大類浩平の感想

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1945年-1959年のミュージカル映画(100本)

点数(10点満点)『映画タイトル』(制作年/制作国)監督名
(同年の映画は点数順に並んでいます。
 ネタバレもしていますがご了承下さい。)

6.0『アメリカ交響楽』(1945/米)アービング・ラッパー

アメリカ交響楽 [DVD] FRT-030

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 伝記映画の中ではマシ
 作曲家ジョージ・ガーシュウィンの伝記映画で、『ヤンキー・ドゥードゥル・ダンディ』(1942年)が大変な成功を収めたのでワーナーが続けて発表した伝記映画だが(スタンリー・グリーン『ハリウッド・ミュージカル映画のすべて』145p)、『アメリカ交響楽』は主人公のことを幼少期から丁寧に追っており面白い。
 ただ全体的に演奏するシーンが多すぎて物語が希薄になっている。恋愛描写も丁寧でないのに、それでいてガーシュウィンが二人の女に惚れられるので感情移入は出来なかった。


6.0『錨を上げて』(1945/米)ジョージ・シドニー

 戦争に勝つ国の余裕
 フランク・シナトラのなよなよした感じが面白く、140分近くあるがそんなに飽きなかった。ただ警察が水兵を連行するなど強引な展開は多いので完成度は高くはない。
 ところで『錨を上げて』は戦争中中の1945年7月に公開されたミュージカル映画だが、日本の戦時中の映画は『五人の斥候兵』(1938年、田坂具隆監督)など禁欲的なイメージがあるが、米国の戦争プロパガンダ映画はエンターテイメント精神を忘れておらず、『錨を上げて』なんて休暇を貰えた水兵がウキウキとデートする話なのだから、戦争に勝つ国の余裕が見えた。
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5.0『ステート・フェア』(1945/米)ウォルター・ラング

 ディック・ハイムズは面白い
 ジーン・クレインは美人だと思うがプレイボーイな新聞記者がキザすぎて二人の恋愛が楽しめなかった。またジーン・クレインの弟役のディック・ハイムズのモテない感じは面白いが、最終的にハイムズとヨリを戻し結婚することになった元恋人は、一体どういう人物なのか劇中で一切描写がないのでガッカリした。


2.0『今宵よ永遠に』(1945/米)ヴィクター・サヴィル

(イメージ無し)
 戦意高揚のためのバッドエンド
 「団結していることを世界に知らせるため」という歌詞が歌われるように、映画の力点が戦意高揚に置かれている反面、物語や人間を描いておらず物足りない。リタ・ヘイワースの友人たちが空襲で死に、最後に彼女が泣きながら歌を歌うのは、あえてバッドエンドにすることで観客に怒りを催させる戦意高揚の仕掛けであろうが、それまでの人物像がイマイチなので急に死なれても悲しみや怒りはこみ上げなかった。
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1.0『アラスカ珍道中』(1945/米)ハル・ウォーカー

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 笑わなかった
 珍道中シリーズ第四作。ナレーション自体がどんどんボケてくるがほとんど笑わなかった。
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1.0『ヨランダと盗賊』(1945/米)ヴィンセント・ミネリ

ヨランダと盗賊 [DVD]

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 ついていけない宗教心
 前まで修道院にいたヨランダ(役;ルシル・ブレマー)は、莫大な遺産を継いだ後も夜な夜な守護天使像に話しかけるほど心神深い。そんな習慣につけこんだ盗賊のアステアは、ヨランダに電話をかけて自分のことを守護天使だと偽り、「神の姿のままでは会えないから旅行者の格好で行く」と伝えると彼女は喜ぶ。しかし、いくら信心深いとはいえ少女でもないのにそんなことを信じるのだろうか。設定にリアリティが感じられず、ヨランダの狂信的とも言える宗教心に私はついていけず気味が悪かった。終盤で「本物の」守護天使が登場し、ヨランダとアステアを結婚させるために大水で橋を流したり電車をバックさせたりするが、他の人にはいい迷惑である。
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7.0『ブルー・スカイ』(1946/米)スチュアート・ヘイスラー

ブルー・スカイ [DVD]

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 ぶつかり合いが足りない
 片思いをするアステアは面白く、共感できた。全体的に静かなトーンで、それは別にいいのだが、友人とはいえ恋敵であるはずのクロスビーに対してアステアが理解がありすぎると思った。一度くらいは両者が激しくぶつかりあう場面があればもっと良かった。
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6.5『南部の唄』(1946/米)ハーブ・フォスター、ウィルフレッド・ジャクソン

南部の唄(日本語吹替版) [VHS]

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 ディズニー初の本格的な実写
 制作費を減らすためにアニメのシーンを減らして俳優に演じさせた結果(ボブ・トーマス『ウォルト・ディズニー 創造と冒険の生涯 完全復刻版』p222)、ディズニー初の本格的な実写映画が生まれた。黒人リーマスおじさんと少年との交流は面白く、本国では黒人に対して人種差別的だと批判されているようだが全然そうは思わなかった。ただ、挿入されているアニメーションではキツネのデフォルメされた嫌なやつっぷりがしつこいし、ウサギもあまり可愛いくない。


4.0『雲去り行くまで/雲流るるはてに』(1946/米)リチャード・ウォーフ、ヴィンセント・ミネリ

 マニア向けであることを脱し切れていない
 作曲家ジェローム・カーンの伝記映画。ジェローム・カーンは「アメリカで生れ、アメリカ的な曲を書いた最初の作曲家であり、ガーシュインやロジャースに影響を与えたという点で、カーンを現代ミュージカルの創始者とするのに異論を唱える人はいない」(芝邦夫『ブロードウェイ・ミュージカル事典』、p35)というが、どんなに重要な人物だとしても映画としての面白さとは別であるので冷静に内容を判断する。
 冒頭からドキュメンタリーのように「ショウ・ボート」の舞台が流れる。140分と長いわりに物語は淡々としていて、カーンも恋人とあっさり結婚するので盛り上がらない。ジュディ・ガーランドフランク・シナトラが歌うシーンもあるが、今ひとつマニア向けの映画であることを脱し切れていない。ただ、カーンは自分の師匠の娘サリーがショウに出るからといって特別扱いせず、そのためにサリーと喧嘩になるシーンにはドラマがあり良かった。


2.0『マルクス捕物帖』(1946/米)アーチー・メイヨ

マルクス捕物帖 [DVD]

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 笑えなかった
 『カサブランカ』のパロディで、原題は『A Night in Casablanca 』である。しかし私にとって元ネタの『カサブランカ』をどれだけ引用できているかはあまり関係の無い話で、終盤のクローゼットでのギャグを除くとあまり笑えなかった。
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1.5『ハーヴェイ・ガールズ』(1946/米)ジョージ・シドニー

ハーヴェイ・ガールズ [DVD]

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 ゴロツキに偏見を持つのは当たり前である
 結婚相手を探すためにオハイオ州から電車で西部にやってきたジュディ・ガーランドは、酒場で粗野なごろつきに嫌がらせをされたので、仕返しに拳銃を二丁携えて再び酒場に乗り込み発砲するが、ガーランドは一見大人しそうに見えるのに行動が思い切りすぎていてついて行けなかった。また、ガーランドは結局ゴロツキの酒場のオーナーにキスをされることで二人の間の距離は一気に縮まってしまうが、キャラにも合わないし恋愛の描写もすっとばしているしで面白くない。もっと人間の葛藤や心の道筋が観たかった。ラストでは、ガーランドがならず者たちに「あなたたちに偏見があったかもしれない」と謝るが、拳銃を持ったゴロツキ達に偏見を持つのは当たり前だから謝る必要は全くないだろう。
 ただ西部にやってきた人々の胸の高揚が歌と踊りにうまく表現されているとは思った。
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1.5『ジョルスン物語』(1946/米)アルフレッド・E・グリーン

 誠実さに欠ける伝記映画
 歌手アル・ジョルスンの伝記映画であるが、「映画はジョルスンとその3番目の妻ルビー・キーラーのロマンスを重要なテーマにしているが、話としては最初の妻とし、名前もジュリー・ベルスンに変え」(スタンリー・グリーン『ハリウッド・ミュージカル映画のすべて』153p)ているなど、伝記としての誠実さに欠ける。ストーリーは『ジャズ・シンガー』(1927年)に似ているが、親との対立はあまりなく平和である。歌を歌う場面が多く、ストーリー自体に起伏がなくて面白くない。


1.5『ジーグフェルド・フォーリーズ』(1946/米)ヴィンセント・ミネリ

(イメージ無し)
 マニア向け
 舞台のプロデューサーであるジーグフェルドにゆかりのあるミュージカルスター達のオムニバスであり、大きな話の筋はないので基本的に退屈で、ギャグも笑えない。フレッド・アステアジュディ・ガーランドやレナ・ホーンが見たいマニア向けである。


1.0『夜も昼も』(1946/米)マイケル・カーティス

夜も昼も [DVD]

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 誠実さに欠ける伝記映画
 作曲家コール・ポーターの伝記映画だが、彼はバイセクシャルなのにそこが描かれていないので誠実さに欠ける。淡々としたストーリーで、妻とも相思相愛の一目惚れなので恋愛映画としての面白さもない。同じくコール・ポーターの伝記映画である『五線譜のラブレター』(2004年)では彼がバイセクシャルであることが描かれるが、しかしこちらの映画も面白くない。


7.0『地上に降りた女神』(1947/米)アレクサンダー・ホール

(イメージ無し)
 オチに不満
 女神テレプシコラ(役;リタ・ヘイワース)は、舞台監督のラリー・パークスが自分を下品な女神として描いていると怒り下界に降りてくる。ラリー・パークスと交流するうちにリタ・ヘイワースは「女神でなく人間でいたい」と人間の存在を肯定するので、カルト宗教的な内容ではなく無神論者の私にも楽しめる。とくに、リタ・ヘイワースが女神に戻ってしまい、人間達に話しかけても気付かれなくて無視される場面は『素晴らしき哉、人生!』(1946年)を彷彿とさせて泣ける。
 ただ、神の裁量で人の仕事を奪ったり競馬の勝敗を左右させたりするシーンでは、神が現実を変えていいのか?と疑問に思った。またオチだが、リタ・ヘイワースとパークスが天国で再会するシーンは宗教色が強く感動しなかった。私にとってはリタ・ヘイワースが人間となることを選び、パークスと一緒になるというラストの方が絶対に良かった。
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6.5『ポーリンの冒険』(1947/米)ジョージ・マーシャル

(イメージ無し)
 リアリズムがなく惜しい
 サイレント映画女優パール・ホワイト(1889-1938)の伝記的な映画で、彼女を演じるベティ・ハットンは生き生きとしていて、スタント無しでカーアクションや馬から列車に飛び乗ったりとかしていて凄い。ただ、パールが撮影の手違いで気球に乗ったまま遭難するというシーンがあって、これは映画のために用意された嘘のエピソードだと思うが、普通気球で遭難したらタダでは済まない。また、舞台での事故で落下し脊椎を損傷したパールは、恋人と約束したからとその日にデートをして映画にも行くが、重傷とは思えぬほど元気そうなので痛がるそぶりや表情くらいはしてほしい。伝記的映画にするならもっとリアリズムと誠実性が必要だと思う。
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2.5『愛の調べ』(1947/米)クレランス・ブラウン

愛の調べ [DVD] FRT-259

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 キャサリン・ヘプバーンに奥行きがない
 音楽家シューマン夫妻の伝記映画。クララ役のキャサリン・ヘプバーンが父親にシューマンとの結婚に反対されるのも束の間、序盤であっさり二人は結婚できるので、もっと時間を割いてドラマを増やしてほしかった。またキャサリン・ヘプバーンの役がいかにも古い貞淑な母といった感じで、キャラクターに奥行きが感じられなかった。


1.5『虹を掴む男』(1947/米)ノーマン・Z・マクロード

虹を掴む男 [DVD]

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 つまらない原作を無理に膨らましている
 出版社で校正係をしているダニー・ケイは妄想するのが好きなのだが、運転中に妄想して事故を起こしそうになるので、運転に集中しろと思った。また、妄想だか現実だか分からなくなった、という展開もコメディにしては笑いは弱いし、ドラマにしては人間が描かれない。原作の「虹をつかむ男」(ジェイムズ・サーバー著)は文庫本で12ページほどの短編にすぎなくてつまらなかったが、つまらない原作を無理矢理膨らましたところでつまらない映画にしかならないのが分かる。
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1.5『ニューオーリンズ』(1947/米)アーサー・ルービン

ニューオリンズ [DVD] FRT-232

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 ジャズ好きが見ればいい
 ルイ・アームストロングビリー・ホリデイなどが出演して歌う、ジャズの入門映画みたいなものだが、ジャズに興味の無い人に訴えかけるほど物語やキャラクターが面白くない。ジャズ好きが見ればいい映画、という枠に収まっている。


1.0『ダニー・ケイの牛乳屋』(1947/米)ノーマン・Z・マクロード

ダニー・ケイの牛乳屋 [DVD]

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 ボクシングの良さが分からない
 牛乳配達員ダニー・ケイの恋愛喜劇かと思いきや、ボクシングの世界チャンピオンを偶然KOしたということで脚光を浴び、ボクシング界に参戦するという突飛な展開になる。牛乳屋の設定が生かされていないし、ギャグもとくに笑えない。ちなみに私は人を殴るのは正当防衛に限ると思っていて、スポーツだとしても私は人を殴ろうと思わないから、ボクシングの面白さがそもそもよく分からない。
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0.5『南米珍道中』(1947/米)ノーマン・Z・マクロード

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 国際指名手配をした方がいい
 珍道中シリーズ5作目で、ビング・クロスビーボブ・ホープは出演していたショウをめちゃめちゃにして火事も起こしたが、そのままブラジルに逃げるので犯罪者である。国際指名手配をした方がいい。その後も「催眠術」などオカルトに頼って筋を進めるので捻りがなく、コメディとしても笑えなかった。
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8.0『踊る海賊』(1948/米)ヴィンセント・ミネリ

踊る海賊 [DVD]

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 恋愛も物語も楽しめる
 時は19世紀、持参金のない孤児であるジュディ・ガーランドは、噂に聞くマココという海賊のことを密かに思っている。そんな彼女に惚れたジーン・ケリーは彼女の気を惹くために自分が海賊マココなのだと嘘をつくが、彼が気の強いジュディ・ガーランドをものにできない様子は面白いし、さらにジーン・ケリーは国王代理や警察に本当に海賊だと思われ捕まるなど、物語の起伏もはっきりしていて楽しめる。私は海賊というマッチョな犯罪者に憧れる心にそもそも共感出来ないのだが、最終的にガーランドは海賊でないジーン・ケリーと結ばれる訳だから、彼女の犯罪者への幻想は打ち消されたと読めば納得できる。
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8.0『皇帝円舞曲』(1948/米)ビリー・ワイルダー

皇帝円舞曲 [DVD]

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 面白いが最後スッキリしない
 「私たちは一般大衆と違うの」と言う高邁な貴族のジョーン・フォンテーンに、市民階級のセールスマンであるビング・クロスビーが「おなじ血ばかりかけあわせているからおかしくなるんだ」などとかみついていくのは面白い。支配階級の皇帝もクロスビーとの対比が明確で、「我々と君たちは違う」とクロスビーを説き伏せる場面でも台詞に人間性が表われていた。ラストでジョーン・フォンテーンが「君主制 そんなものどうでもいいわ」と歌い上げクロスビーと結ばれるのは感動的だが、しかしもしこのままクロスビーが婿養子になるなら彼も貴族階級の仲間入りになるわけで、それでもなお彼らが君主制を批判するのか疑問である。最終的に身分を捨てたのかどうかは濁されスッキリしなかった。
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6.0『イースター・パレード』(1948/米)チャールズ・ウォルターズ

イースター・パレード [DVD] FRT-226

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 ドラマがあったのはいい
 ダンサーのフレッド・アステアは、自分とコンビを組んでいた女(アン・ミラー)が一方的に抜けてしまった復讐に、安っぽい踊り子(ジュディ・ガーランド)を自らの手でスターにしようと企てる。ガーランドが「私の人生を利用されるのは嫌」とアステアに怒るなど人間同士の対立やドラマが描かれていて良かった。しかしアン・ミラーが男を裏切った嫌な奴として描かれ、一方でアステアが可哀想な人として描かれるので女性嫌悪が伝わってきてそこは嫌であった。
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2.0『レディース・オブ・ザ・コーラス』(1948/米)フィル・カーソン

(イメージ無し)
 母と娘が対立してほしい
 60分ほどの低予算映画。マリリン・モンローは母親と共に踊り子としてショーをやっているが、二人ともかなり年が近いように見えるのでキャスティングに無理があると思った。序盤でモンローが「私はもう子供じゃないの」と母親に主張するので、母から独り立ちする娘の話かと思ったが、その後もずっと母を頼りにしているし喧嘩もしないので拍子抜けした。また、モンローに求婚した男に母が直接会って「バーレスクの女だと知ったらあなたの周囲は反対するのでは?」などと先回りして心配するが、これは逆に母親自身がバーレスクの女は恥ずかしい身分だということを告白してしまっている。自分のしている仕事にプライドがあればそんなことは言わないはずである。そんな母の矛盾を突いてモンローが母と対立すれば物語は面白くなるのだがそんな展開はない。
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2.0『ヒット・パレード』(1948/米)ハワード・ホークス

ヒット・パレード [DVD]

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 楽観的だが笑えない
 女慣れしていないダニー・ケイがヤクザの女であるヴァージニア・メイヨを好きになる様子は面白いが、結局はダニー・ケイが女に利用されているという構図なので、観客は「男が可哀想」で「女が悪い」という印象を受けるので女性蔑視的で不快である。ラストでは、ダニー・ケイ達は音楽を演奏することでマフィアを撃退するのだが、楽観的すぎてギャグだとしても笑えなかった。
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1.5『赤い靴』(1948/英)マイケル・パウエルエメリック・プレスバーガー

 なぜ女だけ酷い目に遭うのか
 恋愛はダメだとバレエのプロデューサーに忠告されている中、プリマドンナと作曲家の男が惹かれあっていくのだが、出会ってからしばらくは他人同士に見えていたのに、途中でいきなり恋に落ちているのは違和感があり、もっと丁寧に心の変化を描いてほしかった。ラストでプリマドンナに起こった事故は童話「赤い靴」のように悲劇にしたとしても、彼女にとってはあまりにも残酷で、しかもなぜ女性だけが酷い目に遭わなければいけないのか可哀想だし怒りを覚える。ダンスシーンには迫力があるが、内容が駄目すぎると思う。


1.5『ワーズ&ミュージック』(1948/米)ノーマン・タウログ

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 伝記として中途半端
 作曲家リチャード・ロジャースと作詞家ロレンツ・ハートの伝記映画であるが、ロジャースもハートもたいした恋愛のプロセスも無いまま女性と相思相愛になっていて私には楽しくない。またロレンツ・ハートはアルコールが手放せなくて「酒の飲み過ぎが原因で仕事への意欲を失ってしま」ったが(芝邦夫『ブロードウェイ・ミュージカル事典』、p30)、そういう描写は無くなぜ彼は若くして死んでしまったのかよく伝わってこない。伝記として中途半端で、それをカバーする面白さもない。
 ジュディ・ガーランドやレナ・ホーン、ジーン・ケリー、ヴェラ=エレンなどスターが本人役で出てくるが、だからどうしたという感じで、ミュージカルマニア以外に訴えかける決め手がない。


8.0『水着の女王』(1949/米)エドワード・バゼル

水着の女王 [VHS]

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 男女の掛け合いが面白い
 男をかわすエスター・ウィリアムズの振る舞いや、彼女に言い寄るリカルド・モンタルバンとの歌の掛け合いが面白い。また、冴えないレッド・スケルトンの滑稽な感じも面白く、そんな彼をベティ・ギャレットは(『踊る大紐育』や『私を野球に連れって』のように)積極的にものにしようとするが、ベティはそんなに美人ではないから許せる。レッド・スケルトンが身の上を偽っていたのを白状した時も、それでもベティは彼のことを好きで居続けるなど健気である。ただ、エスターが2回も仕事をすっぽかしてデートに行ったのにもかかわらず、職場からペナルティが無いなどリアリズムに欠けるところは冷めた。
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6.5『踊る大紐育』(1949/米)スタンリー・ドーネン

 楽しいが人間に迫れていない
 それまでスタジオ撮影が多かったミュージカル映画において、大規模なロケ撮影を行った先駆的な作品。ベティ・ギャレットはそんなに美人ではないからフランク・シナトラに惚れても見ていて楽しいのだが、美人な人類学者アン・ミラーに一目惚れされたジュールス・マンシンにはムカついてしまう。唯一恋愛がうまくいかない役割のジーン・ケリーも、相手のヴェラ=エレンと同郷だということで一気に距離が縮まってしまうし、実はヴェラ=エレンが見世物小屋の踊り子にすぎないことが判明した際もジーン・ケリーは変わらず彼女を愛し続けるという展開も、男の方が懐が深いのが伝わるだけでヴェラ=エレンの魅力が伝わらない。曲やダンスやギャグは楽しめるが、登場人物が多いためにそれぞれの人間性にまで迫れていない。
 ちなみにこの時は既に、フランク・シナトラの人気はマフィアとの付き合いなどで落ちており、「MGMは配役の順列を変え、ジーン・ケリーの名をフランクの上に掲げ」た(キティ・ケリー『ヒズ・ウェイ』180p)。
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4.0『グッド・オールド・サマータイム』(1949/米)ロバート・Z・レナード

 女の恋心を試す色男
 本人達は知らないが、実は一緒の職場で働いているヴァン・ジョンソンとジュディ・ガーランドはペンフレンドで、先にヴァン・ジョンソンがそのことに気付くのだが、ジュディ・ガーランドに知らせないまま女の恋心を試すので性格が悪いと思う。またヴァン・ジョンソンは色男なのだが、ガーランドとの恋の話に絞れば良いのに、なぜわざわざ別の女性を出してヴァン・ジョンソンがモテることを鑑賞者に伝えなければいけないのか理解できない。バスター・キートン扮する冴えない男の方が好感が持てた。
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3.0『踊る龍宮城』(1949/日)佐々木康

踊る龍宮城 [DVD]

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 狸御殿シリーズよりはマシか
 龍宮城という設定も踊りもダサく、運動会の出し物を見ている気分になる。が、浦島太郎が現代にやってきて時代の変貌に驚く様が描かれるので、過去の時代にとどまる狸御殿シリーズよりは見ていられる。当時12歳の美空ひばりが歌を歌うシーンがある。
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2.5『ブロードウェイのバークレー夫妻』(1949/米)チャールズ・ウォルターズ

