていて政治的な部分も個人的に楽しめた。ただ、主人公の緑魔子が年齢以上に老けて見えて痛々しいのと、どんでん返しをさらにどんでん返しにする展開がそんなに面白いと思えなかった。
4.0『ニューヨーク・ニューヨーク』(1977/米)マーティン・スコセッシ
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序盤のしつこく口説くサックス奏者のロバート・デニーロと、それをあしらう歌手のライザ・ミネリは見ていて面白かった。その後二人はタッグを組んでツアーを共にするが、妊娠したミネリが自分の体を過剰に心配してツアーを辞める、という展開は強引で共感できなかった。ミネリが息子を出産したあと結局二人は別れ、ミネリは歌手として、デニーロはレコード会社の社員としてそれぞれ成功する。だがラストで両者が数年ぶりに再会した際、とくに対立や葛藤もなく物足りないし、バッドエンドを美しく描こうとして嘘くさい。デニーロと息子が再会したら、もっとぎこちなくなるのではないか。映画が160分以上もあるのにドラマがなく退屈であった。
2.0『愛と喝采の日々』(1977/米)ハーバート・ロス
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登場人物の家庭環境などを丁寧に描こうとする姿勢は評価できる。しかし、慎ましい少女のようだったバレエ団に所属するエミリアが、すぐにダンサーのロシア人の男と相思相愛になりセックスをするのはおかしい。しかも「ピル飲んでるから大丈夫」と嬉しそうに母(シャーリー・マクレーン)に報告しているのも奇怪だし、コンドームを付けろとも思った。ところで、このロシア人は浮気をしていてエミリアはショックを受けるので、二人の中は終わるのかと思いきや、一緒に踊るうちにまた気持ちを取り戻す、という展開にも納得がいかない。どうしてまたヨリが戻るのかという心の道筋をちゃんと描写すべきである。
1.0『グリース』(1977/米)ランダル・クレイザー
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不良グループの日常やいさかいに私は一切興味が無い。また、清楚だったオリビア=ニュートン・ジョンがジョン・トラボルタと付き合ううちに不良少女化していくのはしょうもないと思った。歌や振り付けもダサいし、圧倒的に『サタデー・ナイト・フィーバー』の方が面白かった。
1.5『ウィズ』(1978/米)シドニー・ルメット
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『オズの魔法使』(1939年)をオール黒人キャストで製作したものだが、オール黒人キャストの映画は『ハレルヤ』(1929年)、『キャビン・イン・ザ・スカイ』(1943年)と昔からあるので真新しくない。また、主演のダイアナ・ロスは24歳という設定だが、言動が少女っぽくて少し気味が悪い。原作同様「家に帰りたい」というオチで終わっているが、大人の女性と少女を同一視しているというか、24歳という年齢を考慮した上で脚本を作らなければダメだろう。ダイアナ・ロスとマイケル・ジャクソンの歌はいいけど、だったらサントラやCDを聴けば良い。
0.5『ローズ』(1979/米)マーク・ライデル
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ジャニス・ジョプリンをモデルにした女性ロック歌手ローズが主人公。冒頭から大酒を飲むなど彼女が「スターの苦悩」を抱えていることが描かれるが、私にはそんな贅沢な悩みを経験したことはないし、幼少期や売れない頃のシーンが無いので感情移入はできないために悲しくない。ローズは「恋をしたい」というが、すぐに男と相思相愛になって一気肉体関係になるのでこれも私には楽しくない。あと例によって彼女らは「ドラッグ!セックス!ロックンロール」の掛け声をあげるが、非合法のドラッグは反社会性力の儲けになる訳だから全く格好良くない。
0.5『オール・ザット・ジャズ』(1979/米)ボブ・フォッシー
オール・ザット・ジャズ(ミュージック・エディション) [DVD]
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主人公が覚醒剤を飲むシーンからはじまる。全編通して退廃的で、生きる活力が無く疲れる。また、主人公は女と遊ぶくせに、女が浮気するのは嫌という全くおかしい考えの人間で、何も共感できなかった。『オール・ザット・ジャズ』はボブ・フォッシーの遺作であり、彼は自分の死期を悟っていたのか、自分が理解できれば良いという独りよがりな内容で、やけくそで作ったんだと思う。もちろんそのやけくそは良い方に転がっていない。自らの映画作品『レニー・ブルース』からの引用などもあるが、引用があるからといって面白いわけではない。
0.5『ヘアー』(1979/米)ミロス・フォアマン
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何度も言っているが、無神論者の日本人の私には独自の信仰を持つヒッピーの言い分は共感できない。ヒッピーらが徴兵を控えた若者を批判するシーンが多いが、現代ではもはや軍隊は必要だと言わざるを得ないのだからわざわざ馬鹿にする必要は無い。また、ヒッピーのリーダーのバーガーはむしろ軍人よりもマッチョ野郎で、無理に女に手を出すところを観るのは不快だし、しかも彼は議論になったとき言葉に詰まると暴力を振るうので最低である。
8.5『歌え!ロレッタ 愛のために』(1980/米)マイケル・アプテッド
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カントリー歌手ロレッタ・リン(役;シシー・スペイシク)の自伝小説を元にした映画らしく、ロレッタの思春期からの家庭環境や生活を丁寧に追っている。ロレッタが男に惚れる側だが、シシー・スペイシクがそんなに美人ではないので男に嫉妬できず応援できる(つくづく私は人間の容姿は重要だと感じる)。10代の頃早婚するもロレッタがセックスに怯える姿などはリアルだし、普通の女性が徐々にスターとなり精神が追い詰められていくところに共感できた。苦楽を共にする夫婦関係もしっかり描かれているし、ロレッタが愛を裏切ることもないので女性蔑視もなく楽しめた。
7.0『ポパイ』(1980/米)ロバート・アルトマン
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アニメ「ポパイ」の実写映画。セットが凝っているし、オリーブ役のシェリー・デュヴァルもはまっていて可愛い。またポパイの恋心が繊細に描かれていて楽しいし、ポパイと父親との関係など人間性への言及もちゃんとなされている。ただ、町で嫌われている役人を海に落としたくらいで余所者のポパイが人々に祝福されるのは物足りなく、役人ともっと議論するシーンが必要である。また、後半は喧嘩シーンの連続でダレる。
2.0『フェーム』(1980/米)アラン・パーカー
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公立芸能学校に型破りな生徒達が入学してくる、という話だが、主人公がおらず誰のキャラも立っていないのに複数の人物を同時進行的に見るのは辛い。手法を優先して面白さを損なわせているだけである。文字の読めない黒人男子学生が出てくるが、授業態度が悪すぎるので感情移入も出来ない。また、劇中で『ロッキー・ホラー・ショー』を上映するが私にはこの映画の良さが全く分からないので、英国人監督(アラン・パーカー)が好きな英国映画を引用しているだけの自慰なのかと思った。
一方で、映画を撮影するという男が、ゴダールだのなんだの知識をひけらかしながら黒人女性(アイリーン・キャラ)に服を脱ぐよう強要し、嫌がっているのに裸にさせるのは前衛アートへの批判として読めてそこだけはとても面白かった。ただこの映画自体が前衛映画のような骨組みになってているので説得力は欠けているが。
1.0『ブルース・ブラザース』(1980/米)ジョン・ランディス
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強盗で3年服役していたジョン・ベルーシは牧師(ジェームズ・ブラウン)の歌を聴いて「バンドを作る」という啓示を受けたらしく、「俺たちは神の使命を帯びてる」と宣言するなど宗教色が強い。一方でジョン・べルーシは違反を累計150回以上おこして免停中なのに車を運転し、警察を巻くために店の中や人混みの中もかまわず車をぶっ飛ばすのだが、神の使命を帯びていれば何をしてもいいという考えは完全にオカルトや宗教テロリストだろう。ネオナチやヒトラー批判ネタも出てくるが、何となく政治を茶化しているだけで映画に必要な要素だとは思えない。また、アレサ・フランクリン、レイ・チャールズ、キャブ・キャロウェイなど大物ミュージシャンが歌うが、これも映画の面白さとは別である。
1.0『ザナドゥ』(1980/米)ロバート・グリーンウォルド
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不思議な女神オリビア・ニュートン=ジョンと遭遇した画家志望の若者が彼女を探し求めるファンタジーだが、オリビアがなぜかローラースケートを履いたりするなど格好がダサいし曲もいいとは思わなかった。また、オリビアの方も若者に恋をしていると言うが、結局一目惚れの相思相愛に過ぎない。ローラースケートなど流行を取り入れているだけで、どこを面白いと思えばいいのか分からない。
1.0『愛と哀しみのボレロ』(1981/仏)クロード・ルルーシュ
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主人公を決めず、ロシア・パリ・ベルリン・ニューヨークでのシーンが錯綜し、わざと話をややこしくしている。それでいて男女が唐突に結婚したりするから、時間をかけるべきところにかけていない。何となく戦争を絡めただけの大げさな話を3時間見るのは苦痛である。
0.5『ショック・トリートメント』(1981/米)ジム・シャーマン
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妻のジェシカ・ハーパーが嫌な女役で、夫が可哀想に見えるという女性蔑視の構図になっていて観ていて不愉快である。夫婦生活に不満があるとジェシカ・ハーパーは言うが、具体的にどういう生活だったのか描写されないので1秒も共感できない。物語も何も解決しないまま終わっている。この作品に限らずかつて「前衛」とか「カルト作品」とか持てはやされた作品は結局色褪せるということが分かる。
2.0『アニー』(1982/米)ジョン・ヒューストン
アニー スペシャル・アニバーサリー・エディション [DVD]
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孤児のアニーは億万長者の議員の秘書に目をかけられて引き取られるが、秘書がアニーに目をかけたのはただの偶然で、別の孤児でもよかったのであり必然性が全くない。なぜたくさん孤児がいる中でアニーなのかという理由付けがあれば面白いのにと思った。また、議員の家にやってきた時、既に家にいた上流階級の人々がなぜか皆アニーに優しいのが偽善的で気味が悪い。しつけをされていないアニーを上流階級の人々が見たら、「こんな子供を一体どこから連れてきたんだ」と蔑みそうなものである。強面の富豪議員も最初はアニーに無関心だったが、いつのまにか彼女のわがままを許していて物語が薄っぺらい。また、議員が巨大映画館の席を全部買い占めてアニーを映画に連れてってくれる際も、彼女は無邪気に楽しむだけだけだが、孤児の出身ならそういう金持ちのお金の使い方にズレや違和感や怒りを感じないのだろうかと疑問に思った。加えて、魔法が使える用心棒プンジャブというキャラが出てくるが必要なキャラだとは全く思えない。
冒頭のアニーが捨て犬を助けるシーンだけ面白かったが、その後は別に犬も活躍しないしガッカリした。これのリメイク映画『ANNIE/アニー』(2014年)の方が面白い。
1.5『ワン・フロム・ザ・ハート』(1982/米)フランシス・フォード・コッポラ
ワン・フロム・ザ・ハート 【2003年レストア・バージョン】 [DVD]
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最初からカップルとして登場する男女が喧嘩をするが、お互いの人間性が分からないので喧嘩をされてもついていけない。男がセックスしたあと「昔は足の毛を剃ってたのに」と女に文句を言うが、私は女性の体毛をまったく気にしない(というか無いよりあるほうが好き)なので共感できなかった。しかも男女は別れた後、すぐそれぞれ別の異性と一目惚れをして相思相愛になるから馬鹿馬鹿しい。また、全体的に「女が男の元から去って行った」と女が裏切り者で男が可哀想に描かれている調子なのも嫌である。興行的に失敗した映画のようだがそりゃそうだろう。
1.5『ビクター/ビクトリア』(1982/米)ブレイク・エドワーズ
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ジュリー・アンドリュースがゲイの芸人ロバート・プレストンと組み、「女装した男性」を演じて一発当てようとする、という話だが今一つピンとこない。また当初ジュリーはちょっと抜けたバカっぽいキャラだったのに、男装した瞬間にジェンダー論のようなものを滔々と喋れるインテリになっていておかしく思った。またジュリーは仲が悪そうだったはずのクラブ経営者といつの間にか恋に落ちている理由も分からない。ジュリーは彼のことを「男性優先主義者」と怒っていたはずなのに、クラブで喧嘩が起こった混乱で、経営者とジュリーがいきなりキスをし、そのままベッドを共にしているが、彼女の心は彼に対してどう折り合いをつけたのか語るのをこの映画はサボっている。オチではゲイの芸人プレストンがショーでクオリティの低い女装をして客から爆笑をとるが、普段は男装をしている同性愛の男が仕事とはいえ女装して笑いものになるのは傷つくと思うのに(例えば同性愛者の作家ジャン・ジュネは『泥棒日記』の中で、自分が女装して周囲に笑われ傷ついたことを書いている)、そういう内面に迫らずになんとなくハッピーエンドで終えているのはおかしい。
0.5『パイレーツ・ムービー』(1982/濠)ケン・アナキン
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大人しそうな主人公の女の子マーベルは、海賊に育てられ海賊として生きてきたことがコンプレックスの青年フレデリックといきなり相思相愛になりキスをする、という酷い展開から始まる。しかもマーベルは彼に「(海賊って)船を襲って人を殺してお宝を奪う連中?カッコいいじゃん」と強盗殺人行為を美化し肯定する発言をするので益々共感できない。しかも、フレデリックは当初海賊だった過去が嫌だという設定のはずなのに、マーベルに「海賊がカッコいい」と言われても気分を害さないどころか自慢げにしており腹が立った。二人は敵の海賊達と対立するが、「敵と仲良くなれば良い」という意味不明の歌が流れ、海賊達の悪事は不問に付されるという最低の着地で終わる。海賊のホモソーシャルで女性嫌悪的な世界を低いクオリティで肯定したバカ映画である。
