大類浩平の感想

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セルゲイ・エイゼンシュテインの映画

セルゲイ・エイゼンシュテイン戦艦ポチョムキン』1925年 6.5/10

戦艦ポチョムキン【淀川長治解説映像付き】 [DVD]

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 エイゼンシュテイン初の長編映画共産主義の喧伝映画で、もちろん共産主義はおかしいが、プロパガンダというのを留意すればそこそこ楽しめる。前半の、水兵が反乱を起こすシーンは長く感じたが、「オデッサの階段」のシーンでの、市民が殺されていく迫力と生々しさは今も人に訴える力がある。ちなみにこの階段のシーンは意外と長く、7分以上もあるが、色々と工夫がされていて飽きない。エイゼンシュテインはとりあえず『ポチョムキン』を見ておけばいいのではないか。
 ちなみに、革命=共産主義ではない。例えば1789年のフランス革命は共和主義(身分制の廃止など)の革命で、担い手もブルジョワジーが中心だったので計画経済などとはもちろん関係がない。生まれで差別されない社会が登場する発端がフランス革命だったわけだから、フランス革命が暴力を伴って行われたとしても総合的にとてもいい事だったとぼくは解釈している。
 (8/18追記)
 先日まで8点評価にしていたのだが、今思うとそんなに面白かったか?となっている。いや、オデッサの階段などの断片的なシーンは面白いのだが、主人公がいるわけではなく戦艦の水兵たちも何もしないし、長篇として鑑賞するには退屈なのは否めない。全部見る必要は無いのかもしれない。


セルゲイ・エイゼンシュテイン『イワン雷帝』1944-46年 4/10

イワン雷帝 [DVD]

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 2部構成の3時間映画で、エイゼンシュテイン最後の作品。未完。モンタージュ的な技法は影を潜め、演劇的な長いカットが多い。
 1部はスターリンが絶賛しただけあり、イワン4世を都合の良いように描くだけで奥行きがない。2部では比較的イワンを暴君のように描いているので、スターリンを激怒させて3部は完成されずスターリンの死後まで上映が禁止されたが、そこまで苛烈なソ連批判をしているとは思えない。
 ただ2部の、叔母のエフロシニヤが知能の低い自分の子供(ウラジミル)にイワンを殺すように説得するシーンがグロテスクでいい。また、終盤の宴のシーンだけカラー映像になるが、赤い服の鮮烈さとプロコフィエフの音楽があいまって目を見張った。




セルゲイ・エイゼンシュテインストライキ』1925年 3/10

ストライキ [DVD]

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 無計画にストライキをしても資本家に潰されるだけだ、という楽観的でない結末なので良いと思うが、基本的には退屈である。終盤の、子供が工場の3階から投げ落とされるなどする虐殺シーンは多少ドキドキさせられる。
 ちなみに、最後に雌牛の喉が実際にかき切られるシーンがあるが、ショックでお乳が勝手に漏れ出しているのが怖い。




セルゲイ・エイゼンシュテインアレクサンドル・ネフスキー』1938年 2/10

アレクサンドル・ネフスキー [DVD]

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 東方植民を開始していたドイツ騎士団を1242年に破ったロシアの英雄アレクサンドル・ネフスキーが主人公である。時勢柄、ドイツ騎士団ナチスドイツに重ね合わせられている。ただ1939年に独ソ不可侵条約が締結されヒトラースターリンが手を結んでからは上映は小規模になったという。
 戦闘シーンは最初は迫力を感じたが、一つ一つのバトルが長いのでだんだん飽きてしまった。
 ところで、アレクサンドル=ネフスキーはキプチャク=ハン国に進んで臣従し、反モンゴル的だった弟の追放をはじめ民衆の反モンゴル活動を弾圧するなど、モンゴル帝国に仕えていたので、英雄として持ち上げられる人物ではないと思う。これも、「昔のロシアに偉大な英雄がいた」としたいスターリンの国策である。もっとも、「英雄譚」が悪いのではない。重要なのは、その人物が英雄たる人物であるかどうかであって、アレクサンドル・ネフスキーが特別偉いと思えない、ということである。




セルゲイ・エイゼンシュテイン『十月』1928年 1.5/10

 ボリシェビキが権力を掌握した革命が描かれるが、とくに物語があるわけではない。政府施設に侵入する群衆の俯瞰のカットには迫力があったが、それくらいだった。
 実際にロシア革命を経験した人々が映画に出演しているらしいが、そういうマニアックな話は一般の人々には関係のない話に思えてならない。