 夫だけ優れているように描かれている
 仲の良い芸人夫婦かと思いきやすぐ喧嘩する様は成瀬巳喜男の『鶴八鶴次郎』(1938年)を彷彿とさせるが、こちらはコメディがメインの明るい話でハッピーエンドである。途中で夫婦が別居するが、原因が妻の浮気なので、女性に非があるような脚本にしているのは少し気分が悪い。アステアが電話で演出家の振りをしてロジャースに演技指導をするとき、アステアの方が優れていてかつ心が優しいように描かれていて不公平な気がした。
 靴が勝手に踊りアステアが踊らされる、というダンスはうまい。
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2.0『ラヴ・ハッピー』(1949/米)デヴィッド・ミラー

ラヴ・ハッピー [DVD]

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 ハーポだけ少し笑った
 マルクス兄弟グルーチョ、ハーポ、チコの兄弟最後の共演作品(DVDの「スタッフ・キャスト」より)。グルーチョ・マルクスは解説役としてナレーションをするだけだし、ナレーション自体も面白くない。ストーリーも女ボスが催眠術を使って宝石の場所を聞き出そうとするなどオカルトに頼っていて捻りがない。唖のハーポの動きのボケだけ笑った。
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2.0『私を野球に連れてって』(1949/米)バスビー・バークレー

私を野球につれてって [DVD]

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 ありえない二足わらじ
 ジーン・ケリーフランク・シナトラも現役の野球選手なのに当然のようにショウに出演しステージで歌って踊っている。ジーン・ケリーは練習嫌いでデートばかりしていたところ、ショウのスカウトにダンスを見込まれ、野球のシーズン中に踊ってくれと言われるいるが、そんなことはありえないので冷めてしまう。野球チームの新しいオーナーが若い女性のエスター・ウィリアムズになったり、喧嘩に弱いシナトラの女が苦手な感じは面白いが、すぐエスターとシナトラは良い雰囲気になるので恋愛描写をサボっていると思った。
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1.5『虹の女王』(1949/米)デヴィッド・バトラー

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 人間を家名で判断してはいけない
 舞台女優、マリリン・ミラーの伝記映画だが、物語に起伏が少なく心が揺さぶられない。また、彼女が「家名を汚すことになるわ」と自分のショウの出来に不安になるシーンがあるが、「家名」にこだわるというのは前近代の発想だから近代的価値観に重心を置く私には共感できない。人間を家名で、つまり生まれで判断してはいけないと思う。第一次世界大戦も表面的に絡んでいるだけで面白くない。


5.0『二人でお茶を』(1950/米)デヴィッド・バトラー

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 設定は楽しいがそれだけな印象
 ドリス・デイはショウの資金を手に入れるために48時間質問に「ノー」とだけ答え続けるという賭けをし、以後彼女は全ての質問に「ノー」と答えていく、という設定は面白い。が、逆に言うとそれだけで、もっと物語に展開がほしかった。また、性格の悪いフィアンセだった男が身を崩してタクシードライバーに転落するというオチだが、これは当時の制作者達がタクシードライバーを見下したからこそ成立するオチだから良い気分はしない。
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3.0『サマー・ストック』(1950/米)チャールズ・ウォルターズ

 妹の葛藤が描かれていない
 ジュディ・ガーランドは農家の娘で、気の強いしっかり者の役柄が彼女にあっている。妹は劇団員で、劇団のリーダーのジーン・ケリーと恋仲になっているが、ケリーは妹から姉のガーランドの方に乗り換える。しかしこれは普通に妹が可哀想である。ケリーを失った妹はガーランドの許嫁だった男と結婚することになるが、妹はあれほど頑張っていた舞台の仕事を姉に譲りあっさりやめてしまうのも不可解である。妹は自分の人生に悔いはないのか、葛藤はないのか、姉に何か言いたくないのかと疑問である。
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2.0『土曜は貴方に』(1950/米)リチャード・ソープ

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 美人の求婚を断るヤバい男
 芸人のフレッド・アステアは、怪我をしている間に妻に養われていると思われたくない、という見栄で芸人のパートナーであるヴェラ=エレンのプロポーズを断るが、ヴェラ=エレンのような美人の求婚を断るのはどうかしていると思うから共感できなかった。全体的にコメディタッチの映画だがそんなに笑えるわけでもない。バート・カルマーとハリイ・ルビイという実在するダンサーとミュージシャンの伝記映画とのことだが、伝記の良さや面白さがあるわけでもないし、そもそもモデルが伝記にするほど面白い人物ではなかったのかもしれない。
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1.5『アニーよ銃をとれ』(1950/米)ジョージ・シドニー

 低い階級出身としてのプライドはないのか
 射撃の名手アニー(ベティ・ハットン)は読み書きが出来ず粗暴で、冒頭で薄汚い格好で登場してモテない女の悲哀を歌うのは面白い。そんなアニーが序盤で簡単に男(ハワード・キール)に一目惚れして、一気に乙女みたいになるのは茶番である。もっと男を好きになるまでのプロセスを描写するべきである。ふつう男並みに射撃が上手ければ男をライバル視するから、簡単に恋に落ちないほうが自然である。アニーはその後、ショウの一座に加わって一気に汚い身なりからめかし込むが、それについての彼女の感想は省かれ物足りない。また、ショウで成功したアニーは王女や貴族から勲章や宝石を貰って嬉しがっているが、身分制への批判的意識がまったく欠けている。元々貧乏だったアニーは、低い階級出身の人間としてのプライドはないのか、自分の生まれが貧しいことからくる怒りはわかないのか、と疑問である。冒頭は面白いがどんどん尻すぼみする映画であった。
 ちなみに実際にアニーという女射撃手がいたのだが、「ストーリーは特に史実に忠実というわけではない」(スタンリー・グリーン『ハリウッド・ミュージカル映画のすべて』173p)から伝記の価値も無い。
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1.0『シンデレラ』(1950/米)ジャクソン、ラスク、ジェロニミ

シンデレラ [DVD]

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 ほとんどトムとジェリー
 シンデレラが普通に動物たちと会話が出来ていて世界観が掴めなかった。全編通してトムとジェリーのようなネズミ達と猫の追いかけっこのシーンが長く、もっと人間性を描いてほしかった。トムとジェリーワーナー・ブラザーズのアニメで、ディズニーも真似したかったのか知らないが、これではほとんどネズミと猫の映画である。舞踏会では、王子はたくさんの美女からアプローチされるのに、王子本人は目当ての女がおらず飽き飽きしてあくびをするので、私には意味が分からず女性を見慣れている人間にムカついた。また、王子とシンデレラは一目惚れをして恋に落ちるだけだから特に恋愛描写もない。最後、「夢を信じ続ければ いつか必ず夢はかなう」という歌で締めくくられるが、シンデレラは元々家柄が悪くないし何より美人だから夢が叶ったのだろうし、一般人が夢を叶えるには努力や勉強をしたほうがいいのであって信じるだけではダメだろう。あと私は金髪の女性にフェチを感じないので、「良い性格の女性の髪は金髪で、意地悪な女性(継母や姉)が黒髪や赤毛」という設定には感心しない。


0.5『ジョルスン再び歌う』(1950/米)ヘンリー・レビン

 続編を作るほどでもない
 前作『ジョルスン物語』(1946年)のラストシーンの続きから始まる。ジョルスンは「結婚は1回してる」というが、史実ではすでに2回結婚しているのは前項で述べた。新しい女性とすぐ相思相愛になり結婚するので恋愛描写がなく機械的なストーリー展開で楽しくない。また、ジョルスンが復活して人前で歌うと思ったらすぐ仕事をやめるしで、全然ドラマになっていない。自伝映画の中で自伝映画を撮るというメタ的な展開にもなるがこれも蛇足で、続編を作るほどでもなかった。


7.0『恋愛準決勝戦』(1951/米)スタンリー・ドーネン

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 ダンスは面白いが身分制を称えている
 原題は「Royal Wedding」(皇室の結婚)で、ダンサーの兄妹であるフレッド・アステアとジェーン・パウエルは王様と王女という演目を踊るシーンから始まる。アステアはサラ・チャーチルウィンストン・チャーチルの娘)に惚れるが、なかなか恋が上手くいかない様子は楽しく、椅子や壁や天井で踊るシーンは彼の片思いの心境が表現されていて心を揺さぶられる。今のところ私が見たミュージカルのダンスの中で一番面白い。ただ、アステアは「ぼくは結婚するタイプではない」と言い出してサラ・チャーチルとの結婚を一旦は諦めるものの、女王の結婚パレードを見て感動して結局結婚することに考え直すが、これは身分制を称えるプロパガンダに過ぎないから私は嫌である。
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3.0『巴里のアメリカ人』(1951/米)ヴィンセント・ミネリ

 ケリーに感情移入しきれない
 ジーン・ケリーはパリで画家を目指しているのだが、貧乏だと言っているわりに格好が綺麗だし芸術家のわりに暗いところがないし不自由ない生活をしていておかしい。彼はその後金持ちのマダムに惚れられてパトロンになってもらうが、ケリーがもっと汚くないと対比にならないし楽しくない。また、ケリーはフィアンセがいるレスリー・キャロンに惚れ振り向いてもらおうとするが、恋愛がうまくいかない側だとはいえケリーは洗練されていて格好よすぎるので私は今ひとつ感情移入しきれなかった。最終的に二人は結ばれるのだが、レスリーがフィアンセとどうけじめをつけたのかなども描かれずドラマとしても物足りなかった。
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3.0『ムーンライト・ベイ』(1951/米)ロイ・デル・ルース

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 ドリス・デイを生かしてほしい
 男に混じって野球をするなど活発なドリス・デイは面白いが、序盤ですぐドレスを着てしまうので持ち味が殺されている。また彼女は中盤で足を骨折して松葉杖をつくことになるが、これも活発なキャラクターが死んでしまっている。野球が好きという設定もその後は雪合戦で雪を投げるくらいしか生かされていない。ゴードン・マクレーと恋に落ちるのも早すぎるが、さらに腹立たしいことにこの男は「結婚制度には反対だ」「結婚は女性には奴隷 男には墓場だ 愛してるからって因習に縛られることはない」などとドリス・デイの求婚を断ったりする。自分がモテる男だからこそ言える高見からの台詞である。私としては、ドリス・デイに求婚されながら結婚を渋るゴードン・マクレーより、彼女片思いをしながら全然報われないジャック・スミスの方が感情移入できたが、彼はドリス・デイに全く相手にされないし、彼女の弟に帽子を破壊されるなど陰湿なイタズラを受けるしで可哀想であった。
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3.0『銀の靴』(1951/英)ブルース・ハンバーストーン

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 『恋をしましょう』の方が面白い
 ヴェラ=エレンの婚約者が大富豪だというデマを舞台関係者達が信じ、踊り子に過ぎなかったヴェラ=エレンが主役に抜擢される。そんな噂を聞きつけた大富豪本人がヴェラ=エレンに会いにくると、本当に惚れてしまうという話。しかしその勘違いだけで100分の映画を持たせようとするのは退屈で、ギャグとしてもあまり笑えなかった。
 ちなみに『恋をしましょう』(1960年)も似た筋だが、『恋をしましょう』の方が大富豪の人となりがしっかりと描かれていたのでこちらの方が面白かった。
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2.0『底抜け艦隊』(1951/米)ハル・ウォーカー

(イメージ無し)
 話が散漫
ジェリー・ルイスのなよなよした感じはいいが、ほかの役者がジェリー・ルイスで笑っているので冷めてしまった。ディーン・マーティンもただの説明役になっていてコンビネーションが感じられない。話の筋も、入隊したかと思ったら上陸してボクシングをやったり、女優とキスできるかどうか賭けをしたりと散漫であった。


1.5『歌劇王カルーソ』(1951/米)リチャード・ソープ

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 カルーソが魅力的に見えない
 実在するオペラ歌手エンリコ・カルーソの伝記映画だという。歌手になりたいカルーソは、義理の父の会社を手伝う約束を破り妻と別れることになるが、私としては妻がそれをどう思うのか、別れることに賛成なのか反対なのか知りたいのにそういうシーンは省かれており、妻の扱いが悪く可哀想だと思った。その後のカルーソはとんとん拍子にスターになっていくだけで面白くないし、病気で死ぬところも、カルーソが魅力的な人間として描けていないので私は悲しいと思わなかった。


1.5『ふしぎの国のアリス』(1951/米)ジャクソン、ラスク、ジェロニミ

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 好奇心は悪ではない
 原作小説(ルイス・キャロル不思議の国のアリス』)同様ストーリーはなく夢オチで終わり、今の私には退屈だった。アリスは今までのディズニーアニメの絵からすると可愛いが、あまりにも子供すぎて思春期的な片鱗がなく、異性のことをどう思っているかも分からないから色気もなく私には興味が出なかった。また、「花」の女達がアリスをいじめる場面は、大人の女性のイメージを醜悪に描く女性嫌悪が感じられて嫌だった。一方でアリスの行動原理は「ウサギがどこに行くのか知りたい」しかなく、しかもその好奇心によって道に迷い途方に暮れ、「好奇心だらけの私はいつもバチが当たる 私はこれからはちゃんとしていくわ」と泣いて歌うので、好奇心を持つことが悪く描かれている。しかし好奇心を持つことは全く悪くないし、知識を身につけることによって大人になることは私は素晴らしいことだと思う。ここには「女性が好奇心を持つのは良くない」という、無垢な処女を賛美するメッセージ性がある気がするが、私は大人の女性の方が好きなので共感できない。


0.5『ショウ・ボート』(1951/米)ジョージ・シドニー

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 再映画化した意味が分からない
 『ショウボート』(1936年)のリメイクだが、相変わらず黒人女性役を白人がやっている。ギャンブルに溺れ妻子を捨てた男が、すぐに妻と愛を取り戻すがそんなことはありえないし、そこからどう家庭を再構築していくかが問題なのに一切触れずに強引にハッピーエンドで終わらしていて納得できない。再映画化した意味が分からない。
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7.0『百万弗の人魚』(1952/米)マーヴィン・ルロイ

百万弗の人魚 [DVD] FRT-150

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 エスターは格好良いがオチはダメ
 水泳選手で女優だったアネット・ケラーマンの伝記映画で、エスター・ウィリアムズ彼女を演じる。エスターがボストンの海を泳いで渡ろうとした際、彼女の露出度の高い水着が市民の間で問題となる。「(従来のスカートのような)水着では長距離を泳げない」とエスターが主張するも、結局企画は中止となり、「偽善者!」と怒る彼女は的を得ていて格好良い(ただ皮肉にも、現代では水着の面積が多い方が泳ぎやすいということになっているが)。終盤彼女は、自分を愛している興行師の男から贈られた指輪をせず、別の男と会ってから映画撮影に臨むと、撮影中事故に遭い危うく命を落としそうになる。しかしこれでは彼女が指輪をせず男を裏切ったために罰が当たったように見えるので、こういう迷信じみた演出には私は反対である。
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6.5『栄光何するものぞ』(1952/米)ジョン・フォード

栄光何するものぞ [DVD] FRT-040

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 戦争をありのままに描いている
 映画『栄光』(1926年)のミュージカル化(1926年版は未見)。第一次世界大戦中のフランスが舞台で、米軍が駐留している。戦火は一旦おさまっており大尉のキャグニーと曹長のダン・デイリーは同じ女をめぐって争うなど前半はコメディに近い。後半になると彼らも戦線に出て行き過酷な任務をこなしていくが、戦争を美化せず平和主義過ぎずありのままに描いていて良いし、フィアンセが死んだことを悟ったフランス人女性の顔にも引き込まれる。ただし、ミュージカル要素は全くなくなる。その後、任務を果たしたキャグニーとダン・デイリーはどちらが女と結婚するかでまた揉めだし、一触即発になったと思ったのも束の間、中隊に新たな命令が下る。女のことは忘れられ、キャグニーとダン・デイリーが連れだって戦線に戻っていく様は、女には可哀想なことではあるが、戦争とはそういうものであるから別に女性蔑視的な内容ではないと思う。
 ただ、「軍人という職業には何か分からぬが信仰に通ずるものがある」というキャグニーの発言があるが、宗教に関心の無い私にはどういうことなのかよく分からなかった。
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2.0『ベル・オブ・ニューヨーク』(1952/米)チャールズ・ウォルターズ

 モテる男がモテるだけ
 モテて仕方のないアステアは女を侍らせており婚約者もいるが、救世軍として歌っているヴェラ=エレンに惚れる。彼女はまじめなので相手にしない…と思いきや、ほとんど一目惚れのようにアステアを意識するのでガッカリする。すげなくアステアを振るからこそ、そこからどうやってヴェラ=エレンと結ばれるのか観客は気になってハラハラするのに、全く分かっていないと思った。また、アステアやヴェラ=エレンが恋をしたことにより空を飛べるようになるというファンタジー要素があるが、空中を只歩くだけで工夫がなかったので『恋愛準決勝戦』(1949年)の方が面白い。
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1.5『雨に唄えば』(1952/米) ジーン・ケリースタンリー・ドーネン

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 女を笑いものにするばかり
 映画スター役のジーン・ケリーが半生をふり返るが、映画出演もすぐ決まり女とすぐ相思相愛になるなどモテ男で、特に挫折のない人生を淡々と語っているだけでつまらない。しかもジーン・ケリーは恋人リナ(ジーン・ヘイゲン)を大切にしないで浮気をし、最終的に恋人を乗り換えるのでリナが可哀想である。それについてリナが意見を発したり弁明するシーンもなく不公平である。また、サイレントからトーキーへの移行期の話が軸になるなど映画マニアのための映画という感じで、一般の人が観て楽しめるかは分からないし、声が変でトーキー映画に生き残れないリナを笑い者にするボケばかりで辟易した。もっと人間のドラマが見たいのに、なんとなくコメディ風にして流している映画であった。
 ちなみに「Singin' in the rain」という曲も『ハリウッド・レヴィユー』(1929年)で用いられた曲をカバーしているに過ぎない(『ザッツ・エンターテイメント』1974年より)。
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1.0『わが心に歌えば』(1952/米)ウォルター・ラング

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 印象に残らない
 歌手ジェイン・フロマンの半生を描いた映画で、冒頭に「この物語は実話である」と出るが、主人公はとんとん拍子で仕事も恋愛も成功していくだけでムカついてくる。米兵を慰問する途中、飛行機事故で右足を複雑骨折し、不自由な脚のまま慰問の旅を再開するが、これはあからさまな美談で面白くない。その後も表面的な慈善が展開されるだけで、慰問先の兵士たちも明るすぎて違和感がある。歌手が慰問したくらいのことで傷ついた兵士たちの心が癒えるとは思えない。人間を描こうという気概もが見えず、かなり表面的に戦争を扱っていて、見終わっても印象に残らない映画である。


10.0『リリー』(1953/米)チャールズ・ウォルターズ

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 減点する所のない傑作
 原作のポール・ギャリコの短編小説「七つの人形の恋物語」も面白いが、映画では主人公のレスリー・キャロンに主体性が与えられはっきり自分の意見を述べていて魅力的だし、人形使い役のメル・フェラーの性格もキツすぎず人間味が加わっていて感情移入ができる。また原作では人形使いが一人だけで何体も人形を動かしているというありえない設定だったが、こちらではメル・フェラーの仕事のパートナーとしてカート・カズナーが登場しリアリズムが付与されており、加えてカズナーはレスリーとフェラーの間もうまく取り持っている。長さは82分であるが無駄なく十分に人間が描けており、減点するところが見当たらない傑作である。
 ちなみに人形使いのメル・フェラーはオードリー・ヘプバーンの最初の夫である。
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9.5『カラミティ・ジェーン』(1953/米)デヴィッド・バトラー

 ドリス・デイはまり役の傑作
 ドリス・デイの男っぽいガンマン姿はハマり役で、『ムーンライト・ベイ』(1951年)や『銀色の月明かりの下で』(1953年)などの出演作に比べても、圧倒的に長いあいだ性別にとらわれない魅力を生き生きと発揮している。中盤ではドリス・デイは都会から来たアリン・アン・マクレリーによってオシャレを教えてもらい家も改装し、好きな男に振り向いて貰おうとする。ほどなく男が家を訪ねて来て、さぞドリス・デイがオシャレに変身したのかと思えばドレスが泥で汚れていたりと、彼女の洗練された姿がうまく遅延され焦らされている。ここで焦らすことにより観客は余計洗練されたドリス・デイが見たくなり、終盤での美しいドリス・デイカタルシスを感じるのである。細かい演出もうまいし、その一つ一つが登場人物の感情を申し分なく表現しており傑作である。
 ただ一つ気になるのは、ドリス・デイがすぐ拳銃をぶっ放しすぎるところで、特に友人から恋敵になったアリン・アン・マクレリーに発砲するところは女の嫉妬というものを醜く大げさに描いていると思った(もっとも西部劇に「拳銃をぶっ放しすぎる」と指摘するのもおかしいのだが)。ほぼ満点。
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9.0『雨に濡れた欲情』(1953/米)カーティス・バーンハート

 原作よりかなり面白い
 原作はサマセット・モームの短編小説「雨」だが、原作よりかなり面白い。戦後、リタ・ヘイワースが海軍の駐留する南の島に立ち寄るとたちまち兵士達の間で人気者になるが、彼女はすぐには男になびかず気丈に振る舞っているのが格好良い。後に宣教師ホセ・ファーラーによって島から米国に強制送還されそうになった時も、リタ・ヘイワースは論理的に総督やホセ・ファーラーと話して対決をするのも良い。原作では同性愛者のサマセット・モームらしく女性を悪役にしていたが、この映画では全く逆に女性が魅力的に描かれていて、対照的に宣教師ホセ・ファーラーのカルトぶりを摘発しているので面白かった。ホセ・ファーラーは『ケイン号の叛乱』(1954年)での有能な弁護士役も良かったが、『雨に濡れた欲情』での理想が高すぎてカルト化した宣教師という悪役も見事にはまっている。
 ところで劇中で、リタ・ヘイワースにはいかがわしい店で歌っていた過去があるのだが、それを知っていたホセ・ファーラーに「売春婦だ」と言われ彼女が激怒する場面がある。リタ・ヘイワースが本当に売春していたのかどうかは別として、「売春婦だ」と言われて怒るということは彼女も売春婦を下に見ているということである。性産業があることで世の中はある程度のレイプを防げており、風俗嬢は社会貢献をしているはずだから、私は売春婦を下に見てはいけないという思いからここは減点した。ちなみに日本では売春は違法だが(口で性行為をするピンサロなどの準売春は合法)、「ヨーロッパ諸国ではエイズの出現以後、性病の蔓延を防ぐ目的もあり、オランダ、ドイツ、フランス、英国等で、漸次売春は非犯罪化されていった」ため日本でも売春を「合法化し、しかるべき規制によって性病の広まりを抑えるのが現実的な方向性だ」(小谷野敦『日本売春史――遊行女婦からソープランドまで』p211)とする小谷野の主張に私はなるほどと思った。
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3.0『バンド・ワゴン』(1953/米)ヴィンセント・ミネリ