8.0『フラッシュダンス』(1983/米)エイドリアン・ライン
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製鉄所の若き社長マイケル・ヌーリーが、社員でダンサーを目指している女ジェニファー・ビールスをなかなか口説き落とせない感じが面白い。音楽やダンスは特別私の好みではないが、恋愛描写や物語はちゃんとしていて楽しめた。ところでジェニファーはなぜか度々教会に行って「懺悔を怠りました」と泣くが、なぜ彼女は心神深いのかよく分からなかった。彼女の家族の影響なのか、それとも土地柄なのかは知らないが、突然のキリスト教的なシーンについていけずバックボーンを描いてほしかった。
1.0『ル・バル』(1983/仏・伊・アルジェリア)エットーレ・スコラ
(イメージ無し)
今見ると面白くない
私が大学生の頃見たときは実験的で凄いと思ったが、特定の主人公もいなく台詞もなく実験性が先行しているだけで、人間が描かれておらず今見返すと面白くなかった。途中で戦争を絡めているのだが、「とりあえず何とか深い映画にしよう」という魂胆だけ見えて寒くなった。黒髪でボブの色っぽい女性が居るなあ、という所以外は私には見るところがなかった。
1.5『上海バンスキング』(1984/日)深作欣二
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原作同様(『上海バンスキング』斉藤憐著)、戦時中の上海を舞台に、日本から逃れてきた音楽家がヤクザの世話になってジャズを演奏する話である。しかしヤクザの店で働くようになった松坂慶子が「上海は私をアヘンのように夢中にさせた」と言うなど、楽観的すぎてついていけない。さらに松坂慶子の夫でクラリネット奏者で風間杜夫はドラッグにより廃人になるが、勝手に廃人になられても全く共感できない。また、日本兵が上海市民を虐殺していく描写があるなど概して左翼的な目線で物語は進む。いや、もちろん日本は中国を植民地にしたのだが、それなら先に中国を植民地化した英国などの欧米も批判せねばフェアではなく、日本だけ批判するのは非生産的な左翼の政治観にとどまる(なぜ非生産的なのかというと、日本が謝ったところで中国との関係が好転するとは思えないからである)。別の国が謝らないのに日本だけ謝るのは危険であり、かえってそのことに反発する右翼が「自虐史観だ」と台頭することになる。左翼が右翼を台頭させているのである。左翼も右翼も私は嫌いである。
1.0『コットンクラブ』(1984/米)フランシス・フォード・コッポラ
- 出版社/メーカー: KADOKAWA / 角川書店
- 発売日: 2017/06/30
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禁酒法がしかれた1920年代のニューヨークが舞台で、ミュージシャンのリチャード・ギアはマフィアのボスの命を助けたことからかえってマフィアの抗争に巻き込まれる。しかし、ジャズやマフィアに興味がない私にはそもそも引き込まれなかった。もちろん一般市民が巻き添えに殺されるなど、この映画がギャングに対して諸手を挙げて賛美しているわけではないのは分かるが、一方でコットンクラブ経営者であるマフィアのマドゥンのことは憎み切れない描き方をするなどマフィアを全否定しないようにしている。ギアと女の恋も、相思相愛の一目惚れなので恋愛としても面白くなかった。また、ギアの弟ニコラス・ケイジはマフィアになり、抗争に深入りして市民を巻き込んだ殺人を犯す。ギアは、元々いいやつだったのに「お前はどこで間違った?」と悲観するが、しかしそんな凶悪な殺人を犯す人間が元々いいやつだったとは思えない。じゃあギアがケイジの「元々いいやつ」エピソードを語るのかと思いきやそれもないので腹が立つ。人間は生まれたときは善人だが社会によって悪く「させられる」、つまり社会の方に責任があるという左翼的な政治思想を雑に表明しているに過ぎない。
0.5『フット・ルース』(1984/米)ハーバート・ロス
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「避妊しなかったら赤ちゃんができちゃった」、「ちょっとまってその男私の彼氏の彼氏なんだけど」、というどうしようもない会話が展開されていくバカ映画。ヒロインのロリ・シンガーも、シンナをー吸って車に曲乗りして他の車に迷惑をかけたり、電車に轢かれようと線路に立ったりするなど愚か者で何も共感しなかった。一方で、青年たちは町の「ダンス禁止令」を撤廃するために、牧師に「聖書で人々が踊ったことが書かれている」と主張していく。つまりキリスト教を用いてキリスト教を批判するという内容だが、そもそも宗教に関心のない日本人の私には意味のない議論をしているとしか思えなかった。
1.0『妖精フローレンス』(1985/日)波多正美
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クラシック音楽に合わせて絵を動かすのは『ファンタジア』(1940年)のオマージュだろうが、映像表現がメインで物語が面白くない。しかも致命的なことに、映像表現がいいと言うわけでもない。また、全然恋愛描写がないのに主人公の音楽科の学生マイケルと妖精がお互いを「好きよ」「好きだ」と言い合っていて呆気にとられた。
1.0『星くず兄弟の伝説』(1985/日)手塚眞
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何となく当時のロックや若者の空気感を持ち出して馬鹿馬鹿しいことをやっているだけで、ギャグも笑えなかった。ギャングとのカーチェイスも粗悪なファンタジーのようになっていて、やるよりやらない方がいい。しかも最終的にギャングがどうなったのか、罰せられたのかどうかすら不明なまま終わる。戸川純の妹・戸川京子のとぼけた感じはかわいいがそれだけか。
0.5『コーラスライン』(1985/米)リチャード・アッテンボロー
- 出版社/メーカー: 東北新社
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舞台のオーディションに来た人達全員が主人公なので人間の内面に深入りすることはなく、なぜオーディションに来たのかという動機すらも分からないので登場人物に感情移入をして見ることはできない。選考で絞られた男女が歌にのせて自己紹介するが、「おっぱいとお尻が私の人生を変えてくれた」程度のことしか言っておらず失笑ものである。偽のドキュメンタリーを延々と見せられているだけで退屈であった。
8.5『リトルショップ・オブ・ホラーズ』(1986/米)フランク・オズ
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モテず冴えない花屋の店員リック・モラニスが、同僚のエレン・グリーンに心を寄せるが報われない感じがまず面白い。エレンには気が狂れた歯科医の彼氏がいるが、その歯科医の人間性もちゃんと描かれいるので、エレンの悲哀に説得力がある。ただモラニスが珍しい花を発見したことでメディアに登場すると、エレンが彼を憧れの存在と見なすのは急だしよく分からなかった。エレンの内面を丁寧に描かないと、「エレンも実は昔からモラニスに惚れていた」というような単なる相思相愛の映画に過ぎなくなってしまうからである。
ところでこの珍しい花は人食い植物だが、巨大化して暴走する植物とモラニスとの対決のシーンで、送電線で感電させて殺すだけなのはあっけなく物足りなかった。
1.0『ビギナーズ』(1986/英)ジュリアン・テンプル
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1958年の英国の街ソーホーが舞台だが、無理に当時の黒人問題などを絡めていてつまらない。また、ソーホーでは「階級や所得の差は消えて男も女も白も黒も黄色もゲイもストレートも平等だった」と主人公は言うが、そんなことはありえない。当時の社会を美化しているだけで、この映画はアートやロックを扱っていながらむしろ反動的ではないか。さらに、メインのカップルの恋愛は、女の方から愛を裏切るという女性蔑視だし、若者たちが社会に対して反抗的なイタズラや意味のない嫌がらせをすることを「良いこと」として描いており共感できない。駆け出しのカメラマンである主人公が芸術とお金の間で葛藤するが、それも私にはどうでもよくて、芸術は金にならないものに決まっているのだから金が欲しいなら仕事をすればいいだろうとしか思えない。
シャーデーが歌うところは個人的に好きだが、映画としての出来とは関係ない。
3.0『ラ・バンバ』(1987/米)ルイス・ヴァルデス
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飛行機事故により17歳で死んだロック歌手リッチー・ヴァレンスの伝記映画。リッチーは学校で女の子と知り合うが、彼女の家柄が良いために彼女の父親が彼のライブに行くなと言ったりするなど階級への意識があり良かった。一方でリッチーには刑務所帰りの不良の兄がいて、リッチーの前の彼女の処女を奪ったり妊娠させた過去があり酷く、またバイクに乗って格好つけたりするが全然魅力的とは思えなかった。また、リッチーは飛行機が爆発する悪夢を何度も見るが、彼が死ぬオチは分かっているわけでサスペンス効果は無く鬱陶しかった。全体的に、映画にするほどの人生か、と思った。どの芸術の分野にも早死にすると過大評価される人がいるが、リッチー・ヴァレンスもそういう中の一人ではないか。
ところで、母親役のロザンナ・デ・ソートは美人で見とれた。
1.0『ダーティ・ダンシング』(1987/米)エミール・アルドリーノ
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人々が腰振りダンスをずっと踊っているだけで退屈である。主人公の少女(ジェニファー・グレイ)は男とセックスをして妊娠し、中絶するかどうかという問題が出てくるが、どうして最初から避妊をしないのか意味が分からない。相手の男も、「日に3,4人も(女が)俺に部屋の鍵を渡す」と嘯くなど私には何も共感できない。女たらし向けの映画である。
4.5『スクール・デイズ』(1988/米)スパイク・リー
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スクール・デイズ』は黒人監督スパイク・リーの作品で、黒人学生が白人文化に憧れる気持ちと、白人を認めたくない気持ちとの間に揺れる様子を描く。オール黒人キャストのミュージカルよりは面白いが、ただあくまで「黒人」が問題であり、マイノリティ全般がテーマではないのに注意すべきである。例えばアジア系の人々に対する差別問題には全く触れられない。
眼鏡のモテない黒人学生(スパイク・リー自身が演じている)が童貞を卒業するために女を色々当たるがうまくいかないのは面白い。また、黒人運動をしている主人公(ラリー・フィッシュバーン)の恋人が、「あなたは色の薄い黒人を差別している」「私の肌が濃い黒だから私とつき合っているんでしょ。黒人解放運動家の体面を保つために」と鋭い批判をするのも面白いし、黒人運動より就職を気にする学生たちの言い分もあいまって、議論が深まっていると感じた。
ただ、この映画は主人公たちが「友愛会」というカルト宗教的なグループと対立するのが物語の軸であるはずなのに、最後に何となく主人公たちと友愛会が喧嘩をやめて融和するのは気味が悪い。寛容の精神や博愛の精神が問題なのは、明らかに間違った人々を許してしまうことである。カルト宗教と融和できるのは、結局のところカルト宗教的な人間なのである。部下に自分のことを「全能の男」と言わせていた友愛会のリーダーは絶対反省させなければいけないのに、そういうシーンは全くない。黒人に対する自己批判は良かったのに、結局オカルト映画に着地してしまい残念だった。
1.5『想い出のマルセイユ』(1988/仏)ジャック・ドゥミ
(イメージ無し)
昔モテたオヤジに共感できない
若い娘マチルダ・メイが、かなり年取ったイヴ・モンタンの大ファンだという設定にまず無理があるように思う。オヤジの欲望を映像化しているだけで、私には全然共感できない。また、老け込んでるイヴ・モンタンがミュージカル公演の海外ツアーをするという展開も信じられない。この映画は、今までのミュージカル映画の古典をフランス人の目からふり返るようといったマニア向けのもので、一般の人に訴えかける要素がない。『シェルブール』といい『ロシュフォール』といい『ロバと王女』といい、ジャック・ドゥミが監督したミュージカル映画はどれも私には合わないことが分かった。
1.0『ムーン・ウォーカー』(1988/米)コリン・チルバース、ジェリー・クレイマー
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序盤にマイケル・ジャクソンのドキュメンタリーが流れるかと思えば、急にアニメーションのキャラクターがマイケルを追いかけるシーンになるなど何も考えていない構成である。間違っても、荒唐無稽なところが逆に面白いという訳ではない。マイケルのレコードを聴けばいい。
3.0『リトル・マーメイド』(1989/米)ジョン・マスカー、ロン・クレメンツ
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ところで、海の魔女アースラは悪いように描かれるが、実は王子と結婚するための足を与えてくれるキッカケをくれるから全然いいやつである。
0.5『三文オペラ』(1989/米)メナハム・ゴーラン
(イメージ無し)
原作小説を再現しているだけで、しかもすでに映画にもなっているのにわざわざリメイクした理由が分からない。ブレヒトの原作戯曲が面白くないのだから、いくら舞台や美術を作りこんでも「はあ、頑張りましたね」としか思えない。
参考文献
・新井潤美『階級にとりつかれた人びと』中公新書、2001年
・新井潤美『不機嫌なメアリー・ポピンズ イギリス小説と映画から読む「階級」』平凡社新書、2005年
・小谷佳楠『アメリカ映画とキリスト教 120年の関係史』キリスト新聞社、2016年
・芝邦夫『ブロードウェイ・ミュージカル事典』劇書房、1984年
・スラヴォイ・ジジェク『暴力 6つの斜めからの省察』中山徹訳、青土社、2010年
・瀬川裕司『「サウンド・オブ・ミュージック」の秘密』平凡社新書、2014年
・パトリック・デニス『メイムおばさん』上田公子訳、角川文庫、1976年
・チャールズ・ハイアム『オードリー・ヘップバーン 映画に燃えた華麗な人生』柴田京子訳、近代映画社、1986年
・萩尾瞳他『プロが選んだ初めてのミュージカル映画』近代映画社、2008年
・ウェンディ・リー『ライザ・ミネリ 傷だらけのハリウッド・プリンセス』蒲田耕二訳、音楽之友社、1998年
1945年-1959年のミュージカル映画(100本)
点数(10点満点)『映画タイトル』(制作年/制作国)監督名
(同年の映画は点数順に並んでいます。
ネタバレもしていますがご了承下さい。)
- 6.0『アメリカ交響楽』(1945/米)アービング・ラッパー
- 6.0『錨を上げて』(1945/米)ジョージ・シドニー
- 5.0『ステート・フェア』(1945/米)ウォルター・ラング
- 2.0『今宵よ永遠に』(1945/米)ヴィクター・サヴィル