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 インテリ向け
 フレッド・アステアシド・チャリシーの恋愛のゆくえはわりと丁寧に描かれている。歌や踊りも個別で楽しめるが、しかし一つ一つのショウにつながりがないので長篇らしさがなく物足りない。実在の映画俳優などの名前がたくさん出てくるし、アステア達が行うショーのモチーフが「現代版ファウスト」であるなどキリスト教の知識も出てくるので、インテリ層や映画マニアの内輪ウケを狙った映画であり私にもよく分からず、一般の人が見てもピンとこないと思う。
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2.5『銀色の月明かりの下で』(1953/米)デヴィッド・バトラー

銀色の月明かりの下で [DVD]

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 前作の繰り返し
 『ムーンライト・ベイ』(1951年)の続編。機械工のように車を修理するドリス・デイは面白いが、これも前作同様すぐ花嫁姿になってしまう。前作ではドリス・デイとゴードン・マクレーの結婚は親の了承を得てハッピーエンドという締め方だったのに、ゴードン・マクレーは脳がリセットされたかのように結婚を渋るし、「女性が男の世界に踏み入ることは許されない 政治もね」などと大学のインテリだったはずのキャラに合わないことを言う。
 一方で、七面鳥を飼っている弟に、この鳥は食べられる運命なんだよということを両親が伝えられない、と葛藤する場面は面白かったが、弟が七面鳥を逃がして以降このことは話題にならなくなったので物足りず、せめて終盤で再度七面鳥を登場させればいいのにと思った。また父親が浮気をしていると家族が早とちりするが、誤解を引っ張りすぎていてリアリズムに欠けており、コメディとしても飽きた。ドリス・デイに片思いをしながら全然報われないジャック・スミスも出てくるが、最後のカットには登場すらさせて貰えないなど前作以上に扱いが悪い。全体的に、前作を繰り替えてしているだけだった。
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2.5『紳士は金髪がお好き』(1953/米)ハワード・ホークス

 原作小説よりはマシ
 マリリン・モンローのミュージカル初主演作品(スタンリー・グリーン『ハリウッド・ミュージカル映画のすべて』191p)。金持ちの男が好きなマリリン・モンローと、愛があればお金はいらないというジェーン・ラッセルの女コンビなのだが、ジェーン・ラッセルは「スポーツ選手が好き」とマッチョな男が好きなようだから私は共感しない。しかも「オリンピック選手が好き」とも言っており、オリンピック選手が貧乏なわけないのだから「お金はいらない」という宣言と矛盾しており、マリリンとのキャラの対比も明確でない。また、マリリンが窃盗したと誤解され訴えられた時、頭の切れるジェーン・ラッセルが金髪のカツラを被ってマリリンになりすまし裁判を切り抜けるなど強引な展開が多い。ただ、原作の小説(アニタ・ルース『紳士は金髪がお好き』)よりは楽しめるとは思うので2.5点にした。
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2.0『ピーター・パン』(1953/米)ジャクソン、ラスク、ジェロニミ

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 登場人物が多い
 ウェンディに母性がありすぎて年頃の少女らしさがない。また、ティンカーベルはかわいいのだが出番は少なく、ウェンディに焼き餅を焼くという設定がしつこい。もっとも原作小説(ジェイムズ・バリ『ピーター・パン』)でも出番が少ないし嫉妬してばかりしているなど扱いが悪いのだが。海賊との闘いもピーターパン以外は活躍しないので、登場人物が多いだけで個人が描けておらず、設定を持て余しているという印象を受けた。


0.5『キス・ミー・ケイト』(1953/米)ジョージ・シドニー

 座れないほどお尻を叩かれる妻
 別れた男(ハワード・キール)と女(キャサリン・グレイスン)はなおも劇団員同士で、仲が悪いのかと思いきや、開始早々楽屋で一緒に歌を歌うだけで昔のような恋心が復活するので意味が分からない。また、妻に平手打ちされたことに怒った男が妻のお尻を何度も叩きまくるシーンがあり、椅子に座れないほど彼女は痛がるが、ギャグだとしても趣味が悪いと思った。最終的に前妻は「主人の足下に手を置くのです 従順の証として」と歌い男に跪いて終わるので、ヨリを戻してもまた男に殴られるんだろうなあと思った。ちなみに原作はシェイクスピアの『じゃじゃ馬馴らし』で、こちらも夫が妻を「調教」するために食事を与えず眠らせないなどのシーンがあり嫌である(『じゃじゃ馬馴らし』ちくま文庫、p138、p149)。
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2.0『ホワイト・クリスマス』(1954/米)マイケル・カーティス

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 家庭的でない女を批判する映画
 ダニー・ケイが女性にいきなり「君達は家庭や子供に興味ある?」と質問するのは怖いが、彼女たちも「YES」と普通に答えていて変である。クロスビーも「家庭や子供を持つ気のない女」を批判しており、家庭的な女性を賛美するメッセージがクドい。また、ダニー・ケイは色男で今までヴェラ=エレンの手を握ったりしていたくせに、彼女に迫られた途端にウブになるのもキャラが定まっていない。戦時中1500人の部下がいた将軍が失業軍人として落ちぶれていたりとか、いい味を出す脇役はいるが、主人公達に感情移入できず楽しめなかった。
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2.0『略奪された七人の花嫁』(1954/米)スタンリー・ドーネン

掠奪された七人の花嫁 スペシャル・エディション 〈2枚組〉 [DVD]

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 前近代の略奪結婚の美化
 一足先に結婚できた長男のアドバイスで、弟6人は古代ローマ人のように略奪結婚をする。もちろん、過去に略奪結婚で幸せになった夫婦もいるのだろうが、それは古代の話であるし、19世紀とはいえ6組全ての略奪結婚がハッピーエンドになるのはおかしい。ここには女は無理矢理ものにしてしまえばいいというマッチョな思考を感じて気分が悪くなった。私は近代的価値観は基本的に守った方が良いと思っているから、前近代のやり方を美化する人々には共感できない。また、主要登場人物が単純計算で14人居るがそれぞれの人間性を浮き彫りにしているとは思えない。
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2.0『喝采』(1954/米)ジョージ・シートン

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 アル中が簡単に治るはずがない
 酒に溺れた落ち目のスター俳優ビング・クロスビーが主人公。彼は自動車事故で息子を失っているが、息子の思い出は劇中では短くフラッシュバックされるだけで物足りない。もっと当時のことを長尺で振り返り、息子がどういう子供だったのかを描写してもらわないと感情移入が出来ない。また、クロスビーから酒を遠ざけようとする妻(グレース・ケリー)を、舞台演出家が「なぜ(夫の)底まで管理したい」のだと非難し、「(あなたは)怪物に見える」とまで言うが、これはアル中の夫の妻としてむしろ手ぬるいくらいで、妻を責める演出家に腹が立った。終盤でようやく演出家が妻に心を開くが、彼は事情が分かったとたん妻にクロスビーを世話するよう頼むなど都合が良く、しかも彼女のことを「怪物に見える」と言ったことへの謝罪はない。またなぜか演出家は妻にキスをするが、妻は妻でキスをされて「女として見られたのは久しぶり」と急にしおらしくなるのでこのシーンはバカが考えたと思う。ラストはクロスビーがアル中から抜け出してハッピーエンドというものだが、現実にはアル中がそんな簡単に治るはずがないのは吾妻ひでおの『アル中病棟』などで伺える。
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1.5『グレン・ミラー物語』(1954/米)アンソニー・マン

 戦没者を称えているだけ
 スウィング・ジャズの代表的なミュージシャンであるグレン・ミラーの伝記映画だが、物語が凡庸である。ミラーの恋人(役;ジューン・アリスン)も気が強いのかと思ったら自分を主張することが全然なく魅力的じゃないし、恋愛描写も物足りないまま二人は結婚する。ミラーが戦争協力をしたり(それ自体が悪いとは言わない)、戦争中に消息を絶ったりしたことを称えるために映画に過ぎないのではないか。実際、映画が盛り上がるのは最後の悲劇しかない。
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1.0『スタア誕生』(1954/米)ジョージ・キューカー

 『スタア誕生』(1937年)のミュージカル化で、1937年版でもそうなのだが、映画スターの男が勝手に酒で自滅してわがままに振る舞う内容なので基本的に同情はしなかった。またこれも1937年版と同様だが、この男が飲酒運転をして単独事故を起こし法廷に立った時、妻が判事に懇願して無罪にして貰うシーンには怒りを覚える。もっともこの事故のことは新聞の種になって男は叩かれたから社会的制裁を受けたとはいえるが、しかし無罪にして貰おうとするその考え方が気にくわない。酒を飲んだまま鉄の塊を走らせることの恐ろしさを分かっていない。前作より、ジュディ・ガーランドジェイムズ・メイスンがはまり役だとは思うが、しかしそれでも内容が良くない。
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1.0『ショウほど素敵な商売はない』(1954/米)ウォルター・ラング

 それっぽい家族愛
 芸人一家ドナヒュー家の伝記映画だが、戦争を挟んでいるとは思えないほど華やかで苦労を描くシーンがほとんどない。家族愛をそれっぽく描いているだけで面白さが分からなかった。
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1.0『フレンチ・カンカン』(1954/仏)ジャン・ルノワール

フレンチ・カンカン [DVD]

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 色男が女を酷い目に遭わすのを肯定する映画
 ジジイの色男ジャン・ギャバンは、ショウの才能のある洗濯女を自分のものにするため、彼女のパウロという若い恋人から奪った。しかしギャバンは用が済んだら洗濯女を捨てるので可哀想だが、その洗濯女はパウロの元にも返らないので、パウロも可哀想である。全体的に、権力を持つモテジジイが人の人生をかきまわす話で不愉快だった。ギャバンは開き直り、「俺は平穏には暮らせない、そんなことをしたらダメになる」と自分が女に酷い扱いをするを正当化する台詞を吐くなど腹立たしい。他にも、女に振られて拳銃で自殺未遂をした中東らへんの王子が、すぐに回復して女とデートしているのはリアリズムに欠けているし面白くない。またダンスシーンでは、女達がスカートをめくって踊るフレンチカンカンで映画を盛り上げようとしているが、今を忘れて踊り狂えば良いというようなヤケクソなメッセージに読めるから得るものが無い。


0.5『ブリガドーン』(1954/米)ヴィンセント・ミネリ

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 息苦しいムラを肯定する反動映画
 村人が一人でも外に出ると消滅してしまうという村が舞台で、外の世界に出て行こうとした村人を殺してハッピーエンドになるというかなり酷い話である。米国からやってきた旅行者ジーン・ケリーも、近代社会を捨てて200年前の暮らしをする楽園の住人となることに同意するが、これは現実逃避的な後ろ向きの決心である。前近代的な息苦しいムラ社会を肯定している反動的な内容で全く共感できない。
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0.5『ナポリの饗宴』(1954/伊)エットレ・ジャンニーニ

(イメージ無し)
 オムニバス形式の典型的な失敗
 ナポリにまつわる伝説や民話を10分強で繋いでいくオムニバス構造だが、個々の短編が面白い訳でもないし、それが響き合って長編として面白いということも全くない(そもそもオムニバス映画が長篇として面白いことなどほぼ全くありえないと思うが)。第一次大戦や第二次大戦など、むりやり政治を絡めようとしている姿勢も面倒臭い。


0.5『カルメン』(1954/米)オットー・プレミンジャー

カルメン [DVD]

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 原作共につまらない
 メリメの小説『カルメン』自体が私には面白くないので、映画化しても退屈だった。原作同様、「女なんてもんは男の人生を狂わせるんだ」という女性への嫌悪感が伝わってきて楽しくないし、ラストで男が女を殺すシーンもただ女が可哀想なだけに見えた。オール黒人キャストということだが、政治的な主張も特に見られないので何のために黒人を使っているのか分からない。ちなみに奇妙なことに、オール黒人映画であるが色の薄い黒人と色の濃い黒人のうち、悪役は色の濃い黒人達が務めているからそれはそれで差別である。
 

9.5『マイ・シスター・アイリーン』(1955/米)リチャード・クワイン

 ベティ・ギャレットがはまり役の傑作
 ベティ・ギャレットはこれまで『水着の女王』(1948年)、『私を野球に連れてって』(1949年)、『踊る大紐育』(1949年)など美人ではないが男に積極的にアタックして結婚を勝ちとる強かな女を演じていたが、このベティ・ギャレットはモテなくて男性不信になるなど哀愁があり、思わず応援したくなるほどはまり役である。自分のことが好きらしいと感じているジャック・レモンにさえベティがつれない態度をするのは、彼女の繊細な心情が表現できている証であり面白い。また、ギャレットの妹役ジャネット・リーに惚れるボブ・フォッシーの冴えないおどおどした感じも面白いし、始めは全然気にかけなかったジャネット・リーだが次第にフォッシーの気持ちに気付いていく所も魅力的に描かれている。音楽や歌も楽しめるし、人間の心情や葛藤も丁寧に描かれているし、あまり知名度がない映画のようだが傑作である。
 ただ一つ納得できないことに、ベティ・ギャレットが港で取材しようとした水兵達が家までついてきて姉妹の部屋に押し寄せててんやわんやの騒ぎになるシーンがあるが、まったく強引な展開で笑えもしないし、物語とも関係なく無駄であった。なぜ今までいい雰囲気だったのにそれを壊すようなシーンを挟んだのか理解に苦しんだ。そこがなければ満点でも良かった。
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5.5『足ながおじさん』(1955/米)ジーン・ネグレスコ

 原作よりは良かった
 億万長者で、34の会社の社長であるフレッドアステアは「恋に鈍くなった男」を自称していて、孤児のレスリー・キャロンが自分に惚れていると確信が持てずに部屋をウロウロする所は好感が持てる。書簡形式である原作小説(ウェブスター『足ながおじさん』)とは違い、足ながおじさんことアステアの人となりが描かれていて共感しやすかった。ただレスリーを大学にやったあと、アステアがそのことを忘れているのは不自然だと思う。レスリーはたくさんアステアに手紙を送っているのに、アステアが初めて読んだのは2年後で、足ながおじさんというあだ名が付けられているのもそこで知ったというが、関心がなさ過ぎるし酷いのではないか。また、終盤のレスリーが夢の中で踊るバレエは、あからさまな精神分析の焼き回しで、大げさで野暮ったく見えた。
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3.0『わんわん物語』(1955/米)ジャクソン、ラスク、ジェロニミ

わんわん物語 スペシャル・エディション [DVD]

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 レディの存在感がない
 雌犬レディが可愛いし、昔「店」で歌っていたという別の雌犬にも色気がある。そんなレディが路地裏で猛犬に追い回された時、野良犬トランプが助けに来て猛犬たちを追い払うが、その方法が単純に喧嘩なのは捻りがないしマッチョ過ぎる。私としては頭を使いながら敵を追っ払う場面もほしかった。一方で保健所の中にいる犬たちが悲しい歌を歌う場面は良かったが、その後その野良犬たちどうなったのかは一切描かれていないので拍子抜けした。またレディにはエゴがなく自分を主張しないし、彼女が歌う場面も少なくて存在感がないので、全体的に物足りない映画だという印象を受けた。
 ちなみに『わんわん物語』を作るまでの経緯だが、ディズニー映画『ふしぎの国のアリス』(1951)は当時興行的に失敗していて、さらに批評家にはルイス・キャロルの原作小説を再現していないと批判されたので、ウォルト・ディズニーは自分の思うように脚色できない作品には手を出すまいと誓い、『わんわん物語』など原作のないアニメ映画を作るに至った(ボブ・トーマス『ウォルト・ディズニー 創造と冒険の生涯 完全復刻版』p237)という。


2.0『野郎どもと女たち』(1955/米)ジョゼフ・L・マンキーウィッツ

 平凡な宗教プロパガンダ
 不良やヤクザを更生させようとする救世軍の女軍曹サラはかわいいと思うが、物語に起伏がないので90分くらいならともかく2時間半は長い。キリスト教により大人のヤクザ達が改心するというのも現実にはありえない平凡な宗教プロパガンダであり、宗教で救われた経験の無い私には共感できなかった。
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1.5『愛情物語』(1955/米)ジョージ・シドニー

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 心の溝が簡単に音楽で埋まるはずがない
 エディ・デューチンという実在する音楽家を主人公にしているが、彼は資産家の姪の目にとまり、仕事も恋愛もとんとん拍子に上手くいくだけで楽しくない。また、エディにピアノを教えて貰った(おそらく)フィリピン人の4・5歳の子供が、自分の方からエディにキスをする場面があるが、アジア人でそんなことをすることはあり得ないと思う。終盤、エディは別居していて何年も会っていなかった息子と一緒に生活するようになるが、当初そこには溝が出来てギクシャクしていたのに、音楽で交流したりするうちにすぐに溝が埋まってしまう。いくら主人公が音楽家だとはいえ、人間関係の修復が簡単に音楽でなされるわけはなく、音楽を過大評価した機械的な展開でドラマがない。最後エディは白血病で早死にすることが匂わされるが、所詮お涙頂戴ものに過ぎないという印象をうけた。


1.5『オクラホマ!』(1955/米)フレッド・ジンネマン

 つまらないものはつまらない
 主人公カーリー(ゴードン・マクレー)は、なぜかヒロインのローリー(シャーリー・ジョーンズ)の一族とは「結婚しない」と冒頭で明言したと思ったら、カーリーとローリーはすぐ2人で楽しそうに歌うので情緒不安定なのかと思った。また、カーリーはモテ男で三角関係となり、ローリーに嫉妬されるが、バックボーンが描かれない人物の三角関係を見ても共感できないし、男が嫌な奴という印象しかない。また、ローリーをめぐってカーリーとジャッドが戦う夢の中のバレエシーンがあるが長く、退屈に感じた。
 『オクラホマ!』は、その後多くの傑作を生み出すことになる作曲家リチャード・ロジャースと作詞家オスカー・ハマースタイン2世の初顔合わせ(スタンリー・グリーン『ハリウッド・ミュージカル映画のすべて』213p)という歴史的なミュージカルを映画化したものだが、つまらないものはつまらないとしか言えない。
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1.0『七変化狸御殿』(1955/日)大曾根辰夫

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 無駄に政治を絡めている
 木村恵吾の『狸御殿』シリーズと同様に『シンデレラ』を模したメルヘンで、主役は美空ひばりだが、放射能の雨にやられないようにするという政治的なテーマが絡んできてストーリーがゴチャゴチャしているし、また何となくリベラルっぽいことを言っているだけで実のある政治的な意見があるわけでもなくてつまらない。カタコトの言葉をしゃべるキャラも何人か出てきて聞き取りにくくイライラした。加えて、狸族に理解のある女コウモリのお誘が父親に斬り殺されるのは可哀想である。
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1.5『王様と私』(1956/米)ウォルター・ラング

 身分制を批判しないエセフェミニズム
 英国から家庭教師にやってきたデボラ・カーは、タイの王様に男女の平等を唱えるが、しかし王制や身分制には触れず身分の平等は唱えない。目先の差別にだけ噛みつき、大元の身分差別を無視するのはエセフェミニズムの典型である。また、家庭教師に感化された王は「奴隷制は良くない」というが、では王制はどうなのか。奴隷だけやめたところで王族がある限り身分制は存続するので偽善である。加えて英国の家庭教師は、偉そうなことを説く前に英国が世界中を植民地化したことを反省したほうがいいのではないか。


1.5『上流社会』(1956/米)チャールズ・ウォルターズ

 原作を下回っている
 1940年の映画『フィラデルフィア物語』のミュージカル版だが、これは1940年版のキャサリン・ヘプバーンの方が格好良くていい。ルイ・アームストロング狂言回しのように観客に語りかけるが、物語に絡んでこないのでジャズファンのためのサービス程度の意味しか見いだせない。1940年版を下回っていると私は思うが、1956年の映画で興行成績が1位だった(スタンリー・グリーン『ハリウッド・ミュージカル映画のすべて』221p)というのは信じられない。クロスビーやシナトラの顔合わせが話題になったのだろうか。
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1.5『ベニイ・グッドマン物語』(1956/米)ヴァレンタイン・デイヴィース

ベニイ・グッドマン物語 [DVD]

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 量産された伝記映画の駄作の一つ
 ベニー・グッドマンの伝記映画だが、筋は平凡。彼は良家の娘アリスと付き合うが、母に反対される…と思ったらすんなり結婚を許す。対決をちゃんと描かないのでドラマもなくつまらない。この時代に量産された音楽家の伝記映画の駄作の一つである。


1.0『回転木馬』(1956/米)ヘンリー・キング

回転木馬 [DVD]

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 殴られた女が嬉しそうで怖い
 回転木馬の呼び込みをやっている主人公ゴードン・マクレーは、「俺には女が何人もいるんだぞ」と自慢をする嫌な色男だが、そんな男になぜか大した理由もなくシャーリー・ジョーンズが惚れるので序盤からもうついていけない。シャーリーはゴードンの昔の女の思い出を嬉しそうに聞きたがるのだが、そういう事って普通女性は聞きたくないのではないかと疑問に思った。また原作の戯曲『リリオム』でも同様に、ゴードンは暴力的なところがあるが、ぶたれた妻や娘が「(愛している人にぶたれるのは)痛くない」と嬉しそうに言っているのは怖い。この映画は128分あり、主人公に魅力を感じなかった私にはかなり長く感じた。原作小説もつまらなかった。
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7.5『野ばら』(1957/独)マックス・ノイフェルト

野ばら [DVD]

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 人間を描く映画は面白い
 ウィーン少年合唱団の寮母のマリアが何と言っても美人で、難民の少年ト二とシュミットという若い先生がそれぞれ彼女に思いを寄せていくさまは楽しめた。トニに役を奪われた少年が、はじめは意地悪だがだんだん和解していくプロセスもしっかり描かれている。私は女性が好きだから美少年達の寮生活に関心は無いのだが、人間ドラマに重点を置いていているので共感できた。もっとも、トニが橋から落ちて意識を失ったとき、皆が宗教音楽アヴェ・マリアを歌うことでトニが回復するというオチは宗教プロパガンダなので納得できない。


5.5『パジャマ・ゲーム』(1957/米)ジョージ・アボットスタンリー・ドーネン

 従業員は勝ったのか?
 すぐに恋愛感情を認めないドリス・デイはいいが、「愛にもてあそばれたことはない」というモテ男の主任シドはムカついたし、その主任に嫉妬するナイフ投げの男が社内でナイフを投げてくるギャグがしつこく笑えなかった。また、パジャマ工場で働く従業員達が賃上げを要求してストを行い、要求が通るか通らないかという駆け引きが話の軸になり、最終的に会社は「賃上げは認めるが過去はさかのぼらない」という妥協案を示し、それを聞いて従業員達は「勝ったのよ」と喜んで踊るが、私には最終的に勝ったのは会社だと思うから従業員達が白々しく見えた。
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5.0『パリの恋人』(1957/米)スタンリー・ドーネン

パリの恋人 [DVD]

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 オカルト批判は良い
 冴えないが知的な本屋の女性オードリー・ヘプバーンはいいのだが、カメラマンのフレッド・アステアが恋人でもないのにすぐオードリーにキスをするのが腹立つし、年上の洒落た男が冴えない若い女をたぶらかしているだけに見える。また、オードリーがハマっているという「共感主義」という哲学は学問でも何でもないパチ物で、英語の出来ないフランス人に英語で話しかけて「言葉が分からなくても声の調子などで共感できれば分かる」とかいうレベルのもので、もちろんそんなことは不可能でオカルトである。ただ、「共感主義」を唱えたフロストルという教授にオードリーが実際会ってみると、彼女のことを狙う思慮の浅い男だったことが分かり失望するというオチはオカルト批判に読めるので良い。
 ところでこの映画の原題は「ファニー・フェイス」(変な顔)で、アステアも「オードリーは変な顔だがかわいい」という歌詞を歌うなどオードリーが美人でないことを前提としている映画なのだが、私はオードリー・ヘプバーンは普通に美人だと思うから共感できなかった。
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3.0『監獄ロック』(1957/米)リチャード・ソープ

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 犯罪を反省するので『シカゴ』よりはマシ
 エルヴィス・プレスリーの映画初出演作品で、瑞々しいながらも存在感があり、この後彼がたくさん映画に出ることになったのも納得する。プレスリーは喧嘩をふっかけてきた相手を殴り殺して服役するが、強盗で先に服役していた歌手の男に「前科コンビは話題になる」と持ちかけられタッグを組む。しかし、前科を逆手にとって売れようとする考え方には共感できない。その後もしばらくは、彼らが更正するようなシーン、反省するシーンは描かれないので不快に思った。ただ、最終的にはプレスリーは更正するので『シカゴ』(2002年)のような最後まで殺人を反省しない反社会的なミュージカル映画よりはマシだろう。ところでこの映画でも、男が女に無理矢理キスをしすることで、自分に気のなさそうだった女が一気に男に夢中になるシーンがあるが、キスをしとけば女は落ちるに違いないという考えは女性蔑視で嫌である。
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3.0『絹の靴下』(1957/米)ルーベン・マムーリアン

絹の靴下 特別版 [DVD]

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 ニノチカ』の方が面白い
 『ニノチカ』(1939年)のミュージカル化。つまらなくはないが原作の『ニノチカ』の方が無駄がなくて面白いしグレタ・ガルボの方が格好良いと思えるから『絹の靴下』は見劣りする。また、アステアの自信満々でプレイボーイのような役柄があっていない。ただ、『絹の靴下』というタイトルなだけあって下着とストッキングで踊る姿はエロくそこは良かった。
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2.5『渇き』(1957/印)グル・ダット

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 蓮實重彦が過大評価している
 『渇き』は評論家の蓮實重彦が誉めすぎていて評価がおかしくなっている。蓮實は「グル・ダットは天才であり、『渇き』は傑作である。この歌謡映画を見て背筋に震えが走らなければ、あなたは映画とは無縁の存在だ」(「季刊リュミエール12 1988夏」)と言っているが、蓮實に媚びたい人々は彼に「あなたは映画とは無縁の存在だ」などと絶対に思われたくないので、つまらなくてもこの映画を誉めないといけないと思い忖度して過大評価してしまうのだ。
 いや確かにこの映画には楽しい曲はあるし(ジョニー・ウォーカーの曲など)、1950年代のインド映画の職人性を表しているが、メッセージ性に問題がありすぎる。この映画は世間から理解されない詩人が主人公で、監督のグル・ダット自らが演じているが、芸術の価値を分かろうとしない世の中の方が悪いと逆上し、「こんな世界を得てもいったい何になる この世を燃やせ吹き飛ばしてしまえ 燃やしてしまえ」とラストで歌い上げるところなどは宗教テロリストと同じである。グル・ダットは実際に芸術至上主義者っぽくて、この映画を取り終えた7年後に39歳で自殺するが、まさに『渇き』は芸術をこじらせた人間が死にたくなっているだけの暗い映画であり、私が20歳くらいなら凄いと思っただろうが27歳の今では全く心に響いてこなかった。また、主人公の価値観は詩が一番ということになっているから、女は出てきても「男の詩を理解する」という役目しかなく主人公の添え物に過ぎず、女キャラが生き生きしていなくて恋愛映画としても楽しめなかった。


1.0『夜の豹』(1957/米)ジョージ・シドニー

夜の豹 [DVD]

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 頭が痛くなった
 キム・ノヴァクはシナトラを嫌っている風だったのに、ショーの出し物としてシナトラに抱きつかれながら愛の歌を歌われただけで「素敵」と惚れるのは意味が分からない。また、クラブの資金を得るためにリタ・ヘイワースに金目当てで近づき口説くと、彼女もシナトラに惚れていくという展開になり頭が痛くなった。
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0.5『嵐を呼ぶ男』(1957/日)井上梅次

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 脳がヤバい
 石原裕次郎は喧嘩っ早く、ギターを振り回して物をぶっ壊すが、それをみた女達が「いい男」と感動していてのっけから腹立たしい。裕次郎は「(ドラムの)スティック持ってると喧嘩してる時みたいにウキウキするんだ」と言うが、喧嘩をするとウキウキするという脳はヤバいだろう。彼の歌う歌詞も「おいらはヤクザなドラマー」「浮気なドラマー」と耳を疑う。またこの映画は美人マネージャーの北原三枝に「女って近くに居る男の人をすぐ好きになるものなのよ」と言わせているが、私は近くに居る女性に全然好かれないのでここも全く共感できない。ラストで裕次郎は、音楽活動にずっと反対していた母親となんとなく和解するが、裕次郎自身がこの映画を通して何か反省や成長をしたとは思えず、この後も暴力を振るい続ける犯罪者予備軍だとしか思えない。


0.5『女はそれを我慢できない』(1957/米)フランク・タシュリン

 再起を図るギャングを見たくない
 落ちぶれたギャングの親分と部下だった男が、美女をスターに仕立て上げることでもう一度金儲けを企む話だが、ギャングに再起を図られたらたまらないので不快である。しかも美女がギャングの部下に惚れるが、ギャングという犯罪者達の何がいいのかさっぱり分からない私には何も共感する要素がない。最終的にヤクザ達は幸せになるが何の感動もしない。また、ロック歌手がショーで歌う場面が多いが、そういう歌を聴きたい人向けの映画である。ところで、ジェーン・マンスフィールドの、胸が強調されすぎておっぱいが前方に突き出ている服が奇妙であった。


7.0『恋の手ほどき』(1958/米)ヴィンセント・ミネリ

 前半は面白いが後半は単調
 恋愛に積極的ではなかったレスリー・キャロンの内面に、恋心が芽生え育っていく過程が丁寧に描かれている。レスリーが有名人のルイ・ジュールダンに求婚されたときも、彼のことが好きではあるが有名人の妻になることに抵抗がある、という葛藤がまた面白い。ただ、原作は短編小説でありあっさりしているからか(コレット「ジジ」)、後半は物語に起伏がなく単調である。終盤でルイ・ジュールダンがレスリーに冷たくなるシーンがあるが、なぜ冷たくなったのか説明がなく共感できなかった。
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4.0『南太平洋』(1958/米)ジョシュア・ローガン

 有色人種の女が白人に惚れまくる
 有色人種の女が白人男にすぐ惚れるように出来ていておかしい。中尉のジョン・カーがバリ・ハイ島にやってきて、リアットという現地の娘と急に抱き合いキスをするのも意味が分からない。私は白人だからといって特別惹かれないので、彼女たちが簡単に白人に惚れる心理には全然共感できない。ただ白人看護婦ネリーが、人種差別は良くないと頭では分かっていても白人がポリネシア人と結婚していたと知ってショックを受けるというシーンは、人種差別や偽善に悩む白人の姿がリアルに描かれていてそこは良かった。


3.5『ひばり捕物帖 かんざし小判』(1958/日)沢島忠

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 恋愛を期待してガッカリした
 美空ひばりが格好良くて、浪人の東千代之介にも簡単になびかないから、どう恋愛が展開されるのかとワクワクしたが、物語は殺人事件の事件解明に重きが置かれているため後半はほとんど恋愛描写はなくなり、最終的に二人が結ばれたのかどうかも分からないからガッカリした。ひばりは姫という身分なので、浪人と結ばれるラストを描くのが面倒でやめたのかもしれないが、だったら最初からひばりの身分を下げてくれと思った。また、ひばりの手下の堺駿二が大名に扮したとき、「頭が高い」と平民達をひれ伏せさせて悦に浸り喜んでいるのも気持ちが悪いと思った。人間を生まれで差別することがそんなに嬉しいことな訳がない。
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1.5『くたばれ!ヤンキース』(1958/米)スタンリー・ドーネン

くたばれ ! ヤンキース [DVD]

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 ただのファンタジー
 冒頭の野球狂の夫とそれを嘆く妻の掛け合いの歌は面白いが、悪魔と契約し女が誘惑しに来るなど、物語はただのファンタジーである。また、マッチョな男性のヌードが観たくて球場に来た女性記者がいるが、男の肉体の良さが分からない私としては少々気味が悪い。というか、この映画はマッチョな男が自分の欲望を映像化しているだけなんじゃないかと思った。悪女が男を誘惑するシーンなどもよくある女性嫌悪の展開であり嫌である。


4.0『お染久松 そよ風日傘』(1959/日)沢島忠

お染久松 そよ風日傘 [VHS]

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 無意味な一人二役
 美空ひばり里見浩太朗はすぐには恋仲にならず、恋愛への過程が丁寧に描かれているのでいい。ただ、この映画では美空ひばり一人二役だが、里見浩太朗の恋人が美空ひばりで、里見の田舎の許嫁も美空ひばりという全く理解できない配役で、別の女優が演じれば良いし、そもそも許嫁など出さなくてもひばりと里見との身分の違いによる恋の話に焦点を当てて話を作ればいいのでこのやりとりは丸々いらないと思う。またこの映画の冒頭とラストには、キャストが人前で芝居をするというメタフィクション的なシーンがあるが、面白くないので蛇足である。
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3.0『5つの銅貨』(1959/米)メルビル・シェイブルスン

(イメージ無し)
 家庭を離れることを悪いように描く
 コルネット奏者レッド・ニコルズ(役;ダニー・ケイ)の伝記映画だが、無名の時代からすぐ女とイチャイチャでき、ボビーという女と恋に落ちるので私にはついて行けない。彼らが家庭を持った後、娘を親元から離して寄宿学校(寮)に通わせていると娘が小児麻痺にかかるのだが、「寮に入れなければ病気にならずに済んだのに」とあたかも家庭を離れた罰を受けたかのように描いている。もちろん、その寮では子供の面倒をちゃんと見ずに放任していて、雨の日でも外で遊ばせていたようだから非はあるが、それはその寮がたまたま悪かっただけで〈寮=悪〉という一般論にはならない。またもしレッド・ニコルズ夫婦が自宅で娘を育てていたとしても小児麻痺になったことは十分考えられる。このシーンは明確に「家庭が一番」というイデオロギーを体現しているが、一番可哀想なのはイデオロギーに小児麻痺を利用されている娘本人ではないか。
 ところで、幼少期の娘ドロシーは可愛くて、病気が本当に辛そうだし、父親と対立して関係がギクシャクするところもちゃんと描かれているから面白かったが、成長してからのドロシーがあまり父と喧嘩しなかったので物足りないまま終わった。
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1.0『眠れる森の美女』(1959/米)ケン・ピーターソン

 人間性が伝わってこない
 姫は生まれてから全く画面に登場せず16年経過し、そのあと王子と出会ったと思ったらすぐ悪の女王に眠らされてしまうので、姫が全然活躍しないし彼女の人間性が伝わってこない。王子は王子で全然喋らないので心境が分からない。この映画の主人公は結局のところ3人のおばさんの妖精で、王子を助け出すのも悪の女王にとどめを刺すのもおばさんの妖精である。
 ところでおばさん妖精は、魔法で街の人々を全員眠らせるが、悪の女王よりそっちの方が恐ろしいと思う。


参考文献

スタンリー・グリーン『ハリウッド・ミュージカル映画のすべて』村林典子訳/岡部迪子監修、音楽之友社、1995年
キティ・ケリー『ヒズ・ウェイ』柴田京子訳、文藝春秋、1989年
シェイクスピア『じゃじゃ馬馴らし』松岡和子訳、ちくま文庫、2010年
ボブ・トーマス『ウォルト・ディズニー 創造と冒険の生涯 完全復刻版』玉置悦子・能登路雅子訳、講談社、2010年
小谷野敦『日本売春史――遊行女婦からソープランドまで』新潮選書、2007年
芝邦夫『ブロードウェイ・ミュージカル事典』劇書房、1984

1927年-1944年のミュージカル映画(99本)

採点方針
ミュージカル映画であっても私にとって一番重要なのは映画としての内容であり、いくら歌や音楽が良かったり過去の作品の引用がしっかりしているとしても内容がつまらなければ減点しています。
・登場人物に自分が共感できるかどうかも重視しているので、主人公がモテまくる映画・女性嫌悪の強い映画・ヤクザや犯罪者や不良を美化している映画・宗教的すぎて難解な映画などは減点しています。
・政治的な思想が右や左に偏りすぎていると思った映画も減点しています。

※反論がある方は本名を出して書き込んで貰えると助かります。匿名の批判は無視します。
 私は本名を出してやっているのでフェアにやりましょう。




点数(10点満点)『映画タイトル』(制作年/制作国)監督名
(同年の映画は点数順に並んでいます。
 また、ほぼ全てネタバレをしているのでご了承ください。)

6.0『ジャズ・シンガー』(1927/米)アラン・クロスランド

 オーソドックスだが宗教色が強い
 歌のシーンだけトーキー(音声あり)であり、地の台詞は字幕で表示される。
 ジャズ・シンガーのアル・ジョルスンの家は五代続くユダヤの聖唱の歌い手であり、父親には「芸人を目指すとは何事か、この家系で神に背く最初の者だ」と怒られる。話の筋はオーソドックスで、父親の演技も迫力があって良い。しかしジョルスンが「僕ら芸人にも独自の信仰があります」と父親に反論するように、宗教そのものには全く反対する映画ではない。このように宗教上の倫理や対立がテーマになるシーンでは無神論的な日本人の私にはピンとこないことも多かった。また終盤でジョルスンは、自分の大舞台の日程と教会で賛美歌を歌う日が被り、彼が迷った末に教会で歌うことを選ぶが、それはそれで親孝行になるとしても、大舞台をフイにしたら業界から干されると思うが、ジョルスンが芸能界で苦労するような様子は全く無いまま大舞台にカムバックするのでおかしく思った。


3.0『ラヴ・パレード』(1929/米)エルンスト・ルビッチ

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 陰湿なのにモテる男
 エルンスト・ルビッチ監督初のトーキー映画であり、1920年代にして既にミュージカル映画の枠組みができあがっている。歌のタイミングや掛け合いが心地よく、現代と遜色ない。
 しかし、伯爵役であるモーリス・シュバリエが序盤ですんなりと女王と結婚できるので、そこに至るまでの恋愛描写が物足りない。また、シュバリエは女王の夫になったのにもかかわらず政治に対して何の決定権や口出しも与えられないが(そんなことはありえないと思うのだが)、そんな女王に対抗するためにシュバリエは女王のことを無視して口をきかないなどの仕打ちをしていて、陰湿な復讐をする嫌な男だと思った。
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2.0『ブロードウェイ・メロディー』(1929/米)ハリー・ボーモント

 姉がずっと可哀想
 世界初の全編トーキーによるミュージカル作品であり、「その後長い間ハリウッド製ミュージカルの中心を成すバックステージものの先駆けとなった作品」で、「アメリカ国内のほとんどの人が見た最初のトーキー映画といえる」(スタンリー・グリーン『ハリウッド・ミュージカル映画のすべて』p19)という。だが芸術の分野では、「記念すべき作品」イコール面白い作品だとは私は思わない。
 本編はというと、姉の恋人の男が妹の方に惚れるというだけで映画を100分持たせようとしているので退屈である。姉は結局彼氏に振られ、身を落ち着けられずコーラスガールとして貧乏なまま放浪し続けることになり、全く姉が可哀想だと思った。


0.5『ハレルヤ』(1929/米)キング・ヴィダー

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 説教と女性蔑視
 白人のキング・ヴィダー監督によるオール黒人キャスト映画で、昔ながらの黒人の労働風景が描かれるが、実は黒人差別的な内容である。なぜなら、映画の中で白人が出てこないことには人種間での差別が浮かび上がらず、白人が彼らを働かせていたということを観客が忘れてしまうからである。また不気味なことに、黒人達は皆嬉しそうに労働しているが、労働がそんなに楽しかったはずはなくて、辛かったからこそ彼らは歌を歌いながら日々をやり過ごしてジャズやブルースなどの音楽を生み出したのである。こういった描き方は、過去の白人の行いを美化し正当化しているだけだろう。
 また、この映画は全編通してキリスト教的な説教臭さに満ちていて、女が男を誘惑して堕落させるシーンもアダムとイヴの発想である。また女性の方が男の愛を裏切って浮気するエピソードが出てくるが、これも観客に「女というのは悪いものだ」という説教をするための女性蔑視的なメッセージである。最終的に主人公の男が女を撃ち殺すが、何も殺すことはないわけで、全く女が可哀想である。


4.0『けだもの組合』(1930/米)ビクター・ヒアマン

 喜劇は今観て笑えるかどうかが重要
 マルクス兄弟はドイツ系米国人の兄弟で、元々舞台でドタバタ喜劇をやっていた。『けだもの組合』は彼らの映画出演二作目で、「舞台の忠実な再現」である(ポール・D・ジンマーマン『マルクス兄弟のおかしな世界』p57)。
 眼鏡と髭がトレードマークの三男グルーチョ・マルクスの失礼極まりない毒舌トークなどが人気を博したが、今観ると笑えないジョークもある。マルクス兄弟の映画は物語や人間ドラマを見せるものではないので、笑えないのであれば致命的である。メインの物語は画家と娘の恋愛だが、ギャグの前振りでしかないのでストーリーに捻りがない上に、二人ともまじめな歌を歌うので笑いがそもそも介入せずつまらない。
 ひと言も喋らない次男ハーポは面白いので4点にした。
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2.0『ガソリン・ボーイ三人組』(1930/独)ビルヘルム・ティーレ

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 美女に求婚されて怒るヤバい男
 簡単に言うと、貧乏でもカッコいい男なら、実家が金持ちの美人に惚れられて成り上がれるという話。ただ中盤で、主人公の男はなぜか美人にプロポーズされたのに断り、逆上して女を非難する。じゃあ結婚しないのかというと、考え直して結婚するのだから意味が分からない。「女は騙すが男同士は連帯」という歌詞を主人公が歌うように、女性を下に見ているから変な男のプライドが働いたのだろうか。男の連帯を歌うようなマッチョ志向は私は苦手である。ただ曲は楽しめたので2点にした。


8.0『會議は踊る』(1931/独)エリック・シャレル

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 ナチスに葬られたために高い点を付けたのではない
 この映画はお色気ギャグなどが多いため、ナチスに退廃芸術とみなされ1933年から上映を禁止されたが、私は別にナチスに葬られたからといってそのカウンターで点数を上乗せしたくはない。あくまで冷静に内容を判断した上での8点である。
 リリアン・ハーヴェイの演技が細かくてかわいい。花屋の娘である彼女は皇帝にあこがれを抱いている少女で、日本で例えると皇室にあこがれを抱く女性のようなものだが、結局少女の皇帝への夢は破れるので単純に貴族制を賛美している訳ではないと読めるから良い。音楽も楽しめる。


5.0『突貫勘太』(1931/米)エドワード・サザーランド

(イメージ無し)
 まあまあのコメディ
 工場で働く女達が体操しているシーンが冒頭から続くが、ちょっと何を見せられているのか分からない。女の体操服姿に興奮する性癖のある人が演出をしているのだろうか。インチキ予言者が人々を騙して金を巻き上げていく様は、オカルト批判と読めるのでまあいいかと思った。最後はエディ・カンターが長身の女と結ばれてハッピーエンドになるが、これは女が美人でないから嫉妬することなく微笑ましく思えた。まあまあ観られるが、しかしコメディ映画ならもっと笑えないとダメだろうと思った。
 ちなみに冗談みたいだが、主演がエディ・カンターなので「勘太」である。


4.5『ル・ミリオン』(1931/仏)ルネ・クレール

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 冴えない男の不満の顕在化
 フィアンセが居るのにモデルの女とイチャつく絵描きの男(ルネ・ルフェーブル)が主人公で、周囲の人々に金を借りまくって返さないでいると偶然宝くじが当たって儲かるというドタバタ喜劇だが、そういう男に私は全く感情移入できない。むしろ、冴えない友人ルイ・アリベールの方が良かった。宝くじが当選したことで、親友だったはずのアリベールのモテ男への不満が顕在し、彼と駆け引きをしていく様は面白かった。


1.5『三文オペラ』(1931/独)G.W.パプスト

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 原作と共に疲れる作品
 原作の戯曲『三文オペラ』もそうなのだが、ヤクザとか腐敗した警察署長とか嫌な人しか出てこないので感情移入をさせてくれず観ていて疲れる。現実の世の中には良い人はいるのであり、作者の左翼系のイデオロギー(資本主義への批判)を正当化するために人々をデフォルメして描いているに過ぎない。ブラックユーモア作品ならばもっと笑えないといけないのだが、全体的にギャグも弱い。