- 1.0『アラスカ珍道中』(1945/米)ハル・ウォーカー
- 1.0『ヨランダと盗賊』(1945/米)ヴィンセント・ミネリ
- 7.0『ブルー・スカイ』(1946/米)スチュアート・ヘイスラー
- 6.5『南部の唄』(1946/米)ハーブ・フォスター、ウィルフレッド・ジャクソン
- 4.0『雲去り行くまで/雲流るるはてに』(1946/米)リチャード・ウォーフ、ヴィンセント・ミネリ
- 2.0『マルクス捕物帖』(1946/米)アーチー・メイヨ
- 1.5『ハーヴェイ・ガールズ』(1946/米)ジョージ・シドニー
- 1.5『ジョルスン物語』(1946/米)アルフレッド・E・グリーン
- 1.5『ジーグフェルド・フォーリーズ』(1946/米)ヴィンセント・ミネリ
- 1.0『夜も昼も』(1946/米)マイケル・カーティス
- 7.0『地上に降りた女神』(1947/米)アレクサンダー・ホール
- 6.5『ポーリンの冒険』(1947/米)ジョージ・マーシャル
- 2.5『愛の調べ』(1947/米)クレランス・ブラウン
- 1.5『虹を掴む男』(1947/米)ノーマン・Z・マクロード
- 1.5『ニューオーリンズ』(1947/米)アーサー・ルービン
- 1.0『ダニー・ケイの牛乳屋』(1947/米)ノーマン・Z・マクロード
- 0.5『南米珍道中』(1947/米)ノーマン・Z・マクロード
- 8.0『踊る海賊』(1948/米)ヴィンセント・ミネリ
- 8.0『皇帝円舞曲』(1948/米)ビリー・ワイルダー
- 6.0『イースター・パレード』(1948/米)チャールズ・ウォルターズ
- 2.0『レディース・オブ・ザ・コーラス』(1948/米)フィル・カーソン
- 2.0『ヒット・パレード』(1948/米)ハワード・ホークス
- 1.5『赤い靴』(1948/英)マイケル・パウエル 、エメリック・プレスバーガー
- 1.5『ワーズ&ミュージック』(1948/米)ノーマン・タウログ
- 8.0『水着の女王』(1949/米)エドワード・バゼル
- 6.5『踊る大紐育』(1949/米)スタンリー・ドーネン
- 4.0『グッド・オールド・サマータイム』(1949/米)ロバート・Z・レナード
- 3.0『踊る龍宮城』(1949/日)佐々木康
- 2.5『ブロードウェイのバークレー夫妻』(1949/米)チャールズ・ウォルターズ
- 2.0『ラヴ・ハッピー』(1949/米)デヴィッド・ミラー
- 2.0『私を野球に連れてって』(1949/米)バスビー・バークレー
- 1.5『虹の女王』(1949/米)デヴィッド・バトラー
- 5.0『二人でお茶を』(1950/米)デヴィッド・バトラー
- 3.0『サマー・ストック』(1950/米)チャールズ・ウォルターズ
- 2.0『土曜は貴方に』(1950/米)リチャード・ソープ
- 1.5『アニーよ銃をとれ』(1950/米)ジョージ・シドニー
- 1.0『シンデレラ』(1950/米)ジャクソン、ラスク、ジェロニミ
- 0.5『ジョルスン再び歌う』(1950/米)ヘンリー・レビン
- 7.0『恋愛準決勝戦』(1951/米)スタンリー・ドーネン
- 3.0『巴里のアメリカ人』(1951/米)ヴィンセント・ミネリ
- 3.0『ムーンライト・ベイ』(1951/米)ロイ・デル・ルース
- 3.0『銀の靴』(1951/英)ブルース・ハンバーストーン
- 2.0『底抜け艦隊』(1951/米)ハル・ウォーカー
- 1.5『歌劇王カルーソ』(1951/米)リチャード・ソープ
- 1.5『ふしぎの国のアリス』(1951/米)ジャクソン、ラスク、ジェロニミ
- 0.5『ショウ・ボート』(1951/米)ジョージ・シドニー
- 7.0『百万弗の人魚』(1952/米)マーヴィン・ルロイ
- 6.5『栄光何するものぞ』(1952/米)ジョン・フォード
- 2.0『ベル・オブ・ニューヨーク』(1952/米)チャールズ・ウォルターズ
- 1.5『雨に唄えば』(1952/米) ジーン・ケリー、スタンリー・ドーネン
- 1.0『わが心に歌えば』(1952/米)ウォルター・ラング
- 10.0『リリー』(1953/米)チャールズ・ウォルターズ
- 9.5『カラミティ・ジェーン』(1953/米)デヴィッド・バトラー
- 9.0『雨に濡れた欲情』(1953/米)カーティス・バーンハート
- 3.0『バンド・ワゴン』(1953/米)ヴィンセント・ミネリ
- 2.5『銀色の月明かりの下で』(1953/米)デヴィッド・バトラー
- 2.5『紳士は金髪がお好き』(1953/米)ハワード・ホークス
- 2.0『ピーター・パン』(1953/米)ジャクソン、ラスク、ジェロニミ
- 0.5『キス・ミー・ケイト』(1953/米)ジョージ・シドニー
- 2.0『ホワイト・クリスマス』(1954/米)マイケル・カーティス
- 2.0『略奪された七人の花嫁』(1954/米)スタンリー・ドーネン
- 2.0『喝采』(1954/米)ジョージ・シートン
- 1.5『グレン・ミラー物語』(1954/米)アンソニー・マン
- 1.0『スタア誕生』(1954/米)ジョージ・キューカー
- 1.0『ショウほど素敵な商売はない』(1954/米)ウォルター・ラング
- 1.0『フレンチ・カンカン』(1954/仏)ジャン・ルノワール
- 0.5『ブリガドーン』(1954/米)ヴィンセント・ミネリ
- 0.5『ナポリの饗宴』(1954/伊)エットレ・ジャンニーニ
- 0.5『カルメン』(1954/米)オットー・プレミンジャー
- 9.5『マイ・シスター・アイリーン』(1955/米)リチャード・クワイン
- 5.5『足ながおじさん』(1955/米)ジーン・ネグレスコ
- 3.0『わんわん物語』(1955/米)ジャクソン、ラスク、ジェロニミ
- 2.0『野郎どもと女たち』(1955/米)ジョゼフ・L・マンキーウィッツ
- 1.5『愛情物語』(1955/米)ジョージ・シドニー
- 1.5『オクラホマ!』(1955/米)フレッド・ジンネマン
- 1.0『七変化狸御殿』(1955/日)大曾根辰夫
- 1.5『王様と私』(1956/米)ウォルター・ラング
- 1.5『上流社会』(1956/米)チャールズ・ウォルターズ
- 1.5『ベニイ・グッドマン物語』(1956/米)ヴァレンタイン・デイヴィース
- 1.0『回転木馬』(1956/米)ヘンリー・キング
- 7.5『野ばら』(1957/独)マックス・ノイフェルト
- 5.5『パジャマ・ゲーム』(1957/米)ジョージ・アボット、スタンリー・ドーネン
- 5.0『パリの恋人』(1957/米)スタンリー・ドーネン
- 3.0『監獄ロック』(1957/米)リチャード・ソープ
- 3.0『絹の靴下』(1957/米)ルーベン・マムーリアン
- 2.5『渇き』(1957/印)グル・ダット
- 1.0『夜の豹』(1957/米)ジョージ・シドニー
- 0.5『嵐を呼ぶ男』(1957/日)井上梅次
- 0.5『女はそれを我慢できない』(1957/米)フランク・タシュリン
- 7.0『恋の手ほどき』(1958/米)ヴィンセント・ミネリ
- 4.0『南太平洋』(1958/米)ジョシュア・ローガン
- 3.5『ひばり捕物帖 かんざし小判』(1958/日)沢島忠
- 1.5『くたばれ!ヤンキース』(1958/米)スタンリー・ドーネン
- 4.0『お染久松 そよ風日傘』(1959/日)沢島忠
- 3.0『5つの銅貨』(1959/米)メルビル・シェイブルスン
- 1.0『眠れる森の美女』(1959/米)ケン・ピーターソン
- 参考文献
6.0『アメリカ交響楽』(1945/米)アービング・ラッパー
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作曲家ジョージ・ガーシュウィンの伝記映画で、『ヤンキー・ドゥードゥル・ダンディ』(1942年)が大変な成功を収めたのでワーナーが続けて発表した伝記映画だが(スタンリー・グリーン『ハリウッド・ミュージカル映画のすべて』145p)、『アメリカ交響楽』は主人公のことを幼少期から丁寧に追っており面白い。
ただ全体的に演奏するシーンが多すぎて物語が希薄になっている。恋愛描写も丁寧でないのに、それでいてガーシュウィンが二人の女に惚れられるので感情移入は出来なかった。
6.0『錨を上げて』(1945/米)ジョージ・シドニー
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フランク・シナトラのなよなよした感じが面白く、140分近くあるがそんなに飽きなかった。ただ警察が水兵を連行するなど強引な展開は多いので完成度は高くはない。
ところで『錨を上げて』は戦争中中の1945年7月に公開されたミュージカル映画だが、日本の戦時中の映画は『五人の斥候兵』(1938年、田坂具隆監督)など禁欲的なイメージがあるが、米国の戦争プロパガンダ映画はエンターテイメント精神を忘れておらず、『錨を上げて』なんて休暇を貰えた水兵がウキウキとデートする話なのだから、戦争に勝つ国の余裕が見えた。
5.0『ステート・フェア』(1945/米)ウォルター・ラング
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ジーン・クレインは美人だと思うがプレイボーイな新聞記者がキザすぎて二人の恋愛が楽しめなかった。またジーン・クレインの弟役のディック・ハイムズのモテない感じは面白いが、最終的にハイムズとヨリを戻し結婚することになった元恋人は、一体どういう人物なのか劇中で一切描写がないのでガッカリした。
2.0『今宵よ永遠に』(1945/米)ヴィクター・サヴィル
(イメージ無し)
戦意高揚のためのバッドエンド
「団結していることを世界に知らせるため」という歌詞が歌われるように、映画の力点が戦意高揚に置かれている反面、物語や人間を描いておらず物足りない。リタ・ヘイワースの友人たちが空襲で死に、最後に彼女が泣きながら歌を歌うのは、あえてバッドエンドにすることで観客に怒りを催させる戦意高揚の仕掛けであろうが、それまでの人物像がイマイチなので急に死なれても悲しみや怒りはこみ上げなかった。
1.0『アラスカ珍道中』(1945/米)ハル・ウォーカー
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珍道中シリーズ第四作。ナレーション自体がどんどんボケてくるがほとんど笑わなかった。
1.0『ヨランダと盗賊』(1945/米)ヴィンセント・ミネリ
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前まで修道院にいたヨランダ(役;ルシル・ブレマー)は、莫大な遺産を継いだ後も夜な夜な守護天使像に話しかけるほど心神深い。そんな習慣につけこんだ盗賊のアステアは、ヨランダに電話をかけて自分のことを守護天使だと偽り、「神の姿のままでは会えないから旅行者の格好で行く」と伝えると彼女は喜ぶ。しかし、いくら信心深いとはいえ少女でもないのにそんなことを信じるのだろうか。設定にリアリティが感じられず、ヨランダの狂信的とも言える宗教心に私はついていけず気味が悪かった。終盤で「本物の」守護天使が登場し、ヨランダとアステアを結婚させるために大水で橋を流したり電車をバックさせたりするが、他の人にはいい迷惑である。
7.0『ブルー・スカイ』(1946/米)スチュアート・ヘイスラー
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片思いをするアステアは面白く、共感できた。全体的に静かなトーンで、それは別にいいのだが、友人とはいえ恋敵であるはずのクロスビーに対してアステアが理解がありすぎると思った。一度くらいは両者が激しくぶつかりあう場面があればもっと良かった。
6.5『南部の唄』(1946/米)ハーブ・フォスター、ウィルフレッド・ジャクソン
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制作費を減らすためにアニメのシーンを減らして俳優に演じさせた結果(ボブ・トーマス『ウォルト・ディズニー 創造と冒険の生涯 完全復刻版』p222)、ディズニー初の本格的な実写映画が生まれた。黒人リーマスおじさんと少年との交流は面白く、本国では黒人に対して人種差別的だと批判されているようだが全然そうは思わなかった。ただ、挿入されているアニメーションではキツネのデフォルメされた嫌なやつっぷりがしつこいし、ウサギもあまり可愛いくない。
4.0『雲去り行くまで/雲流るるはてに』(1946/米)リチャード・ウォーフ、ヴィンセント・ミネリ
雲流るるはてに - Till the Clouds Roll By -
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作曲家ジェローム・カーンの伝記映画。ジェローム・カーンは「アメリカで生れ、アメリカ的な曲を書いた最初の作曲家であり、ガーシュインやロジャースに影響を与えたという点で、カーンを現代ミュージカルの創始者とするのに異論を唱える人はいない」(芝邦夫『ブロードウェイ・ミュージカル事典』、p35)というが、どんなに重要な人物だとしても映画としての面白さとは別であるので冷静に内容を判断する。
冒頭からドキュメンタリーのように「ショウ・ボート」の舞台が流れる。140分と長いわりに物語は淡々としていて、カーンも恋人とあっさり結婚するので盛り上がらない。ジュディ・ガーランドやフランク・シナトラが歌うシーンもあるが、今ひとつマニア向けの映画であることを脱し切れていない。ただ、カーンは自分の師匠の娘サリーがショウに出るからといって特別扱いせず、そのためにサリーと喧嘩になるシーンにはドラマがあり良かった。
2.0『マルクス捕物帖』(1946/米)アーチー・メイヨ
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『カサブランカ』のパロディで、原題は『A Night in Casablanca 』である。しかし私にとって元ネタの『カサブランカ』をどれだけ引用できているかはあまり関係の無い話で、終盤のクローゼットでのギャグを除くとあまり笑えなかった。
1.5『ハーヴェイ・ガールズ』(1946/米)ジョージ・シドニー
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結婚相手を探すためにオハイオ州から電車で西部にやってきたジュディ・ガーランドは、酒場で粗野なごろつきに嫌がらせをされたので、仕返しに拳銃を二丁携えて再び酒場に乗り込み発砲するが、ガーランドは一見大人しそうに見えるのに行動が思い切りすぎていてついて行けなかった。また、ガーランドは結局ゴロツキの酒場のオーナーにキスをされることで二人の間の距離は一気に縮まってしまうが、キャラにも合わないし恋愛の描写もすっとばしているしで面白くない。もっと人間の葛藤や心の道筋が観たかった。ラストでは、ガーランドがならず者たちに「あなたたちに偏見があったかもしれない」と謝るが、拳銃を持ったゴロツキ達に偏見を持つのは当たり前だから謝る必要は全くないだろう。
ただ西部にやってきた人々の胸の高揚が歌と踊りにうまく表現されているとは思った。
1.5『ジョルスン物語』(1946/米)アルフレッド・E・グリーン
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歌手アル・ジョルスンの伝記映画であるが、「映画はジョルスンとその3番目の妻ルビー・キーラーのロマンスを重要なテーマにしているが、話としては最初の妻とし、名前もジュリー・ベルスンに変え」(スタンリー・グリーン『ハリウッド・ミュージカル映画のすべて』153p)ているなど、伝記としての誠実さに欠ける。ストーリーは『ジャズ・シンガー』(1927年)に似ているが、親との対立はあまりなく平和である。歌を歌う場面が多く、ストーリー自体に起伏がなくて面白くない。
1.5『ジーグフェルド・フォーリーズ』(1946/米)ヴィンセント・ミネリ
(イメージ無し)
マニア向け
舞台のプロデューサーであるジーグフェルドにゆかりのあるミュージカルスター達のオムニバスであり、大きな話の筋はないので基本的に退屈で、ギャグも笑えない。フレッド・アステアやジュディ・ガーランドやレナ・ホーンが見たいマニア向けである。
1.0『夜も昼も』(1946/米)マイケル・カーティス
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作曲家コール・ポーターの伝記映画だが、彼はバイセクシャルなのにそこが描かれていないので誠実さに欠ける。淡々としたストーリーで、妻とも相思相愛の一目惚れなので恋愛映画としての面白さもない。同じくコール・ポーターの伝記映画である『五線譜のラブレター』(2004年)では彼がバイセクシャルであることが描かれるが、しかしこちらの映画も面白くない。
7.0『地上に降りた女神』(1947/米)アレクサンダー・ホール
(イメージ無し)
オチに不満
女神テレプシコラ(役;リタ・ヘイワース)は、舞台監督のラリー・パークスが自分を下品な女神として描いていると怒り下界に降りてくる。ラリー・パークスと交流するうちにリタ・ヘイワースは「女神でなく人間でいたい」と人間の存在を肯定するので、カルト宗教的な内容ではなく無神論者の私にも楽しめる。とくに、リタ・ヘイワースが女神に戻ってしまい、人間達に話しかけても気付かれなくて無視される場面は『素晴らしき哉、人生!』(1946年)を彷彿とさせて泣ける。
ただ、神の裁量で人の仕事を奪ったり競馬の勝敗を左右させたりするシーンでは、神が現実を変えていいのか?と疑問に思った。またオチだが、リタ・ヘイワースとパークスが天国で再会するシーンは宗教色が強く感動しなかった。私にとってはリタ・ヘイワースが人間となることを選び、パークスと一緒になるというラストの方が絶対に良かった。
6.5『ポーリンの冒険』(1947/米)ジョージ・マーシャル
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リアリズムがなく惜しい
サイレント映画女優パール・ホワイト(1889-1938)の伝記的な映画で、彼女を演じるベティ・ハットンは生き生きとしていて、スタント無しでカーアクションや馬から列車に飛び乗ったりとかしていて凄い。ただ、パールが撮影の手違いで気球に乗ったまま遭難するというシーンがあって、これは映画のために用意された嘘のエピソードだと思うが、普通気球で遭難したらタダでは済まない。また、舞台での事故で落下し脊椎を損傷したパールは、恋人と約束したからとその日にデートをして映画にも行くが、重傷とは思えぬほど元気そうなので痛がるそぶりや表情くらいはしてほしい。伝記的映画にするならもっとリアリズムと誠実性が必要だと思う。
2.5『愛の調べ』(1947/米)クレランス・ブラウン
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音楽家シューマン夫妻の伝記映画。クララ役のキャサリン・ヘプバーンが父親にシューマンとの結婚に反対されるのも束の間、序盤であっさり二人は結婚できるので、もっと時間を割いてドラマを増やしてほしかった。またキャサリン・ヘプバーンの役がいかにも古い貞淑な母といった感じで、キャラクターに奥行きが感じられなかった。
1.5『虹を掴む男』(1947/米)ノーマン・Z・マクロード
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出版社で校正係をしているダニー・ケイは妄想するのが好きなのだが、運転中に妄想して事故を起こしそうになるので、運転に集中しろと思った。また、妄想だか現実だか分からなくなった、という展開もコメディにしては笑いは弱いし、ドラマにしては人間が描かれない。原作の「虹をつかむ男」(ジェイムズ・サーバー著)は文庫本で12ページほどの短編にすぎなくてつまらなかったが、つまらない原作を無理矢理膨らましたところでつまらない映画にしかならないのが分かる。
1.5『ニューオーリンズ』(1947/米)アーサー・ルービン
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ルイ・アームストロングやビリー・ホリデイなどが出演して歌う、ジャズの入門映画みたいなものだが、ジャズに興味の無い人に訴えかけるほど物語やキャラクターが面白くない。ジャズ好きが見ればいい映画、という枠に収まっている。
1.0『ダニー・ケイの牛乳屋』(1947/米)ノーマン・Z・マクロード
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牛乳配達員ダニー・ケイの恋愛喜劇かと思いきや、ボクシングの世界チャンピオンを偶然KOしたということで脚光を浴び、ボクシング界に参戦するという突飛な展開になる。牛乳屋の設定が生かされていないし、ギャグもとくに笑えない。ちなみに私は人を殴るのは正当防衛に限ると思っていて、スポーツだとしても私は人を殴ろうと思わないから、ボクシングの面白さがそもそもよく分からない。
0.5『南米珍道中』(1947/米)ノーマン・Z・マクロード
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珍道中シリーズ5作目で、ビング・クロスビーとボブ・ホープは出演していたショウをめちゃめちゃにして火事も起こしたが、そのままブラジルに逃げるので犯罪者である。国際指名手配をした方がいい。その後も「催眠術」などオカルトに頼って筋を進めるので捻りがなく、コメディとしても笑えなかった。
8.0『踊る海賊』(1948/米)ヴィンセント・ミネリ
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時は19世紀、持参金のない孤児であるジュディ・ガーランドは、噂に聞くマココという海賊のことを密かに思っている。そんな彼女に惚れたジーン・ケリーは彼女の気を惹くために自分が海賊マココなのだと嘘をつくが、彼が気の強いジュディ・ガーランドをものにできない様子は面白いし、さらにジーン・ケリーは国王代理や警察に本当に海賊だと思われ捕まるなど、物語の起伏もはっきりしていて楽しめる。私は海賊というマッチョな犯罪者に憧れる心にそもそも共感出来ないのだが、最終的にガーランドは海賊でないジーン・ケリーと結ばれる訳だから、彼女の犯罪者への幻想は打ち消されたと読めば納得できる。
8.0『皇帝円舞曲』(1948/米)ビリー・ワイルダー
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「私たちは一般大衆と違うの」と言う高邁な貴族のジョーン・フォンテーンに、市民階級のセールスマンであるビング・クロスビーが「おなじ血ばかりかけあわせているからおかしくなるんだ」などとかみついていくのは面白い。支配階級の皇帝もクロスビーとの対比が明確で、「我々と君たちは違う」とクロスビーを説き伏せる場面でも台詞に人間性が表われていた。ラストでジョーン・フォンテーンが「君主制 そんなものどうでもいいわ」と歌い上げクロスビーと結ばれるのは感動的だが、しかしもしこのままクロスビーが婿養子になるなら彼も貴族階級の仲間入りになるわけで、それでもなお彼らが君主制を批判するのか疑問である。最終的に身分を捨てたのかどうかは濁されスッキリしなかった。
6.0『イースター・パレード』(1948/米)チャールズ・ウォルターズ
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ダンサーのフレッド・アステアは、自分とコンビを組んでいた女(アン・ミラー)が一方的に抜けてしまった復讐に、安っぽい踊り子(ジュディ・ガーランド)を自らの手でスターにしようと企てる。ガーランドが「私の人生を利用されるのは嫌」とアステアに怒るなど人間同士の対立やドラマが描かれていて良かった。しかしアン・ミラーが男を裏切った嫌な奴として描かれ、一方でアステアが可哀想な人として描かれるので女性嫌悪が伝わってきてそこは嫌であった。
2.0『レディース・オブ・ザ・コーラス』(1948/米)フィル・カーソン
(イメージ無し)
母と娘が対立してほしい
60分ほどの低予算映画。マリリン・モンローは母親と共に踊り子としてショーをやっているが、二人ともかなり年が近いように見えるのでキャスティングに無理があると思った。序盤でモンローが「私はもう子供じゃないの」と母親に主張するので、母から独り立ちする娘の話かと思ったが、その後もずっと母を頼りにしているし喧嘩もしないので拍子抜けした。また、モンローに求婚した男に母が直接会って「バーレスクの女だと知ったらあなたの周囲は反対するのでは?」などと先回りして心配するが、これは逆に母親自身がバーレスクの女は恥ずかしい身分だということを告白してしまっている。自分のしている仕事にプライドがあればそんなことは言わないはずである。そんな母の矛盾を突いてモンローが母と対立すれば物語は面白くなるのだがそんな展開はない。
2.0『ヒット・パレード』(1948/米)ハワード・ホークス
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女慣れしていないダニー・ケイがヤクザの女であるヴァージニア・メイヨを好きになる様子は面白いが、結局はダニー・ケイが女に利用されているという構図なので、観客は「男が可哀想」で「女が悪い」という印象を受けるので女性蔑視的で不快である。ラストでは、ダニー・ケイ達は音楽を演奏することでマフィアを撃退するのだが、楽観的すぎてギャグだとしても笑えなかった。
1.5『赤い靴』(1948/英)マイケル・パウエル 、エメリック・プレスバーガー
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恋愛はダメだとバレエのプロデューサーに忠告されている中、プリマドンナと作曲家の男が惹かれあっていくのだが、出会ってからしばらくは他人同士に見えていたのに、途中でいきなり恋に落ちているのは違和感があり、もっと丁寧に心の変化を描いてほしかった。ラストでプリマドンナに起こった事故は童話「赤い靴」のように悲劇にしたとしても、彼女にとってはあまりにも残酷で、しかもなぜ女性だけが酷い目に遭わなければいけないのか可哀想だし怒りを覚える。ダンスシーンには迫力があるが、内容が駄目すぎると思う。
1.5『ワーズ&ミュージック』(1948/米)ノーマン・タウログ
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作曲家リチャード・ロジャースと作詞家ロレンツ・ハートの伝記映画であるが、ロジャースもハートもたいした恋愛のプロセスも無いまま女性と相思相愛になっていて私には楽しくない。またロレンツ・ハートはアルコールが手放せなくて「酒の飲み過ぎが原因で仕事への意欲を失ってしま」ったが(芝邦夫『ブロードウェイ・ミュージカル事典』、p30)、そういう描写は無くなぜ彼は若くして死んでしまったのかよく伝わってこない。伝記として中途半端で、それをカバーする面白さもない。
ジュディ・ガーランドやレナ・ホーン、ジーン・ケリー、ヴェラ=エレンなどスターが本人役で出てくるが、だからどうしたという感じで、ミュージカルマニア以外に訴えかける決め手がない。
8.0『水着の女王』(1949/米)エドワード・バゼル
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男をかわすエスター・ウィリアムズの振る舞いや、彼女に言い寄るリカルド・モンタルバンとの歌の掛け合いが面白い。また、冴えないレッド・スケルトンの滑稽な感じも面白く、そんな彼をベティ・ギャレットは(『踊る大紐育』や『私を野球に連れって』のように)積極的にものにしようとするが、ベティはそんなに美人ではないから許せる。レッド・スケルトンが身の上を偽っていたのを白状した時も、それでもベティは彼のことを好きで居続けるなど健気である。ただ、エスターが2回も仕事をすっぽかしてデートに行ったのにもかかわらず、職場からペナルティが無いなどリアリズムに欠けるところは冷めた。
6.5『踊る大紐育』(1949/米)スタンリー・ドーネン
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それまでスタジオ撮影が多かったミュージカル映画において、大規模なロケ撮影を行った先駆的な作品。ベティ・ギャレットはそんなに美人ではないからフランク・シナトラに惚れても見ていて楽しいのだが、美人な人類学者アン・ミラーに一目惚れされたジュールス・マンシンにはムカついてしまう。唯一恋愛がうまくいかない役割のジーン・ケリーも、相手のヴェラ=エレンと同郷だということで一気に距離が縮まってしまうし、実はヴェラ=エレンが見世物小屋の踊り子にすぎないことが判明した際もジーン・ケリーは変わらず彼女を愛し続けるという展開も、男の方が懐が深いのが伝わるだけでヴェラ=エレンの魅力が伝わらない。曲やダンスやギャグは楽しめるが、登場人物が多いためにそれぞれの人間性にまで迫れていない。
ちなみにこの時は既に、フランク・シナトラの人気はマフィアとの付き合いなどで落ちており、「MGMは配役の順列を変え、ジーン・ケリーの名をフランクの上に掲げ」た(キティ・ケリー『ヒズ・ウェイ』180p)。
4.0『グッド・オールド・サマータイム』(1949/米)ロバート・Z・レナード
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本人達は知らないが、実は一緒の職場で働いているヴァン・ジョンソンとジュディ・ガーランドはペンフレンドで、先にヴァン・ジョンソンがそのことに気付くのだが、ジュディ・ガーランドに知らせないまま女の恋心を試すので性格が悪いと思う。またヴァン・ジョンソンは色男なのだが、ガーランドとの恋の話に絞れば良いのに、なぜわざわざ別の女性を出してヴァン・ジョンソンがモテることを鑑賞者に伝えなければいけないのか理解できない。バスター・キートン扮する冴えない男の方が好感が持てた。
3.0『踊る龍宮城』(1949/日)佐々木康
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龍宮城という設定も踊りもダサく、運動会の出し物を見ている気分になる。が、浦島太郎が現代にやってきて時代の変貌に驚く様が描かれるので、過去の時代にとどまる狸御殿シリーズよりは見ていられる。当時12歳の美空ひばりが歌を歌うシーンがある。
2.5『ブロードウェイのバークレー夫妻』(1949/米)チャールズ・ウォルターズ
- 出版社/メーカー: ジュネス企画