1.0『陽気な中尉さん』(1931/米)エルンスト・ルビッチ

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 身分制への反動的な憧れ
 中尉役のモーリス・シュバリエはとにかくモテる男で、バンドリーダーの女とすぐ相思相愛になるかと思えばフラウゼンタウムという架空の国の王女にも惚れられる。恋愛描写もないまま男女が勝手に惚れ合うので全く共感できない。しかもシュバリエは結局バンドリーダーより王女を選ぶので、この映画には共和国(身分制がない国)の貴族制への憧れや反動が垣間見られる。もちろん、作品に貴族や王や天皇が出てくることは全く構わないのだが、あまりにも身分制に批判意識のない映画は私は苦手である。
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7.5『今晩は愛して頂戴ナ』(1932/米)ルーベン・マムーリアン

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 このモーリス・シュバリエは面白い
 前半は登場人物が多く分かりづらくて退屈である。後半では平民のモーリス・シュバリエを軽蔑する貴族やその召使い達の振る舞いや嫌がらせが容赦ないが、身分制への批判意識が垣間見られて面白い。違う身分との結婚について、貴族の娘の父は「平民と結婚するなら爆弾を落としたい」などと言うのも凄い話である。街の物音が呼応し合い音楽になっていく冒頭のシーンなど、映像表現も工夫されている。
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7.5『我輩はカモである』(1933/米)レオ・マケアリー

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 戦争風刺映画を過大評価してはいけない
 この映画はナチスを風刺しているということで評価されやすい。ポール・D・ジンマーマンは、マルクス兄弟は『我輩はカモである』によって、戦争や恐慌の悲惨に対し「人間の創造的なエネルギーが、たとえ誤りだらけの不完全なものであっても、結局は勝利をしめるという自由のファンタジーでもって答えた」(ポール・D・ジンマーマン『マルクス兄弟のおかしな世界』p106)と言っている。しかし現代では夢想過ぎるというか、いざ戦争が始まったら人間の創造的なエネルギーでは戦争を終わらせられるわけがない(しかもそのエネルギーが誤りだらけだったらダメだろう)。
 この映画で重要なことは、単純に笑えるか笑えないかである。私は、他のマルクス兄弟映画に比べて笑ったから7.5点にした。序盤でなかなか主役が登場しないなど天丼を引っ張りすぎて退屈になる所はあるが、68分にまとまっているからマルクス兄弟はとりあえずこれを観ておけば良いのではないか。
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7.0『ゴールド・ディガーズ』(1933/米)マーヴィン・ルロイ

(イメージ無し)
 キャラが立っている
 ショーガールの女と名家の男ディック・パウエルがその階級差にもかかわらず結婚しようとし、パウエルの兄が「家族の名誉を汚す」と反対してくるのもベタだが面白い。女達が喋る台詞も人間性が伝わってきて楽しい。ただ、結局パウエルの兄までもショーガールの女と結ばれることになるが、なんでそこまで心変わりが出来たのかという描写が足りないのが残念。


7.0『ダンシング・レディ』(1933/米)ロバート・Z・レナード

 簡単に相思相愛にならないからこそ面白い
 主人公(ジョーン・クロフォード)が簡単に男になびかないのが良くて、恋愛のもどかしさが楽しめる。ただジョーン・クロフォードのダンスがそんなに巧いと思えないのに周りの大人達が「彼女には才能がある」と感心しているのは共感できなかった。ちなみにフレッド・アステアが映画に初出演した作品だが、周りの出演者と比べてやはり彼のダンスはレベルが高いと思った。
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7.0『空中レヴュー時代』(1933/米)ソーントン・フリーランド

 アステア&ロジャースの原型
 音楽もダンスも楽しい。フレッド・アステアは男前ではないので簡単にモテないのが良い。アステアとジンジャーロジャースは以後9作品で共演し踊るが、ダンスにしろ恋愛模様にしろこの原型と『コンチネンタル』(1934年)くらいを見ておけばいい気がする。ただこの作品はアステア&ロジャースが主演ではなく、メインのカップルの恋愛は平凡な三角関係で物足りない。終盤では飛行機の羽根に女性達をくくりつけて飛ばすという非常識なショーが行われるが、男性陣は地上にいて安全であるのに女性陣にだけ危ない目に遭わせているので不愉快には思った。
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3.0『四十二番街』(1933/米)ロイド・ベーコン

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 振り付けの面白さと映画の面白さは別だと思う
 『四十二番街』は戦前のミュージカルとして評価の高い映画で、私は三回視聴している。初めて見たときはバスビー・バークレイの万華鏡のような踊り子の配置や振り付けが面白いと思ったが、今の私はそういういものは映画として面白いかどうかとは別問題だと思っている。いくら殺陣シーンが格好良くても、物語や人間ドラマが面白くなければ私はいい時代劇とは思わないが、それと同じ理由である。
 途中で演出家がギャングにショーの出資を頼むのにもかかわらずハッピーエンドで終わるため、たいしてギャングの恐ろしさが描かれておらず不満である。また女のダンサー同士の嫉妬によるデフォルメされた争いが出てきて、男目線から描いた女性の醜態なので嫌だが、一応その女同士は仲直りするから後味は悪くないと思った。


3.0『羅馬太平記』(1933/米)フランク・タトル

(イメージ無し)
 雑な展開をカバーする笑いがない
 美術館で勝手に寝ていたエディ・カンターは、何のきっかけもなく歩いているだけで古代ローマにタイムスリップする。暴君に耐えられなくなり逃げ出そうとする王女たちが出てくるが、最後彼らが無事に脱出できたのか分からないまま現代に戻り、なぜかハッピーエンドの流れにるのでついていけない。雑な展開をカバーする笑いが必要だが特に笑えない。ただ、この映画では毒味で死ぬ奴隷が描かれていて身分というのは酷い物だと読めるから、奴隷を茶化しているだけの映画『ローマで起こった奇妙な出来事』(1966年)よりはマシである。


2.0『フットライト・パレード』(1933/米)ロイド・ベーコン

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 映画史的に重要だとしても…
 芝居小屋のオーナー(役:ジェームズ・キャグニー)に恋する秘書(役:ジョーン・ブロンデル)は美人過ぎなくて可愛いが、しかしキャグニーがずっと一途に思われるだけで、身近な女性に惚れられることがない私には見ていて楽しくはない。共同経営者が金をごまかしたり、キャグニーの前妻や次の婚約者などが金を請求してきたりするが、人物のバックグラウンドが分からないので、ただ物語を動かすための言い訳にしか見えずこれも面白くない。
 振付師のバスビー・バークレイによる水着の女達の奇天烈なシーンによってこの映画は『四十二番街』と並んで映画史的に重要な位置づけがなされているが、やはり振り付けの面白さと映画の面白さは私は別だと思う。
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8.5『輝く瞳』(1934/米)デイヴィッド・バトラー

 面白いが詰め込みすぎ
 主人公のシャーリー・テンプルは米国を代表する子役で、世界恐慌後の暗い雰囲気を忘れたい米国民によってたちまちスターに押し上げられたが、無邪気で可愛くもありながらませた所も伝わってきて面白かった。また、テンプルをいじめる役の少女も熱演で、彼女と車椅子の偏屈な老人との掛け合いや喧嘩も笑える。テンプルの母親が車に轢かれるシーンなどは生々しく、観客に非情な現実を突きつける効果を果たしている。テンプルとパイロットが大陸横断飛行を果たせないのもリアリズムを反映していると思う。
 ただ、登場人物が多くて個々の人間性を描き切れていないところがあるのが惜しい。とくにパイロットのフィアンセである女の出番が少なく、もっとパイロットと女のドラマを見たかった。


7.0『コンチネンタル』(1934/米)マーク・サンドリッチ

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 アステアとロジャースは良いが…
 アステアとロジャースの二人に焦点を合わせており、アステアの片思いがしっかり描かれていて面白い。ただ筋には強引なところがあり、「離婚屋」に依頼者の女性の名前を教えないまま仕事をさせる、などはありえないだろう。ギャグだとしたらもっと笑えなければいけない。終盤の、ロジャースが離婚したい相手がなかなか部屋にやって来ないというギャグが延々と繰り返される展開もクドい。もっと真面目な恋愛映画にすればいいのにと思った。
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5.0『イギリス物語-ミュージカル「永遠の緑」-』(1934/英)ヴィクター・サヴィル

(イメージ無し)
 設定が変すぎる
 ミュージカルスターだった女の娘が母親になりすまし、「スターのカムバック」ということでショーに出る、というちょっとありえない設定。母親を演じることの娘の葛藤など、娘の心情を表す描写があればもっと面白いのだが、そういうシーンは見られなかった。歌や音楽は楽しめるので勿体なかった。


4.0『はだかの女王』(1934/仏)マルク・アレグレ

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 脚本をもっと練ればいいのに
 アフリカ系アメリカ人の女性歌手・ジョセフィン・ベーカーが主人公を務める。義理の兄弟という設定のジョン・ギャバン(白人)とベイカーは腕を組んで外を出歩くが、変な目で見られたり人種差別を受けることはないので逆に違和感がある。人種差別がない国フランスということを宣伝したいのではないかと深読みしたくなる。また、ジャン・ギャバンが無実の罪で現行犯逮捕されたとき、なぜか「俺じゃない」と強く否定しないのはおかしい。ジャン・ギャバンは終盤はずっと刑務所に入っているので恋愛描写が減って物足りず、オチで裏切られるベイカーも可哀想である。ただ、ベイカーが簡単に兄の女に嫉妬しないのは良い。女性蔑視的な作品は、すぐ女が女に嫉妬させたがるからだ。脚本によってはもっと面白くなり得ただけに残念である。
 ちなみに監督のマルク・アレグレは美青年で、作家アンドレ・ジッドの同性愛の相手である(猪俣良樹『黒いヴィーナス ジョセフィン・ベイカー 狂乱の1920年代、パリ』p27)。
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1.0『メリイ・ウィドウ』(1934/米)エルンスト・ルビッチ

(イメージ無し)
 性格が悪いのにモテる男
 王室の将校役のモーリス・シュバリエは、例によって独身を満喫しているモテ男である。しかし性格は悪く、振られた途端「孤独の世界にもどって一人でお休みなさい」と女に大声で嫌みを言う。ギャグが多いが別に笑えないし何を面白いと思えばいいのか分からない。
 もちろんエルンスト・ルビッチの監督作品が嫌いだから低い点数にしているわけではなく、例えば彼の『ニノチカ』(1939年)は面白いと思っているが、どうも私はルビッチのミュージカルは合わないようである。
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5.0『踊るブロードウェイ』(1935/米)ロイ・デル・ルース

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 エレノア・パウエルはいいが…
 私はエレノア・パウエルの知的な感じが好きで、歌やタップダンスもとても格好良いと思う。しかし他の登場人物は、大嘘をつく記者やモテモテの演出家など嫌な感じである。また、恨んでいる演出家を困らせるために記者が存在しない架空の女優をラジオで宣伝して演出家を騙すなど、現実的にありえない展開も多くついていけない。
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4.0『オペラは踊る』(1935/米)サム・ウッド

マルクス兄弟 オペラは踊る [DVD]

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 今見ると斬新ではない
 狭い船室で人がごった返すシーンは笑ったが基本的に今見るとイマイチである。ダリなど当時の芸術家に影響を与えたというが、今見ると斬新な笑いをやっているという印象はない。斬新な笑いほど古くなるのは当然のことだが、まあプラスに考えると、今のお笑いはだいぶ進歩しているということである。
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2.5『トップ・ハット』(1935/米)マーク・サンドリッチ

トップ・ハット [DVD]

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 ダンスが良くても内容がだめ
 アステアがホテルの部屋で踊るとその部屋の真下にいたロジャースが「うるさい」と憤慨して怒りに行くが、すぐにアステアのステップの虜になり、部屋に帰ったあとアステアのステップを聴きながらスヤスヤ眠るなど描写がおかしい。相思相愛になる展開が早すぎて拍子抜けする。他にも、アステアが停めてある馬車に勝手に乗ったりと、『コンチネンタル』よりリアリズムに乏しくそれが笑いにもなっていない。そして何と言ってもロジャースがアステアを既婚者だと誤解し続けたまま話が進むのはしつこかった。ダンスがいいからということでアステア&ロジャースの最高傑作だとも言われるが、ダンスが良くても内容が良くないとダメだろう。
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2.0『浮かれ姫君』(1935/米)W.S.ヴァン・ダイク

浮かれ姫君 [DVD]

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 身分制への批判的意識が読み取れない
 ルイ王朝期のフランスの姫が身分を偽ってニューオーリンズに入って地位のある男と結婚するだけの話で、何が言いたいのかよく分からない。そこに身分制への批判的意識が読み取れれば良いが、そうとは思えない。ただ、船を襲ってくる海賊は非情で容赦なく人を殺すので、悪人を美化していなくてそこは良いと思った。
 ちなみにこの映画ではニューオーリンズをフランスの植民地としているが、18世紀後半はまだスペインの植民地である(スタンリー・グリーン『ハリウッド・ミュージカル映画のすべて』58p)。


1.5『ロバータ』(1935/米)ウィリアム・A・サイター

ロバータ [DVD]

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 結局身分がほしいのか
 ケント(役;ランドルフ・スコット)という男は婚約者がいるのに美人の亡命貴族の女性とすぐいい仲になるなど、私には理解しがたい内容である。しかもケントは女を突き飛ばすようなことをしても全然女に嫌われないので謎である。また、最後ケントは婚約者ではなくロシアの亡命貴族のステファニーを選ぶので、結局身分がほしいんだなと思った。アステアも、本当は彼女がいるのにロジャースを騙して付き合っていて、ロジャースが可哀想である。DVDの解説で「35年度の興収ベスト・スリーに輝いた」とあるが信じられない。
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7.0『桑港』(1936/米)W.S.ヴァン・ダイク

桑港 (サンフランシスコ) [DVD]

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 説教臭すぎるが迫力がある
 はっきり言うとキリスト教の説教映画で、暗黒街だったサンフランシスコに大地震という天罰が下り、神父が被災者を励ますうちにヤクザ男のクラーク・ゲーブルも改心して神に感謝する、という話である。しかし地震を天罰と捉えるのは問題で、死んでしまった無辜の市民はどうなるんだ、彼らは悪人だったのかと言いたくなる。また、クラーク・ゲーブルがメアリーという真面目な女と結婚することを、ゲーブルの友人の神父が「結婚をだしにメアリーを利用してゲーブルが選挙資金などを稼いでいる」と批判するが、神父は被災後に地震をだしに宗教を広めている訳だから、人のことは言えないんじゃないか。
 ここまで批判して7点付けたのは、この映画は人間ドラマがしっかり描けているし、また1936年とは思えないくらい地震の怖さを表現できているからである。地震で建物が崩壊するシーンは今見ても迫力があるし、一度おさまったと思ったら余震が来てまた人が死んでしまうのも恐ろしい。略奪の罪で射殺されたという死体が道端に晒されていたりもする。評価が難しいが思わず見入ってしまう映画である。


6.5『巨星ジーグフェルド』(1936/米)ロバート・Z・レナード

 名演技だが可哀想な奥さん
 ジーグフェルド(役;ウィリアム・パウエル)はかなりモテていて、「女は皆ハエトリ紙にすいよせられるハエだ」と言ったり、「米国は王位制だよ」と自分が貴族であるかのように振る舞ったりしてムカつくものの、演技はうまい。先妻役のルイーゼ・ライナーも名演技で、ジーグフェルドと別れたあとの情緒不安定な振る舞いには目を見張った。しかし、だからこそルイーゼ・ライナーが可哀想で、せめてもっと彼女の出番を増やしてほしいと思った。ジーグフェルドがプロデュースするショーが展開される場面では、観客を飽きさせない工夫がされていて楽しめる。


4.0『踊るアメリカ艦隊』(1936/米)ロイ・デル・ルース

踊るアメリカ艦隊 [DVD]

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 エレノア・パウエルが見たい人向け
 序盤の、ジェームズ・スチュアートとエリノア・パウエルの恋愛がすぐに上手くいかない感じは面白いと思ったら、トントン拍子で夫婦になってしまうので物足りない。もっと上手くいかないかんじを引っ張ってほしかった。また、スチュアートが新聞にガセネタを報じさせてルーシーという女をショーの主役から引きずり下ろして妻のパウエルを主役にさせるのだが、それはそれでルーシーが可哀想である。観客が納得するような大人の解決してほしい。エレノア・パウエルの歌やダンスが見たい人向けの映画である。
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2.0『ショウボート』(1936/米)ジェームズ・ホエール

ショウボート [DVD]

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 逃げた夫を歓迎していいのか
 メインの男女は結婚するが、ギャンブラーの男は借金をこさえ妻と娘を捨て、散々辛い思いをさせながらも最後は母子の元に戻ってきて歓迎を受ける…という話なのでおかしい。夫として、親としての責任を放棄した人間がどうやってけじめをつけるのか、ということが描かれていない。また、白人が黒人と結婚してはいけない法律などが出てくるなど、白人に反省を迫る批判的な内容も出てくるが、肝心な黒人女性役を白人が演じていて説得力が無い。


2.0『有頂天時代』(1936/米)ジョージ・スティーブンス

スイング・タイム<有頂天時代> [DVD]

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 コメディとしても笑えない
 アステアは婚約者を隠してロジャースと親しくするが、婚約者の女性が実は他の男と結婚することになりました、みたいな都合の良い展開が唐突に起こっていくだけで面白くない。またオチは、ロジャースがロメロという男と結婚するのをやめさせるためにアステアはロメロのズボンを取り上げて結婚式に出られないようにする、という馬鹿馬鹿しいもので、コメディとしても笑えなかった。
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1.0『艦隊を追って』(1936/米)マーク・サンドリッチ

艦隊を追って [DVD]

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 教養のある女が好きである
 教養のある女がモテない世界になっているが、私はそういう女性が好きだからまず共感できない。「女が田舎に引っ込めば家庭はなくなり男は飢え死にだ」という歌詞が出てくるなど、女性の社会進出に否定的であることを隠そうとしていないので観るのがキツい。また、アステアがこっそりコップに重曹をいれて女にそれを飲ませ、オーディションを落とさせるなど女性の扱いも酷い。
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9.0『オーケストラの少女』(1937/米)ヘンリー・コスター

オーケストラの少女 [DVD]

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 演出も演技も良い
 楽団員を失職した父親が、娘(ディアナ・ダービン)を心配させないように嘘をついて接するところは泣ける。また全体的に演出や演技の質が高く、仕事を失った音楽家達で作られたディアナ・ダービン率いる楽団が成長し、指揮者のストコフスキー(本人役)を驚かせるまでになるというベタな展開であるはずなのに飽きずに観ることができる。人間の描き方に心を揺さぶられる。
 ただ、場所代を払わせようとするガレージの持ち主がしつこいなど、ギャグが空回りしていてイライラする所はあったのでそこだけ減点した。
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5.0『陽気な街』(1937/米)ロイ・デル・ルース

 アリス・フェイの歌はいい
 「高級住宅街を冷やかそう」、上流社会の「あの人たちと私たちどこが違うの」という歌詞に表われているように、階級への批判意識はあるから庶民の私が見ても楽しい。アリス・フェイの歌は哀切があってこれも良かった。ただ話の筋は、主人公の演出家の男が金持ちの令嬢と舞台女優(アリス・フェイ)の二人に惚れられて板挟みになっているというもので、そんな状況にあったことの無い私は共感できないしムカついた。
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4.0『白雪姫』(1937/米)デイヴィッド・ハンド

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 王子さまの人間性が全く分からない
 ディズニーアニメ初の長編映画だが、初の長篇映画とは思えないほど絵が綺麗だと率直に感じた。井戸を覗きこんだ白雪姫の顔が波紋で揺れるところはどうやって描いているのか私には分からなかった。
 物語は、継母の女王に城を追放された白雪姫が森に逃げこむと、七人のこびとの家にたどり着くというものだが、ストーリーはほとんどなくこびとが手を洗うだの洗わないだののコメディがメインで正直しつこかった。また、王子さまの人間性が全く分からないので、白雪姫をキスで目覚めさせるシーンではドラマが感じられないのもダメだろうと思った。ただ、女嫌いなこびと「おこりんぼ」が、白雪姫と会ったことで動揺し、彼女に惹かれていくのは面白かった。


3.0『踊る騎士』(1937/米)ジョージ・スティーブンス

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 貴族批判をしたのに自分が貴族になる
 アステアは「伯爵とは先祖が貧乏人を騙した結果じゃないか」「海賊だ」と発言し、良いことを言うなと思ったが、結局は貴族の身分の女と結ばれるので、自分が貴族になったことに対しどう思っているのか考えを述べてほしい。また、ゆがんだ鏡などを使ってダンスシーンを工夫しようとしているが、人が縮んだり伸びて見えたりするからといって別にどうってことはない。終盤でドラムセットを足で蹴りながら踊るシーンも地味で、アステアの体が生かされていないと思った。同じくドラムを使ったダンスでも『イースター・パレード』(1948年)のアステアの方が面白かった。
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2.5『マルクス一番乗り』(1937/米)サム・ウッド

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 マルクス兄弟が好きな人だけ観れば良い
 病院を経営する若い女性が、病院を乗っ取られないようにマルクス兄弟と組む。物語自体に無理があるが(当たり前だが)、あまりギャグで笑えないので得るものが少ない。結局はマルクス兄弟が好きな人が観れば良い映画である。
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2.0『踊る不夜城』(1937/米)ロイ・デル・ルース

 キャラも設定も生かされていない
 エレノア・パウエルは馬の調教師の役で、序盤の気丈な感じが良かったのに、ロバート・テイラーと会った瞬間しおらしくなっていてキャラがブレてつまらなくなった。また、途中から競馬の調教師という設定がどうでもよくなっている。
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2.0『踊らん哉』(1937/米)マーク・サンドリッチ

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 人間を描いていない
 ロジャースに惚れたアステアは、勝手に自分がロジャースと結婚したと周りに嘘を言う。それを知ったロジャースは怒るが、いつしかアステアを好きになっていて…という強引な筋書きで、ドタバタしてるだけで人間を描いていない。どうして彼女はアステアを好きになるのか分からないので、急に嫌だった男を好きになるチップでも頭に埋め込まれているのかと思った。アステア&ロジャースのダンスやガーシュウィンの音楽が聴きたい人向けだろう。
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1.5『ワイキキの結婚』(1937/米)フランク・タトル

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 前近代の暮らしには戻りたくない
 誰かがハワイの原住民から真珠のネックレスを持ち出したが、クロスビー達が疑われて原住民に半ば誘拐される。しかしどうもコメディのような演出が多く楽観的で、緊迫感が伝わってこない。そこには、「原住民の生活っていいもんだよ」と前近代的な生活を美化しユートピアを見いだそうとする意図があるのかもしれないが、私にとっては昔の暮らしは不便だし人間同士のつながりが強すぎて戻りたくないので共感できない。サスペンスとしてもファンタジーとしても中途半端になってしまっている。
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1.5『キャグニー、ハリウッドに行く』(1937/米)ヴィクター・シャーツィンガー