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仲の良い芸人夫婦かと思いきやすぐ喧嘩する様は成瀬巳喜男の『鶴八鶴次郎』(1938年)を彷彿とさせるが、こちらはコメディがメインの明るい話でハッピーエンドである。途中で夫婦が別居するが、原因が妻の浮気なので、女性に非があるような脚本にしているのは少し気分が悪い。アステアが電話で演出家の振りをしてロジャースに演技指導をするとき、アステアの方が優れていてかつ心が優しいように描かれていて不公平な気がした。
靴が勝手に踊りアステアが踊らされる、というダンスはうまい。
2.0『ラヴ・ハッピー』(1949/米)デヴィッド・ミラー
- 出版社/メーカー: ジュネス企画
- 発売日: 2006/10/25
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マルクス兄弟のグルーチョ、ハーポ、チコの兄弟最後の共演作品(DVDの「スタッフ・キャスト」より)。グルーチョ・マルクスは解説役としてナレーションをするだけだし、ナレーション自体も面白くない。ストーリーも女ボスが催眠術を使って宝石の場所を聞き出そうとするなどオカルトに頼っていて捻りがない。唖のハーポの動きのボケだけ笑った。
2.0『私を野球に連れてって』(1949/米)バスビー・バークレー
- 出版社/メーカー: ワーナー・ホーム・ビデオ
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ジーン・ケリーもフランク・シナトラも現役の野球選手なのに当然のようにショウに出演しステージで歌って踊っている。ジーン・ケリーは練習嫌いでデートばかりしていたところ、ショウのスカウトにダンスを見込まれ、野球のシーズン中に踊ってくれと言われるいるが、そんなことはありえないので冷めてしまう。野球チームの新しいオーナーが若い女性のエスター・ウィリアムズになったり、喧嘩に弱いシナトラの女が苦手な感じは面白いが、すぐエスターとシナトラは良い雰囲気になるので恋愛描写をサボっていると思った。
1.5『虹の女王』(1949/米)デヴィッド・バトラー
- 出版社/メーカー: ジュネス企画
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舞台女優、マリリン・ミラーの伝記映画だが、物語に起伏が少なく心が揺さぶられない。また、彼女が「家名を汚すことになるわ」と自分のショウの出来に不安になるシーンがあるが、「家名」にこだわるというのは前近代の発想だから近代的価値観に重心を置く私には共感できない。人間を家名で、つまり生まれで判断してはいけないと思う。第一次世界大戦も表面的に絡んでいるだけで面白くない。
5.0『二人でお茶を』(1950/米)デヴィッド・バトラー
- 作者: 洋画
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ドリス・デイはショウの資金を手に入れるために48時間質問に「ノー」とだけ答え続けるという賭けをし、以後彼女は全ての質問に「ノー」と答えていく、という設定は面白い。が、逆に言うとそれだけで、もっと物語に展開がほしかった。また、性格の悪いフィアンセだった男が身を崩してタクシードライバーに転落するというオチだが、これは当時の制作者達がタクシードライバーを見下したからこそ成立するオチだから良い気分はしない。
3.0『サマー・ストック』(1950/米)チャールズ・ウォルターズ
- 出版社/メーカー: ジュネス企画
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ジュディ・ガーランドは農家の娘で、気の強いしっかり者の役柄が彼女にあっている。妹は劇団員で、劇団のリーダーのジーン・ケリーと恋仲になっているが、ケリーは妹から姉のガーランドの方に乗り換える。しかしこれは普通に妹が可哀想である。ケリーを失った妹はガーランドの許嫁だった男と結婚することになるが、妹はあれほど頑張っていた舞台の仕事を姉に譲りあっさりやめてしまうのも不可解である。妹は自分の人生に悔いはないのか、葛藤はないのか、姉に何か言いたくないのかと疑問である。
2.0『土曜は貴方に』(1950/米)リチャード・ソープ
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芸人のフレッド・アステアは、怪我をしている間に妻に養われていると思われたくない、という見栄で芸人のパートナーであるヴェラ=エレンのプロポーズを断るが、ヴェラ=エレンのような美人の求婚を断るのはどうかしていると思うから共感できなかった。全体的にコメディタッチの映画だがそんなに笑えるわけでもない。バート・カルマーとハリイ・ルビイという実在するダンサーとミュージシャンの伝記映画とのことだが、伝記の良さや面白さがあるわけでもないし、そもそもモデルが伝記にするほど面白い人物ではなかったのかもしれない。
1.5『アニーよ銃をとれ』(1950/米)ジョージ・シドニー
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- 発売日: 2001/08/10
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射撃の名手アニー(ベティ・ハットン)は読み書きが出来ず粗暴で、冒頭で薄汚い格好で登場してモテない女の悲哀を歌うのは面白い。そんなアニーが序盤で簡単に男(ハワード・キール)に一目惚れして、一気に乙女みたいになるのは茶番である。もっと男を好きになるまでのプロセスを描写するべきである。ふつう男並みに射撃が上手ければ男をライバル視するから、簡単に恋に落ちないほうが自然である。アニーはその後、ショウの一座に加わって一気に汚い身なりからめかし込むが、それについての彼女の感想は省かれ物足りない。また、ショウで成功したアニーは王女や貴族から勲章や宝石を貰って嬉しがっているが、身分制への批判的意識がまったく欠けている。元々貧乏だったアニーは、低い階級出身の人間としてのプライドはないのか、自分の生まれが貧しいことからくる怒りはわかないのか、と疑問である。冒頭は面白いがどんどん尻すぼみする映画であった。
ちなみに実際にアニーという女射撃手がいたのだが、「ストーリーは特に史実に忠実というわけではない」(スタンリー・グリーン『ハリウッド・ミュージカル映画のすべて』173p)から伝記の価値も無い。
1.0『シンデレラ』(1950/米)ジャクソン、ラスク、ジェロニミ
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シンデレラが普通に動物たちと会話が出来ていて世界観が掴めなかった。全編通してトムとジェリーのようなネズミ達と猫の追いかけっこのシーンが長く、もっと人間性を描いてほしかった。トムとジェリーはワーナー・ブラザーズのアニメで、ディズニーも真似したかったのか知らないが、これではほとんどネズミと猫の映画である。舞踏会では、王子はたくさんの美女からアプローチされるのに、王子本人は目当ての女がおらず飽き飽きしてあくびをするので、私には意味が分からず女性を見慣れている人間にムカついた。また、王子とシンデレラは一目惚れをして恋に落ちるだけだから特に恋愛描写もない。最後、「夢を信じ続ければ いつか必ず夢はかなう」という歌で締めくくられるが、シンデレラは元々家柄が悪くないし何より美人だから夢が叶ったのだろうし、一般人が夢を叶えるには努力や勉強をしたほうがいいのであって信じるだけではダメだろう。あと私は金髪の女性にフェチを感じないので、「良い性格の女性の髪は金髪で、意地悪な女性(継母や姉)が黒髪や赤毛」という設定には感心しない。
0.5『ジョルスン再び歌う』(1950/米)ヘンリー・レビン
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前作『ジョルスン物語』(1946年)のラストシーンの続きから始まる。ジョルスンは「結婚は1回してる」というが、史実ではすでに2回結婚しているのは前項で述べた。新しい女性とすぐ相思相愛になり結婚するので恋愛描写がなく機械的なストーリー展開で楽しくない。また、ジョルスンが復活して人前で歌うと思ったらすぐ仕事をやめるしで、全然ドラマになっていない。自伝映画の中で自伝映画を撮るというメタ的な展開にもなるがこれも蛇足で、続編を作るほどでもなかった。
7.0『恋愛準決勝戦』(1951/米)スタンリー・ドーネン
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原題は「Royal Wedding」(皇室の結婚)で、ダンサーの兄妹であるフレッド・アステアとジェーン・パウエルは王様と王女という演目を踊るシーンから始まる。アステアはサラ・チャーチル(ウィンストン・チャーチルの娘)に惚れるが、なかなか恋が上手くいかない様子は楽しく、椅子や壁や天井で踊るシーンは彼の片思いの心境が表現されていて心を揺さぶられる。今のところ私が見たミュージカルのダンスの中で一番面白い。ただ、アステアは「ぼくは結婚するタイプではない」と言い出してサラ・チャーチルとの結婚を一旦は諦めるものの、女王の結婚パレードを見て感動して結局結婚することに考え直すが、これは身分制を称えるプロパガンダに過ぎないから私は嫌である。
3.0『巴里のアメリカ人』(1951/米)ヴィンセント・ミネリ
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ジーン・ケリーはパリで画家を目指しているのだが、貧乏だと言っているわりに格好が綺麗だし芸術家のわりに暗いところがないし不自由ない生活をしていておかしい。彼はその後金持ちのマダムに惚れられてパトロンになってもらうが、ケリーがもっと汚くないと対比にならないし楽しくない。また、ケリーはフィアンセがいるレスリー・キャロンに惚れ振り向いてもらおうとするが、恋愛がうまくいかない側だとはいえケリーは洗練されていて格好よすぎるので私は今ひとつ感情移入しきれなかった。最終的に二人は結ばれるのだが、レスリーがフィアンセとどうけじめをつけたのかなども描かれずドラマとしても物足りなかった。
3.0『ムーンライト・ベイ』(1951/米)ロイ・デル・ルース
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男に混じって野球をするなど活発なドリス・デイは面白いが、序盤ですぐドレスを着てしまうので持ち味が殺されている。また彼女は中盤で足を骨折して松葉杖をつくことになるが、これも活発なキャラクターが死んでしまっている。野球が好きという設定もその後は雪合戦で雪を投げるくらいしか生かされていない。ゴードン・マクレーと恋に落ちるのも早すぎるが、さらに腹立たしいことにこの男は「結婚制度には反対だ」「結婚は女性には奴隷 男には墓場だ 愛してるからって因習に縛られることはない」などとドリス・デイの求婚を断ったりする。自分がモテる男だからこそ言える高見からの台詞である。私としては、ドリス・デイに求婚されながら結婚を渋るゴードン・マクレーより、彼女片思いをしながら全然報われないジャック・スミスの方が感情移入できたが、彼はドリス・デイに全く相手にされないし、彼女の弟に帽子を破壊されるなど陰湿なイタズラを受けるしで可哀想であった。
3.0『銀の靴』(1951/英)ブルース・ハンバーストーン
- 出版社/メーカー: アイ・ヴィ・シー
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ヴェラ=エレンの婚約者が大富豪だというデマを舞台関係者達が信じ、踊り子に過ぎなかったヴェラ=エレンが主役に抜擢される。そんな噂を聞きつけた大富豪本人がヴェラ=エレンに会いにくると、本当に惚れてしまうという話。しかしその勘違いだけで100分の映画を持たせようとするのは退屈で、ギャグとしてもあまり笑えなかった。
ちなみに『恋をしましょう』(1960年)も似た筋だが、『恋をしましょう』の方が大富豪の人となりがしっかりと描かれていたのでこちらの方が面白かった。
2.0『底抜け艦隊』(1951/米)ハル・ウォーカー
(イメージ無し)
話が散漫
ジェリー・ルイスのなよなよした感じはいいが、ほかの役者がジェリー・ルイスで笑っているので冷めてしまった。ディーン・マーティンもただの説明役になっていてコンビネーションが感じられない。話の筋も、入隊したかと思ったら上陸してボクシングをやったり、女優とキスできるかどうか賭けをしたりと散漫であった。
1.5『歌劇王カルーソ』(1951/米)リチャード・ソープ
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実在するオペラ歌手エンリコ・カルーソの伝記映画だという。歌手になりたいカルーソは、義理の父の会社を手伝う約束を破り妻と別れることになるが、私としては妻がそれをどう思うのか、別れることに賛成なのか反対なのか知りたいのにそういうシーンは省かれており、妻の扱いが悪く可哀想だと思った。その後のカルーソはとんとん拍子にスターになっていくだけで面白くないし、病気で死ぬところも、カルーソが魅力的な人間として描けていないので私は悲しいと思わなかった。
1.5『ふしぎの国のアリス』(1951/米)ジャクソン、ラスク、ジェロニミ
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原作小説(ルイス・キャロル『不思議の国のアリス』)同様ストーリーはなく夢オチで終わり、今の私には退屈だった。アリスは今までのディズニーアニメの絵からすると可愛いが、あまりにも子供すぎて思春期的な片鱗がなく、異性のことをどう思っているかも分からないから色気もなく私には興味が出なかった。また、「花」の女達がアリスをいじめる場面は、大人の女性のイメージを醜悪に描く女性嫌悪が感じられて嫌だった。一方でアリスの行動原理は「ウサギがどこに行くのか知りたい」しかなく、しかもその好奇心によって道に迷い途方に暮れ、「好奇心だらけの私はいつもバチが当たる 私はこれからはちゃんとしていくわ」と泣いて歌うので、好奇心を持つことが悪く描かれている。しかし好奇心を持つことは全く悪くないし、知識を身につけることによって大人になることは私は素晴らしいことだと思う。ここには「女性が好奇心を持つのは良くない」という、無垢な処女を賛美するメッセージ性がある気がするが、私は大人の女性の方が好きなので共感できない。
0.5『ショウ・ボート』(1951/米)ジョージ・シドニー
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『ショウボート』(1936年)のリメイクだが、相変わらず黒人女性役を白人がやっている。ギャンブルに溺れ妻子を捨てた男が、すぐに妻と愛を取り戻すがそんなことはありえないし、そこからどう家庭を再構築していくかが問題なのに一切触れずに強引にハッピーエンドで終わらしていて納得できない。再映画化した意味が分からない。
7.0『百万弗の人魚』(1952/米)マーヴィン・ルロイ