(イメージ無し)
 モテるスターの贅沢な悩み
 キャグニーは新人として映画に出演することになるが、思いのほか喧嘩シーンがウケてすぐスターになる。若いときの苦労が語られないから物足りないし、そもそも喧嘩がウケてスターになるという発想が幼稚だと思う。キャグニーには婚約者がいるが、彼は女性の観衆にとってのスターなので会社から独身でいろと迫られるなど、一般人とはかけ離れた贅沢な悩みを突きつけられていて共感できない。ヘコヘコおじぎをする日系人のイトーという人物が出てくるのも笑えないし不快である。
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0.5『フットボール・パレード』(1937/米)デヴィッド・バトラー

(イメージ無し)
 体育会系の嫌なところが凝縮されている
 手違いで弱いラグビー部が強豪校と戦うことになったという話だが、開始早々ラグビー部の男が彼女を連れてきてベタベタするという嫌なシーンを見せられる。また、部員達は自分たちの力だけでは相手に勝てないことを悟り、ラグビーがうまい農家の男をチームに引き入れることにするが、彼は大学生では無い。そこで彼らは、共産主義っぽいガリ勉の学生H.ヴァン・ダイクをけしかけて銀行のガラスを割らせ、警察に通報し学籍を奪ったところで農家の男をH.ヴァン・ダイクに仕立て上げ学籍を与える、というとんでもないことをする。もちろん過激な共産主義はおかしいがそれは別問題で、やっていいことと悪いことがあり、ラグビー部の男たちの性格が悪すぎる。最終的に弱小チームが勝つが、汚い手を使って勝って楽しいのだろうか。実は学生でない人間を雇っていたということもバレることはなく、反省もせず、周りから選手は賞賛される。体育会系の嫌なところが凝縮されている。
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8.0『アヴェ・マリア』(1938/米)ノーマン・タウログ

(イメージ無し)
 脚本が惜しい
 アヴェ・マリアというタイトルだが宗教色もそんなに強くなくて楽しめた。クラスメイトに父親が居ないことを隠しているディアナ・ダービンが、駅で皆がいる手前、列車から降りてきた面識のない男性をとりあえず父親として迎え入れてしまう。話の展開は多少強引だが面白い。ただ、学校でダービンがいじめられるシーンがあるのに、最終的にいじめっ子となんとなく仲直りしていて、何で和解したのかという理由が有耶無耶にされているのは不満である。いじめを有耶無耶にして得をするのはいじめっ子の方なのだからこれは許せない。脚本をもっと練ったら傑作になりそうなのに惜しい。
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7.5『恋する水兵』(1938/米)エリオット・ニュージェント

(イメージ無し)
 ブスな女性を応援したくなる
 戦争映画だがギャグが主体で、モテない男と女の悲哀が描けている。どちらがどちらと結婚するのかは最後まで分からず、結構ハラハラできる。ラストでは、料理が得意なブスな女(マーサ・レイ)と料理の仕方が分からない美女(ベティ・グレイブル)では、料理のできるブスのほうがハッピーエンドになるので、ここには家庭的な女を推奨するメッセージを感じるものの、しかし現実では美女は料理ができなくてもモテるはずだから、ブスな女がハッピーエンドになってよかったねと素直に思えた。
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6.0『華麗なるミュージカル』(1938/米)ジョージ・マーシャル

(イメージ無し)
 マンジューはいいが蛇足が多い
 偏屈な映画プロデューサー役のアドルフ・マンジューが、若い女に片思いしているところは恋愛のもどかしさを表現できていている。しかもその思いは「私の方が人間的だ」などと狂気じみたものとなり、女性に詰め寄っていくのでハラハラさしてくれる。ところで、結局マンジューは女に振られるのだが、ちゃっかり別の女優と結婚できるので拍子抜けした。また、腹話術師など狂言回しが何人かいるがはっきり言って蛇足で、115分もあるなら主人公マンジューの恋をもっと丁寧に描いたらよかったのにと思った。


1.5『百万弗大放送』(1938/米)ミッチェル・ライゼン

(イメージ無し)
 ついていけない
 金がないので3人の先妻の慰謝料が払えていないというどうしようもない男バズが主人公。ゴルフコースや船の中でしつこいギャグが延々と繰り広げられ、ドタバタやってるうちに最初の妻とまた寄りを戻していく、という展開になるがついていけず、感情移入もできないし笑えない。


1.5『世紀の楽団』(1938/米)ヘンリー・キング

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 人間の感情をすっ飛ばしている
 女歌手のアリス・フェイがバンドリーダーに対して子供っぽい怒り方をし、ダダをこねるので面倒くさい。そのくせラブソングを演奏した途端簡単に相思相愛になる。恋愛における心情を何かとすっ飛ばして描いている。軍に入隊したバンドマンがショーをするシーンも挟まるが、戦争が近い世相を反映したに過ぎずこれといって面白くはなかった。
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1.0『カレッジ・スイング』(1938/米)ラオール・ウォルシュ

(イメージ無し)
 笑えない
 200年間落第し続けている女子学生というありえない設定で、無駄に話がごちゃごちゃしていて分かりづらいし、ギャグとしても古くなっていて笑えない。
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0.5『グレート・ワルツ』(1938/米)ジュリアン・デュヴィヴィエ

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 何もかも腹立たしい
 主人公はシュトラウスという音楽家だが、「伝記ミュージカルとは何の関係もない」(スタンリー・グリーン『ハリウッド・ミュージカル映画のすべて』99p)と言われるように、これはシュトラウスの伝記映画のフリをしているが全く違っており、なんでそんな紛らわしいことをするのか腹が立つ。だったらオリジナルの登場人物の話にしてほしい。
 内容だが、シュトラウスは革命の行進曲を作曲したのにフランツ・ヨセフが王位に就いたことは歓迎しているから矛盾しているし、またシュトラウスは自分が不倫しているのになぜか彼が妻を責めるシーンがあり不愉快である。そんな妻は、シュトラウスのためなら「ナイフのような痛み」も「耐えられます」と不倫に耐えるしかなくて可哀想である。何もかも腹立たしい。


0.5『気儘時代』(1938/米)マーク・サンドリッチ

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 オカルトじみていて気持ち悪い
 「結婚しましょう」と言ってくれない女性を精神科に通わせて結婚させようとするという話で、まずその発想が気持ち悪い。精神科医のアステアは暗示や催眠術みたいな方法を駆使してロジャースを「治療」するが、洗脳みたいなことではないのか。女性が可哀想だしオカルトだしで、私には面白さがわからなかった。
 ちなみに、ゴルフ場でのダンスは3分に満たないが難易度が高く撮影に2日半かかった(スタンリー・グリーン『ハリウッド・ミュージカル映画のすべて』98p)らいしが、そんなに頑張ったということを踏まえても内容が酷すぎるので0.5点にした。
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0.5『ルーム・サービス』(1938/米)ウイリアム・A.サイター

(イメージ無し)
 笑わなかった
 セットの中だけで行われるコメディだが、単純に笑えるギャグがない。また、他のマルクス作品以上に女性が出てこないので、男達のホモソーシャルなノリに見えて嫌である。異性愛者の私には見所が分からなかった。
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5.5『オズの魔法使』(1939/米)ビクター・フレミング

オズの魔法使 特別版 [DVD]

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 「おうちが一番」はいらない
 ジュディ・ガーランドの歌はいいし、原作より物語が面白くなっていると思うし、こんなに金をかけて作り込んだミュージカルファンタジーは前例がないのも分かるのだが、桃太郎みたいに次々お供を従えていく展開は単調で退屈に感じた。また、ラストの「(やっぱり)おうちが一番」の連呼は、せっかく冒険したのに冒険そのものを否定しているからまったく必要ないと思う。
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4.0『マルクス兄弟珍サーカス』(1939/米)エドワード・バゼル

マルクス兄弟珍サーカス 特別版 [DVD]

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 サーカスでのギャグは笑えない
 若い男女は最初からカップルとして居るので恋愛としても物足りないが、87分と短いので他のマルクスの外れ映画よりはよかった。しかしサーカスでのギャグはあまり面白くなくて、前半の電車内でのシーンの方が笑えるから、それはそれでダメなんじゃないかと思う。


3.5『鴛鴦歌合戦』(1939/日)マキノ正博

 現代とはズレている説教
 メロディーに歌詞を乗せるのがまだうまくいっておらず試行錯誤の印象を受けるが、狸御殿などのシリーズに比べれば和製のミュージカルとして観ていられる。ただ、たいした筋も無く単調である。また、ラストでヒロインの市川春代は父親が持っていた値打ちのある茶入をわざわざ叩き割り、お金より大事なものがあるという説教じみた歌が流れてフィナーレになるが、生きる上で金はある程度必要なのだからそんなことをする必要は無いし、しかも老いた父親が居るのだから介護資金も必要になるだろうに何をしているんだ、と現代の感覚からしたらズレていて共感できなかった。


3.0『ワシントン広場の薔薇』(1939/米)レゴリー・ラトフ

(イメージ無し)
 逃げているオチ
 全体的に物語に起伏がなく、たとえ相手が元ヤクザの男だとしても私(アリス・フェイ)は愛してるなら関係ないわ、というだけの話。ただ、元ヤクザと結婚してからが大変だと思うが、物語は男が自首をしたところで終わりになるので逃げているオチだと思う。ところで、10人くらいで煙草を吸いながら踊る奇妙なダンスがあってこれは面白かった。
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2.0『カッスル夫妻』(1939/米)H.C.ポッター

カッスル夫妻 《IVC BEST SELECTION》 フレッド・アステア セレクション [DVD]

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 後味も悪い
 実在の舞踏家カッスル夫妻の伝記映画だが、彼らの演技が次々に興行師の目にとまっていくだけでドラマや工夫が感じられない。しかも悲劇なので後味も悪い。アステア&ロジャースが好きな人だけ見ればいい。
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8.0『踊るニュウ・ヨーク』(1940/米)ノーマン・タウログ

(イメージ無し)
 アステアとパウエル
 フレッド・アステアエレノア・パウエルが唯一共演した作品で、それぞれのダンスは面白い。また、アステアと相棒のマーフィがずっと仲良くやってきたのに、喧嘩するところなどは迫力がある。しかし、アステアが自分に自信が無いのか謙虚すぎるのが似合わないし、スカウトを借金取りと間違えてスカウトを交わしつづけるなど強引な展開は面白くなかった。
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6.0『セカンド・コーラス』(1940/米)ヘンリー・C・ポッター

 もっと笑えるといいのだが
 フレッド・アステアとバージェス・メレディスは学生からのバンド仲間で、マネージャーのポーレット・ゴダードをめぐってお互い気を引こうとするがなかなか彼女がなびかない様を見ているのは楽しい。ただ、コンサートの後援者を侮辱して追い返してしまったのに、すぐまた丸め込んで仲直りできるなど都合の良い展開も多く、コメディならばもっと笑えないと成立しないと思う。
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4.5『ファンタジア』(1940/米)ベン・シャープスティーン

 長篇として見ると面白くない
 世界初のステレオ音声の映画。7曲のクラシック音楽に合わせて7本の短編アニメが流れるオムニバス形式の実験映画のようなもので、ミッキーが魔法で箒に水くみをやらせる章や、地球ができて生命が誕生し恐竜が栄え滅びる章など個々では良いものがあったが、長編映画として面白いとは言えない。とくに最後のアヴェ・マリアに合わせたアニメはスローな演出で地味だし退屈だった。


4.0『ミュージック・イン・マイ・ハート』(1940/米)ジョセフ・サントリー

(イメージ無し)
 そんな簡単に養子にする訳がない
 移民局に帰れと言われている貧乏歌手の男が主人公だが、そのわりに脳天気なギャグが多い。ラストで、リタ・ヘイワースを狙っていた別の資産家の男が、リタ・ヘイワースと結婚するのを諦め、彼女と貧乏歌手の男を養子にすることに決めるのだが(男は国籍を手に入れるのでそこもハッピーエンドという流れだが)、そんな重要な決定を下すのならもっとたくさん人間同士のドラマを描くことに時間を割かなければダメだろう。まあ逆に言うと、もっとドラマがあれば面白かったのだが残念、ということだが。
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2.5『マルクスの二挺拳銃』(1940/米)エドワード・バゼル

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 金を払ったように見せかけて払ってないままおつりをもらう、というような一個一個のボケが長くしつこい。マルクス兄弟のボケに周りの人々が笑ったりするので寒い。マルクス兄弟唯一の西部劇だが、シチュエーションが変わっただけで内容は同じである。
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1.5『シンガポール珍道中』(1940/米)ヴィクター・シャーツィンガー

 マッチョな男性の欲望を映像化
 珍道中シリーズ第一作。行く先々で、男二人が女に惚れられたり暴力を振るったりする、いかにもマッチョな男性の欲望を映像化したような映画。ヒロインのドロシー・ラムーアは最終的にボブ・ホープでなくクロスビーを選ぶが、なぜクロスビーのほうがいいのかという理由も分からないし、他方でクロスビーに結婚を迫っていた別の女はどうなったのかも描かれておらず不満が残った。
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1.0『ストライク・アップ・ザ・バンド』(1940/米)バスビー・バークレイ

(イメージ無し)
 女のことを考えたっていいだろ
 高校バンドリーダーのミッキー・ルーニーは、仲間に「女の事しか考えられないのか!」と怒るのだが、そのくせジュディ・ガーランドに惚れられたり別の女子にも好かれているので腹が立つ。女の事しか考えない私に喧嘩を売る発言である。また、ルーニーガーランドの関係は友達で、恋人ですらないのに、まるで夫婦が相手の浮気に嫉妬するかのような喧嘩をしていて違和感をおぼえた。加えて、映画全体が120分以上もあり長くて退屈だった。
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1.0『遥かなるアルゼンチン』(1940/米)アーヴィング・カミングス

 舞台をアルゼンチンにしてみただけ
 『ロミオとジュリエット』のように互いに仲の悪い家同士の息子と娘が惚れあった、という話だが、家同士が仲の悪い理由はその父親達が同じ一人の女性を取り合った、というだけのことで全くドラマがない。舞台をアルゼンチンにしてみたというだけで、内容に見るべき所がない。
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0.5『ピノキオ』(1940/米)シャープスティーン、ラスケ

ピノキオ スペシャル・エディション [DVD]

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 私に楽しむ余地がない
 ピノキオには主体性がなくただただ周りに流されるだけなので、葛藤やドラマもなく面白くない。またピノキオは一見純粋に見えるのに、わざわざ青い妖精には嘘をつこうと思った理由が分からない。鼻が長くなるシーンをやりたかっただけで、ピノキオのキャラは定まっていないんじゃないか。その後はなんとピノキオが嘘をつくシーン自体が出てこないので設定も生かせていない。また、「木でできた少年?信じられん」と二足歩行のでかいキツネが言うが、そもそもそっちの方が信じられない。動物がふつうに人間のように話して二足歩行で歩いているのは普通で、「木でできた少年」は普通じゃないとはどういうことなのか、世界観が掴めない。さらに極めつけとして、この映画は男と男児は出てくるが女キャラは青い妖精以外全く出てこないなど徹底して女性を無視していて、女性が好きな私には楽しむ余地が全くない映画となっている。


8.0『マイアミの月』(1941/米)ウォルター・ラング

(イメージ無し)
 女性への信頼が感じとれて良い
 ドン・アメチーとロバート・カミングスがベティ・グレイブルを巡って争うが、登場人物の心の動きなどが丁寧に描かれていて面白かった。私はやはりモテる男より女を口説くがなかなかうまくいかない男を観る方が好きである。また、ドン・アメチーは実は資産が底を突いているとベティ・グレイブルが知っても彼を裏切らないところに、作り手の女性への信頼が感じ取れて良い。女が嫌いな男は、しばしば女が男を裏切る展開にしてしまうから。
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6.0『ダンボ』(1941/米)ベン・シャープスティーン

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 映画の長さは64分と短いが、キャラクター造形はかわいいし、ちゃんとダンボの成長物語になっていて面白かった。ただ、母親以外のメスの象がかなり意地悪に描かれているのは女性嫌悪を感じた。また、ダンボが酒を飲んでしまった後に見る幻覚が悪夢のようで怖いし、長く感じた。


3.0『銀嶺セレナーデ』(1941/米)ブルース・ハンバーストーン

 難民なのに余裕過ぎる
 男(ジョン・ペイン)がノルウェーからやって来た難民の赤ん坊を引き取りにきたら、何と赤ん坊ではなく年頃の少女だった(といっても少女を演じるソニア・ヘニーはこの時29歳なのだが)という話。だがソニアは異常になつっこくてジョン・ペインにベタベタしてくるので違和感がある。外国に養子としてやって来たら、もっと異文化への怖さや戸惑いがあるし、ましてや男に引き取られるのなら少女は警戒しそうなものである。またソニアは戦争から逃れて父も家も亡くしてきているのに明るすぎて、やたらポジティブで、全然難民っぽくないのでキャラ設定の段階で失敗していると思う。加えて、美人なソニアに惚れられているジョン・ペインに私は感情移入は出来ないので恋愛映画としても楽しくない。
 ところで、ソニアが雪山で足を怪我したと言っていたのが嘘だと分かったジョン・ペインが、山小屋でソニアのズボンを破って肌を露わにさせるシーンはエロいので3点にした。


2.0『踊る結婚式』(1941/米)シドニ-・ランフィールド

(イメージ無し)
 心情の変化を伝える描写がない
 リタ・ヘイワースの心情の変化を伝える描写がなく、許嫁がいて結婚間近なのにもかかわらず彼を捨ててアステアと結婚する、という乱暴な話。中盤でアステアは徴兵されるが、兵舎でアステアが見ている夢の中のギャグなどはしつこく蛇足だった。
 ちなみにこの映画は「真珠湾攻撃のちょうど3か月前に公開されたが、金をかけたミュージカルで初歩訓練中の初年兵のキャンプ生活が描かれたのは初めて」(スタンリー・グリーン『ハリウッド・ミュージカル映画のすべて』120p)だという。
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2.0『マルクス兄弟のデパート騒動』(1941/米)チャールズ・F・ライスナー

マルクスの二挺拳銃 特別版/マルクス兄弟デパート騒動 特別版 [DVD]

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 デパートが笑えない
 序盤の探偵事務所でのシーンは笑ったが肝心のデパートのシーンで笑えないのはダメだろう。終盤に挿入されるオーケストラの演奏もまったく物語と関係なく登場人物の感情を表現しているわけでもない。また今回のカップルの男は元ガキ大将だったらしいので、そんな男の恋路に私は関心は無い。
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1.0『恋のラジオ放送』(1941/米)ジョージ・マーシャル

(イメージ無し)
 『我が家の楽園』の焼き直し
 自分の家系と敵対する家の女と知らずに仲良くなる、という筋はフランク・キャプラの映画『我が家の楽園』(1938年)焼き直しに見えた(『我が家の楽園』も主演はジェームズ・スチュアートである)。全編通して家庭はいいものだというイデオロギーが強くて楽しくない。


0.5『アフリカ珍道中』(1941/米)ヴィクター・シャーツィンガー

アフリカ珍道中 [DVD]

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 放火して逃げるな
 珍道中シリーズ第二作。前作に引き続きビング・クロスビーボブ・ホープ、ドロシー・ラムーアが出演するが、役名や設定は変わっている。彼らが芝居小屋で消し忘れた火が元となり町まで燃えたというが、ちゃんと捕まえて反省させた方がいい。特に笑うところもなかった。
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8.0『スイング・ホテル』(1942/米)マーク・サンドリッチ

 戦前ミュージカルの入門にいい
 芸人仲間のフレッド・アステアビング・クロスビーが、同じ女性をめぐって友情に陰りが差していくところに惹きつけられる。また、ショックで疲れ切ったクロスビーが、気を紛らわすためにかけたレコードから聞こえてくるポジティブな歌詞に冷たくツッコんでいくシーンは笑えるし感情も揺さぶられる。同じく二人の男が女性をめぐって駆け引きをするのは『セカンド・コーラス』も同じだが、人間を丁寧に描いていている分だけ『スイング・ホテル』のほうが面白い。女が男を捨てることが多く女性蔑視のきらいはあるものの、アステアのダンスとクロスビーの歌の両方が見られるわけだから戦前のミュージカルの入門としてもいい作品だと思う。
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4.0『晴れて今宵は』(1942/米)ウィリアム・A・サイター

晴れて今宵は [DVD] FRT-245

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 精神的な近親相姦
 結婚に興味の無い娘にロマンチックな気持ちを起こさせるようにと父親(アドルフ・マンジュー)が娘(リタ・ヘイワース)に匿名のラブレターを書くのはなかなか気持ち悪い。精神的な近親相姦をしているんじゃないかと思った。しかもその作戦が結構順調にいって、リタがその手紙の差出人に恋するのだから怖い。このあと本当に近親相姦をテーマにいた映画になれば一周回って面白いかもしれないが、その後はアステアとリタ・ヘイワース互いが好きなのになかなか真実を伝えられないというだけの話になって退屈である。アステアはヘイワースと大きな喧嘩をする訳でもないし、ストーリー上での存在感もない。
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1.5『ロッキーの春風』(1942/米)アーヴィング・カミングス

(イメージ無し)
 趣味に合わない
 メインの二人ははじめから婚約という間柄なので恋愛の情緒はなく、夫婦喧嘩のようないざこざが続く。物語に起伏はないし、何を面白がればいいのか分からない。また、男に惚れている女の嫉妬ばかりが描かれるが、女というのは醜い生き物だと思っている人間が作っていそうな映画である。作り手の趣味に合わない。
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1.5『ヤンキー・ドゥードゥル・ダンディ』(1942/米)マイケル・カーティス

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 誠実でない伝記映画
 興行師ジョージ・M・コーハン(劇作家、作曲家、作詞家、俳優、歌手、ダンサーでもあった)の伝記映画で、その後大量に作られることになるミュージカル伝記映画の先駆けとなった作品。だが、コーハンは実際は二度結婚しているが、結婚は一度だけということに改変されている(スタンリー・グリーン『ハリウッド・ミュージカル映画のすべて』125p)など、伝記としての誠実さに欠けている。全編通して主人公が格好良いところが強調されるのが退屈で、心に響かない。魅力的な人間には陰影があるものだと思うが、戦意高揚映画の側面もあるので主人公を格好悪くは描けなかったのかもしれない。アメリカン・フィルム・インスティチュートのアメリカ映画ベスト100の内の一つに選ばれたりするなど評価の高い映画だが、なぜなのか教えていただきたい。
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1.0『オーケストラの妻たち』(1942/米)アーチー・メイヨ

 楽団がうまくいかないことを妻のせいにしている
 トランペッターのビルは持て男で、すぐに相思相愛の恋愛になりすぐキスして結婚できるから苦労がない。その後色恋沙汰により次第に楽団の信頼関係が崩れるが、ビルは妻に向かって「君が楽団をぶっこわした」などと責任をなすりつけ、ビルに同調した楽団員たちも冷たい目で妻を見るようになるのでとても嫌な気持ちになった。


1.0『モロッコへの道』(1942/米)デヴィッド・バトラー

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 笑わなかった
 珍道中シリーズ第三作。君主制を用いたファンタジーにすぎず、笑わなかった。
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1.0『プライベート・バッカルー』(1942/米)エドワード・F・クライン

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 ストレートな戦意高揚映画
 物語もギャグも遊びもない、かなりストレートな戦意高揚映画である。美女が「私が男なら軍隊に行くわ」、「あなたの力が必要よ」「武器を作るために金属を差し出すのよ 私たちが軍隊を支えるの 良い悪いを言っている暇はないわ」と呼びかけ、ラストシーンでは軍需工場や戦艦、航空隊の映像が流れる。「金貸しだろうが詐欺師だろうがみんな勝利のために戦うのだ」「勝ちたければ突っ込んでいけ」「勝つまで文句は言うな」「たとえ疲れても頑張るんだ」と、当時の日本の「欲しがりません勝つまでは」のような禁欲的なスローガンが聞けるのは興味深いが、あくまで歴史の資料として興味深いのであって、映画としては面白くない。


1.0『歌ふ狸御殿』(1942/日)木村恵吾

(イメージ無し)
 シンデレラと同じ
 木村恵吾による「狸御殿」シリーズ第2弾だが、第1弾(1939年)はフィルムが現存していない。内容だが、「シンデレラ」を日本に置き換えただけで、歌や踊りも面白いとは思わなかった。また、「女として一番忘れてならないのは女らしさだ」という台詞に見られるような、何か言っているようで何も言っていない女性観も嫌であった。


7.0『ダニー・ケイの新兵さん』(1943/米)エリオット・ニュージェント

 戦意高揚映画だが面白い
 神経質なダニー・ケイは親友と共に徴兵されたことを不安に思うが、偶然知り合いの看護婦たちも軍に召集されていたことから恋が始まる。しかしダニー・ケイの片思いは空回りし、全く報われないのが切なくて面白い。ただ、結局のところダニー・ケイは別の美人な女性と結ばれるのでモテないわけではない。最後にダニー・ケイは日本軍と戦うが(もっとも中国系アメリカ人が日本兵を演じているのか、彼らは全く日本語を話せない)、これもギャグとしてまあまあ笑えたのでプロパガンダ映画としての不快感はなかった。
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5.0『青空に踊る』(1943/米)エドワード・H・グリフィス

 素性の知れない男に女が求婚するか?
 アステアの映画らしく、雑誌の写真部の女性への片思いがなかなか実らない。戦争まっただ中の映画であるが恋愛の描写はわりと丁寧に描いてある。ただ、なぜかアステアは自分が軍人であることを女に隠しているが、素性の知れない男に美人が求婚するとは思えず脚本をもっと練ってほしかった。
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5.0『デュバリイは貴夫人』(1943/米)ロイ・デル・ルース

デュバリイは貴婦人 [DVD]

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 王より女を憎んでいるように見える
 普通の恋愛コメディかと思ったら、中盤からレッド・スケルトンが見る夢のなかの話となり、フランス革命直前の歴史映画になる。王が破れるという展開だからこの政治的主張には私は賛成だが、革命党の指導者ジーン・ケリーや民衆が「デュバリイは毒婦」と声を揃えるように、人々は王様本人よりも女性に対して敵意を燃やしているんじゃないかと思ってしまうので、女性嫌悪が伝わってくる不快さはある。
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3.0『春の序曲』(1943/米)フランク・ボーゼージ

春の序曲 [DVD]

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 なぜか意地悪な兄
 歌手になるためにニューヨークにやってきたディアナ・ダービンがニューヨークに居る兄を尋ねると、彼は作曲家の執事をしていた、という話。ただ、尋ねた兄は最初優しかったのに、急にダービンに冷たく当たるなど立ち位置がよくわからない。「人の不幸は構わないんだな」などと兄がダービンを攻めるのを見るのは不愉快である。また一緒に生活していた音楽家が、ラストになってようやくダービンの歌声を耳にするのもおかしい。
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2.0『ストーミー・ウェザー』(1943/米)アンドリュー・ストーン

ストーミー・ウェザー [DVD]

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 気晴らしの映画
 レナ・ホーンは美人で歌も良いし、本人役で登場するキャブ・キャロウェイなど黒人の歌やパフォーマンスは十分観られるが、物語は浅く力が入っていないので映画として面白くない。ストーミー・ウェザーというタイトルだが、天候の演出が見事だとか効果的だとかいう訳でもない。戦時中なので、黒人にも戦争を頑張ってもらうために気晴らしとして作られた作品の一つなんじゃないかと思う。


1.5『バスビー・バークリーの集まれ!仲間たち』(1943/米)バスビー・バークレイ

(イメージ無し)
 無理矢理キスをして恋仲になれる訳がない
 バナナのオブジェを用いた絢爛な踊りが展開されるが、だから何だという話で、人間や物語に魅力がなければ映画としてはつまらないと言うほかない。あとこの映画に限ったことではないが、男が女に無理矢理キスすることで女が男に惚れて恋仲になる、という発想はいかにもマッチョな男性の欲望を体現したもので不愉快である。
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1.5『キャビン・イン・ザ・スカイ』(1943/米)ヴィンセント・ミネリ

キャビン イン ザ スカイ [DVD]

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 宗教が好きな人向け
 『ハレルヤ』に次いで2つめの、キャストがオール黒人のハリウッドミュージカルで、のちのミュージカルの巨匠ヴィンセント・ミネリの処女作(スタンリー・グリーン『ハリウッド・ミュージカル映画のすべて』133p)でもある。妻のいる男のもとに天使と悪魔が現われ、地獄に行くか天国に行くか天使と悪魔が駆け引きをする映画だが、神を信じる者は救われるという説教臭さがあり、無神論者の私には関心のある話題ではない(なぜなら天国も地獄も存在しないから)。登場する女性も、「男を誘惑する女」という女性蔑視の典型的なものだし、また捨てられた妻の方がなぜか夫に謝るという理解しがたいシーンもあり私には面白くなく、宗教が好きな人向けの映画である。


0.5『ステージドア・キャンティーン』(1943/米)フランク・ボーゼージ

(イメージ無し)
 ただの戦意高揚
 多くのスターが友情出演しているプロパガンダ映画で、それぞれの出し物やショーや歌が淡々と披露されていく。マニア向けであって、一般の人には面白くはない。


8.5『若草の頃』(1944/米)ヴィンセント・ミネリ

若草の頃 [DVD]

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 恋愛描写はいいが父親の心変わりが気になる
 ジュディ・ガーランドが男に惚れている側だが、ジュディ・ガーランドはそんなに美人ではないので嫌みがなく応援したくなる。二人で家のろうそくを消していく場面など、恋愛描写が細かく丁寧に描かれていていい。ガーランドの歌がいいし可愛いらしいし、子役のマーガレット・オブライエンも熱演である。
 ところで、お堅い父親はニューヨークに転勤を命ぜられるが、セントルイスに愛着を持ち恋人もいるガーランドや妹は反対する。娘達のことを思った父親は心が変わったようにニューヨーク行きをとりやめ、ガーランドは結婚も出来たしハッピーエンドということになる。だが、仕事は大丈夫なのか。父親がクビになったら幼い娘や家族はどうなるのだろうか。もちろん、父親リストラされず大丈夫だったのだろうが、父親の心変わりや今後の生活の見通しなどの部分が物足りなく減点した。
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3.0『カバー・ガール』(1944/米)チャールズ・ビダー

(イメージ無し)
 迷信深い人に共感できない
 リタ・ヘイワースら登場人物は迷信深く、とくにリタ・ヘイワースは自分の祖母は結婚式の最中に結婚式を抜け出して幸せになったからと、自分も結婚式を抜け出すと幸せになるなどと考えておりオカルトの域に達している。ギャグやコメディではなく、本当にそう信じているのだから怖い。また、リタ・ヘイワースが自分の結婚相手にブロードウェイのプロデューサー・ノエルではなくジーン・ケリーを選んだ理由も、「牡蠣を開けたら中から真珠が出たから」で、人生の重要な決定を迷信に頼っていて全く共感できなかった。
 ただ、ジーン・ケリーが自分の分身と踊るなど、ダンスや音楽は面白いので3点にした。
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2.0『我が道を往く』(1944/米)レオ・マッケリー

 「宗教は人の生き方を決めつけない」は嘘
進歩的な牧師ビング・クロスビーが、不良グループを聖歌隊に入れて更正させるエピソードがあるが、いくらビング・クロスビーが寛容な牧師だからといってすぐ不良が言うことをきくとは思えない。不良を更生させるまでにもっと躓くことや絶望的な事件があるはずである。またクロスビーは「宗教は人の生き方を決めつけないからね」というがこれは嘘だろう。例えば、キリスト教も含めて宗教は基本的に同性愛者には批判的である。この映画は宗教の力を過信しているし、美化していると思う。
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2.0『姉妹と水兵』(1944/米)リチャード・ソープ

姉妹と水兵 [DVD]

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 姉のキャラがおかしい
 姉(役;ジューン・アリスン)は母親代わりに妹を見守る役だが、実際には母親では無いのだから姉に母性が常にあるように描かれるのは不自然である。それでいて、姉はまじめで堅そうなのに兵隊にすぐ惚れてしまうのも矛盾している。堅い女がだんだんと男に惹かれていくというプロセスが描かれるからこそ面白いのである。また、姉妹の喧嘩も夢の中のシーンで1回行われるだけで退屈である。なぜか120分以上あり、長いのもマイナスである。
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1.5『世紀の女王』(1944/米)ジョージ・シドニー

世紀の女王 [DVD]

世紀の女王 [DVD]

 『水着の女王』を見れば良い
 エスター・ウィリアムズのプロデューサーの陰謀で、彼女は結婚式の最中に新郎のレッド・スケルトンが浮気をしていると勘違いして出て行くが、女は愚かだからまんまと陰謀に引っかかり愛を裏切るという感情が読み取れて嫌である。その後、レッド・スケルトンがエスター・ウィリアムズの通う女子大に入学し、彼女の誤解を解いていくという強引な展開になるが、女子大でレッド・スケルトンが人気者になるのでムカつく。この二人の出演作は『水着の女王』(1948年)が面白いのでそちらを見れば良い。
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1.5『ピンナップ・ガール』(1944/米)ブルース・ハンバーストーン

 戦時中の気晴らし
 口から出任せで海軍の英雄に近づくベティ・グレイブルが主人公で、彼女は自分がミュージカルスターだと嘘をついているうちにショーに出ざるを得なくなり、思い切って舞台に出たら完璧に歌って踊れた、という茶番である。また、その英雄をめぐって別の年上の女が嫉妬するなど、女を醜く滑稽に描き、男がモテモテな展開が続く。戦時中の気晴らし映画ということだろう。
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1.0『キスメット』(1944/米)ウィリアム・ディターレ

キスメット [DVD]

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 君主制に憧れる乞食
 古代のバグダッドを舞台にしたおとぎ話で、乞食の王だと名乗るロナルド・コールマンは、盗みなどをして乞食ながら羽振りが良い。ただ、彼は「外の世界は醜いから」と自分の娘を部屋の中に囲っているのだが、そんな人権侵害をされているのに娘と父はあまり対立せずドラマがない。また、ロナルド・コールマンは自らを「乞食の王」と名乗るように王や貴族という称号に憧れやプライドがあり、身分制がいいと思わない私にはそこも共感できなかった。


0.5『ハリウッド玉手箱』(1944/米)デルマー・デイビス

ハリウッド玉手箱 [DVD]

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 研究者が見るのだろう
 こちらも戦争まっただ中の戦意高揚映画で、ワーナーブラザーズのスターが勢揃いするが、そのスターに兵士たちがワーワー興奮するだけで映画として見る価値はない。なぜDVD化しているのか謎であるが、研究者が見るのだろう。





参考文献

スタンリー・グリーン『ハリウッド・ミュージカル映画のすべて』村林典子役/岡部迪子監修、音楽之友社、1995年
ポール・D・ジンマーマン『マルクス兄弟のおかしな世界』中原弓彦永井淳訳、晶文社、1974年
猪俣良樹『黒いヴィーナス ジョセフィン・ベイカー 狂乱の1920年代、パリ』青土社、2006年



訂正
ポール・D・ニューマン → ポール・D・ジンマーマン(2018/01/05)

セルゲイ・エイゼンシュテインの映画

セルゲイ・エイゼンシュテイン戦艦ポチョムキン』1925年 6.5/10

戦艦ポチョムキン【淀川長治解説映像付き】 [DVD]

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 エイゼンシュテイン初の長編映画共産主義の喧伝映画で、もちろん共産主義はおかしいが、プロパガンダというのを留意すればそこそこ楽しめる。前半の、水兵が反乱を起こすシーンは長く感じたが、「オデッサの階段」のシーンでの、市民が殺されていく迫力と生々しさは今も人に訴える力がある。ちなみにこの階段のシーンは意外と長く、7分以上もあるが、色々と工夫がされていて飽きない。エイゼンシュテインはとりあえず『ポチョムキン』を見ておけばいいのではないか。
 ちなみに、革命=共産主義ではない。例えば1789年のフランス革命は共和主義(身分制の廃止など)の革命で、担い手もブルジョワジーが中心だったので計画経済などとはもちろん関係がない。生まれで差別されない社会が登場する発端がフランス革命だったわけだから、フランス革命が暴力を伴って行われたとしても総合的にとてもいい事だったとぼくは解釈している。
 (8/18追記)
 先日まで8点評価にしていたのだが、今思うとそんなに面白かったか?となっている。いや、オデッサの階段などの断片的なシーンは面白いのだが、主人公がいるわけではなく戦艦の水兵たちも何もしないし、長篇として鑑賞するには退屈なのは否めない。全部見る必要は無いのかもしれない。


セルゲイ・エイゼンシュテイン『イワン雷帝』1944-46年 4/10

イワン雷帝 [DVD]

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 2部構成の3時間映画で、エイゼンシュテイン最後の作品。未完。モンタージュ的な技法は影を潜め、演劇的な長いカットが多い。
 1部はスターリンが絶賛しただけあり、イワン4世を都合の良いように描くだけで奥行きがない。2部では比較的イワンを暴君のように描いているので、スターリンを激怒させて3部は完成されずスターリンの死後まで上映が禁止されたが、そこまで苛烈なソ連批判をしているとは思えない。
 ただ2部の、叔母のエフロシニヤが知能の低い自分の子供(ウラジミル)にイワンを殺すように説得するシーンがグロテスクでいい。また、終盤の宴のシーンだけカラー映像になるが、赤い服の鮮烈さとプロコフィエフの音楽があいまって目を見張った。




セルゲイ・エイゼンシュテインストライキ』1925年 3/10

ストライキ [DVD]

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 無計画にストライキをしても資本家に潰されるだけだ、という楽観的でない結末なので良いと思うが、基本的には退屈である。終盤の、子供が工場の3階から投げ落とされるなどする虐殺シーンは多少ドキドキさせられる。
 ちなみに、最後に雌牛の喉が実際にかき切られるシーンがあるが、ショックでお乳が勝手に漏れ出しているのが怖い。




セルゲイ・エイゼンシュテインアレクサンドル・ネフスキー』1938年 2/10

アレクサンドル・ネフスキー [DVD]

アレクサンドル・ネフスキー [DVD]

 東方植民を開始していたドイツ騎士団を1242年に破ったロシアの英雄アレクサンドル・ネフスキーが主人公である。時勢柄、ドイツ騎士団ナチスドイツに重ね合わせられている。ただ1939年に独ソ不可侵条約が締結されヒトラースターリンが手を結んでからは上映は小規模になったという。
 戦闘シーンは最初は迫力を感じたが、一つ一つのバトルが長いのでだんだん飽きてしまった。
 ところで、アレクサンドル=ネフスキーはキプチャク=ハン国に進んで臣従し、反モンゴル的だった弟の追放をはじめ民衆の反モンゴル活動を弾圧するなど、モンゴル帝国に仕えていたので、英雄として持ち上げられる人物ではないと思う。これも、「昔のロシアに偉大な英雄がいた」としたいスターリンの国策である。もっとも、「英雄譚」が悪いのではない。重要なのは、その人物が英雄たる人物であるかどうかであって、アレクサンドル・ネフスキーが特別偉いと思えない、ということである。




セルゲイ・エイゼンシュテイン『十月』1928年 1.5/10

 ボリシェビキが権力を掌握した革命が描かれるが、とくに物語があるわけではない。政府施設に侵入する群衆の俯瞰のカットには迫力があったが、それくらいだった。
 実際にロシア革命を経験した人々が映画に出演しているらしいが、そういうマニアックな話は一般の人々には関係のない話に思えてならない。

2016年に読んだ本・後半

前回に引き続き、2016年に読んだ本の感想です。「作品は神聖なものだから、点数をつけては失礼」なんてことは微塵も思ってないので、点数も付けます。ただ素人の付ける点数なので本気にする必要はないです。

(採点目安)
9点台 :傑作
8点台 :面白い
7点台 :読んで損なし
6点台 :面白いところもある
5点台 :いま一つ
4点台以下 :よく分からなかった



シモーヌ・ド・ボーヴォワール『女ざかり ある女の回想』朝吹登水子・二宮フサ訳、紀伊国屋書店 9.5/10

女ざかり 上―ある女の回想

女ざかり 上―ある女の回想

 日本では1963年に刊行。女性哲学者ボーヴォワールの自伝で、二十歳ごろから第二次世界大戦が終わるまでが回想されている。
 ある日列車に乗っていると痴漢されてしまうのだが、認めたくないけどドキドキしてしまった、などの告白調の挿話に興奮した。ぼくは自分に都合の悪いこともちゃんと書く人が好きなので、フェミニズムに都合の悪い事を隠さないボーヴォワールは格好いいと思った。他には、外で読書をしていたら男がオナニーをしながら自分を見ていたとかいう話もある。
 また、フランス知識人たちの交流が多く出てくるが、ドイツ軍にパリを占領されても知識人たちは目立った抵抗はせずパリに留まり、サルトルなどは自分の演劇を上演したりしているから興味深い。彼らは本気で戦争に反対していなかったのかもしれない、とも読めるからだ。これも、自ら都合の悪いことを(図らずも?)ボーヴォワールは著述しているということだと思う。


レフ・トルストイ『クロイツェル・ソナタ米川正夫訳、岩波文庫 9.5/10

 1899年出版。序盤は女性性や結婚について遠慮のない考察が続き、例えば「婦人があらゆる公職についたり、政治に参与することを認める」男がいるが、「婦人を眺める目を依然として同じ」で、これでは奴隷制度じゃないか、と婦人解放を主張する男の偽善を指摘していて興味深い。
 そして何より、妻の浮気を疑った夫が妻に襲いかかるシーンが圧倒的に恐ろしい。殺されそうになる妻の「恐怖の表情」が「苦しいほどの快感を与えてくれた」、という夫の性的倒錯もさることながら、夫に抵抗する妻をここまで生々しく描いた作品を、漫画や映画を含めてぼくは初めて見たように思う。トラウマになるほど凄い。


ギリシア悲劇Ⅰ アイスキュロスちくま文庫 9.5/10

ギリシア悲劇〈1〉アイスキュロス (ちくま文庫)

ギリシア悲劇〈1〉アイスキュロス (ちくま文庫)

 アイスキュロスギリシアの劇作家で、紀元前525年に生まれ紀元前456年に没したといわれる。
 「オレステイア三部作」(「アガメムノン」「供養する女たち」「慈しみの女神たち」)が特に面白かった。息子に殺されそうになった母クリュタイメストラが、「地上にひざまずいて、胸の衣を裂き、乳房をさしつけ」、「この乳房、それへ縋って、お前がたびたび、眠こけながらも、歯齦に噛みしめ、たっぷりおいしい母乳を飲んだじゃないの」と息子に迫るシーンは常軌を逸していると思う。眼を瞠った。


ジェーン・オースティン『エマ』工藤政司訳、岩波文庫 9.5/10

エマ〈上〉 (岩波文庫)

エマ〈上〉 (岩波文庫)

 1814年刊行。美人だがプライドが高くおせっかいな女性エマが主人公で、年下の友人ハリエット・スミスを牧師のエルトンと結婚させるために色々と手を打つ。しかし実はエルトンはエマが好きだという三角関係で、その擦れ違いの描写に工夫があって良い。絵の才能があるエマはハリエットを座らせて絵を描き、エルトンにハリエットの良さを伝えようとする。エルトンはエマが好きなのでその絵を褒めるが、エマとハリエットは「ハリエット」の美しさを褒めていると勘違いする、というのは切ないが面白い。
 また、恋心のゾクッとするような描写もあって、ハリエットがエルトンの貼りそこねた絆創膏をずっと捨てずに持っていた、というのはかわいくもあるがグロテスクでもある。
 後半はいかにも大団円という感じで終わるが、ハリエットの振る舞いに魅力が欠けるというか、もっと自分を振り回したエマと喧嘩なり対決なりしたほうがいいと思った。
9.5/10


マーク・トウェインハックルベリー・フィンの冒険』上・下、西田実訳、岩波文庫 9/10

ハックルベリー・フィンの冒険〈上〉 (岩波文庫)

ハックルベリー・フィンの冒険〈上〉 (岩波文庫)

 1885年発表。少年ハックが黒人のジムと一緒に筏で放浪する話で、てっきり奴隷解放を勧めるようなヒューマニズム小説なのかなと思っていたら滅茶苦茶面白かった。子どもの残酷さと大人のグロテスクさを、綺麗事なしに語りまくっているのだ。
 ただ、後半ではジムの存在感が薄くなったので、もっと活躍したほうが物語が面白くなるのにと思った(そこが時代的制約なのかもしれないが)。


シャーロット・ブロンテジェイン・エア』遠藤寿子訳、岩波文庫 9/10

ジェイン・エア 上巻 (岩波文庫 赤 232-1)