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水泳選手で女優だったアネット・ケラーマンの伝記映画で、エスター・ウィリアムズ彼女を演じる。エスターがボストンの海を泳いで渡ろうとした際、彼女の露出度の高い水着が市民の間で問題となる。「(従来のスカートのような)水着では長距離を泳げない」とエスターが主張するも、結局企画は中止となり、「偽善者!」と怒る彼女は的を得ていて格好良い(ただ皮肉にも、現代では水着の面積が多い方が泳ぎやすいということになっているが)。終盤彼女は、自分を愛している興行師の男から贈られた指輪をせず、別の男と会ってから映画撮影に臨むと、撮影中事故に遭い危うく命を落としそうになる。しかしこれでは彼女が指輪をせず男を裏切ったために罰が当たったように見えるので、こういう迷信じみた演出には私は反対である。
6.5『栄光何するものぞ』(1952/米)ジョン・フォード
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映画『栄光』(1926年)のミュージカル化(1926年版は未見)。第一次世界大戦中のフランスが舞台で、米軍が駐留している。戦火は一旦おさまっており大尉のキャグニーと曹長のダン・デイリーは同じ女をめぐって争うなど前半はコメディに近い。後半になると彼らも戦線に出て行き過酷な任務をこなしていくが、戦争を美化せず平和主義過ぎずありのままに描いていて良いし、フィアンセが死んだことを悟ったフランス人女性の顔にも引き込まれる。ただし、ミュージカル要素は全くなくなる。その後、任務を果たしたキャグニーとダン・デイリーはどちらが女と結婚するかでまた揉めだし、一触即発になったと思ったのも束の間、中隊に新たな命令が下る。女のことは忘れられ、キャグニーとダン・デイリーが連れだって戦線に戻っていく様は、女には可哀想なことではあるが、戦争とはそういうものであるから別に女性蔑視的な内容ではないと思う。
ただ、「軍人という職業には何か分からぬが信仰に通ずるものがある」というキャグニーの発言があるが、宗教に関心の無い私にはどういうことなのかよく分からなかった。
2.0『ベル・オブ・ニューヨーク』(1952/米)チャールズ・ウォルターズ
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モテて仕方のないアステアは女を侍らせており婚約者もいるが、救世軍として歌っているヴェラ=エレンに惚れる。彼女はまじめなので相手にしない…と思いきや、ほとんど一目惚れのようにアステアを意識するのでガッカリする。すげなくアステアを振るからこそ、そこからどうやってヴェラ=エレンと結ばれるのか観客は気になってハラハラするのに、全く分かっていないと思った。また、アステアやヴェラ=エレンが恋をしたことにより空を飛べるようになるというファンタジー要素があるが、空中を只歩くだけで工夫がなかったので『恋愛準決勝戦』(1949年)の方が面白い。
1.5『雨に唄えば』(1952/米) ジーン・ケリー、スタンリー・ドーネン
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映画スター役のジーン・ケリーが半生をふり返るが、映画出演もすぐ決まり女とすぐ相思相愛になるなどモテ男で、特に挫折のない人生を淡々と語っているだけでつまらない。しかもジーン・ケリーは恋人リナ(ジーン・ヘイゲン)を大切にしないで浮気をし、最終的に恋人を乗り換えるのでリナが可哀想である。それについてリナが意見を発したり弁明するシーンもなく不公平である。また、サイレントからトーキーへの移行期の話が軸になるなど映画マニアのための映画という感じで、一般の人が観て楽しめるかは分からないし、声が変でトーキー映画に生き残れないリナを笑い者にするボケばかりで辟易した。もっと人間のドラマが見たいのに、なんとなくコメディ風にして流している映画であった。
ちなみに「Singin' in the rain」という曲も『ハリウッド・レヴィユー』(1929年)で用いられた曲をカバーしているに過ぎない(『ザッツ・エンターテイメント』1974年より)。
1.0『わが心に歌えば』(1952/米)ウォルター・ラング
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歌手ジェイン・フロマンの半生を描いた映画で、冒頭に「この物語は実話である」と出るが、主人公はとんとん拍子で仕事も恋愛も成功していくだけでムカついてくる。米兵を慰問する途中、飛行機事故で右足を複雑骨折し、不自由な脚のまま慰問の旅を再開するが、これはあからさまな美談で面白くない。その後も表面的な慈善が展開されるだけで、慰問先の兵士たちも明るすぎて違和感がある。歌手が慰問したくらいのことで傷ついた兵士たちの心が癒えるとは思えない。人間を描こうという気概もが見えず、かなり表面的に戦争を扱っていて、見終わっても印象に残らない映画である。
10.0『リリー』(1953/米)チャールズ・ウォルターズ
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原作のポール・ギャリコの短編小説「七つの人形の恋物語」も面白いが、映画では主人公のレスリー・キャロンに主体性が与えられはっきり自分の意見を述べていて魅力的だし、人形使い役のメル・フェラーの性格もキツすぎず人間味が加わっていて感情移入ができる。また原作では人形使いが一人だけで何体も人形を動かしているというありえない設定だったが、こちらではメル・フェラーの仕事のパートナーとしてカート・カズナーが登場しリアリズムが付与されており、加えてカズナーはレスリーとフェラーの間もうまく取り持っている。長さは82分であるが無駄なく十分に人間が描けており、減点するところが見当たらない傑作である。
ちなみに人形使いのメル・フェラーはオードリー・ヘプバーンの最初の夫である。
9.5『カラミティ・ジェーン』(1953/米)デヴィッド・バトラー
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ドリス・デイの男っぽいガンマン姿はハマり役で、『ムーンライト・ベイ』(1951年)や『銀色の月明かりの下で』(1953年)などの出演作に比べても、圧倒的に長いあいだ性別にとらわれない魅力を生き生きと発揮している。中盤ではドリス・デイは都会から来たアリン・アン・マクレリーによってオシャレを教えてもらい家も改装し、好きな男に振り向いて貰おうとする。ほどなく男が家を訪ねて来て、さぞドリス・デイがオシャレに変身したのかと思えばドレスが泥で汚れていたりと、彼女の洗練された姿がうまく遅延され焦らされている。ここで焦らすことにより観客は余計洗練されたドリス・デイが見たくなり、終盤での美しいドリス・デイにカタルシスを感じるのである。細かい演出もうまいし、その一つ一つが登場人物の感情を申し分なく表現しており傑作である。
ただ一つ気になるのは、ドリス・デイがすぐ拳銃をぶっ放しすぎるところで、特に友人から恋敵になったアリン・アン・マクレリーに発砲するところは女の嫉妬というものを醜く大げさに描いていると思った(もっとも西部劇に「拳銃をぶっ放しすぎる」と指摘するのもおかしいのだが)。ほぼ満点。
9.0『雨に濡れた欲情』(1953/米)カーティス・バーンハート
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原作はサマセット・モームの短編小説「雨」だが、原作よりかなり面白い。戦後、リタ・ヘイワースが海軍の駐留する南の島に立ち寄るとたちまち兵士達の間で人気者になるが、彼女はすぐには男になびかず気丈に振る舞っているのが格好良い。後に宣教師ホセ・ファーラーによって島から米国に強制送還されそうになった時も、リタ・ヘイワースは論理的に総督やホセ・ファーラーと話して対決をするのも良い。原作では同性愛者のサマセット・モームらしく女性を悪役にしていたが、この映画では全く逆に女性が魅力的に描かれていて、対照的に宣教師ホセ・ファーラーのカルトぶりを摘発しているので面白かった。ホセ・ファーラーは『ケイン号の叛乱』(1954年)での有能な弁護士役も良かったが、『雨に濡れた欲情』での理想が高すぎてカルト化した宣教師という悪役も見事にはまっている。
ところで劇中で、リタ・ヘイワースにはいかがわしい店で歌っていた過去があるのだが、それを知っていたホセ・ファーラーに「売春婦だ」と言われ彼女が激怒する場面がある。リタ・ヘイワースが本当に売春していたのかどうかは別として、「売春婦だ」と言われて怒るということは彼女も売春婦を下に見ているということである。性産業があることで世の中はある程度のレイプを防げており、風俗嬢は社会貢献をしているはずだから、私は売春婦を下に見てはいけないという思いからここは減点した。ちなみに日本では売春は違法だが(口で性行為をするピンサロなどの準売春は合法)、「ヨーロッパ諸国ではエイズの出現以後、性病の蔓延を防ぐ目的もあり、オランダ、ドイツ、フランス、英国等で、漸次売春は非犯罪化されていった」ため日本でも売春を「合法化し、しかるべき規制によって性病の広まりを抑えるのが現実的な方向性だ」(小谷野敦『日本売春史――遊行女婦からソープランドまで』p211)とする小谷野の主張に私はなるほどと思った。
3.0『バンド・ワゴン』(1953/米)ヴィンセント・ミネリ
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フレッド・アステアとシド・チャリシーの恋愛のゆくえはわりと丁寧に描かれている。歌や踊りも個別で楽しめるが、しかし一つ一つのショウにつながりがないので長篇らしさがなく物足りない。実在の映画俳優などの名前がたくさん出てくるし、アステア達が行うショーのモチーフが「現代版ファウスト」であるなどキリスト教の知識も出てくるので、インテリ層や映画マニアの内輪ウケを狙った映画であり私にもよく分からず、一般の人が見てもピンとこないと思う。
2.5『銀色の月明かりの下で』(1953/米)デヴィッド・バトラー
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『ムーンライト・ベイ』(1951年)の続編。機械工のように車を修理するドリス・デイは面白いが、これも前作同様すぐ花嫁姿になってしまう。前作ではドリス・デイとゴードン・マクレーの結婚は親の了承を得てハッピーエンドという締め方だったのに、ゴードン・マクレーは脳がリセットされたかのように結婚を渋るし、「女性が男の世界に踏み入ることは許されない 政治もね」などと大学のインテリだったはずのキャラに合わないことを言う。
一方で、七面鳥を飼っている弟に、この鳥は食べられる運命なんだよということを両親が伝えられない、と葛藤する場面は面白かったが、弟が七面鳥を逃がして以降このことは話題にならなくなったので物足りず、せめて終盤で再度七面鳥を登場させればいいのにと思った。また父親が浮気をしていると家族が早とちりするが、誤解を引っ張りすぎていてリアリズムに欠けており、コメディとしても飽きた。ドリス・デイに片思いをしながら全然報われないジャック・スミスも出てくるが、最後のカットには登場すらさせて貰えないなど前作以上に扱いが悪い。全体的に、前作を繰り替えてしているだけだった。
2.5『紳士は金髪がお好き』(1953/米)ハワード・ホークス
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マリリン・モンローのミュージカル初主演作品(スタンリー・グリーン『ハリウッド・ミュージカル映画のすべて』191p)。金持ちの男が好きなマリリン・モンローと、愛があればお金はいらないというジェーン・ラッセルの女コンビなのだが、ジェーン・ラッセルは「スポーツ選手が好き」とマッチョな男が好きなようだから私は共感しない。しかも「オリンピック選手が好き」とも言っており、オリンピック選手が貧乏なわけないのだから「お金はいらない」という宣言と矛盾しており、マリリンとのキャラの対比も明確でない。また、マリリンが窃盗したと誤解され訴えられた時、頭の切れるジェーン・ラッセルが金髪のカツラを被ってマリリンになりすまし裁判を切り抜けるなど強引な展開が多い。ただ、原作の小説(アニタ・ルース『紳士は金髪がお好き』)よりは楽しめるとは思うので2.5点にした。
2.0『ピーター・パン』(1953/米)ジャクソン、ラスク、ジェロニミ
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ウェンディに母性がありすぎて年頃の少女らしさがない。また、ティンカーベルはかわいいのだが出番は少なく、ウェンディに焼き餅を焼くという設定がしつこい。もっとも原作小説(ジェイムズ・バリ『ピーター・パン』)でも出番が少ないし嫉妬してばかりしているなど扱いが悪いのだが。海賊との闘いもピーターパン以外は活躍しないので、登場人物が多いだけで個人が描けておらず、設定を持て余しているという印象を受けた。
0.5『キス・ミー・ケイト』(1953/米)ジョージ・シドニー
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別れた男(ハワード・キール)と女(キャサリン・グレイスン)はなおも劇団員同士で、仲が悪いのかと思いきや、開始早々楽屋で一緒に歌を歌うだけで昔のような恋心が復活するので意味が分からない。また、妻に平手打ちされたことに怒った男が妻のお尻を何度も叩きまくるシーンがあり、椅子に座れないほど彼女は痛がるが、ギャグだとしても趣味が悪いと思った。最終的に前妻は「主人の足下に手を置くのです 従順の証として」と歌い男に跪いて終わるので、ヨリを戻してもまた男に殴られるんだろうなあと思った。ちなみに原作はシェイクスピアの『じゃじゃ馬馴らし』で、こちらも夫が妻を「調教」するために食事を与えず眠らせないなどのシーンがあり嫌である(『じゃじゃ馬馴らし』ちくま文庫、p138、p149)。
2.0『ホワイト・クリスマス』(1954/米)マイケル・カーティス
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ダニー・ケイが女性にいきなり「君達は家庭や子供に興味ある?」と質問するのは怖いが、彼女たちも「YES」と普通に答えていて変である。クロスビーも「家庭や子供を持つ気のない女」を批判しており、家庭的な女性を賛美するメッセージがクドい。また、ダニー・ケイは色男で今までヴェラ=エレンの手を握ったりしていたくせに、彼女に迫られた途端にウブになるのもキャラが定まっていない。戦時中1500人の部下がいた将軍が失業軍人として落ちぶれていたりとか、いい味を出す脇役はいるが、主人公達に感情移入できず楽しめなかった。
2.0『略奪された七人の花嫁』(1954/米)スタンリー・ドーネン
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一足先に結婚できた長男のアドバイスで、弟6人は古代ローマ人のように略奪結婚をする。もちろん、過去に略奪結婚で幸せになった夫婦もいるのだろうが、それは古代の話であるし、19世紀とはいえ6組全ての略奪結婚がハッピーエンドになるのはおかしい。ここには女は無理矢理ものにしてしまえばいいというマッチョな思考を感じて気分が悪くなった。私は近代的価値観は基本的に守った方が良いと思っているから、前近代のやり方を美化する人々には共感できない。また、主要登場人物が単純計算で14人居るがそれぞれの人間性を浮き彫りにしているとは思えない。