ジェイン・エア 上巻 (岩波文庫 赤 232-1)

 1847年発表。孤児のイケてない女の子(ジェイン)が主人公で、周りのイジメっ子や大人たちにショックを受けながらも成長していく。大人や因習に反抗していくジェインは痛快で、孤児院を運営する人々の偽善性もしっかり描かれている。
 終盤の、一回り以上年上で片腕が無く盲目の男ロチェスターとの結婚生活は、いいように書かれすぎているというか、実際にそういう人と結婚したらもっと大変だろう思う。それとも、大変ではないほど金持ちということなのだろうか。一般的なリアリティがなく、不満が残った。


深沢七郎『盆栽老人とその周辺』文藝春秋 8.5/10

 1973年刊行。庶民らが平和に盆栽を育てていると思いきや、日々盆栽をお金で取引しあい、お互いに意地を張り合っている。
 主人公に半ば無理やり盆栽を勧める、先輩気どりの為平という老人は、盆栽を「眺めながら飯を食べることが何よりのたのしみ」だと豪語するが、盆栽の師匠である水沼老人に「(そんな盆栽)処分するんだなア、持っていてもムダだよ」と一蹴され、顔を赤くして泣きだしそうになる所は笑ってしまう。
 また、台風が来てビニールハウスが吹き飛んでしまい落ち込んだ農家の権平さんが、仲の悪い人の車が風で川に落ちてビニールハウス以上の被害額がかかる見通しだと知って安心する、など人間の嫌な部分が淡々と書かれていて面白い。


小谷野敦『中学校のシャルパンティエ青土社 8.5/10

中学校のシャルパンティエ

中学校のシャルパンティエ

 2003年刊行。作者が慣れ親しんできたクラシック音楽などが、当時の思い出と共に紹介されている。小谷野の父親は高卒の時計職人だったなど、身近な話も載っている。
 ただ、ぼくは(小谷野が苦手だという)ロックやジャズを聞いてきており、クラシックはほぼ全く知らないので感情移入できないところもあった。ちなみに一時期「文学が好きな人間は難解なクラシックを聞かなくてはいけない」と思って慌ててブーレーズとかシェーンベルクなどを聴いてカッコつけようとしたが理解不能で挫折した。まあしかし、変に難しいを表現しているというな音楽家よりメロディメーカーのマーラーなどのほうがいい、とか、実際に生で聴かなくてもCDでいい、とかいう所はクラシックに関係なく同意できる。
 また、君が代や日本の軍歌は欧米の生命賛歌と違い「立派に死んでこい」というニュアンスがあり、これはいくさを美化し陶酔させる危険がある、という考察も面白い。
 そして音楽の話だけでなく、創作論も出てくる。作品を作るとき「「反物語」であろうとする意思は「男性的」なもの」で、「それは最終的には女性的な「物語」に敗北する」、という。確かに「反物語」を作ろうとする表現者の多くは男ばかりで、ぼくも昔はアヴァンギャルドというような、わざと物語が無いナンセンスな作品をつくったことがあるが、結局は男が男に媚を売るような女性軽視(無視)的なところがあって、そもそも今見ると面白くない(笑えない)ので反省している。よく女に媚を売らない、という人がいるが、男に媚を売ってたら意味がないと思う。まあ結局のところ、作品には「物語」は必要、という考えはぼくの中ではゆるがないと思う。


勝目梓『小説家』講談社 8.5/10

小説家 (講談社文庫)

小説家 (講談社文庫)

 2006年刊行。昭和の売れっ子作家だった勝目梓(男性、本名同じ)が書いた私小説
 若い頃に働いていた炭鉱で、仲間のSが落盤に巻き込まれて死んだのだが、Sは大事な腕時計を落盤から守ろうと咄嗟に口の中に押し込んだので、死体の口から時計のベルトが見えていた、などのエピソードが怖いけど面白い。
 また、どんな過激な作品も本名を出して創作を続けた作者の覚悟には好感が持てる。「ペンネームの陰に隠れてポルノ小説を書き、金を稼ごうという魂胆のほうが、恥ずべき卑しい心根であろう」という発言からもそれが伺える。
 ただ、作者は一貫して女が出来る度に浮気をする男で、女性の扱い酷い。作者は自分の不利になることを隠さずに発表しているのは凄いし面白いのだが、娘も居るのに父としてそれは無いんじゃないのか、と疑問に思う所もやはりある。


ハーマン・メルヴィル『白鯨』田中西二郎訳、新潮文庫 8.5/10

白鯨 (上) (新潮文庫 (メ-2-1))

白鯨 (上) (新潮文庫 (メ-2-1))

 1851年発表。鯨に取り付かれた男たちの偏執的な語り口には迫力があり、引き込まれる。乗組員が鯨を執拗に追いかけるさまは、神を畏れぬ人間の行為と重なっているが、最終的に乗組員が全員死なないということからも、作者がその行為をある意味で肯定していると読める。
 ただいかんせん当時の鯨の生態学など、瑣末で詳細な著述が登場し過ぎて冗長で、ウンザリすることもあった。


谷崎潤一郎「盲目物語」 8/10

(イメージなし)
1932年発表。織田信長の妹お市をめぐる歴史小説で、シンプルに面白い。語り部お市につかえた盲目の坊主で、人間の死や裏切りを淡々と述べていて、恐ろしくも痛快である。燃盛る城の中、女性を救出するためにおんぶしたとき、お尻が自分の体に触れるときの感触も、いやらしく伝わってきてよかった。


大江健三郎『キルプの軍団』岩波書店 8/10

キルプの軍団 (講談社文庫)

キルプの軍団 (講談社文庫)

 1988年刊行。主人公が男子高校生なので、大江の小説としては平易な言葉で読みやすかったが、前半はディケンズをめぐる考察などが冗長に感じた(というかディケンズをぼくが読んでないので、読んでからならもっと面白いのかもしれない)。
 しかし、サヨク的言説とは異なる視点からもキャラが生き生きと描かれていて、「ヒューマニストの作家であっても、かれが小説家として役に立つ資質を持っているということは、むしろ自分の生きている社会のね、差別的な感情を素直に体現している、というふうでもあるのやないか?」など、キャラクター同士の思想的な対立により小説に深みを出す手法は勉強になる。


小谷野敦『日本文化論のインチキ』幻冬舎新書 8/10

日本文化論のインチキ (幻冬舎新書)

日本文化論のインチキ (幻冬舎新書)

 2010年刊行。「日本というのは~」「日本人というのは~」という論調は学界にも氾濫しているが、冷静に考察したり資料を調べれば、日本(人)だけでなく西洋(人)にもあてはまるのだから日本だけに限定するのはおかしいということを一つ一つ論証していく。日本人論はまず疑った方がいいということだ。それだけ聞くとシンプルだが、多くの日本文化論がとりあげられては批判されるので読むのは辛抱がいる。
 一方で、過去を美化することへの批判から「ドラマが「戦前美化」をしていても、ドラマ中で軍国主義や戦争を「悪」として描かれていると凡庸な左翼には批判できない」と痛いところを突いたり、チョーサーやシェイクスピアの作品を用いて「恋愛が女によって裏切られるという話は女性蔑視だ」などの男女問題への切り込みなど、話が脇道に逸れているがそれはそれで面白い。
8/10


ジャン=ジャック・ルソー『孤独な散歩者の夢想』新潮文庫 7.5/10

孤独な散歩者の夢想(新潮文庫)

孤独な散歩者の夢想(新潮文庫)

 1782年刊行。馬車にはねられ怪我をしたら、後日自分は死んだというデマが広がっていた、などエピソードが面白い。慈善するときのジレンマも考察していて、「慈善を受けた物が、怨恨でおどしながら、その継続を要求するための何らかの名目をこさえるとき」、「もうそのときから窮屈が始まって、楽しさは消えてしまう」などと吐露している。
 その一方で、格好よく聞こえるけど本当に格好いい発言なのか分からないものもある。言いっ放しのいいところと悪いところがあるというか、この本は学問ではなくてエッセイとして楽しむべきだろう。
 ところで、ルソーが子どもの頃友達と喧嘩になった話で、棒に殴られその場に倒れたら、友達はルソーを「殺した」と思い、「抱きかかえ、抱きしめて、涙にぬれながら、泣き叫」んだらしく、これはハワード・ホークスの映画『港々に女あり』(1928年)を思い出した。
7.5/10


円地文子『朱を奪うもの』講談社文芸文庫 7.5/10

朱を奪うもの (講談社文芸文庫)

朱を奪うもの (講談社文芸文庫)

 1963年刊行。自伝的小説の三部作の第一部。(17/3/24追記)円地文子は1946年に子宮がんにより子宮を摘出している。作中では乳房切除の話も出てきて、女性としての存在価値を問うていて興味深いが、円地が実際に乳房も切除したのかは分からない。
 少女時代の回想がリアルで、子どもの世界を理想化せず残酷なところも書いていく。男友達とばかり遊んでいるので同性から嫌われる、というのも苦くていい。少女が発育していく不安が赤裸々に語られていてよかった(オナニーを匂わす描写もあった)。
 中盤以降、貧しい人を助けたいが自分は裕福な家の出身だ、という葛藤がちょくちょく出てきてそこは退屈に感じた。


森まゆみ『断髪のモダンガール―42人の大正快女伝』文藝春秋 7.5/10

断髪のモダンガール―42人の大正快女伝

断髪のモダンガール―42人の大正快女伝

 2008年刊行。長い黒髪こそ美人の条件だった当時の世の中で、断髪した女性たちの生き様を追う。早世と長生き、引っ越しと永住、奔放と奥手、出産するしない、同性or異性が好き、と多様性があり驚いた。42人分の顔写真が掲載されていて楽しめる。
 1人1人掘り下げられているとはいえないが、入門にいいと思う。


ロンゴス『ダフニスとクロエー』松平千秋訳、岩波文庫 7.5/10

ダフニスとクロエー (岩波文庫 赤 112-1)

ダフニスとクロエー (岩波文庫 赤 112-1)

 2世紀末から3世紀初め頃の古代ギリシアで書かれたとされる恋愛物語。ギリシアの恋愛観と言えば「男同士」という女性蔑視で知られるが、これは男女の恋愛を描いた珍しい作品とされている。男女の心の動きがしっかりと書かれていて驚いたが、戦争の描き方は神話的で、実際の戦争のような生々しさはないので、恋愛の細やかな描写との落差を感じた。捨て子が親と簡単に和解するのも、時代的にしょうがないだろうが不満は残った。


ジェーン・オースティン高慢と偏見』富田彬訳、岩波文庫 7.5/10

高慢と偏見〈上〉 (岩波文庫)

高慢と偏見〈上〉 (岩波文庫)

 1796-97年に執筆、1813年出版。主人公のエリザベスが、「嫌な男だ!」と思っていたダーシーを逆に意識しだし、徐々に自らの偏見に気付く、という恋愛小説。既に1800年には、クオリティの高い心理描写が書かれていることに新鮮に驚いた。ただ、オーソドックスで面白いのは確かだが、展開は予想がつくので後半は長く感じ、ワクワクするシーンに欠けた。『エマ』の方が面白い。
 ところでこれは大学の授業で聴いたが、オースティンの時代は女性が小説を書くのは恥だとされていて、自分の部屋で小説を執筆する時はすぐに原稿を隠せるように扉の蝶番をわざとサビさせて、誰かがドアを開けようとすると「キイ」と大きな音が鳴るようにしていたという。


ギリシア悲劇Ⅱ ソポクレス』ちくま文庫 7/10

ギリシア悲劇〈2〉ソポクレス (ちくま文庫)

ギリシア悲劇〈2〉ソポクレス (ちくま文庫)

 「生まれ高き者は、立派に生きるか、さもなくば立派に死ぬか、このいずれかを選ばなければならない」というセリフにみるように、命を賭けることが美しいこととされていて、ニーチェナチス三島由紀夫などに影響を与えたのもうなずける。紀元前400年以上前に書かれたものが今も残っている訳だからそれだけで読む価値はあるが、神に逆らった人間は基本的に敗北するので、ワンパターンだとは思った。あと、「女が出てこないからダメ!男に興味無し!」と言うつもりはないけど、アイスキュロスの劇では(悪役だけど)眼を瞠る女キャラが出てきて面白かったからぼくはアイスキュロスの方が好みではあった。


筒井康隆ロートレック荘事件』新潮社 7/10

ロートレック荘事件 (新潮文庫)

ロートレック荘事件 (新潮文庫)

 1990年刊行。表紙に注意書きがなされている通り、メタフィクションとしてのミステリー小説なのだが、登場人物それぞれの心理が丁寧に描写されているので(娘たちがみずみずしい)、アンチ・クライマックスな展開でもガッカリせずに楽しめる。ただ、その仕掛けがすごい面白いかと言うとそうではない気もする。
 ところで、侏儒(しゅじゅ=小人)症のキャラクターが主人公なあたり、名探偵コナンを思い出した。
7/10

J.M.クッツェー『マイケル・K』くぼたのぞみ訳、岩波文庫 6.5/10

マイケル・K (岩波文庫)

マイケル・K (岩波文庫)

 1983年発表。南アフリカの内戦中、ヤギを捕まえて頭を池に沈めて殺し、なんとか解体するも、気分が悪くなってほとんど食べれない、など一般人が戦争に放り込まれた時の絶望感がにじみ出ていてよい。難民キャンプでは、「ここは刑務所じゃないぞ。キャンプだ。食いぶちは自分で稼ぐ、キャンプじゃみんなそうしているんだ」と、そこでの非人間的な生活も描写している。
 その後主人公はキャンプ地を脱走し、耕作放棄地で作物を育てる決意をするが、ここらへんは退屈に感じた。大地と向き合うことが生きること、というのは、確かにそうかもしれないが、内戦の解決には直接関係がないことなので内戦を見ないフリとしている気もする。主人公が混血、という設定が必要なのかも分からなかった。著者と同じく白人で良いのでは?


谷崎潤一郎吉野葛』 3/10

(イメージなし)
1937年発表。後南朝人形浄瑠璃の知識があると面白いのだろうが、固有名詞が分からないので難しかった。ぼくに教養がないのが悪いのだが。中心となる主題「母への恋」も、美しくまた色気のある母を持った人なら分かるのかもしれないが、そこもぼくにはピンとこなかった。ちなみにこの小説は、作者が歴史小説を書こうとして書けない、というメタ小説の先駆けとしての評価もあるらしい。


泉鏡花『春昼・春昼後刻』岩波文庫 3/10

 1906年発表。初めて泉鏡花を読んだ。『春昼』は鈴木清順の映画『陽炎座』の原作で、映画は先に見ていて、ぼくが大楠道代という女優が好きなこともあり楽しめたが、小説の方は「怪奇小説」というものなのか、人間が掴みにくくて(というか掴みにくいようにしていて)読みにくかった。泉鏡花の小説に10点中3点を付けるのはヤバいことなのかもしれないが、よく分からなかったのだからしょうがない。
 ただ、他の鏡花の作品はいずれ読んでいきたい。


久生十蘭『内地へよろしく』(河出文庫) 1/10(参考)

 実は最後まで読んでいない。友人に勧められたが面白さが全く分からなかった。この小説は太平洋戦争中に書かれた作品だが、南島に派遣された日本兵たちが雌鶏が卵を産むか産まないかでモメる、その雌鶏が銃弾で死ぬも日本兵は死なない、などの能天気ぶりである。能天気であるが、ギャグにしては笑えない。
 結局のところこれはただの、「南島に派遣される生活も和気あいあいで楽しいよ!やりがいがあるよ!」というような、戦争美化ではないのか?全部読んでないので参考ではあるが1点。面白いぞ!という反論があればもちろんどうぞ。





追記
・『ジェイン・エア』、『小説家』、『白鯨』、『ダフニスとクロエー』、『高慢と偏見』を0.5点ずつアップ(2018/01/08)

こだま『夫のちんぽが入らない』

 

夫のちんぽが入らない

夫のちんぽが入らない

 

 

 こだまさんとは1度会ったことがある。ぼくは2014年の暮れに「けつのあなカラーボーイ」というWEBサイトが主催したイベントの打ち上げに、どろりさんについて行って参加したことがあり、そこでこだまさんとお会いした。ちなみにぼくは打ち上げ会場となった居酒屋のテーブルの隅でぼく脳と喋っていたが、ぼくが彼の漫画を批判するなどして険悪なムードが立ち込めて以来絶交関係になった。また、その時てにをはさんと初めて会い軽く挨拶したが、去年てにをはさんがツイッター上で「路上で喫煙している人がいたらわざと咳き込んで通り過ぎる」と言った所にぼくが皮肉をかまして言い合いになった末ブロックされるということが起こった。てにをはさんといえば何を隠そうこだまさんのツイッターのアカウントの似顔絵を描いている人で、「ぼくだったらこだまさんの顔はこう描くのに」とその似顔絵を見るたびに少々嫉妬の感情が湧いてくるが、まあそれはいい。

 

 さて、これを言うと営業妨害なのだが、こだまさんはバレーボールをやっていたらしく背も高く色白で美人である。ぼくは先程ぼく脳に噛みついてアドレナリンが出てる最中だったので、こだまさんやたかさんが飲んでいたテーブルに勝手に座って色々と話を一方的に振ってしまったが、こだまさんは優しいのでニコニコしながら聞いてくれた。こういう人は10代20代のころはモテたんじゃないのかと思うが、『夫のちんぽが入らない』では度々自分のことを「醜い」と言っていて、それがどうもぼくにはピンとこない。たとえば客観的にこだまさんよりこだまさんの妹の方が美人だとしても、それは妹がより美人なだけであって、一般的な感覚で言うとこだまさんは美人だ。もちろん著者=小説の主人公ではないから、この小説の主人公はこだまさん本人より醜い顔をしているというキャラ設定がされているのかもしれないが、しかし中2の時にヤンキーに告白されたり、高2の時にすぐ男に声をかけられて初体験をしたり、夫に会って間もなく告白され数年後に(性的な悩みがあるのを承知で)求婚されるとは、やはりこの主人公は美人だと思う。だから、主人公が自分を「醜い」と言う度にくどく感じた。母が主人公を醜いと言ってきたことを振り返る場面があるが、それは単に子育てなどのストレスからくる意地悪に過ぎないように思う。むしろこの主人公は、自分が美人だからこそ「自分が醜いのではないか」という恐怖心にとりつかれているんじゃないか…と勘ぐってしまった。美醜の問題になると、こだまさんの筆致は一人で悩み過ぎて暗い雰囲気になってしまい、いつものこだまさんのユーモアが追いつかず笑いづらい雰囲気になってしまったように感じる。

 

 それとは対照的にこだまさんのユーモアが発揮されたのは、主人公が性生活と仕事のストレスで自暴自棄になり、出会い系で知り合った男たちと「した」箇所だと思う。特にぼくが衝撃を受けたのは「山」に対して欲情するアリハラさんで、一緒にハイキングに出かけた4回の全てで、彼はおもむろに自分の性器をチャックから引きずり出して黙々と自慰をし、絶頂に達した。後日、アリハラさんに急に会いたいと言われたので何事かと思い会うと、彼が持ってきた「きんつば」をその場で咀嚼させられ、それを口から出したものをアリハラさんが食べ、続けて自分の性器をしごきだし口内シャセイされたという。ここでさらけ出された思い出は面白いし、容赦のない筆致で尊敬した。ところで、こうやって知らない男とセックスをするのは夫を裏切る行為で不快だ、という批判を受けるのも仕方がないとは思う。セックス依存症(セックスを持ちかけられるとNOと断れない精神状態)だったとはいえ、主人公がセックスの誘いを断らなかったのは事実だから、自己責任ではある。ただ、「不貞行為があった」と妻のほうだけ責めるのはアンフェアで、なぜなら夫は風俗に通っている。夫は妻以外と性行為してもいいが妻は許さない、という心理はミソジニー(女嫌い)でおかしい。批判するなら両方批判するのが道理である。ぼくはとにかく、読者から不愉快だと言われるのを分かっていても、自分にとって都合が悪いとしても隠さずに発表したこだまさんの勇気を評価したいし、感銘を受ける。

 

 次に、こだまさんの「夫」の描き方はどうかというと、これが良い。普段のこだまさんのブログやツイートからは、こだまさんが夫のことをどう思っているのか想像しづらいのだが、この本ではこだまさんは夫のことが大好きなんだなあというのが伝わる。特にいいのが出会いの所で、大学に通うためにアパートに越してきた当日、帰り支度を始める(後の)夫に、「もう帰るの」「まだいてくれてもよかったのに」と名残惜しそうにするところに興奮した。作者からすれば夫と出会ったのは20年も前なのに、夫への思いが瑞々しく書かれていて愛おしく思えた。

 

 この本はしかし先も言った通り、ブログやツイッターでのいつものこだまさんのユーモラスな味は薄れていて、暗い過去を綴るのに精いっぱいな、息の詰まる緊張感が勝ってしまったと思う。それは、未だにこだまさんが自身が歩んできた人生について整理できていなくて(まあ無理はないが)、一歩引いて観察しているのではなく、自らの容姿を執拗に「醜い」と言ってしまうところも含めて、なんだか分からないまま自分のことを文章にしているからだと思う。もちろん、なんだか分からない状態のまま書き連ねていく自伝的な小説にも傑作はあって、たとえば島尾敏雄の『死の棘』は、実際に作者の妻が狂ってしまったのでそれを日記のように次々と記録していく小説で、これは壮絶すぎて笑える。しかし、『夫のちんぽが入らない』が壮絶すぎて笑えるという感じではない以上、小説の書き方に課題が残っていると思う。壮絶すぎて笑えるのか、それとも一歩引いて冷静な笑いにするのかなど、書く方法を選択する必要があるのではないか。人の人生を「どう笑いにするか」だなんて、我ながら酷いことを言っているが、しかし創作とはそういう残酷なものだとも思う。もちろん、こだまさんにはこれからも小説を書いてほしい。業界では、作家は3冊本を出してからが作家、らしい。例えば、主人公には「わたし」ではない、三人称小説を書いたらどうなるんだろう、という楽しみもある。また、『夫のちんぽが入らない』の続編を、長い目で見ていつか書くのでもいい。実際に『死の棘』は1960年に第1話を発表してから終わるまでに16年かかった作品である。

 

 最後に、「どうしてこだまさんは自分が本を出すのを夫に内緒にしているんだろう、言ってもいいのに」とぼくはずっと疑問だったのだが、それは夫のことを考えた上のことなのかと(精神的に少々疲れている夫にショックを与えてしまう恐れがある、ということも含めて)思った。こだまさんの夫への思いの強さを垣間見た気がする。

 

終わり