2.0『喝采』(1954/米)ジョージ・シートン
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酒に溺れた落ち目のスター俳優ビング・クロスビーが主人公。彼は自動車事故で息子を失っているが、息子の思い出は劇中では短くフラッシュバックされるだけで物足りない。もっと当時のことを長尺で振り返り、息子がどういう子供だったのかを描写してもらわないと感情移入が出来ない。また、クロスビーから酒を遠ざけようとする妻(グレース・ケリー)を、舞台演出家が「なぜ(夫の)底まで管理したい」のだと非難し、「(あなたは)怪物に見える」とまで言うが、これはアル中の夫の妻としてむしろ手ぬるいくらいで、妻を責める演出家に腹が立った。終盤でようやく演出家が妻に心を開くが、彼は事情が分かったとたん妻にクロスビーを世話するよう頼むなど都合が良く、しかも彼女のことを「怪物に見える」と言ったことへの謝罪はない。またなぜか演出家は妻にキスをするが、妻は妻でキスをされて「女として見られたのは久しぶり」と急にしおらしくなるのでこのシーンはバカが考えたと思う。ラストはクロスビーがアル中から抜け出してハッピーエンドというものだが、現実にはアル中がそんな簡単に治るはずがないのは吾妻ひでおの『アル中病棟』などで伺える。
1.5『グレン・ミラー物語』(1954/米)アンソニー・マン
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スウィング・ジャズの代表的なミュージシャンであるグレン・ミラーの伝記映画だが、物語が凡庸である。ミラーの恋人(役;ジューン・アリスン)も気が強いのかと思ったら自分を主張することが全然なく魅力的じゃないし、恋愛描写も物足りないまま二人は結婚する。ミラーが戦争協力をしたり(それ自体が悪いとは言わない)、戦争中に消息を絶ったりしたことを称えるために映画に過ぎないのではないか。実際、映画が盛り上がるのは最後の悲劇しかない。
1.0『スタア誕生』(1954/米)ジョージ・キューカー
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1.0『ショウほど素敵な商売はない』(1954/米)ウォルター・ラング
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芸人一家ドナヒュー家の伝記映画だが、戦争を挟んでいるとは思えないほど華やかで苦労を描くシーンがほとんどない。家族愛をそれっぽく描いているだけで面白さが分からなかった。
1.0『フレンチ・カンカン』(1954/仏)ジャン・ルノワール
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ジジイの色男ジャン・ギャバンは、ショウの才能のある洗濯女を自分のものにするため、彼女のパウロという若い恋人から奪った。しかしギャバンは用が済んだら洗濯女を捨てるので可哀想だが、その洗濯女はパウロの元にも返らないので、パウロも可哀想である。全体的に、権力を持つモテジジイが人の人生をかきまわす話で不愉快だった。ギャバンは開き直り、「俺は平穏には暮らせない、そんなことをしたらダメになる」と自分が女に酷い扱いをするを正当化する台詞を吐くなど腹立たしい。他にも、女に振られて拳銃で自殺未遂をした中東らへんの王子が、すぐに回復して女とデートしているのはリアリズムに欠けているし面白くない。またダンスシーンでは、女達がスカートをめくって踊るフレンチカンカンで映画を盛り上げようとしているが、今を忘れて踊り狂えば良いというようなヤケクソなメッセージに読めるから得るものが無い。
0.5『ブリガドーン』(1954/米)ヴィンセント・ミネリ
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村人が一人でも外に出ると消滅してしまうという村が舞台で、外の世界に出て行こうとした村人を殺してハッピーエンドになるというかなり酷い話である。米国からやってきた旅行者ジーン・ケリーも、近代社会を捨てて200年前の暮らしをする楽園の住人となることに同意するが、これは現実逃避的な後ろ向きの決心である。前近代的な息苦しいムラ社会を肯定している反動的な内容で全く共感できない。
0.5『ナポリの饗宴』(1954/伊)エットレ・ジャンニーニ
(イメージ無し)
オムニバス形式の典型的な失敗
ナポリにまつわる伝説や民話を10分強で繋いでいくオムニバス構造だが、個々の短編が面白い訳でもないし、それが響き合って長編として面白いということも全くない(そもそもオムニバス映画が長篇として面白いことなどほぼ全くありえないと思うが)。第一次大戦や第二次大戦など、むりやり政治を絡めようとしている姿勢も面倒臭い。
0.5『カルメン』(1954/米)オットー・プレミンジャー
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メリメの小説『カルメン』自体が私には面白くないので、映画化しても退屈だった。原作同様、「女なんてもんは男の人生を狂わせるんだ」という女性への嫌悪感が伝わってきて楽しくないし、ラストで男が女を殺すシーンもただ女が可哀想なだけに見えた。オール黒人キャストということだが、政治的な主張も特に見られないので何のために黒人を使っているのか分からない。ちなみに奇妙なことに、オール黒人映画であるが色の薄い黒人と色の濃い黒人のうち、悪役は色の濃い黒人達が務めているからそれはそれで差別である。
9.5『マイ・シスター・アイリーン』(1955/米)リチャード・クワイン
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ベティ・ギャレットはこれまで『水着の女王』(1948年)、『私を野球に連れてって』(1949年)、『踊る大紐育』(1949年)など美人ではないが男に積極的にアタックして結婚を勝ちとる強かな女を演じていたが、このベティ・ギャレットはモテなくて男性不信になるなど哀愁があり、思わず応援したくなるほどはまり役である。自分のことが好きらしいと感じているジャック・レモンにさえベティがつれない態度をするのは、彼女の繊細な心情が表現できている証であり面白い。また、ギャレットの妹役ジャネット・リーに惚れるボブ・フォッシーの冴えないおどおどした感じも面白いし、始めは全然気にかけなかったジャネット・リーだが次第にフォッシーの気持ちに気付いていく所も魅力的に描かれている。音楽や歌も楽しめるし、人間の心情や葛藤も丁寧に描かれているし、あまり知名度がない映画のようだが傑作である。
ただ一つ納得できないことに、ベティ・ギャレットが港で取材しようとした水兵達が家までついてきて姉妹の部屋に押し寄せててんやわんやの騒ぎになるシーンがあるが、まったく強引な展開で笑えもしないし、物語とも関係なく無駄であった。なぜ今までいい雰囲気だったのにそれを壊すようなシーンを挟んだのか理解に苦しんだ。そこがなければ満点でも良かった。
5.5『足ながおじさん』(1955/米)ジーン・ネグレスコ
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億万長者で、34の会社の社長であるフレッドアステアは「恋に鈍くなった男」を自称していて、孤児のレスリー・キャロンが自分に惚れていると確信が持てずに部屋をウロウロする所は好感が持てる。書簡形式である原作小説(ウェブスター『足ながおじさん』)とは違い、足ながおじさんことアステアの人となりが描かれていて共感しやすかった。ただレスリーを大学にやったあと、アステアがそのことを忘れているのは不自然だと思う。レスリーはたくさんアステアに手紙を送っているのに、アステアが初めて読んだのは2年後で、足ながおじさんというあだ名が付けられているのもそこで知ったというが、関心がなさ過ぎるし酷いのではないか。また、終盤のレスリーが夢の中で踊るバレエは、あからさまな精神分析の焼き回しで、大げさで野暮ったく見えた。
3.0『わんわん物語』(1955/米)ジャクソン、ラスク、ジェロニミ
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雌犬レディが可愛いし、昔「店」で歌っていたという別の雌犬にも色気がある。そんなレディが路地裏で猛犬に追い回された時、野良犬トランプが助けに来て猛犬たちを追い払うが、その方法が単純に喧嘩なのは捻りがないしマッチョ過ぎる。私としては頭を使いながら敵を追っ払う場面もほしかった。一方で保健所の中にいる犬たちが悲しい歌を歌う場面は良かったが、その後その野良犬たちどうなったのかは一切描かれていないので拍子抜けした。またレディにはエゴがなく自分を主張しないし、彼女が歌う場面も少なくて存在感がないので、全体的に物足りない映画だという印象を受けた。
ちなみに『わんわん物語』を作るまでの経緯だが、ディズニー映画『ふしぎの国のアリス』(1951)は当時興行的に失敗していて、さらに批評家にはルイス・キャロルの原作小説を再現していないと批判されたので、ウォルト・ディズニーは自分の思うように脚色できない作品には手を出すまいと誓い、『わんわん物語』など原作のないアニメ映画を作るに至った(ボブ・トーマス『ウォルト・ディズニー 創造と冒険の生涯 完全復刻版』p237)という。
2.0『野郎どもと女たち』(1955/米)ジョゼフ・L・マンキーウィッツ
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不良やヤクザを更生させようとする救世軍の女軍曹サラはかわいいと思うが、物語に起伏がないので90分くらいならともかく2時間半は長い。キリスト教により大人のヤクザ達が改心するというのも現実にはありえない平凡な宗教プロパガンダであり、宗教で救われた経験の無い私には共感できなかった。
1.5『愛情物語』(1955/米)ジョージ・シドニー
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エディ・デューチンという実在する音楽家を主人公にしているが、彼は資産家の姪の目にとまり、仕事も恋愛もとんとん拍子に上手くいくだけで楽しくない。また、エディにピアノを教えて貰った(おそらく)フィリピン人の4・5歳の子供が、自分の方からエディにキスをする場面があるが、アジア人でそんなことをすることはあり得ないと思う。終盤、エディは別居していて何年も会っていなかった息子と一緒に生活するようになるが、当初そこには溝が出来てギクシャクしていたのに、音楽で交流したりするうちにすぐに溝が埋まってしまう。いくら主人公が音楽家だとはいえ、人間関係の修復が簡単に音楽でなされるわけはなく、音楽を過大評価した機械的な展開でドラマがない。最後エディは白血病で早死にすることが匂わされるが、所詮お涙頂戴ものに過ぎないという印象をうけた。
1.5『オクラホマ!』(1955/米)フレッド・ジンネマン
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主人公カーリー(ゴードン・マクレー)は、なぜかヒロインのローリー(シャーリー・ジョーンズ)の一族とは「結婚しない」と冒頭で明言したと思ったら、カーリーとローリーはすぐ2人で楽しそうに歌うので情緒不安定なのかと思った。また、カーリーはモテ男で三角関係となり、ローリーに嫉妬されるが、バックボーンが描かれない人物の三角関係を見ても共感できないし、男が嫌な奴という印象しかない。また、ローリーをめぐってカーリーとジャッドが戦う夢の中のバレエシーンがあるが長く、退屈に感じた。
『オクラホマ!』は、その後多くの傑作を生み出すことになる作曲家リチャード・ロジャースと作詞家オスカー・ハマースタイン2世の初顔合わせ(スタンリー・グリーン『ハリウッド・ミュージカル映画のすべて』213p)という歴史的なミュージカルを映画化したものだが、つまらないものはつまらないとしか言えない。
1.0『七変化狸御殿』(1955/日)大曾根辰夫
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木村恵吾の『狸御殿』シリーズと同様に『シンデレラ』を模したメルヘンで、主役は美空ひばりだが、放射能の雨にやられないようにするという政治的なテーマが絡んできてストーリーがゴチャゴチャしているし、また何となくリベラルっぽいことを言っているだけで実のある政治的な意見があるわけでもなくてつまらない。カタコトの言葉をしゃべるキャラも何人か出てきて聞き取りにくくイライラした。加えて、狸族に理解のある女コウモリのお誘が父親に斬り殺されるのは可哀想である。
1.5『王様と私』(1956/米)ウォルター・ラング
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英国から家庭教師にやってきたデボラ・カーは、タイの王様に男女の平等を唱えるが、しかし王制や身分制には触れず身分の平等は唱えない。目先の差別にだけ噛みつき、大元の身分差別を無視するのはエセフェミニズムの典型である。また、家庭教師に感化された王は「奴隷制は良くない」というが、では王制はどうなのか。奴隷だけやめたところで王族がある限り身分制は存続するので偽善である。加えて英国の家庭教師は、偉そうなことを説く前に英国が世界中を植民地化したことを反省したほうがいいのではないか。
1.5『上流社会』(1956/米)チャールズ・ウォルターズ
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1940年の映画『フィラデルフィア物語』のミュージカル版だが、これは1940年版のキャサリン・ヘプバーンの方が格好良くていい。ルイ・アームストロングが狂言回しのように観客に語りかけるが、物語に絡んでこないのでジャズファンのためのサービス程度の意味しか見いだせない。1940年版を下回っていると私は思うが、1956年の映画で興行成績が1位だった(スタンリー・グリーン『ハリウッド・ミュージカル映画のすべて』221p)というのは信じられない。クロスビーやシナトラの顔合わせが話題になったのだろうか。
1.5『ベニイ・グッドマン物語』(1956/米)ヴァレンタイン・デイヴィース
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ベニー・グッドマンの伝記映画だが、筋は平凡。彼は良家の娘アリスと付き合うが、母に反対される…と思ったらすんなり結婚を許す。対決をちゃんと描かないのでドラマもなくつまらない。この時代に量産された音楽家の伝記映画の駄作の一つである。
1.0『回転木馬』(1956/米)ヘンリー・キング
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回転木馬の呼び込みをやっている主人公ゴードン・マクレーは、「俺には女が何人もいるんだぞ」と自慢をする嫌な色男だが、そんな男になぜか大した理由もなくシャーリー・ジョーンズが惚れるので序盤からもうついていけない。シャーリーはゴードンの昔の女の思い出を嬉しそうに聞きたがるのだが、そういう事って普通女性は聞きたくないのではないかと疑問に思った。また原作の戯曲『リリオム』でも同様に、ゴードンは暴力的なところがあるが、ぶたれた妻や娘が「(愛している人にぶたれるのは)痛くない」と嬉しそうに言っているのは怖い。この映画は128分あり、主人公に魅力を感じなかった私にはかなり長く感じた。原作小説もつまらなかった。
7.5『野ばら』(1957/独)マックス・ノイフェルト
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ウィーン少年合唱団の寮母のマリアが何と言っても美人で、難民の少年ト二とシュミットという若い先生がそれぞれ彼女に思いを寄せていくさまは楽しめた。トニに役を奪われた少年が、はじめは意地悪だがだんだん和解していくプロセスもしっかり描かれている。私は女性が好きだから美少年達の寮生活に関心は無いのだが、人間ドラマに重点を置いていているので共感できた。もっとも、トニが橋から落ちて意識を失ったとき、皆が宗教音楽アヴェ・マリアを歌うことでトニが回復するというオチは宗教プロパガンダなので納得できない。
5.5『パジャマ・ゲーム』(1957/米)ジョージ・アボット、スタンリー・ドーネン
The Pajama Game / パジャマゲーム [Import] [DVD]
- 出版社/メーカー: Warner Home Video
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すぐに恋愛感情を認めないドリス・デイはいいが、「愛にもてあそばれたことはない」というモテ男の主任シドはムカついたし、その主任に嫉妬するナイフ投げの男が社内でナイフを投げてくるギャグがしつこく笑えなかった。また、パジャマ工場で働く従業員達が賃上げを要求してストを行い、要求が通るか通らないかという駆け引きが話の軸になり、最終的に会社は「賃上げは認めるが過去はさかのぼらない」という妥協案を示し、それを聞いて従業員達は「勝ったのよ」と喜んで踊るが、私には最終的に勝ったのは会社だと思うから従業員達が白々しく見えた。
5.0『パリの恋人』(1957/米)スタンリー・ドーネン
- 出版社/メーカー: パラマウント ジャパン
- 発売日: 2006/04/21
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冴えないが知的な本屋の女性オードリー・ヘプバーンはいいのだが、カメラマンのフレッド・アステアが恋人でもないのにすぐオードリーにキスをするのが腹立つし、年上の洒落た男が冴えない若い女をたぶらかしているだけに見える。また、オードリーがハマっているという「共感主義」という哲学は学問でも何でもないパチ物で、英語の出来ないフランス人に英語で話しかけて「言葉が分からなくても声の調子などで共感できれば分かる」とかいうレベルのもので、もちろんそんなことは不可能でオカルトである。ただ、「共感主義」を唱えたフロストルという教授にオードリーが実際会ってみると、彼女のことを狙う思慮の浅い男だったことが分かり失望するというオチはオカルト批判に読めるので良い。
ところでこの映画の原題は「ファニー・フェイス」(変な顔)で、アステアも「オードリーは変な顔だがかわいい」という歌詞を歌うなどオードリーが美人でないことを前提としている映画なのだが、私はオードリー・ヘプバーンは普通に美人だと思うから共感できなかった。
3.0『監獄ロック』(1957/米)リチャード・ソープ
- 出版社/メーカー: ワーナー・ホーム・ビデオ
- 発売日: 2011/12/21
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エルヴィス・プレスリーの映画初出演作品で、瑞々しいながらも存在感があり、この後彼がたくさん映画に出ることになったのも納得する。プレスリーは喧嘩をふっかけてきた相手を殴り殺して服役するが、強盗で先に服役していた歌手の男に「前科コンビは話題になる」と持ちかけられタッグを組む。しかし、前科を逆手にとって売れようとする考え方には共感できない。その後もしばらくは、彼らが更正するようなシーン、反省するシーンは描かれないので不快に思った。ただ、最終的にはプレスリーは更正するので『シカゴ』(2002年)のような最後まで殺人を反省しない反社会的なミュージカル映画よりはマシだろう。ところでこの映画でも、男が女に無理矢理キスをしすることで、自分に気のなさそうだった女が一気に男に夢中になるシーンがあるが、キスをしとけば女は落ちるに違いないという考えは女性蔑視で嫌である。
3.0『絹の靴下』(1957/米)ルーベン・マムーリアン
- 出版社/メーカー: ワーナー・ホーム・ビデオ
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『ニノチカ』(1939年)のミュージカル化。つまらなくはないが原作の『ニノチカ』の方が無駄がなくて面白いしグレタ・ガルボの方が格好良いと思えるから『絹の靴下』は見劣りする。また、アステアの自信満々でプレイボーイのような役柄があっていない。ただ、『絹の靴下』というタイトルなだけあって下着とストッキングで踊る姿はエロくそこは良かった。
2.5『渇き』(1957/印)グル・ダット
- 出版社/メーカー: 紀伊國屋書店
- 発売日: 2011/02/26
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『渇き』は評論家の蓮實重彦が誉めすぎていて評価がおかしくなっている。蓮實は「グル・ダットは天才であり、『渇き』は傑作である。この歌謡映画を見て背筋に震えが走らなければ、あなたは映画とは無縁の存在だ」(「季刊リュミエール12 1988夏」)と言っているが、蓮實に媚びたい人々は彼に「あなたは映画とは無縁の存在だ」などと絶対に思われたくないので、つまらなくてもこの映画を誉めないといけないと思い忖度して過大評価してしまうのだ。
いや確かにこの映画には楽しい曲はあるし(ジョニー・ウォーカーの曲など)、1950年代のインド映画の職人性を表しているが、メッセージ性に問題がありすぎる。この映画は世間から理解されない詩人が主人公で、監督のグル・ダット自らが演じているが、芸術の価値を分かろうとしない世の中の方が悪いと逆上し、「こんな世界を得てもいったい何になる この世を燃やせ吹き飛ばしてしまえ 燃やしてしまえ」とラストで歌い上げるところなどは宗教テロリストと同じである。グル・ダットは実際に芸術至上主義者っぽくて、この映画を取り終えた7年後に39歳で自殺するが、まさに『渇き』は芸術をこじらせた人間が死にたくなっているだけの暗い映画であり、私が20歳くらいなら凄いと思っただろうが27歳の今では全く心に響いてこなかった。また、主人公の価値観は詩が一番ということになっているから、女は出てきても「男の詩を理解する」という役目しかなく主人公の添え物に過ぎず、女キャラが生き生きしていなくて恋愛映画としても楽しめなかった。
1.0『夜の豹』(1957/米)ジョージ・シドニー
- 出版社/メーカー: ソニー・ピクチャーズエンタテインメント
- 発売日: 2006/12/20
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キム・ノヴァクはシナトラを嫌っている風だったのに、ショーの出し物としてシナトラに抱きつかれながら愛の歌を歌われただけで「素敵」と惚れるのは意味が分からない。また、クラブの資金を得るためにリタ・ヘイワースに金目当てで近づき口説くと、彼女もシナトラに惚れていくという展開になり頭が痛くなった。
0.5『嵐を呼ぶ男』(1957/日)井上梅次
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石原裕次郎は喧嘩っ早く、ギターを振り回して物をぶっ壊すが、それをみた女達が「いい男」と感動していてのっけから腹立たしい。裕次郎は「(ドラムの)スティック持ってると喧嘩してる時みたいにウキウキするんだ」と言うが、喧嘩をするとウキウキするという脳はヤバいだろう。彼の歌う歌詞も「おいらはヤクザなドラマー」「浮気なドラマー」と耳を疑う。またこの映画は美人マネージャーの北原三枝に「女って近くに居る男の人をすぐ好きになるものなのよ」と言わせているが、私は近くに居る女性に全然好かれないのでここも全く共感できない。ラストで裕次郎は、音楽活動にずっと反対していた母親となんとなく和解するが、裕次郎自身がこの映画を通して何か反省や成長をしたとは思えず、この後も暴力を振るい続ける犯罪者予備軍だとしか思えない。
0.5『女はそれを我慢できない』(1957/米)フランク・タシュリン
再起を図るギャングを見たくない
落ちぶれたギャングの親分と部下だった男が、美女をスターに仕立て上げることでもう一度金儲けを企む話だが、ギャングに再起を図られたらたまらないので不快である。しかも美女がギャングの部下に惚れるが、ギャングという犯罪者達の何がいいのかさっぱり分からない私には何も共感する要素がない。最終的にヤクザ達は幸せになるが何の感動もしない。また、ロック歌手がショーで歌う場面が多いが、そういう歌を聴きたい人向けの映画である。ところで、ジェーン・マンスフィールドの、胸が強調されすぎておっぱいが前方に突き出ている服が奇妙であった。
7.0『恋の手ほどき』(1958/米)ヴィンセント・ミネリ
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恋愛に積極的ではなかったレスリー・キャロンの内面に、恋心が芽生え育っていく過程が丁寧に描かれている。レスリーが有名人のルイ・ジュールダンに求婚されたときも、彼のことが好きではあるが有名人の妻になることに抵抗がある、という葛藤がまた面白い。ただ、原作は短編小説でありあっさりしているからか(コレット「ジジ」)、後半は物語に起伏がなく単調である。終盤でルイ・ジュールダンがレスリーに冷たくなるシーンがあるが、なぜ冷たくなったのか説明がなく共感できなかった。
4.0『南太平洋』(1958/米)ジョシュア・ローガン
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有色人種の女が白人男にすぐ惚れるように出来ていておかしい。中尉のジョン・カーがバリ・ハイ島にやってきて、リアットという現地の娘と急に抱き合いキスをするのも意味が分からない。私は白人だからといって特別惹かれないので、彼女たちが簡単に白人に惚れる心理には全然共感できない。ただ白人看護婦ネリーが、人種差別は良くないと頭では分かっていても白人がポリネシア人と結婚していたと知ってショックを受けるというシーンは、人種差別や偽善に悩む白人の姿がリアルに描かれていてそこは良かった。
3.5『ひばり捕物帖 かんざし小判』(1958/日)沢島忠
- 出版社/メーカー: TOEI COMPANY,LTD.(TOE)(D)
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美空ひばりが格好良くて、浪人の東千代之介にも簡単になびかないから、どう恋愛が展開されるのかとワクワクしたが、物語は殺人事件の事件解明に重きが置かれているため後半はほとんど恋愛描写はなくなり、最終的に二人が結ばれたのかどうかも分からないからガッカリした。ひばりは姫という身分なので、浪人と結ばれるラストを描くのが面倒でやめたのかもしれないが、だったら最初からひばりの身分を下げてくれと思った。また、ひばりの手下の堺駿二が大名に扮したとき、「頭が高い」と平民達をひれ伏せさせて悦に浸り喜んでいるのも気持ちが悪いと思った。人間を生まれで差別することがそんなに嬉しいことな訳がない。
1.5『くたばれ!ヤンキース』(1958/米)スタンリー・ドーネン
- 出版社/メーカー: ワーナー・ホーム・ビデオ
- 発売日: 2005/07/01
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冒頭の野球狂の夫とそれを嘆く妻の掛け合いの歌は面白いが、悪魔と契約し女が誘惑しに来るなど、物語はただのファンタジーである。また、マッチョな男性のヌードが観たくて球場に来た女性記者がいるが、男の肉体の良さが分からない私としては少々気味が悪い。というか、この映画はマッチョな男が自分の欲望を映像化しているだけなんじゃないかと思った。悪女が男を誘惑するシーンなどもよくある女性嫌悪の展開であり嫌である。
4.0『お染久松 そよ風日傘』(1959/日)沢島忠
- 出版社/メーカー: 東映ビデオ
- 発売日: 1995/12/08
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美空ひばりと里見浩太朗はすぐには恋仲にならず、恋愛への過程が丁寧に描かれているのでいい。ただ、この映画では美空ひばりが一人二役だが、里見浩太朗の恋人が美空ひばりで、里見の田舎の許嫁も美空ひばりという全く理解できない配役で、別の女優が演じれば良いし、そもそも許嫁など出さなくてもひばりと里見との身分の違いによる恋の話に焦点を当てて話を作ればいいのでこのやりとりは丸々いらないと思う。またこの映画の冒頭とラストには、キャストが人前で芝居をするというメタフィクション的なシーンがあるが、面白くないので蛇足である。
3.0『5つの銅貨』(1959/米)メルビル・シェイブルスン
(イメージ無し)
家庭を離れることを悪いように描く
コルネット奏者レッド・ニコルズ(役;ダニー・ケイ)の伝記映画だが、無名の時代からすぐ女とイチャイチャでき、ボビーという女と恋に落ちるので私にはついて行けない。彼らが家庭を持った後、娘を親元から離して寄宿学校(寮)に通わせていると娘が小児麻痺にかかるのだが、「寮に入れなければ病気にならずに済んだのに」とあたかも家庭を離れた罰を受けたかのように描いている。もちろん、その寮では子供の面倒をちゃんと見ずに放任していて、雨の日でも外で遊ばせていたようだから非はあるが、それはその寮がたまたま悪かっただけで〈寮=悪〉という一般論にはならない。またもしレッド・ニコルズ夫婦が自宅で娘を育てていたとしても小児麻痺になったことは十分考えられる。このシーンは明確に「家庭が一番」というイデオロギーを体現しているが、一番可哀想なのはイデオロギーに小児麻痺を利用されている娘本人ではないか。
ところで、幼少期の娘ドロシーは可愛くて、病気が本当に辛そうだし、父親と対立して関係がギクシャクするところもちゃんと描かれているから面白かったが、成長してからのドロシーがあまり父と喧嘩しなかったので物足りないまま終わった。
1.0『眠れる森の美女』(1959/米)ケン・ピーターソン
眠れる森の美女 ダイヤモンド・コレクション MovieNEX [ブルーレイ+DVD+デジタルコピー(クラウド対応)+MovieNEXワールド] [Blu-ray]
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姫は生まれてから全く画面に登場せず16年経過し、そのあと王子と出会ったと思ったらすぐ悪の女王に眠らされてしまうので、姫が全然活躍しないし彼女の人間性が伝わってこない。王子は王子で全然喋らないので心境が分からない。この映画の主人公は結局のところ3人のおばさんの妖精で、王子を助け出すのも悪の女王にとどめを刺すのもおばさんの妖精である。
ところでおばさん妖精は、魔法で街の人々を全員眠らせるが、悪の女王よりそっちの方が恐ろしいと思う。